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王宮や王族って、日本のパワハラ上司よりももっと怖いんです

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 なんでだろうか。どうして、私は騎士団長の王子様にお姫様だっこされているのだろう。一体全体、どうしてこうなったのかさっぱりわからない。ただ、成り行きでとしか言いようがないと思う。

(逆らったらダメなやつだし。それにしても、部下にはパワハラ暴君で滅茶苦茶怖そうな人だけど、案外優しいのかな)

 じーっと見すぎたせいか、しょっちゅう彼と目線が合う。というよりも、彼もしょっちゅうこっちを見ているような感じかも。

(えーと、トキオ王国は、この世界の最強の種族で、王族になると魔法も使える。ふむふむ。で、今の王様はこの人のお兄さんで、奥さんはハレムを作ってる美女とな。で、このお方は、プリンスでモテモテの騎士団長の扱いなのに、独り身とな。なんでやねーん)

 なんと、王族なら王様ひとりに、美魔女から美少女までより取り見取りで、女の人を王様や王子様が独り占めにしているのかと思いきや、逆だった。流石、女の人が少ない世界。

 何から何まで異世界だなあと、ふむふむ頷く。

「どうしましたか?」
「あ、いえ。騎士団長様は、初対面の平民にもお優しいんだなって感謝してて。あ、先日も大活躍だったそうですね。速報を見させていただきました」

 とにかく褒めちぎっておけば、危険度がぐっと下がる。気に入ってもらえるようにゴマをすらねば。

 あれはすごかった。ドラゴンが宙にたくさんいて、その先頭にいた一際大きなドラゴンが、目の前の人なのだとチップが教えてくれた。ただでさえ肩書がいっぱいなのに、今や世界の英雄様なんだもん。絶対に逆らっちゃダメだと心に刻む。

(うー怖いよー。日本の上司もたいがいパワハラ気味だったけど、この人に比べたら、腕をポッキリしたりしないし、しょせんは小物。陰でみんなと悪口大会しまくってたけど、この世界だと陰口もしないほうがいいのかも)

 チップの埋め込みによるシステムはとても便利だ。ある程度セキュリティもしっかりしていて、緊急事態や権限のない人にはプライバシーを覗き見られることはない。
 万が一、ハッキングしようものなら、神様からいたーいお仕置きをされるし、そもそも神様至上主義なこの世界では神様の決めたルールを破るなんて人はいないらしい。

 ただ、王族とかは治外法権っていうのかな。人々を幸せにしたい神様から、悪用さえしなければある程度の権限を与えられている。つまり、彼が見ようと思えば、私のプライバシーや現在地はまる見えのもろ見えになるということだ。

「名前」
「え?」

 考え事に夢中で、英雄様のお言葉を聞きそびれた。なんたる失態。

 でも、彼は私を優しく見つめて、もう一度ゆっくり言ってくれた。

「名前を呼んでくれないか?」
「えええ? お、おおおお、畏れ多いでございまするよ? 不敬罪ってやつになりませんでしょうかますかね?」

 ホカイさんとしゃべる以外は、チップがこの世界の言語を自動翻訳してくれている。だが、もともとの話し言葉が滅茶苦茶だから、言葉がより一層変になった。

「変な、言葉になって、ごめんなさい、でござる……」

 きちんと言おうとすればするほど、パニックになって言葉が出てこない。なんだよ、ござるって。侍かよーって心の中で頭を抱えた。

「落ち着いて。あー、私ばかりあなたのことを知っているのはフェアじゃないな」
「あの?」

(やっぱりー。やっぱり、王宮にデリバリーしにくる平民の私のことなんて、事前に洗いざらい調べ切っていたんだわ)

 どこまで知られているんだろうか。でも、バレてしまった以上しょうがない。勝手に調べられてモヤモヤするし腹が立つし、正直キモーい☆だ。けれど、相手が相手だ。そもそも、もう会わない人だしって、どうにでもなれとやけくそになった。

「あなたは、異世界から来たんだろう? 神様から私のことは、聞いていない? 何か、貰ってないのか?」
「はぇ?」

 彼の話によると、彼は先の騒動の前に神様から異世界から私が来るって聞いていたらしい。てっきり、システムで調べ上げられたんだと思っていたんだけど、どうやら犯人は神様だったようだ。

「その、世界の危機のために、私がすぐに駆け付けることができなかったから、寂しい思いをさせてしまったな。すまない。これからは、そんなことがないようにする」
「えーと?」

 神様ー、無銭飲食でプライバシー侵害犯の神様ー。話がぜーんぜん見えないんですけどー。

 心の中心で、全ての元凶の神様に、今すぐここに来て説明しろと叫んだ。当然ながら、あいつはやってこなかった。

「私のことは、ジスペケと。できれば、あなただけがつけた愛称がいいな」
「えええ? 名前呼びどころか、愛称ですか?」
「ダメか?」
「……」

 彼は、私が何かを知っている前提で話をしているから、何を言われても?だらけ。逆らっちゃダメな人だし、どうしたもんかなーと思いつつ、彼の要望に応えてみた。

(ニックネームで呼んだ瞬間、捕まったり処刑されないよね? ね? でも、どうしよう。ジスペケって、ニックネームなんなの? おばあちゃんが持ってた少女アニメの決定版の、丘の上の王子様ならトニーだけど。この人はアンチョニーじゃないし。あ、あれはアルビャートさんだった)

 この時の私は、異世界に来た時以上にパニクってて、思考があっちいきこっちいきして、ぷっしゅーと頭から煙が出そうなほどオーバーヒートしていた。

「じゃあ、ペケさんで」

(わああああ! ペケってなに、ペケってー! マルならともかく、ペケってー!)

 一度言った言葉は、魂を持つという。だから、おばあちゃんが、口に出す言葉は慎重に出すようにと、小さな頃に教えてくれた。本日、何度目かのやらかしに、私のHPは自殺点でマイナスに振りきれた。

「ペケか。うん、いいな。異世界のセンスは素晴らしい」
「あ、あはははー」

 なんということでしょう。私の乱れに乱れた心とは裏腹に、彼は満面の笑顔を浮かべた。どうやら、心からきにいってくれたっぽい。

(せ、セーフセーフ。異世界流、かっこいいニックネームランキング一位ってことにしよう。うん、そうしよう)

「あなたのことは、なんと?」
「あ、もとの名前は、本田 紅愛と言いますけど、ホカイさんがこの世界に合うように、今は、キタ・カントルって名乗ってますです。はい。お好きに呼んでくだされば。それだけでこの上なく喜ばしいでござるございますわですよ」
「ホ。ほーほーぅ、ん、だー……」
「あ、異世界の名前って、本当に言葉にできないっぽいんで、ほんと、ペケさんのお好きに」
「すまない。だが、いつか言えるように訓練する」
「いえいえ。お構いなく」

 どうせ、この人とはあと少しでグッバイ、フォーエバーだ。結局、ホカイさんがつけてくれた、キタと呼ばれることになった。

 その時、私はホカイさんから届いたメッセージの存在を知らずに、こんな怖い場所から、早く彼が待っている場所に戻りたいってことだけを考えていた。
 
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