上 下
23 / 43

やらかしちまったバイトリーダーの末路

しおりを挟む
 やってしまった。

 やらかさないように心に誓ったはずなのに、いきなり門番の騎士だけでなく、その上司に食って掛かってしまった。

(騎士団長って言ってた。騎士団長って、団長ってことだからトップよね。つまり雲の上の人)

 豪華絢爛なイケメンがやってきたかと思うと、門番を処刑しようとしたり腕の骨をポッキリするとか言った。聞き間違いではない。確かに、言った。この耳で聞いた。

(やっぱり、絶対王政ってやつだ。暴君だ。ホカイさんは大丈夫って言ってたけど、もう終わりよぉ。地球でも死にかかって、今もまさに絶体絶命ってやつじゃん! こんなことなら、異世界ライフをもっと楽しんでおけば良かったなぁ。あと、経験人数が元夫ひとりとか、人生損してるような気がするー!)

 こうなってみると、後悔ばかりの人生だった。ただ、誰も見たことのない異世界にこれたし、ホカイさんっていう素晴らしい人と出会えた。だからって、人生に大大大満足した大往生ができるものか。

 このまま、腕をポッキリされてギロチンにかけられるのかと足が震える。今の私の姿は、見事なOrz。こうなれば、誠心誠意、謝罪するしかない。額を地面にこすり付けた。

(地面と言っても、ここは異世界。地球とは違って、皮膚が傷つかない上部なのに柔らかい素材だし小石一つ落ちていないから、ごりごりおでこをつけても、痛くもなんともないわ)

「ほんっとうに、申し訳ございません……!」

(ホカイさん、心配してるだろうな。ごめんなさい、良くしてもらったけど、私の人生はここでジエンドのようです……いや、ギリギリまで逃げちゃ、いや、諦めちゃダメだ)

 相手がカスハラしてきたとはいえ、スタッフとしてあるまじき言動だった。取り敢えず謝罪だ。きっと激おこにちがいない。恐ろしくて相手を見れなかった。

「なぜ謝るんだ? 悪いのはあのオスだ。あなたは、職務を全うしただけだろう? さ、立ち上がって」
「ああ、騎士団長様にあんなことを言ってしまった私を許してくださるのですか? はぁ、とっても優しいんですね。あの、ご理解いただいてありがとうございます」

(お? なんか思っていたのと違うぞ。金持ち喧嘩せずっていうし、王様の弟様はやや暴君っぽいけど話が分かるイケメンのようだ。ラッキークッキーヤシ〇アキー。だけど、暴力男なのは間違いない。これからの一文一句は、やらかさないように注意しないと)

 相手が、大きな手を差し出してきた。4本の指のそれは、私の手をすっぽり覆う。

(ホカイさんのよりおっきいわねぇ。騎士団長は、剣とか持つからかな? 指紋までがっちりカチカチで、撫でられたらヒリヒリしそう)

 身の安全が保障されたので、さっきまでの恐ろしさが9割くらいは消失した。なんだかんだ言って、平和ボケしていた日本人なのだ。なんとなく、安全じゃないかなーなんて心の底では楽観視していた。処刑とかないないって。だからか、本題以外のことを考える余裕まで出てきた。

「あ、あれ?」

 だけど、ジスペケさんの恐ろしい言葉や迫力は、自覚した以上に怖かったみたい。腰が抜けてしまって立ち上がれなかった。

「立てないのか? なら」

 すぅっと、まるで1円玉かなにかを持つかのように、軽々と抱き上げられた。鍛え上げられた逞しい腕が、私を守るようだ。

「あ、あの、ありがとうございます」

 植え込まれたチップによって、彼の名前がわかった。そして、公開されている情報も。

(ふむふむ、このおじさんはジスペケって言うのね。ん? トキオ? トキオってこの国の名前よね? ……ぎゃー! 騎士のトップってだけじゃなくて、王様のおとーとー? なんてこったい!)

 そりゃもうびっくりした。心臓が口どころか目ん玉から出そうなほどだ。だって、王様の弟だよ。キングのブラザー。ミシンでもプリンターでもない本物のロイヤルブラザー。

 心臓がばくばくする。マジでガチで、ちょっとでもやらかしちゃダメなやつだった。

(ひえええ、怖い、怖すぎる。ホカイさーん、もう帰りたいよー。私の首、つながってるよね。実は、もうとっくに処刑されたあとってことはないよね?)

 何はともあれ、謝罪と感謝の意を、これでもかというくらい述べるんだ。そして、相手を褒めておだてまくって、この場をやり過ごすしかない。

「あの、何から何までありがとうございます。ご注文をお受けしてデリバリーに来させていただいたのに、みっともない姿をお見せしてしまって。お恥ずかしい限りです」

 ロイヤル向けの言葉遣いなんか知らない。「わたくし」とか、「おほほほー、よくってよ」とでも言うべきか。取り敢えずお礼を言っておこうと思い顔をあげた。

(わわっ、近い。はあ、それにしても、すごい迫力イケメンだ)

 考え事に夢中だったせいで、こんなにも顔が近いなんて気が付かなかった。バチっと至近距離で視線が合う。すると、彼は私をじぃっと見つめて、とても綺麗に微笑んだ。銀幕のスターっていうのかな。少し古いタイプのイケメン。昭和か平成に流行した大物俳優みたい。

「いや、こちらこそとんだ失礼を。私としても、ああいう騎士に困っていたところなんだ。どこか、痛む場所はないか?」
「いえ、騎士団長様が、すぐに助けてくださったのでどこもなんともありません。あの、もう歩けそうですから、あの、降ろしていただいて……」
「そ、そうか? こんな細い足では、歩けないだろう? 部下の責任は、私がとるのが筋だし、このままでいさせて欲しい。それに、私とあなたの仲だ。遠慮などしないでくれ」

(はて、この人と私の仲とは?)

 彼の白い頬が、うっすら桃色になっている。気のせいかもしれないけれど、私をうっとり見ているような気がした。気のせいだろうけど。

「あの、私、配達の途中で……だから……」
「ああ、わかってる。陛下たちも、あなたに会いたがっているからな。これからのこともあるし。少し急いでも?」
「何から何までありがとうございます。では、お願いしていいですか?」
「ああ、勿論。しっかり捕まっていてくれ」
「はい!」

 正直、お届け先の細かな場所はわからない。オートシステムによって足が勝手に動かされるよりは、このままスイーツごと運んでくれるほうがありがたい。

 お言葉に甘えて、ジスペケさんの鍛えられたぶっとい首にしがみついたのだった。


しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

処理中です...