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ホカイ視点 欲しかったのは、配達のプロであってツガイじゃないから

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 迎えに行った先には、とてもちんまりとした女性がいた。人間の姿よりもツバメのほうが速い。ツバメの姿で行ったが、気づいてくれるだろうか。

 彼女は、俺を見てホッとしたみたいだった。ただ、俺を遣わした主人がいると思っているようだ。ある意味神が遣わしたから間違っていない。

 実は、あの一件以来、メスが苦手だ。この世界のメスは、どいつもこいつも猛獣のようにお構いなしだから。ちょっと気に入ったら、俺のように経美穂にだけでつまみ食いしてヤリ捨てなんて当たり前。一体、どれほどのオスたちが涙を流したことか。
 自慢ではないが、俺の求愛の囀りは、元の群れのメスが一番気に入ったと言われたくらいだ。親友の姉だから、彼女は安全だと思って油断していたのだ。年もかなり離れていたし。彼女にとってはがきんちょくらいの感覚だろうと思っていたし。
 普通に姉のように思っていた彼女に「ねぇ、いつかメスを誘うために、ここで囀りの練習をしてみてよ。私が採点してあげるから」と言われて、俺が調子に乗って練習がてらやったそのせいで彼女に襲われちまったし、彼女の夫であるオスたちから妬まれたのだが。

 だから、俺は別にツガイが欲しいわけでもなかった。ただ、俺のために、一生懸命地球という星を探して、ツガイを連れてきてくれた神様の顔を潰すわけにはいかない。彼女が俺を気に入るかどうかもわからないし。

(一応、念のため、神様のために、一応やっとくだけやっとくか。ダメならダメで神様は失望なさるだろうが、やっとけば顔が立つというもの。俺はツガイなんて望んでなかったけどな、うん)

 そう思って、渋々、しょうがなく、ツガイに求愛するように囀りながら彼女が本性になるのを待った。でも、彼女は人間の形を保ったまま、俺の求愛ソングがわからないと言った。

(地球という星の女性には、俺の自慢の歌声が効果がないようだ。ところで、彼女の本性はどんな姿なんだろう? 俺のツガイになれる女性でもあるって神様は言ってたからな。色は黒に近い濃紺かな? それとも、青い背中で尾が二股? 人間の姿の髪の毛のように茶色がかっていたりしてるのかも?)

 おかしいなと思いつつも、彼女に興味を引かれた。とにかく、来たばかりで疲れただろうから家に案内した。俺の家は、他のオスが準備するよりもはるかに小さい。しかも、調理スペースがあるため、住居の部分はさらに狭いのだ。だけど、俺の巣を彼女は気に入ってくれたようだ。地球という星では、これでも大きい家なのかもしれない。

 彼女が気に入ってくれたのだ。神様が言った通り、彼女は俺のツガイとしてずっと仲良くしてくれる女性なのかもしれない。

(できれば、あのメスのような肉食系じゃなかったらいいんだけど。俺のほかに、もうひとり声をかけていると神様は仰っていたから、夫は俺とそいつのふたりだろうけど……。いやいや、俺は配達のプロを望んでいただけだ。女性はいらない。いらないったらいらない。メスは、皆傲慢で浮気者だ。夫だけでなく、俺のような未婚の少年にまで手を出すような存在だからな)

 地球という星での求愛の方法が違うだけで、俺の巣を気に入ったってことは彼女なりに求愛に応えてくれたのかと思った。つまり、俺と彼女はもうツガイになれるというわけだ。

(神様がセッティングしたお見合いは、オスもメスも互いに気に入ってずっと仲良い夫婦になると言われているけど……。困ったな、求愛は神様のための建前で、本気じゃなかったなんて、俺と生涯を過ごすことをとても楽しみにしてしまっている彼女に、今更言えないぞ……。きっと悲しんで泣く……ちょ、これは、どうしたらいいんだ?)

 もしかしたら、地球のメスは俺の嫌なタイプじゃないのかもしれない。本気じゃないのに、フラれる前提で求愛をしてしまったことを後悔した。どうやって、さっきのは間違いだというべきかタイミングを見計らう。

 お茶を差し出したところ、どことなく張り詰めた顔が柔らかに笑みを浮かべた。それは、リラックス効果があり、思った通り彼女はほっとしたようだ。

(どう見ても、俺の家に喜んで入ったし、俺の差し出したお茶を喜んで飲んだ。これは、完全に俺を気に入ってくれたということだろう。うーん、どうしたもんかな……)

 彼女は俺の求愛を拒絶するどころか、ファーストアプローチも成功して、セカンドアプローチも大成功。

(これは、オスとして責任を取るべきだろう。結婚したら、配達の仕事は、彼女に指導してもらう形で他のやつにやらせるか。俺の、つ、つまを働かせるわけにはいかないからな)

 俺としても、彼女を絶対的に拒否する理由はない。そうと決まれば、互いに求愛行動をしなくてはならないだろう。そして、かわいい卵をたくさん産んでもらうんだ。

 はやくツバメにならないかなーって思っていたのだが、全く変化がない。焦れた俺は、彼女の肩に移動した。

 人間の姿の彼女の顔に、顔をすりすりした。そして、嘴でキスをしてみる。すると、彼女も喜んでそれを受け入れてくれた。ますます、彼女は俺の、運命のツガイなのだと確信する。

「ふふ、かわいい。うんうん、ちゅぴちゅぴじーじー」

 俺の妻は、もったいぶっているのか人間の姿のままだった。だが、彼女から、まさかの求愛の歌が贈られたのだ。俺は、彼女が本性にならないのなら、オスの俺が彼女に合わせるべきだと考えて人間の姿になった。

「じーじー、ちゅぴ(俺を気に言ってくれてありがとう。はやく結婚しよう)」

 人間の姿で、もう一度求愛する。しかし、彼女の反応は思っていたものとは違った。

「ちゅ? (俺としては、結びつくのは本性のほうがいいんだが。君はこっちの姿がいいのかな?)」
「あー、挨拶ですかね? すみません、私、この世界が初めてで、何もかもが良くわかってなくて。言葉も、元の言語オンリーなんですよ。えーと、はじめまして。ちゅ」

 歯に仕込んだ言語チップを調整する。彼女の言葉から、学習させようとするが難解な言語のようだ。流石、異世界の地球という星。一応、音などから自動で解析できるようなチップなのだが、彼女の言語はかなり特殊なものなのかもしれない。時間はかかったが、なんとか意味が通じる言語を見つけた。

 


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