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エピソード0-4
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この世界は、神に造られてまだ歴史が浅いという。伝記によると、もともと、生命体が住めるような場所ではなかったらしい。
いろんな星のいいところどりのようなこの世界は、昔は魔法が発達していた。だが、魔法というものは個人差が大きい。神が思ったように、生命体は育たず絶滅の一方になる。
そこで、誰でも等しく使用できる科学にシフトチェンジされ、あっという間に科学が発達した。
今では、魔法が使えても使う必要がなく、神が創造した様々な種族が命の詩を奏でて個体数を少しずつ増やしているという。
「じゃあ、神様がここを造ったってことなのね。で、私のような人間はいなくて、色んな形態の種族がトランスフォーム? メタモルフォーゼっていうのかな? とにかく変身しながら、AIや機械を利用して生きていると」
「そうです。俺が、キタの居場所を察知できたのも神様のおかげですし、こうして会話がなりたつようになっているのも、この世界には普通にある言語自動変換システムのおかげなんですよ。ところで、キタは神に会ったことがあるのですか?」
とりあえず、概要だけでもなんとなくわかってきた。そして、会話している間にも、ホカイさんの言葉はさらに滑らかになっていて、私の名前の発音以外は日本人よりも日本語を操っているようだ。
「会ったというか、会いにこられたというか。私が会ったのはきれいな女性だったんだけど、私みたいなのを探していたって言ってた。その時、私は夫に離婚されそうになっていて……ホカイさん、どうしました?」
「ピャッ?!」
私がここにくるまでのことを話かけると、ホカイさんはあからさまにショックを受けたようだ。ツバメの声に戻り、私をじっと見ている。
「えっと、大丈夫ですか? どこか具合でも? 神様に頼まれたみたいですけど、私を保護するのにかなり無理させてしまいましたか?」
「ちゅーぴ……いえ、あの。キタは、夫がいるのですか?」
顔を青ざめさせて、すがるように見上げられる。私が既婚者であることに驚いたようだ。だけど、どうしてそこまでびっくりするのかちょっと理解が及ばない。もしかしたら、結婚とかそういうのも、あっちでは当たり前なことが、こっちの世界ではびっくりするような事項なのかもしれない。
「いるというか、いたというか。あー、色々あって離婚されそうになってて。で、どっちにしてもあっちでは死別みたいになってて、もう関係ないんですけどね」
「じゃ、じゃあ。今は決まった相手はいないんですね?」
「今はというか、もう結婚はいいかなーって」
「いいかなーって、って?」
「結婚しても、相手は不倫しちゃうし、経済DVっていうの、わかりますかね? 収入を誤魔化されていたりとか、もう男の人と一緒に暮らすのはこりごりというか。こっちに来る前は、なんとか彼と続けようとしたんですけど、やっぱ無理だったと思う。せっかくフリーになったんだから、こっちで働いて暮らしていけたらなって思って。ホカイさんには、おんぶに抱っこ状態になるから、ご迷惑かもですけど。独り立ちできるようになったら、すぐ出ていきますね」
「結婚は、こりごり? 独り立ち……?」
「はい」
結婚ということ自体は通じているんだと思う。だけど、どうしてここまで気にかけられるのだろうか。ただ、ホカイさんは、私がもう二度と結婚したくないって言ってから、思いつめたような表情をした。
「あの、こっちの世界では、結婚しないと生きていけないシステムがあるんでしょうか?」
「結婚は強制ではありませんので、皆、結婚はしたりしなかったりしていますよ。ただ、神様はメスを造るのが苦手らしくて、結婚して子供がいるのは、王族や大金持ちばかりです。俺のような平民は、オスが多くて結婚なんて夢のまた夢です」
彼女は女神なのに、命を生み出すメスを造れないとは驚きだ。一対で造るのが普通だと思っていた。片割れしかいないのなら、ツバメという種族はホカイさんだけなのだろうか。
私は、この世界でたったひとりのような存在だ。この世界で生まれ育ったホカイさんは、今までもこれからもひとりぼっちだったのかと思うと胸がチクリと痛んだ。でも、そんなことを言うのも変だと思って、話題を変えようと彼に質問した。
「ホカイさんは平民なんですか? こんなに大きくて立派なおうちがあるのに?」
「小さな家ですよ。しかも、店舗を併設していますから住居スペースは少ないんです」
「店舗? 事業主さんなんですか?」
「昔ながらの手作りスイーツ店を営んでいます。一応、王室御用達ですが、それほど大層な店ではないんです。従業員は、生命体を雇うと高いので少なくて、AIロボットやドローンがほとんどでお恥ずかしいばかりです」
生命体は少ないから、代わりに労働は機械がするのだろう。世界に、1000万ではなく、1000人しかいないってことは、日本でも消滅都市にラインナップした場所よりも少ないくらいなのかも。そりゃ、メスがいなければ個体は増えないから、働き手が機械になるのもわかる。
それにしても、王室御用達ってことは、ホカイさんは素晴らしい腕前なんじゃないかと思って関心した。
「王室御用達ってすごいですよ。ホカイさんはカリスマパティシエなんですね」
「カリスマ?」
「とっても素晴らしいスイーツ作りの一人者って意味です」
「通常は、機械が大量生産しているので、手作りをする職人が希少なだけですよ。味も舌ざわりも、機械で作ったほうが美味しいっていう声もありますから」
「人の手でしか再現できない、繊細な味や食感があるんだと思います。私は、創作できませんのでうまく言えませんが、心がこもった手作りの物には、機械で作られたものには到底及ばない感動がありますもん」
「そう言っていただけると嬉しいものですね」
褒められ慣れてないのか、恥ずかしそうに照れて頬をかくホカイさんはかわいく見えた。
いろんな星のいいところどりのようなこの世界は、昔は魔法が発達していた。だが、魔法というものは個人差が大きい。神が思ったように、生命体は育たず絶滅の一方になる。
そこで、誰でも等しく使用できる科学にシフトチェンジされ、あっという間に科学が発達した。
今では、魔法が使えても使う必要がなく、神が創造した様々な種族が命の詩を奏でて個体数を少しずつ増やしているという。
「じゃあ、神様がここを造ったってことなのね。で、私のような人間はいなくて、色んな形態の種族がトランスフォーム? メタモルフォーゼっていうのかな? とにかく変身しながら、AIや機械を利用して生きていると」
「そうです。俺が、キタの居場所を察知できたのも神様のおかげですし、こうして会話がなりたつようになっているのも、この世界には普通にある言語自動変換システムのおかげなんですよ。ところで、キタは神に会ったことがあるのですか?」
とりあえず、概要だけでもなんとなくわかってきた。そして、会話している間にも、ホカイさんの言葉はさらに滑らかになっていて、私の名前の発音以外は日本人よりも日本語を操っているようだ。
「会ったというか、会いにこられたというか。私が会ったのはきれいな女性だったんだけど、私みたいなのを探していたって言ってた。その時、私は夫に離婚されそうになっていて……ホカイさん、どうしました?」
「ピャッ?!」
私がここにくるまでのことを話かけると、ホカイさんはあからさまにショックを受けたようだ。ツバメの声に戻り、私をじっと見ている。
「えっと、大丈夫ですか? どこか具合でも? 神様に頼まれたみたいですけど、私を保護するのにかなり無理させてしまいましたか?」
「ちゅーぴ……いえ、あの。キタは、夫がいるのですか?」
顔を青ざめさせて、すがるように見上げられる。私が既婚者であることに驚いたようだ。だけど、どうしてそこまでびっくりするのかちょっと理解が及ばない。もしかしたら、結婚とかそういうのも、あっちでは当たり前なことが、こっちの世界ではびっくりするような事項なのかもしれない。
「いるというか、いたというか。あー、色々あって離婚されそうになってて。で、どっちにしてもあっちでは死別みたいになってて、もう関係ないんですけどね」
「じゃ、じゃあ。今は決まった相手はいないんですね?」
「今はというか、もう結婚はいいかなーって」
「いいかなーって、って?」
「結婚しても、相手は不倫しちゃうし、経済DVっていうの、わかりますかね? 収入を誤魔化されていたりとか、もう男の人と一緒に暮らすのはこりごりというか。こっちに来る前は、なんとか彼と続けようとしたんですけど、やっぱ無理だったと思う。せっかくフリーになったんだから、こっちで働いて暮らしていけたらなって思って。ホカイさんには、おんぶに抱っこ状態になるから、ご迷惑かもですけど。独り立ちできるようになったら、すぐ出ていきますね」
「結婚は、こりごり? 独り立ち……?」
「はい」
結婚ということ自体は通じているんだと思う。だけど、どうしてここまで気にかけられるのだろうか。ただ、ホカイさんは、私がもう二度と結婚したくないって言ってから、思いつめたような表情をした。
「あの、こっちの世界では、結婚しないと生きていけないシステムがあるんでしょうか?」
「結婚は強制ではありませんので、皆、結婚はしたりしなかったりしていますよ。ただ、神様はメスを造るのが苦手らしくて、結婚して子供がいるのは、王族や大金持ちばかりです。俺のような平民は、オスが多くて結婚なんて夢のまた夢です」
彼女は女神なのに、命を生み出すメスを造れないとは驚きだ。一対で造るのが普通だと思っていた。片割れしかいないのなら、ツバメという種族はホカイさんだけなのだろうか。
私は、この世界でたったひとりのような存在だ。この世界で生まれ育ったホカイさんは、今までもこれからもひとりぼっちだったのかと思うと胸がチクリと痛んだ。でも、そんなことを言うのも変だと思って、話題を変えようと彼に質問した。
「ホカイさんは平民なんですか? こんなに大きくて立派なおうちがあるのに?」
「小さな家ですよ。しかも、店舗を併設していますから住居スペースは少ないんです」
「店舗? 事業主さんなんですか?」
「昔ながらの手作りスイーツ店を営んでいます。一応、王室御用達ですが、それほど大層な店ではないんです。従業員は、生命体を雇うと高いので少なくて、AIロボットやドローンがほとんどでお恥ずかしいばかりです」
生命体は少ないから、代わりに労働は機械がするのだろう。世界に、1000万ではなく、1000人しかいないってことは、日本でも消滅都市にラインナップした場所よりも少ないくらいなのかも。そりゃ、メスがいなければ個体は増えないから、働き手が機械になるのもわかる。
それにしても、王室御用達ってことは、ホカイさんは素晴らしい腕前なんじゃないかと思って関心した。
「王室御用達ってすごいですよ。ホカイさんはカリスマパティシエなんですね」
「カリスマ?」
「とっても素晴らしいスイーツ作りの一人者って意味です」
「通常は、機械が大量生産しているので、手作りをする職人が希少なだけですよ。味も舌ざわりも、機械で作ったほうが美味しいっていう声もありますから」
「人の手でしか再現できない、繊細な味や食感があるんだと思います。私は、創作できませんのでうまく言えませんが、心がこもった手作りの物には、機械で作られたものには到底及ばない感動がありますもん」
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