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序章

お父様のライバル

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 お母様が孤児院にいた頃の幼馴染は、ライノというとても素敵な紳士で、エライーン国の侯爵。
  昔、お母様に求婚した事がある幼馴染というのがライノおじさまの事らしい。お母様はお父様を愛していたからお断りした経緯がある。
 ライノおじさまは一度結婚したけれど、子宝に恵まれなかったみたい。政略結婚して早々に病弱な奥様が他界してからは、ずっと独り身を貫いている。

 この国はかなり南方にあって、閉鎖的な国だったから、あまり貿易などをしていなかった。お母様が、寒い土地柄故にあまり栄えていない北の国へ支援する目的もあって、縁のあるライノおじさまと取引をした時から国同士の付き合いが始まった。
 その際に、現宰相が、今後の国の発展のためにも必要だと口添えした事が大きい。
  旧体制のまま国政をしようとする保守派との言い争いがあったみたいだけれど、この国に来たお母様のヤツキマトーイン国の実家との取引で利しかなかった実績もあり、北方のエライーン国と国交を結んだ。

 お母様とライノおじさまは、別にどうという関係では全くない。だけど、ライノおじさまは、たぶんだけど、お母様を好きなんじゃないかなって感じる時がある。

  私がそう思うくらいだから、お父様が物凄くヤキモチを焼くのも仕方がない。
 お父様は、ライノおじさまが来ると不機嫌になる。お母様を抱きかかえて、どこかに行ったまま暫く帰ってこない事もあった。遠くからでも、お母様を彼の目に触れさせたくないみたい。

 ライノおじさまは、お母様に会えなくて少し残念そうにしているけど、それは、あくまでも知人としてという感じで、用事が済んだら国に帰って行っていた。

 
 お母様は、お父様があまりにもヤキモチを焼きすぎるから、魔法で時々お父様にバレないようにこっそり会いに行っていたらしい。一度、お父様がお母様がいない時に半狂乱になって大泣きしてからは、お父様と一緒に会いに行っているっぽい。お父様は、ライノおじさまに大人げない態度を取っているんだろうなって想像がつく。
 私も連れて行って欲しかったけれど、あの国の気温は、氷点下を軽く下回るほど寒いから危険だと連れて行ってくれなかった。

「たしか、ライナという方で、まだ決まったお相手がいない好青年だそうよ。少しティーナからすると少し年上かもしれないけれど、身分も立場も申し分ないし……。この国の男性は、すでにダンたちのせいで望みが薄いのだから、番じゃなくとも前向きに考えてみたらどうかしら?」

「伯母様……」

 私は、シュトーレンを口に放り込みながら少し考えてみた。悪い人じゃなかったら、まずは知り合って交流を深めてもいいかもしれない。
  だけど、そうなると、ただでさえ私に決まった人が出来るのを嫌がっているのに、ライノおじさまがらみの方だから、絶対にお父様たちの妨害が入るとは思う。

「ねぇ、ティーナ。取り敢えずお会いしたらどう?」

「ティーナは変な人にも好かれるから、どんな人柄なのか、私たちもしっかり見定めてみるわね!」

「全く知らない方ですもの。皆できちんとフォローするから、ゆっくりお相手とお話してみるといいわ!」

「ティーナさえ良かったら、ダンたちの事は任せておきなさい」

 本音を言えば、ちょっとは興味はあるけれど、あまり乗り気ではない。だけど、目を輝かせて、まだ見てもいない人と私の事を真剣に心躍らせて協力をしてくれる友達や、伯母様の気持ちを無碍に出来なかった。

「折角のお話ですから、お会いしてお話が出来たら、と思います。その後の事はちょっと……。それに、お相手の方のお気持ちもありますし……」

「それは勿論そうよ。ふたりの気持ちが一番なのだから。無理強いは絶対にしないわ」

 やんわりお断りしたかったけど、なんとなくうやむやな返事をしてしまった。こうなったら、そのライナさんと近々絶対に会う事になるだろう。
 いきなりお見合いにはならないはず。偶然を装って、どこかで挨拶するとかくらいに違いない。

 素敵な方だといいわねーと、友達は口々に言いつつ、彼女たちの中では、すでにライナさんは物凄く格好いい好青年に出来上がってそうだ。ライノおじさまも、時々この国に来るたびに女性陣が放っておかないほど素敵なダンディだし。その甥なのだから、たぶん、彼に似てモテる容姿だろう。

 私は、昨年お会いしたライノおじさまが、若かったらこんな感じなのかなーという男性を思い浮かべてみた。うん、どこから見ても素敵な人にしかならない。

 本当に相手次第だけれど、ひょっとしたらひょっとしてって、なんとなく素敵な出会いを想像して、こそばゆい気持ちになった。

 伯母様の事だ、そうと決まればいつ彼と私を会わせるのか、数日以内に決めてしまうだろう。これまでも、いろんな人にそうやって会わせられてきた。悉く、ダメになったんだけど。今度も上手くいく可能性のほうが少ないと思っておこう。

 家に帰ると、お父様が早速私に走り寄って来た。お兄様たちは、仕事で家にいない。

「ティーナ、ライノの甥と会うのか? どうなんだ?」

「お父様、どこでその話を聞いたの?」

 質問に質問で返してしまった。もう知ってしまっているのなら仕方がない。私は正直に今日の出来事をお父様と、お父様を止めるためにすぐに追いかけて来てくれたお母様に打ち明けた。

「そんな! 姉上は何を考えているんだー!」

「ダン、落ち着いて。まだ決まったわけじゃないでしょう? それにしても、ライナ君が来るのね。懐かしいわー」

 お父様は頭を抱えて叫んだ。今回の事は、伯母様が仕切るから邪魔できないってぶつくさ文句言っているのを、お母様がなだめている。

「お母様は、ライナさんを知っているの?」

「そりゃそうよ。あの国に行った時に、ダンも会った事があるわ。といっても、最後に会ったのは随分前よ。あんなに小さかったあの子が、数年見ないうちに立派な青年になったのねぇ……。ひとの子供は成長が早いわー」

「鼻垂れたかわいくない子だったぞ」

「ダン! ライラの子供の事を悪く言ったら、いくらあなたでも許さないからね?」

「うう……、ごめん、エミリア。ライラはとても素敵な人だから、その子であるライナもいい子に決まっているよな。だが、ティーナは渡さない!」

「全くもう……。ティーナの事となったら大人げないんだから。あなたが口を出すと話が進まないから黙っていて。何も、ライナ君とティーナが結婚するって決まったわけでもあるまいし。普通に知り合いになる程度なんだから、そんな、今すぐ娘を取られるみたいに考えないで。いいわね?」

「わ、わかったよ、エミリア……怒らないで」

  お母様に叱られたお父様がしょんぼりすると、お母様はお父様をヨシヨシって慰めてあげた。とっても幸せそうで、私もふたりみたいな愛情溢れる結婚をしたいって思いがむくむく育つ。

 お父様を止めるにはお母様の協力が必要不可欠。

 お母様は、今までは相手の男性に難があったりしたから、お父様たちに邪魔されて進展しないどころかご破算になるのも静観していた。けれど、そろそろ私の将来を真剣に考えないといけないって思ってくれたのかも。

 伯母様とお母様が、真剣にタッグを組めば、お父様やお兄様たちはぐうの音も出ないだろう。

  


















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