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序章

女子トークといえば恋バナ

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 今日は、この国の元女王陛下であるタニヤ伯母様から招待されたお庭でのお茶会。同じ年ごろの友達5人とテーブルを囲んで、タニヤ伯母様の素敵なトーマス伯父様との恋のお話になってきゃあきゃあはしゃいでいた。

 色とりどりの見事な花が、一級の庭師の手によって、どの角度から見ても美しいように配置されている。昨日の雨のおかげで、よりみずみずしさが際立っていた。

「タニヤ様とトーマス様は番だとお互いに分かっていたのに、ご兄妹だからと長年耐えていらしたんですね」

「しかも、タニヤ様は政略結婚を他の男性とすることを決意されていて……悲しいお話です」

 伯母様の恋愛話はとても切ない。惹かれ合う番なのに、近親婚は許されていないからお互いに距離を置いていたなんて、と皆しんみりする。何度聞いても悲しいふたりの恋物語は私たちの心を揺さぶってやまない。

「ところが、トーマス様は引き取られた方だとわかり、そこから素敵なトーマス様が陛下を抱きかかえて……」

 騎士の鏡である伯父様が、他の男にはやらないと男らしく伯母様に想いを告白した。そして血の繋がりが無い事を知ったふたりは、固く結ばれ、晴れてこの国の女王とその王配が誕生したのである。

 ほぅ……と、皆が頬を染めて吐息を漏らすと、伯母様が今度は私たちの恋の話を聞きたいと言った。

 私以外、皆婚約者がいる。番には出会えなかったから、政略だったり恋愛だったり様々ではあるが、相手の人たちから大切にされていてとても幸せそう。
 皆のノロケ話や、いつごろ結婚するのかなど、ひととおり話を聞く。羨ましいよりも、皆の幸せそうな表情を見ると、そのおすそ分けを貰ったかのように心がポカポカする。すると、今度は私に矛先が向かった。

「ティーナも、そろそろどなたかいい人はいないの?」

「それがなかなか……。とても良い方とお友達くらいになったかと思ったら、お父様やお兄様たちが……」

 私はと言えば、まだ独り身だ。恋人も出来た事はない。お母様に似て美しく育ったので、そこそこどころか、すごく声はかかるのだけれど、ほとんどの人が、なんとなくいやらしい感じがしたり、付きまとわれたりしていたから滅多に普通の好青年に出会える事はない。その少ない好青年たちも、お父様とお兄様たちが、自分より弱い男は認めないと決闘を申し込んで、容赦なく叩きつぶしてしまうから、公に私に告白してきたり求婚してくる普通の男の人は誰一人としていなくなった。

「そ、そういえば、ティーナは番との出会いに憧れているのよね?」

「ま15歳なんだし、焦らなくてもいいと思うわ。でも、番に出会えたら素敵よねぇ」

「タニヤ様やダニエウ様のように、ある日突然、番と出会って結ばれる日がくるかもしれなわね!」

 皆、私の事情を知っている仲良しのお友達だ。伯母様も公式の場以外のこういう時は礼儀にうるさくない。だから、あまり畏まった言葉遣いはしていないため、普段と同じように気さくに言葉をかけてくれている。

 この世界のどこかにいるはずの番に会いたい。出会って、お父様たちのように素敵な恋愛をして結ばれたいとは思うけれど、生憎、今まで番とは出会えていなかった。

「ティーナ、お節介だとは思うのだけれど……。ダンが番に会えたのは、危険な世界の隅々まで旅したからなのは知っているでしょう? 命を落としかけた事だって一度や二度じゃないの。世界は広いわ。なかなか番になど会えないのだから、そろそろお相手を、と思うのよ。これからはダンたちに邪魔をしないようにわたくしから釘を刺してあげてよ」

 伯母様が、その手に持つとても重いタングステン入りの鉄扇をぎゅっと握りしめた。伯母さまはとても美しくて嫋やかなのに、そんじょそこらの男達ではかないっこないほど強い。お父様はあの鉄扇を何度も投げつけられた事があるようだけど、よく命が無事だったなって思う。たぶん、お兄様たちも、あの鉄扇が当たっても痛いって言うくらいで大したダメージはないだろう。

 因みに、お兄様たちも恋人はいない。すごくモテるんだけど、私への度の過ぎたシスコンっぷりに、恋人が出来てもすぐにフラれて、フラれた原因がわからないといつも首を傾げている。
 私も多少はブラコン気味だけど、お兄様たちに恋人が出来ても喜んでいるし、相手の方とも仲良くさせてもらっている。だけど、断っても断ってもデートに妹を連れて行こうとしたり、デートの最中に私へのお土産を買ってくるのはいかがなものかと思う。そんな恋人、私だって嫌だもの。結果、折角仲良くしていたお相手に泣かれたりにらまれる始末。

 そんなお兄様たちを止める事が出来るのは、誰もいないかもしれない。お父様やお兄様たちにとって、唯一頭が上がらないお母様に苦言を呈されても、本人たちに自覚がない。一向になおらないのだから、もうどうしようもないのかも。

 私は、手に持ったフォークの先の、ドライフルーツとナッツ、そしてホクホクの大きな栗が入ったシュトーレンを眺めながらため息を吐いた。このままだと伯母様の言うように、結婚どころか恋人すら出来ないかもしれない。

 いっそ、お兄様たちに番が見つかれば解決しそうなのに、と、もう一つため息を吐く。

「そう言えば、先週から北の国のほうから侯爵様が来られる予定なんですよね」

「なんでも、ティーナのお母様のお知り合いだとか」

「そうよ、エミリアの幼馴染なの。その縁もあって、我が国と、かの方の国の貿易も盛んになったわ。この度、次期侯爵が決定したから、陛下に挨拶に来る予定なのよ」

 伯母様は、随分前に退位している。だから、近代の王は、伯母様の娘である私の従妹なのだ。従妹は、番に拘らず、国内の有力な貴族のひとりで、天才と名高い宰相の令息を王配に迎えている。
 政略から始まった従妹の結婚ではあったが、ふたりはとても仲が良い。

「じゃあ、今回来られるその方が、案外ティーナの番なのかもしれないじゃない」

「きゃぁ、それは素敵だわ!」

「ひょっとしたらひょっとするかも」

「え……番? その人が?」

 ぼんやり、私のまだいない相手の事で盛り上がっている彼女たちの思いもしなかった言葉を聞いて、シュトーレンを食べようと口を開けたままフリーズしてしまった。

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