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僕と恋をしてください~S・M
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「噂に聞いていた、美しく、名家の少女でありながらも、相手が一人もいないマリアさんを目の前にした僕は、緊張で言葉を上手に出す事が出来ませんでした。それまでも数名の少女たちと交流を持とうとしましたが、自信もなく気弱で話題も乏しい僕は惨敗でして……。名乗りすら許されなかったりする始末で会話すら成立しませんでした」
ははは、と力なく肩を落としながらも、それでも瞳の輝きが失われていない。もしも過去の彼がそうであるのなら、何が彼を変えたと言うのだろう。
「ですが、貴女だけは違いました。噂以上に綺麗で、優しい瞳の貴女を前にした僕は、あろう事か求婚の場であるにも拘らずどもってしまって……。大失態をしてしまいました。当然断られる上に、バカにするなと言われてもおかしくない状況だから、どんどん焦る僕を気遣ってくれて……。結局は断られたのですけれど、貴女だけだったんです。会話を最後まで聞いてくれて、僕を心配して声をかけてくれたのは」
「そうでしたか……?」
「はい。ですから、その時、『諦めません』と貴女に最後に伝えました」
マリアは、彼のような少年にも数人求婚されていたし、諦めの悪い人たちもいたのでやはり思い出せなかった。
「隣の校舎で、庭でご友人と話をされる貴女をずっと見てきました。ですが、それは周りの男たちも同じです。僕よりも立派で、賢く、強い男たちが貴女の夫になりたいと願っていた……。僕は、誰よりも強く、そして、何事にも負けない自分になろうと、そして、貴女に再び求婚しようと思ったんです。末席でいいなどという情けない求婚ではない、第一の夫候補として。それからはがむしゃらでした。貴女がいつ夫たちを決めるのか不安でしたけれど、ずっとお一人でしたので、僕にこうして貴女に再び相まみえる機会がいただけたのです」
なんと、彼の意識を変えるきっかけが自分自身だっとはと驚き目を見開く。
「マリア・エヴァンス嬢……。ずっと貴女だけを見つめてきました。貴女のため、いえ、違います。貴女を得たいと願う自分自身のために、ですね。僕には貴女しかいません。どうか、僕を夫候補として考えていただけませんか?」
「スティーブさん……」
なんという決意の強さだ。口調はとても丁寧で柔らかいというのに、本人も言っているように諦めなさそうで押しの強さが瞳に宿っている。
スティーブは、ソファから立ち上がり戸惑っている彼女の側に膝をついて、懇請するかのように顔をあげて視線を合わせて来た。
そっと、マリアの手を優しく壊れ物を扱うように手の平に乗せた。マリアはその力に逆らうことなく彼から視線を逸らす事も出来ずに一挙手一投足を見守る事しか出来なくて、ドキドキ胸の音がうるさくてしょうがない。
「マリア嬢、あの日、あの時から僕は貴女を恋い慕っております。あの時は、恥ずかしながら経済力と地位しかなかった僕ですが、どうか、これからでいいので、僕を見て、そして僕と恋をしていただけませんか?」
「恋を……?」
「はい。僕は、夫になりたいだけではありません……。僕は欲張りなんです。ですからあなたの心ごと、全てが欲しいんです」
マリアは、恋をしたいと言われても経験がない。戸惑い返答に困ったが、相手があまりにも真っ直ぐに見つめてくるのでおずおず口を開く。
「…………、どうしていいのか、私わからなくて……。その、男の人と交流もあまりなかったので……」
「マリア嬢、僕も同じです。でも好きなんです。ですから、今日から、僕と恋をしてください」
「ずいぶん、強引ですね?」
「ええ、諦めないと決めましたから。それとも、嫌ですか? 僕とは恋をするのも、僕を夫にするのも」
「そんな事は……」
マリアは、そんな聞き方はずるいと思った。だけど、今の自分の気持ちもまた、揺れ動き傾いてしまったようだ。
「スティーブさん、私で良かったら、その……、恋を教えてください」
なんとも間の抜けた返事だ。恋をした事がないマリアにとってはスティーブは恋の先輩である。嫌悪どころか一途に自分を想ってくれていると言った彼は大変好ましい。拒否する理由はマリアにはなかった。
「マリア、と呼んでも?」
「はい、スティーブ……」
スティーブは、頬を赤らめた後、満面の笑顔になって何度もマリアと、彼女の名前を呼んだのであった。
ははは、と力なく肩を落としながらも、それでも瞳の輝きが失われていない。もしも過去の彼がそうであるのなら、何が彼を変えたと言うのだろう。
「ですが、貴女だけは違いました。噂以上に綺麗で、優しい瞳の貴女を前にした僕は、あろう事か求婚の場であるにも拘らずどもってしまって……。大失態をしてしまいました。当然断られる上に、バカにするなと言われてもおかしくない状況だから、どんどん焦る僕を気遣ってくれて……。結局は断られたのですけれど、貴女だけだったんです。会話を最後まで聞いてくれて、僕を心配して声をかけてくれたのは」
「そうでしたか……?」
「はい。ですから、その時、『諦めません』と貴女に最後に伝えました」
マリアは、彼のような少年にも数人求婚されていたし、諦めの悪い人たちもいたのでやはり思い出せなかった。
「隣の校舎で、庭でご友人と話をされる貴女をずっと見てきました。ですが、それは周りの男たちも同じです。僕よりも立派で、賢く、強い男たちが貴女の夫になりたいと願っていた……。僕は、誰よりも強く、そして、何事にも負けない自分になろうと、そして、貴女に再び求婚しようと思ったんです。末席でいいなどという情けない求婚ではない、第一の夫候補として。それからはがむしゃらでした。貴女がいつ夫たちを決めるのか不安でしたけれど、ずっとお一人でしたので、僕にこうして貴女に再び相まみえる機会がいただけたのです」
なんと、彼の意識を変えるきっかけが自分自身だっとはと驚き目を見開く。
「マリア・エヴァンス嬢……。ずっと貴女だけを見つめてきました。貴女のため、いえ、違います。貴女を得たいと願う自分自身のために、ですね。僕には貴女しかいません。どうか、僕を夫候補として考えていただけませんか?」
「スティーブさん……」
なんという決意の強さだ。口調はとても丁寧で柔らかいというのに、本人も言っているように諦めなさそうで押しの強さが瞳に宿っている。
スティーブは、ソファから立ち上がり戸惑っている彼女の側に膝をついて、懇請するかのように顔をあげて視線を合わせて来た。
そっと、マリアの手を優しく壊れ物を扱うように手の平に乗せた。マリアはその力に逆らうことなく彼から視線を逸らす事も出来ずに一挙手一投足を見守る事しか出来なくて、ドキドキ胸の音がうるさくてしょうがない。
「マリア嬢、あの日、あの時から僕は貴女を恋い慕っております。あの時は、恥ずかしながら経済力と地位しかなかった僕ですが、どうか、これからでいいので、僕を見て、そして僕と恋をしていただけませんか?」
「恋を……?」
「はい。僕は、夫になりたいだけではありません……。僕は欲張りなんです。ですからあなたの心ごと、全てが欲しいんです」
マリアは、恋をしたいと言われても経験がない。戸惑い返答に困ったが、相手があまりにも真っ直ぐに見つめてくるのでおずおず口を開く。
「…………、どうしていいのか、私わからなくて……。その、男の人と交流もあまりなかったので……」
「マリア嬢、僕も同じです。でも好きなんです。ですから、今日から、僕と恋をしてください」
「ずいぶん、強引ですね?」
「ええ、諦めないと決めましたから。それとも、嫌ですか? 僕とは恋をするのも、僕を夫にするのも」
「そんな事は……」
マリアは、そんな聞き方はずるいと思った。だけど、今の自分の気持ちもまた、揺れ動き傾いてしまったようだ。
「スティーブさん、私で良かったら、その……、恋を教えてください」
なんとも間の抜けた返事だ。恋をした事がないマリアにとってはスティーブは恋の先輩である。嫌悪どころか一途に自分を想ってくれていると言った彼は大変好ましい。拒否する理由はマリアにはなかった。
「マリア、と呼んでも?」
「はい、スティーブ……」
スティーブは、頬を赤らめた後、満面の笑顔になって何度もマリアと、彼女の名前を呼んだのであった。
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