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プロローグ

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 ゆらゆらと温かい水の中に浮かんでいるような気がする──────。


「大丈夫か?」
「……ん?」

 いつの間にか眠っていたのだろう。ずしりと腰に響くバリトンの声が届いた。大きな手が頬に当てられ、目を閉じたまま少し指先がざらつく手の平に頬をよせた。

「……!」

 相手が息を飲んだように、手のひらどころか、ぴたりとはちついた肌がびくりと震えたのを感じて、ゆっくり目を開ける。夢現のまま次第に頭がはっきりしていくと、目の前には逞しい肩と自分の物ではない太い腕があった。

「……?」

 腕を動かして、自分の下腹部から脇腹にかけて乗せられた少し重量を感じるその腕に手を置く。そして、体の上から退けようと力を入れると、すっと腕が動いて後方に腰を寄せられた。

「辛いでしょう? まだ眠っていてもいいですよ」

 先ほどとは違う、少しテノールの柔らかな声がした。なぜだか安心して体の力が抜けていく。折角浮上した意識が、再び夢の中へと誘われていく、そんな子守唄のような優しい声。

「起きたら、またかわいい声を聞かせて?」

 今度は足元から、声変わり途中のようなかすれた声がした。ふくらはぎに当てられた、肌触りのよいすべらかな指先が、やわやわとそこをマッサージしてくれていて、なんだかとても気持ちがいい。


  暗闇の中、気だるい体を持て余すことなく、意識は夢の中のもっと奥深くに沈んでいった。

「おやすみ、マリア」
「いい夢を見てくださいね、マリア」
「おやすみなさい、マリア」

  三人の奏でる音を最後に、完全に意識が途絶えたのだった。
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