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資-1
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「くそ! なんで、返信がないんだ。既読もつかないし、どうなってんだよ」
彩音が昼休みの時間を見計らい、メッセージを送っても電話しても無視され続けていたのでイライラする。
去年、大学のサークルに遊びに来ないかと誘われて、顔を出したのはほんの気まぐれだった。そこで、他の奴らが適当にしているのに、真面目に片づけをしている彼女が気になった。
彼女の周りの空気が、都会の汚れた空気の中で、きらきら輝いているように見えた。いかにも田舎出身で地味な女の子だから、一瞬目がおかしいのかと思ったが、サークルの男達の中でひそかに人気な事を知り、興味本位で声をかけた。
彩音は、男慣れしていないし世間知らずだからチョロいと思った。なのに案外ガードが固くて、酒でも飲ませて強引にヤるかと思った事もある。
だが、俺に心を開いて、純粋にまっすぐ俺を見つめる彼女を傷つけたくはないと思うようになり、俺なりに大事にしていた。
看護学科は俺には想像できないほど忙しいらしい。医者じゃあるまいし、看護学科なんて大した事ないと思っていたから、実習が始まれば会えない日が続いて蔑ろにされた気分になった。
夜に電話をしていても、いつの間にか寝落ちする彼女。睡眠時間を削ってまで勉強しなければならないほど大変なのかと、勉強量を舐めていた考えを多少は改めた。何事にも一生懸命な彼女に、いつしか俺の方がのめり込んでしまった。
就職先も決まっているし、卒業するまで時間がたっぷりある俺と違い、彩音はどんどん忙しくなって会えない日が多くなると言われた。
今ですら会いたいときに会えないのに、今後は更に時間が取れなくなるとか冗談じゃない。いくら大変でも、俺を好きなら時間くらい作る事ができるだろう。腹立たしい気分を紛らわせるために、やけくそ気味に連れが開いたパーティに参加して、開催される高層マンションの一室で参加していた女と時々過ごした。
年明けに、ようやく彼女を手に入れる事が出来た。処女を抱いたのは初めてで、あれほど気を使った事はない。彼女が痛みを堪えながら俺を受け入れた時は、柄にもなく幸せを感じて心が満たされた。今まで抱いてきた女とは比べものにならなかった。
もう彩音以外の女はいらないと思っていた。身も心も満たされる最高の女を、連れに自慢したくなったのが間違いだった。
俺は普通の家庭に育ったが、法科大学院に通う学生には金持ちが多い。連れと一緒に行動すると、ちょっとした持ち物から始まり、色んな面でどうしても比べられていた。
あいつらも、選ばれない側の俺を、心の底で馬鹿にしているのはわかっている。いつもは俺が内心みじめな思いをしていたが、俺に心底惚れている彩音を見せれば、あいつらのすました顔がどう変化するのか、想像するだけでも胸がすく思いになった。
あいつらに近寄るのは、金やステイタス目当ての女ばかり。代わりがいくらでもいるような女よりも、彩音のほうが可愛いし頭が良いし性格も申し分ない。実家がド田舎だという事を除けば、俺を常に立ててくれる控えめな、妻にするならこんな女性だと思わせるような理想の恋人だ。
「へぇ、じゃあお前とうとうか!」
「今どき初心な彼女とか羨ましいぜ」
「まあな。告ってから、何か月待たされたことか。ははは」
思った通り、連れに羨ましがられた。こんな気持ちの良い気分は初めてで、調子に乗ってしまう。彩音の事を大事な恋人と言えずに、セフレと言ってしまった。まあ、こいつらとは卒業してからはほとんど会わなくなるし、問題ないだろうと思い一緒に笑った。
だが、話しをしているうちに変な方向になる。普段あいつらの自慢話を聞き役に徹する俺が饒舌になった事で、思いのほか興味をひいてしまったのだ。
「なぁ、俺たちにもそのかわいいセフレちゃんを紹介してくれよ。ひとりだけいい思いをする気じゃねぇだろ?」
こいつの親は、大手の法律事務所を経営している。つまり、俺の就職先の代表だ。こいつに逆らって、万が一にも就職先がなくなるなど考えられなかった。だが、こいつらに彩音を紹介して、遊び目的で近づく女たちのように食われるのもまっぴらごめんだ。
「いや、パーティに参加する女の子たちのほうが綺麗だし……」
「ん? 俺たちに会わせたくないの? 今まで散々俺たちのおかげでいい思いしていたのに? 資くーん、それはないんじゃないの?」
確かに、こいつらのおかげで散々遊べたし就職先も困らなかった。ただし、高い金もかなり徴収されている。といっても、ひっかけた女に払わせていたが。
「そんなわけないって。ただ、お前らには、あいつは不相応というか。いつもの女の子たちの足元にも及ばない石ころみたいなもんだぜ?」
「たまには、そういうのもいいよな」
「だよな。じゃあ、決まり。明日の夜に俺んちに連れて来いよ!」
雨が降り出した。霙混じりの雨の中を走り抜ける。ふたりは、彩音に早く会いたいとニヤつきながら、親戚が経営しているという近くのホテルに入っていった。俺は誘われなかったし、服も量販店のものだからついていけない。少し先の全国チェーンの喫茶店に入り、ホットコーヒーを頼んだ後頭を抱えた。
(どうにかして、彩音をあいつらに会わせないように出来ないものか)
最初は見せびらかしたかった思いが一転して、いかにあいつらから彩音を守ろうか考えた。だが、俺が大学のサークルに参加している事も知られているし、周囲に様々な人間が集まるから、彩音を特定する事などあいつらには容易い。
「くそ……」
温くなったコーヒーを飲んでいると、スマホが鳴る。ポップアップされた通知の文字が、俺を更に追い詰めたのであった。
彩音が昼休みの時間を見計らい、メッセージを送っても電話しても無視され続けていたのでイライラする。
去年、大学のサークルに遊びに来ないかと誘われて、顔を出したのはほんの気まぐれだった。そこで、他の奴らが適当にしているのに、真面目に片づけをしている彼女が気になった。
彼女の周りの空気が、都会の汚れた空気の中で、きらきら輝いているように見えた。いかにも田舎出身で地味な女の子だから、一瞬目がおかしいのかと思ったが、サークルの男達の中でひそかに人気な事を知り、興味本位で声をかけた。
彩音は、男慣れしていないし世間知らずだからチョロいと思った。なのに案外ガードが固くて、酒でも飲ませて強引にヤるかと思った事もある。
だが、俺に心を開いて、純粋にまっすぐ俺を見つめる彼女を傷つけたくはないと思うようになり、俺なりに大事にしていた。
看護学科は俺には想像できないほど忙しいらしい。医者じゃあるまいし、看護学科なんて大した事ないと思っていたから、実習が始まれば会えない日が続いて蔑ろにされた気分になった。
夜に電話をしていても、いつの間にか寝落ちする彼女。睡眠時間を削ってまで勉強しなければならないほど大変なのかと、勉強量を舐めていた考えを多少は改めた。何事にも一生懸命な彼女に、いつしか俺の方がのめり込んでしまった。
就職先も決まっているし、卒業するまで時間がたっぷりある俺と違い、彩音はどんどん忙しくなって会えない日が多くなると言われた。
今ですら会いたいときに会えないのに、今後は更に時間が取れなくなるとか冗談じゃない。いくら大変でも、俺を好きなら時間くらい作る事ができるだろう。腹立たしい気分を紛らわせるために、やけくそ気味に連れが開いたパーティに参加して、開催される高層マンションの一室で参加していた女と時々過ごした。
年明けに、ようやく彼女を手に入れる事が出来た。処女を抱いたのは初めてで、あれほど気を使った事はない。彼女が痛みを堪えながら俺を受け入れた時は、柄にもなく幸せを感じて心が満たされた。今まで抱いてきた女とは比べものにならなかった。
もう彩音以外の女はいらないと思っていた。身も心も満たされる最高の女を、連れに自慢したくなったのが間違いだった。
俺は普通の家庭に育ったが、法科大学院に通う学生には金持ちが多い。連れと一緒に行動すると、ちょっとした持ち物から始まり、色んな面でどうしても比べられていた。
あいつらも、選ばれない側の俺を、心の底で馬鹿にしているのはわかっている。いつもは俺が内心みじめな思いをしていたが、俺に心底惚れている彩音を見せれば、あいつらのすました顔がどう変化するのか、想像するだけでも胸がすく思いになった。
あいつらに近寄るのは、金やステイタス目当ての女ばかり。代わりがいくらでもいるような女よりも、彩音のほうが可愛いし頭が良いし性格も申し分ない。実家がド田舎だという事を除けば、俺を常に立ててくれる控えめな、妻にするならこんな女性だと思わせるような理想の恋人だ。
「へぇ、じゃあお前とうとうか!」
「今どき初心な彼女とか羨ましいぜ」
「まあな。告ってから、何か月待たされたことか。ははは」
思った通り、連れに羨ましがられた。こんな気持ちの良い気分は初めてで、調子に乗ってしまう。彩音の事を大事な恋人と言えずに、セフレと言ってしまった。まあ、こいつらとは卒業してからはほとんど会わなくなるし、問題ないだろうと思い一緒に笑った。
だが、話しをしているうちに変な方向になる。普段あいつらの自慢話を聞き役に徹する俺が饒舌になった事で、思いのほか興味をひいてしまったのだ。
「なぁ、俺たちにもそのかわいいセフレちゃんを紹介してくれよ。ひとりだけいい思いをする気じゃねぇだろ?」
こいつの親は、大手の法律事務所を経営している。つまり、俺の就職先の代表だ。こいつに逆らって、万が一にも就職先がなくなるなど考えられなかった。だが、こいつらに彩音を紹介して、遊び目的で近づく女たちのように食われるのもまっぴらごめんだ。
「いや、パーティに参加する女の子たちのほうが綺麗だし……」
「ん? 俺たちに会わせたくないの? 今まで散々俺たちのおかげでいい思いしていたのに? 資くーん、それはないんじゃないの?」
確かに、こいつらのおかげで散々遊べたし就職先も困らなかった。ただし、高い金もかなり徴収されている。といっても、ひっかけた女に払わせていたが。
「そんなわけないって。ただ、お前らには、あいつは不相応というか。いつもの女の子たちの足元にも及ばない石ころみたいなもんだぜ?」
「たまには、そういうのもいいよな」
「だよな。じゃあ、決まり。明日の夜に俺んちに連れて来いよ!」
雨が降り出した。霙混じりの雨の中を走り抜ける。ふたりは、彩音に早く会いたいとニヤつきながら、親戚が経営しているという近くのホテルに入っていった。俺は誘われなかったし、服も量販店のものだからついていけない。少し先の全国チェーンの喫茶店に入り、ホットコーヒーを頼んだ後頭を抱えた。
(どうにかして、彩音をあいつらに会わせないように出来ないものか)
最初は見せびらかしたかった思いが一転して、いかにあいつらから彩音を守ろうか考えた。だが、俺が大学のサークルに参加している事も知られているし、周囲に様々な人間が集まるから、彩音を特定する事などあいつらには容易い。
「くそ……」
温くなったコーヒーを飲んでいると、スマホが鳴る。ポップアップされた通知の文字が、俺を更に追い詰めたのであった。
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