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33 カラーダイヤのお値段は?

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「では、この指輪はずっとこのままということなのでしょうか?」
「一度出来たものを、0の状態に戻したり、もしくはトラップだけを取り除けるような粗悪品は、クアドリ様にすぐにバレましたから、作れませんでした。なので……」
「無理、なのですね」

 職人さんの話を聞いて、ぞっとした。一生、本当に好きでもなんでもないクアドリ様の面影に囚われなくてはいけないのか、と。

 この世界に、白い髪の魔法を使えない人物は、100年のうちにひとりいるかいないかだ。だから、わたくしがこの世に存在していて、しかもクアドリ様の婚約者としてあの指輪を贈られるなど、思っても見なかった。だから、魔法で簡単に壊れるようにしていたし、安全な解呪の方法はひとつしかないという。

「でも、クアドリ様のご意思があれば、外れますよね?」
「それは、勿論そうなのですが……」

 例え、クアドリ様に外すよう頼んでも、逆にそれを盾にしてアイリスやおじい様、そしてジョアンたちを支配しようとするはずだ。人質を取ってまで違法なアイテムを作らせていた彼に、安易に頼むのも危険だからと止められた。

「もしくは、指ごと切り離すか……そうすれば、指輪が無傷で体から離れますので、トラップの影響を受けません」
「馬鹿なことを言うなっ! わしのかわいい孫に、なんという非道なことを言う!」
「アイリスは、魔法が使えなんだぞ! なんとかならねぇのかよ。お前が作ったんだろ。責任もって壊せよ!」

 なんと、おじい様まで職人さんを攻撃しようとした。ご友人が抑えていても、ふたりがかりなら職人さんはタダではすまないだろう。

「ジョアン、おじい様、もうやめてください。職人さんをどうこうしたところで、指輪が外せるわけではないのですから……」

 慌ててふたりを止めると、おじい様とジョアンはしぶしぶ攻撃をやめてくれた。

「……申し訳ございません」

 わたくしが望むのは、その言葉ではない。

 これを作った職人さんたちの居場所がGPSで判明した時、やっと外せると喜んだ。近い内に絶対に外れると。

 でも、現実はどうだろう。

 人間なら、するまでに、無意識で魔法を使うことができる赤ちゃんもいるというのに、わたくしにはそれができない。

 これまで、何度もそのことで悲しくて悔しい思いをしてきた。魔法が使えたら、あの人だって娘としてかわいがってくれていたかもしれないのだから。

 でも、そんなものは、朝霧よりも儚い夢のまた夢。あり得ない。万が一、過去に戻ってやり直せることがあっても、あの人は、魔法が使えるわたくしやお母様を捨てて、カーソお義母様やラドロウを選ぶだろう。

「わたくし、クアドリ様にお会いした時に、一生懸命頼もうと思います。心から指輪を外してくださるとは思えませんけれど、外に方法がないのですから。それに、わたくし個人の願いだけならともかく、わたくしを支援してくださっているおじい様やジョアンのことを無視できないでしょうし」
「アイリス……」
「ジョアン、職人さんをそんなに睨まないで。この方だって、本当はあんなもの作りたくはなかったのでしょう……悪いのは、偽の契約書で縛り人質をとって作らせていた人だもの。それに、わたくし以外の人は、すぐに壊れるような指輪を作っていたんでしょう? わたくしが魔法を使えないのが悪いの」
「だがな、アイリス」
「だがな、じゃないわ。。ほら、もう職人さんを睨まないで? もしも、わたくしに隠れて職人さんにひどいことをしたら許さないからね」
「そんな、アイリス!」

 他の職人さんや人質にとられていたご家族は、おじい様やご友人によって安全な場所にいるということだった。

「もう二度と、こんなもの作らないでいただけますか?」
「はい、はい……。お嬢様に誓って、二度と作りません」

 技術を磨き、誇りを持って仕事をしていた人が、こんな物を作るなんてどれほど辛かっただろう。でも、それでも、本心では作った彼が憎いと恨む気持ちは、どうやっても消えそうにない。わたくしは、溜息を吐いて、話題を変えることにした。

 職人さんたちのことは、おじい様のご友人が支援するとのことだ。

「ま、投資だな。この男が作るアイテムは、今もファンが多い。しかも大金持ちが、プレミア価格をつけても欲しがってるからな。大儲けマチガイなしだ。アイリスに慰謝料として売上の何%かは渡してやれるだろうさ」
「お前なぁ」

 ご友人は、転んでもただでは起きないちゃっかりものらしい。そして、投資に失敗したこともないという。

「取り敢えず、私が無料で手を貸すのはここまでだ。ここからは有料だぞっと」
「なんとがめつい……」
「だから、私は公の機関の役人でも、慈善団体でもねぇって言ったろ」
「わしの顔で、割り引きサービスしろよ。か弱い高齢者の特別優待とか」
「お前のどこがか弱い高齢者なんだ。以前のお前にかけられた迷惑料を差し引いたらマイナスでしかないわっ!」

 わたくしは、とても仲の良いおふたりの言い争いを聞いて、とてもうらやましく思えた。わたくしにも、おじい様とご友人のように、ずっとお友達でいてくれる人はいるのだろうか。

(ジョアンなら……ううん、ジョアンは婚約者だから、友達じゃないわね)

「あ、ジョアン。ダメだったら」

 わたくしが、おじい様たちに気を取られていると、ジョアンがつま先で、こっそり職人さんを転ばそうとしていた。

「俺は、何もしてねぇぞ!」
「ううん、ちゃんと見たんだから。罰として……そうね。欲しいものがあるんだけど、いいかな?」
「なんだ、何がいい? なんでも買ってやる!」
「ううん、買って欲しいとかじゃないんだ。あのね……」

 ジョアンの気持ちもわかる。もしも、わたくしがジョアンの立場だったら、許せないと思うから。だから、わたくしのためになんでもすると頭を下げている職人さんに、ジョアンから貰った右手にあるブラックオニキスの指輪と、対になるような、ジョアンのための指輪を依頼した。

「アイリス、そんなの罰じゃねぇよ。ご褒美だろ! 俺も早く、新しい指輪を作んねぇとなー」

 それを聞いたジョアンが、喜んでぎゅうぎゅう抱き着いてきた。

「お代は勿論払います。ただ、今は手元になくて。出世払いで作ってもらえませんか?」
「そんなことでよろしいのですか?」
「はい。ジョアンに着けてもらうものなので、良いものをと思っているんです。あ、魅了はなしでお願いしますね。ジョアンがけがをしたりしないように、お守りの効果をつけてもらいたいんですけど。出来ますか?」
「お安い御用です。そうですね、お色はお嬢様の瞳のように輝く、太陽のようなビビットイエローのダイヤモンドなどいかがでしょうか。いや、使い道のないゴールデンジュビリーダイヤの片割れも倉庫にあったな。勿論、最高傑作をおつくりします!」
「カラーダイヤモンド……」

 ダイヤモンドはとても高価なものだ。カラーダイヤになると、とてつもなく希少で、ゴールデンジュビリーなどはかつては王妃様の王冠に使われたほどの人気のものだ。

(そんな。わたくしは、給料ひと月分くらいの真珠とかそういうのを思っていたんだけど。そんな高価な石、一生かかっても払えないわ……)

 一体、どれほどの値段なのだろうか。実家から縁を切られ、奨学金で暮らしているわたくしには到底払うことなど出来ない。どうしようと焦っていると、無料で作るから受け取って欲しいと言ってくれた。

 あまりにも高価すぎるので、支払い可能な値段を提示してそれに見合うものを作って欲しいとお願いした。でも、彼なりの謝罪でもあるのだろう。これくらいはさせて欲しいと何度も言われた。
 気が引けるけれど、高価な宝石に込めた魔法ほど効果が高くなる。結局、ジョアンのためのものなので、ありがたく作ってもらうことにした。
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