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 最終学年の交流遠足でも、二重生活をしていたせいでわたくしの体調が思わしくないのもあって3位という結果に終わった。これで、学園で総合一位になるという可能性は0になる。

 肝心の指輪はまだ指にはまったまま。このままでは目的も目標も達成など夢のまた夢だろう。

 こうして「お前には、永住権を得るなど到底無理だ」という事実を、突きつけられたかのように思えて不安になる。総合一位というのは、もともと無理難題だったのに、ショックを受けるなんておかしいとも思った。

 それよりも、わたくしがペアじゃなかったら一位になれるジョアンに申し訳なく落ち込んでいると、いつもと同じように、頭をぽんぽんされた。

「気にするな。俺としては、アイリスとペアになってなけりゃ、さぼってばっかりで今頃留年だったかもしんねぇし。それに、魔法学の成績が上がったんだ。総合一位は、はなからゴーリンで決まりだったようなもんだろ」

 ジョアンのおかげで、それほど落ち込まずにすむ。顔をしっかりあげて、彼らが誇らしげにしているのを見ると、悔しいという気持ちよりも、それ以上に彼らと友達になれて誇らしくて嬉しい気持ちが勝った。心から彼らを祝っていると、ジョアンから夏季休暇も一緒に過ごせるか聞かれた。

「学会に提出する論文がまだ出来ていないの。学園に残って頑張るわ」
「そうか。なら、俺も残る」
「え?」
「俺達はペアだろ。学園最後の年だから、ほかのやつらも思い出作りのために結構残るんだ。アイリスは忙しいだろうけど、俺と良い思い出をいっぱい残そうぜ」
「そうなの? 嬉しい」

 ジョアンとペアとして過ごすのもあとわずかだ。彼の言うように、少しでもたくさん、最終学年の思い出を作りたいと思った。

 わたくしは、あれから必死に呪いや魅了の魔法を研究して、安全な解呪の方法を模索していた。

 魅了魔法の構築式は、わりとすぐに判明した。それだけでも、おじい様や研究所のスタッフさんたちに褒められた。だけど、そこから先がうまくいかない。

 おじい様たちが万全の体制で、わたくしの指輪にかけている認識阻害の魔法を外して、解呪の実験したこともあった。だけど、通常のトラップ以外にも、何らかの仕掛けが施されているようで、高度な魔法を扱えるおじい様にすら、解呪の干渉が弾かれたのである。

 わたくしには魔法が使えない。トラップが発動してしまい苦しい思いをしている中でも、クアドリ様が優しく微笑み、甘い声なのに絶望を突きつけてきた。どうあがいても、指輪は一生外れないのかと、意識を取り戻した時に悲しくて悔しくて、無能な自分が情けなくてたまらなくなった。

 そんな時は、必ずジョアンがいてくれた。彼が側にいてくれなかったら、とっくに諦めていただろう。

 結局、理論上の計算式は完成したものの、いま一歩のところで指輪を外すという成功例が果たせずに研究期間が終わりを告げる。学会には、予測の域を超えることができない状態でしか提出できなかったのである。

「落選……ですか」

 おじい様が、結果を言いづらそうにしているのを見て、答えを聞くより早くショックを受けた。

「理論上は、自力での解呪が可能だろうことは学会も認めたんだ。だが、実験数がアイリスひとりで、圧倒的に不足していた。しかも……」
「失敗続きでしたものね……」

 論文を提出する時、理論上は完璧だと自信があった。だから、ある程度は成果を認めてもらえるという期待を持っていた。一生分の努力をこの論文にかけていたのだから、きっとギリギリ通るんじゃないかという気持ちを持っていた。

 けれど、学会の結論は、そんな努力や感情は無意味だ。結果が全てなのだから。

「アイリス……」

 おじい様たちも、一定の期待は持ちつつも、あれでは合格に程遠いことを知っていたのだろう。わたくしは、きゅっと唇を結んで、何とも言えない表情をしていて心配しているおじい様たちを見つめた。

「おじい様、スタッフの皆様、研究者として未熟未満のわたくしに付き合っていただき、本当にありがとうございました」

 わたくしは、深々と頭を下げた。結果は残念だったけれど、これで研究が終わったわけではない。たとえ、永住権を得られなくても、呪いを解呪するという目的がある。そうしなければ、一生指輪の影響に怯えなくてはならない。

 わたくしは、指輪に仕込まれたトラップの全容を知るには、遅かれ早かれ、あの国に戻る必要があると思っていた。ラストーリナン国の調査は、もう打ち切られている。やはり、最初から調査する気がなかったのだろうと憤りを感じた。

 実験が失敗するたびに、自分でこの指輪を作った人を探すか、クアドリ様に頼み込んで外す必要があるとも考えていた。

 クアドリ様は今やラドロウと結婚して侯爵家の婿になっており、簡単に手紙を出す事さえできない。あの家を追い出されたわたくしには、雲の上よりももっと上の存在になっていた。
 おじい様も元の爵位は取り上げられており、役職はあるが平民だ。自力でなんとかしなければと頑張っていたのである。

 八方ふさがりになった状況に唇を噛んで立ちすくんでいると、ジョアンがぽんっと肩を叩いた。見上げると、不敵な笑みを浮かべている。

「要するに、人間の貴族に会うための身分があればいいんだろ? だったら、俺と結婚すればいい。そうすれば、この国の永住権を得られるし、俺の家は、一応人間の国で言うところの侯爵以上の身分なんだから問題ねぇだろ?」

 ジョアンの提案に、わたくしは口をぽかんと開けてしまった。何を言われたのか、一瞬分からなかった。

「え? ジョアン何を言って……結婚なんて、そんな。わたくしがぺアだからって、大切なことを簡単に決めてはいけないわ」
「簡単に決めたわけじゃねぇさ。俺だって、色々考えてた。紙切れ一枚、あろうがなかろうが、俺にとったらどうでもいいんだ。そのクソみてぇな指輪は俺だって一日も早く外してやりたいし、まずは指輪を外すことを考えようぜ」
「でも、あなたの大切な人生のことなのよ?」
「ああ、俺たちの人生だからこそ、だ。お前が人生をかけていた学会が終わるまで、俺はずっと待っていたんだ。それとも、お前は、まだ嫌なのか?」

 嫌なわけがない。であっても、嬉しすぎて、何も考えられないほど幸せすぎて、自分の心が体を動かし首を縦に振っていた。

 ジョアンのご両親からも二つ返事で了承され、オウトレスイリア国にも認められた。ただ、結婚は卒業してからのほうがいいだろうということで、婚約を結ぶことになる。

 そして、卒業間近の冬期休暇を利用して、ラストーリナン国にジョアンとおじい様と一緒に向かったのである。


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