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27 先輩の結婚式は、多国籍ペンギンがいっぱい。/ファーストキスは泣き笑いと共に

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 イワトビ国のフェザー王子が婚約者を伴い、ゼファーに言葉をかけてきた。話に聞いていたプリマベーラ侯爵令嬢は、確かに猫かわいがりしたくなるほど華奢で可憐で愛らしい。
 
 今日は、先輩とジスクール王子の結婚式だ。

  この国の人たちは、妻への横恋慕などを恐れて大々的に挙式はせず、身内だけで食事会をする程度にとどめているそうだ。
 だが、次期王たるジスクール王子のような立場の人物はそうも言ってはいられない。

 今日の良き日、空は快晴で、この国の人々もゼクスやシビルのお母様たちの故郷であるコウテイ国やアデリー国からの来賓も過ごしやすい気温だ。まるで天からの祝福が降り注いでいるかのような光の中、純白のウェディングドレスを身に纏った先輩はとても綺麗で、幸せそう。

 ゼクスは主役のジスクール王子の身内だから王族の席にいるし、シビルは騎士団長として警護の総責任者であるため勤務中だ。だから、私の側にいるゼファーだけである。

 神託の乙女である先輩に秋波を送る各国の男性たちの視線を、ジスクールは番犬のように睨みつけながらも、先輩とようやく結婚出来た事で嬉しそうにしている。今この瞬間、きっと彼が一番幸せかもしれない。

 会場は、それほどの大人数を収容できそうな場所ではないため、沢山の招待客をどうするのか首をかしげていたが、すぐにその疑問が解消する。

 なんと、皆さん本性に戻ったのだ。

  なるほど、質量が少なくなれば大勢の人(ペンギン)たちが入る事が出来るし、人化状態ではわからない出身国も一目瞭然でわかるというもの。本来なら、異性が集まる大勢の中で本性になるなど考えられない。
 けれど、今日は無礼講であり、本性をこうして表す事で、国同士の繋がりの親密さを表すという政治的な目的もある特殊な例外行事みたい。

 ただ、私には目の前で本性になったフェザー王子とその側近の人たちの違いがわからない。オレンジのくちばしに、頭頂部はツンツンしていて、黄色の眉毛(?)がきりっとした目元を強調している。

「ぴぃ、きゅいっきゅっ! きゅきゅっ!」
「きゅぅ~ん……ぴぃ」

 目の前で、イワトビペンギンの姿で胸を張り、ドヤァって感じで婚約者を紹介しているフェザーの隣にいるプリマベーラは一回り小さいし、本性になってもイワトビペンギンのキリッとしたイメージと違い、愛らしい顔つきだからすぐわかる。プリマベーラが照れているみたいに、小さな羽で顔を隠そうとしているのを見て、あまりの可愛らしさに思わず連れ去りたくなった。

 基本的に鳴き声だから、私には何をいっているのかさっぱりわからない。

 通訳はゼファーが側でしてくれるから問題ないんだけど、神託の乙女である私にいろんなペンギンたちがあいさつしにヨチヨチ歩きで来てくれる。

 なんてかわいいの、と心の中ではしゃぐものの、人化すれば65才のおじさんだと聞いたりするとテンションが一気に下がってしまう。

 きゅいきゅい、きゅっきゅ、ぴぃぴぃ、ぷわぁ、ぷわー

 うん、一生懸命考えても何て言っているのかわからない。本日はお日柄も良く、うんたらかんたらといったお祝いと挨拶の言葉らしい。
 あとは、時々ゼファーがニコニコしながら睨みつけているから、その人たちは、私にナンパして来ているのかな? なんて思った。


※※※※


 あと1か月ほどで18才になる。

  これまでの事情を聞き、そんなに長い間精神を病んで治療をしていたのかとびっくりした。
  なんというか、あの会議の日から今日までの私も私なんだけれども、でも、なんだか私じゃないみたいな。自分で自分がおかしいなんて少しも思っていなかったから。

 こちらに来てすぐの、ゼクスたちと館で過ごしていた幸せな日々は鮮明に覚えている。その延長みたいな感じで、私はずっと今日まで館で暮らしているといった感覚だ。
 義母の事とかも分かっているんだけど、館でずっと過ごしていたら矛盾だらけの状況なのに義母たちもいるんだって認識で、今から思い返すとおかしな事だらけだった。

『カレン、あの時は急に色々一気に言ってすまなかった。もっと君の傷ついた心の事を配慮をすべきだったのは私だ。許さなくていい。だが君に、どうしても伝えておかなくてはならない事があるんだ……』

 何度もそんな風に頭を下げるパーシィ様に、少しずつ今回の召喚についての真実を聞いた。

 記憶に残るそれらの時には、必ず彼らが私の側にいてくれた。動揺したし、悲しかったし辛かった。だけど、彼らがいてくれるから、辛かった日々をリセットしてやり直しをするかのように、私の心は比較的穏やかで徐々に受け入れる事ができたのだった。


  義母まで側に寄せ付けなかったと聞いたときにはそりゃもうビックリした。この世界で、本当のおかあさんみたいに大好きな人なのに。どれ程心配かけて泣かせたんだろう。

 精神面を子供からやり直して中学生くらいまで成長した頃に、義母や義姉、先輩やパーシィ様に関わる様々な出来事が、ようやく、はっきり理解できた。そして、抱きついて号泣しながら謝罪合戦をしたのである。

 特に、1年ほど会えていなかった義母はすっかり痩せていて、この世界でのおかあさんにすごく心配をかけてしまった事に悲しくなった。

 なんというか、半透明のゼリー状の何かの中にいるみたいだった頃の私は、会っても彼女たちにどう反応していたのか、古い記憶ほどほとんど思い出せない。

  ジスクールが、こんな悲劇は二度と繰り返したくないと、先輩に熱く語っていたそうで、頭の固い重鎮たちや王様に、私にも先輩と同じ権利をって直談判してくれたみたい。だからあっという間に、3人の夫を1日も早く作れみたいな、あのときの会議で決まった事が白紙になったそうだ。

  先輩にデレデレしているジスクールしか見たことなかったから意外にも思えたけど、先輩が言うには物凄く有能で人望がある人みたい。ちょっと見直しちゃった。


 あと、これは異例の事なんだけれど、神託の乙女としての権利を獲得した私に、王様や重鎮たちは、複数の夫を受け入れる事が、どれほどの覚悟かわからなかったと公の場で謝罪された。中には、デリカシーがなさすぎると愛する奥様に叱られたおじさんたちもいたみたい。

  パーシィ様はじめ、神官たちからも地面に頭がめり込んでしまうんじゃないかと思うほど何度も謝られて困った。

 神託の言語は、すんごく複雑で難しいらしい。それこそ、ペテルギウスの消滅の正確な時間を計算するくらい、とんでもない頭脳と計算や理解力を必要とするみたい。

 私も、かなり傷ついたけれど、どの立場の人たちもわざとした事じゃないから、心配されたけれど謝罪を受け入れたのである。それ以降、彼らとも関係は良好だ。

 ただ、受け入れる際に、女性に対してもっと個人の人格を尊重して欲しいと願った。圧倒的に強い立場の男性に逆らえない女性も多いだろう。私みたいに辛い思いをしている女性もいるはずなのだから。
 パーシィ様も、女性の地位があまりにも低い事に心を痛めていた。

 パーシィ様や先輩、そして私を中心に女性の地位を少しでも向上できればいいと少しずつ運動を始めている。

 もう二度と、あの時の私みたいに、受け入れざるを得ない状況や心理に陥る女性がひとりもいない世界が来るよう、義母たちも協力してくれている。
 それはきっと、長年この国を支えて来た価値観そのものをがらりと変えてしまう事で、容易くはないだろう。だけど、次の世代やその次、そしていつか、元の世界もまだ途上だったけれど、女性の地位が確立されればいいと思う。

 
※※※※


 賑やかな挙式に披露宴が終わった後、ゼファーとともに家に帰った。私は未だに結婚式の様子に夢心地で、彼に促されるまま家に入る。

「はぁ……先輩きれいだったなあ……」

「カレンも異界のああいうドレスを着たいですか?」

「うん。大勢の前とかじゃなくてもいいの。やっぱり憧れちゃうから」

「では、殿下や騎士団長と相談してから着る機会を作りましょうね」

 ゼファーが私のこめかみにキスをする。私はこめかみだけじゃなくて、胸もくすぐったくなって、彼にお返しとばかりにキスを返した。

 ゼファーが何度も何度もハヤブサでタンデムツーリングをしてくれるうちに、気持ちも癒えていったこともあり、異性としてすっかり大好きになってしまった。

 ゼクスにも、シビルにも、そして彼にも恋をしているって気づいたのがついこの間のように感じる。

 その時、夫はひとりでいいからって言われたのだけれども、私は3人のうち、誰を選ぶなんてできなかった。こんな多情な浮気っぽいこの気持ちでも、彼らはそれぞれを愛してくれるならそれでいいって言ってくれた。

『もうカレンちゃんの心の中は彼らでいっぱいだろうし、誰か一人でも抜けたら悲しむでしょう? なんせここは3人の夫が常識なのだから、故郷の価値観じゃなくて、ここの価値観で彼らを愛したらいいんじゃないかしら?』

と、先輩が言ってくれた。

 すると、あれほど思い悩んでいたのに、5万ピースもの大きなジクソーパズルよりも細かなピースの数々が、ぴたりとはまったかのようにすっきりしたのだ。
 理由はわからない。だけど、ゼクスも、シビルも、ゼファーも今の私にとって大事な人たちで、私を作るひとつひとつのピースなんだって思った。

 だから、少し前に改めて彼らと婚約した。

  以前、義母たちも言っていたように、比べるのではなくそれぞれが魅力的で、一緒に幸せになりたい人たちだから。

 彼らがどんな想いで私を愛しながら、見守るだけの状況を耐えてくれていたのか、胸がぎゅうぎゅう痛むほど苦しい。私は、溢れ出る涙もそのままに、笑顔で彼らにお嫁さんにして欲しいって言ったのである。


 私がそんな風に、彼らに逆プロポーズした事で、3人とも、泣きたいような笑顔で手を差し伸べ、そして初めての唇へのキスを贈り合ったのである。


 ファーストキスはゼクスで、次にシビル。


  最後に、ゼファーとキスをしたら、なぜだか、故郷の両親がおめでとう、幸せにって笑顔で祝福してくれているような、そんな気がしたのであった。

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