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21 湖畔のデートは、氷の上でスケートを

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 最後のお見合いの日、すでに周囲も私たちが結婚するつもりだったようだ。事前に、私もふたりならいいって義母に伝えていたから、呑気にパイを食べている間、城も公爵家もてんやわんやの大騒ぎだったみたい。

 全てあちらが準備するから、私は18才になったら身一つでふたりと住む新居に行けばいいらしい。

 あの日に欠席したもうひとりは、貿易商のキングペンギンであるニンスールという世界の長者番付一位の人と一緒に、イワトビ国に行っているらしい。
 イワトビ国のフェザーという、赤い瞳で黒の混じった金髪の、目が鋭い感じのイケメン王子様にとある物を納品しに行ったようだ。どうしても、お見合い相手の人しか扱えない品物らしく、一月弱ほどケープ国には戻れないと聞かされている。

 そう言えば、ゼファーも仕事場に詰めているから暫く帰れないって言っていたな、としょんぼりする。


 今から結婚までに準備をするにあたり、王も公爵も来月にでも結婚させたがった。なんでもゼクスとシビルはあんなにも素敵なのにお嫁さんの来てがないらしく、私を絶対に逃したくないみたい。私の気が変わる前に、なんならその日のうちにとまで言われてドンびきした。

 だけど、第一夫になるゼクスが、せめて二度と戻れない故郷のルールで結婚させてあげたいと言ってくれた。だから、ふたりと結婚する日は、私が18才になる誕生日となった。

 実は、私の誕生日は4月2日。日付ごとの誕生石はセミバロックパール。故郷の友達と一緒に占いとかのサイトを調べて分かった。
 4月はダイヤモンドなのに変なの! って笑ってはしゃいだ友達は1月1日生まれで翡翠だ。大金持ちになれるとかなんとか書かれてあった。

 私のセミバロックパールは、たしか、優しさや長寿、繁栄とかだった。繁栄ってなんだか、この国で先輩や私に求められているものっぽいなって複雑な気持ちになる。
 高校の合格祝いに、バロックパールのあこや真珠の三連ネックレスをカタナがバイトを貯めたお金でプレゼントしてくれたな……とここまで思考が故郷に戻ってしまい、首をぶんぶん振って気を落ち着ける。

 思った通りゼクスもシビルも私という個人を尊重して大切にしてくれる。
 たまに、まだ子供のような扱いをされる事もあるけれど、義姉によると、この国の男性の愛情表現はそういうものらしい。
 
 女性に対する根本的な考え方はともかく、この国の男性は女性を大事にするみたいで、下手すればスプーンすらもたさないほど。
 男性も、本当なら妻を複数で共有はしたくないみたいだ。けれど、このままでは種族が途絶えてしまうからと苦渋の決断で今の制度を作ったのである。
 国のために、心の中で血を流すほど辛いのを堪えて結婚生活をしていると聞いた時は、そりゃそうだろうなと、会議室で私に色々言っていたおじさんたちも、この国の結婚での苦労や悲しい気持があったのかななんて、少し同情したけど余計なお世話だろう。

 ゼクスもシビルも、私に対して、ジスクールのような独占といった感じはしない。お互いに、牽制というよりも、ふたりで協力して私を守ろうっていう同盟みたいな雰囲気だ。

 あれから毎日のように私のところに訪れるふたり。ゼクスは王子だし、シビルは騎士団長をしながら次期公爵となるため、考えられないほど多忙らしい。

「あのね、ふたりとも。会いに来てくれるのは嬉しいんだけど、忙しいんでしょう……? 無理しなくていいからね?」

 ふたりが過労死しないか心配になって、そんな風に伝えた事がある。

「カレン、僕たちの心配をしてくれるの? 嬉しいな、ありがとう。でも、僕たちはカレンと違って体力もあるし、きちんと休んでいるからね。ほら、どこも痩せていないでしょう?」

 ゼクスが、私が彼らを心配しているという当たり前のこの気持ちを聞いて、これ以上はないくらい幸せだと言わんばかりに笑顔でそう言った。

「カレン、苦痛や疲労など一切ない。それよりも、カレンにせっかく会える時間がなくなるほうが辛いんだ。だから、気にするな。それとも、俺たちが来るのが嫌なのか……?」

 更に、シビルまでなんだか色気たっぷりに不敵に微笑みながらそんな風に言う。なんだか頼りなさげな感じに一気になって最後には訊ねてくる。

 その質問は、答えなんて一つしかないじゃない。ずるい~!

 と思った。折角多忙な中来てくれたふたりを傷つけたくないし、どうせなら楽しんで喜んで欲しいと思うから、焦った私はどんどんドツボにはまる。

「そんな事ないよ! だって、寝る前には明日ふたりに会える時間が長く感じるし、どんな服着ようとか考えちゃって。今日もさ、ふたりが到着が30分遅かったでしょ? ソワソワしちゃうし、来てくれなくて心配したんだから」

「カレン……! そんなに待ち焦がれてくれているなんて……。遅れちゃってごめんね? 明日からは1秒も遅れないから!」

「可愛い事を言ってくれる……そうだなぁ、仕事が忙しいのが気にかかるのなら、前に貰っただろう? あの薔薇の花束は持ち歩けないから、いつも持ち歩いているこの剣の飾り房をお守りにくれないか?」

「あ、良かったら僕も欲しい。カレンが、ふたり分が重荷じゃなかったらだけど……僕、カレンが作ってくれるなら大切につけるよ」

 こんな風に、タイプの違うイケメンたちに言われて、断れる人がいたら見てみたい。しかも、ふたりとも、私を守るために求婚したのだから、あまり思い悩まないようにと言いつつ、私への好意はあまり隠れていない。

 なんてったって婚約者なのだ。18才になったら夫になる人たちの頼みには、全力で応えようと思った。

………………ところで、剣につける飾り房ってなに……? あとでお義母様や義姉様に聞かなくちゃ!

 ふたりからは、私に対する恋愛の意味での好きっていう気持ちが真っ直ぐに伝わって来る。彼らはとっても優しいし頼りになる。私だって好きだ。

 だけど、私の今の好きっていう気持ちは、ふたりから貰う気持ちと同等なのかと言われたら、違う気がする。

 だって、一度にふたりを好きになるだなんて、絶対に浮気者だ。それぞれに本気になるなんて、私に出来るのだろうか。
 ゼクスが王子だから、第一夫になってくれたけど年下だから、結婚後、実際の夫としてのアレコレはシビルの方が先なんだろう。だけど、本命の彼氏がいるのに、優しいイケメンにふらふら~って行っちゃうって事でしょう?

 ないなあ……やっぱり、ないない。

 義母や義姉に聞くと、どの夫の事も同じくらいというか、比べられないほど、それぞれの魅力的な部分を好きだし愛しているらしい。
 まだ、ふたりには兄のような気持ちしか持てない正直に言ってみた。

『あらあら。そうねぇ……私は政略結婚だったから、最初は好きとかなかったのよ。でも、結婚してから今の気持ちに育ったのだから、今すぐ気持ちを切り替えなくてもいいし、そんな簡単に切り替えられるものでもないでしょう?』

『お義母様のいう通りよ。ある日、ああこの夫の事が好きなんだなって気づくわ。殿下も閣下も素晴らしい人なのだから、焦って色々頭で悩まなくても、案外心の奥底では気付いているかもね? ふふふ』

 ふたりにそんな風に言われて、そんなものかなと戸惑いつつ、毎回ふたりに会っても、ちっとも変わらないLIKEを持て余していた。


※※※※

 
「わぁ……! 凄ーい、綺麗、綺麗、きれーい!」

 今日は、婚約者になったふたりと共に、ゼクスの館の側にある湖に来ている。

 ここは、自然の魔法の力で分厚い氷が張っていて、その下には低温でも住む事の出来る淡水魚が泳いでいた。
 太陽の光を浴びてキラキラ氷が輝き、透明度が高いから、魚たちの動きに合わせて光が反射する。湖全体に光が乱舞していて幻想的だ。

「カレン、館にいる時に言っていた靴を持って来たんだ。これでいい?」

 ゼクスが、私に箱を差し出してくれる。その箱には、くるぶしくらいまでのブーツがあった。底には、銀色のアイスダンス用のブレードがついている。

「わぁ! そうそう、これこれ。ゼクス、あの時のあんな下手なイラストでよくここまで完璧に近いスケート靴ができたわね! ありがとう!」

「殿下と俺の故郷はこんな風な湖があって、そこでは人化状態の国民がそういうのを愛用しているんだ。氷の部屋で、コウテイ国特有の1メートル以上ある体を持つ獣化した殿下の背に乗って、腹ばいになった殿下が氷の上を滑って遊んでくださっただろう? カレンも自分の足で滑りたいって言っていたから、俺の母方の実家に聞いてみたんだ。そうしたら、これを贈ってくれた」

「シビルのお母様の故郷? そう言えばアデリー国のお姫様が公爵に嫁いで来たってお義母様に聞いて……あ、じゃあ、シビルも実は王子様って事?」

「シビルの母君は、この国に嫁ぐときに王族から離籍されているから、シビルは厳密には王族じゃないんだ。でも、実家は王家だからね。遠く離れた場所にいる甥が、結婚するからってそれを作ってくれたみたい。良かったね」

 私はその話を聞いて、スケート靴がなんだかセレブどころか王室御用達の物凄い品だったとびっくりした。

「じゃ、じゃあ、このスケート靴はアデリー国の王家縁の国宝……!」

「は、ははは! カレン、そんな大層な物じゃ……クククッ!」

「クスクス、ただの靴だからね。ほら、ベンチを設置してくれているから座って」

「ふたりとも、笑いすぎじゃない? もう~!」

「ククク……カレン、ほら足を出して。靴を変えよう」

 シビルに履かせてもらった靴はぴったりサイズだった。
 スケートリンクでトリプルアクセルは無理でも、ダブルトウーループくらいは出来るから、二回転飛んで見せた。軸も真っ直ぐに保持できて、綺麗に回れたと思う。その後、そのままくるりと円を大きく描いて滑ったあと、アップライト系のスピンをやってみた。

「カレンは魔法も使えないのにすごいね。まるで氷上の精霊のようだよ」
「素晴らしい……! 俺の部下もこれほどまで見事に氷の上で動けないぞ」

「えへへ、褒め過ぎだよ~久しぶりだから上手く出来るか心配だったけど、ちゃんと出来て良かったぁ!」

 暫く、私はなんだか楽しいのと、彼らに出来ない事が出来る事が嬉しくて、鼻高々でスケート靴で滑っていた。彼らはペンギンの姿で、時々氷の下を私と一緒に上下の位置ですいーっと滑る。
 でも、彼らのスピードはこんなものじゃない。

 もっと速く動きたくなって、最後にはやっぱりゼクスの背中に跨って滑って貰ったのであった。


 





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