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9 ふたりの正体

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 チュンチュン

 朝が来たのを知らせるスズメみたいな鳥が鳴いている。窓から朝日もしっかり入り込んでいて、私は目を開けた。まるで北海道の春のように涼しい。
  ほんの少し身震いして伸びをしようとするが体が動かない。頭もはっきりしたところで、金髪のイケメンに抱き締められている事を思い出して目を瞬かせた。彼の黒い瞳はいつ見ても優しさで溢れている。

 金髪のイケメンは、私が起きた事を知ると、とても嬉しそうににっこり笑ってこう言うのだ。

「おはよう、カレン」
「おはようございます……ゼクス」

 あれからすでに一週間が経過している。

  頬にちゅっとキスされて肩をすぼめた。


※※※※


  やはりふたりは私の事を小学校低学年くらいかと思っているようで、とにかく甘やかしすぎる。私が心細いだろうからって、こうしてベッドで添い寝を交代ですると言って聞かなかった。

 ひとりで眠れるし心配ないって言ったんだけど、初日に涙を流しながら寝言で家族を繰り返し呼んでいたのを見て聞いたらしい。せめて、大きくなるまではひとり寂しく眠らずに済むよう、自分たちに遠慮するなと強引に抱っこされてしまう。

 どうやら、私は自覚がないというか夢を覚えていないんだけど毎日寝ながら泣いているらしい。
  昨日寝る時も、もう大丈夫って言ったのに、ゼクスが泣いているからって横に並ぶんだもん。
 そりゃ、今でも故郷の家族が恋しいし事ある毎に目が潤んじゃうけれど、実際はもうすぐ16才。日本でも結婚できる年齢でもうすぐ高校生になっていたはずなのだ。
 そんな私が、イケメンとひとつのベッドで寝るなんて恥ずかしすぎる。
  しかも、ゼクスも鍛えているのか、私よりも30センチは背が高くてサッカー選手とかバスケット選手みたいな体つきだ。

  力強くてスタイルのいい彼に抱っこされてしまうと、最初はドキドキドキドキして目が冴える。
  でも眠りだした彼の寝息が始まると温かいし眠いから、目がとろんとしていつの間にか眠っちゃう。

 そんな彼は14才だという。

  年齢を聞いた時にびっくりしたのは言うまでもない。どこの世界にこんなに体がしっかりと大きく成長して、優しくて大人な感じの14才がいるというのだろう。

いや、ここにいた。

  20才くらいかと思っていたのに、まさかの年下だった。

 ジスクールは、17才らしい。で、シビルが20才って考えられない。特にシビルなんて25才以上かと(実は30才くらいかなーなんて失礼な事を)思ったくらい。

 この世界の人は、15才で成人らしいから、日本とは比べものにならないほどしっかりしているっぽい。元騎士団長のシビルの父である人に体も鍛え上げられたらしいから騎士じゃない王子なのにがっしりしている。

 ゼクスに、朝の挨拶だからって頬にちゅってされるのも、まだ恥ずかしい。私が顔を真っ赤にして、うつむくとなんだか楽しそうに笑われる。

  お返しに頬にキスが欲しいとか言われるけど無理。
 そこは、文化の違いをふたりに一生懸命伝えた。外国では挨拶でハグしてちゅってしていたけど、私には難易度が高すぎる。

 大好きな人とキスは贈り合うもので、女の子からのキスは、頬やおでことかは勿論、唇なんかは絶対に結婚したいって思う人とじゃないとダメだって言った。
 そうしたらイケメンふたりがかりで、自分達からの挨拶のキスはさせて欲しいってお願いスタイルで来られちゃって断れなかった。
  それに、私は彼らにとって小学校低学年の子供だ。結局恥ずかしがりながらもこうして受け入れちゃってる。

「おはようございます。殿下、朝食の準備が出来ました。カレン、今日は塩ふったシャケの焼いただけ(焼き鮭)と、ほうれん草を茹でて醤油で味付けした(ほうれん草のおひたし)のと、米の塩だけの味付け茹で(おかゆ)だ。本当にこんなのでいいのか?」
「おはようございます、シビル。はい。朝はあまり食べないのでパンとスープだけでも十分なんです」

「それはダメだよ。カレンは小さいんだから、もっと食べて大きくならないと。ダイエットしているわけでもないんだろう?」
「ゼクス、初日にも言ったけど、ふたりがたくさん食べ過ぎるんですってば!」

  朝の着替えとかは流石にひとりにしてもらえるから、顔を洗って準備された服に着替えた。髪はゼクスよりも器用なシビルが大きな節くれだった手で整えてくれる。

 今日は、耳の上からツインテールにされた。大きなリボンつき。
  ますます子供っぽく見えるけど、今更本当の年齢をカミングアウトできるはずもなく。毎日小学生っぽいライフを過ごしていた。
 

※※※※

「いただきまーす!」

 ゼクスとシビルは私に約束した通り、とても大事にしてくれている。
 食事もひとつとっても、ないものは仕方がないけれども、なるべく私の好みの物を用意してくれた。
  異世界なのに、知っている名前に食べ物とかがとても多いから通じやすい。

 お米は日本みたいなのじゃなくて、細長いパサパサしたやつだった。館の外にゼクス用のコックさんがいるこの国仕様の暖かい厨房で、料理法方を家庭科の授業で習った通りにした。
  当たり前なんだけど種類が違うせいか美味しく炊き上がらずしょんぼりした。
 だけど、醤油やお味噌に似た調味料や、食材などは似ているのも多い。こちらの国の味付けは少々濃い感じだったけれど私に合うようにコックさんが毎日試してくれている。

 基本的に、この屋敷に来る人は少ない。

 どうやら、この屋敷の気温は魔法で外気よりも涼しくしているらしい。
 廊下は、肌寒いかなくらいの設定ではあるけれども、ゼクスたちが過ごす部屋は10度くらい。
 この国ではとんでもなく寒い気温設定みたいで、用事のある時以外に使用人さんたちすら訪れないようだった。

『カレン、寒くないかい? 僕たちはこれよりも温度をあげても大丈夫だよ?』
『はい、ゼクス殿下。私が住んでいたところは氷点下になることもあったし、雪が降っていましたから大丈夫です』

『そうか? 遠慮しなくていいぞ? 我慢して風邪をひいては大変だ』
『シビルさんまで。ふふ、本当に大丈夫ですよ? 兄は0℃でも半袖だったくらいですし、私もちょうどいいくらい。夏の方が辛かったです。地域によりますけれど、40℃とかになってましたもん』
『本当に、異界の乙女というのは環境に強いんだね……』

 私がそう言うと、ふたりとも鳩が豆鉄砲をくらったみたいにびっくりしていたけれども、イケメンはそんな顔でもイケメンだった。

 警護とは大丈夫なのかと問うと、ゼクスもシビルもすんごく強いみたい。今のところは平和だから大丈夫だとのこと。一応王族だから、館の外は警護されていて魔法の保護結界が施されているから万が一泥棒とかが来ても大丈夫らしい。

 そんなこんなで、子供扱いだけど優しいふたりに囲まれて過ごすうちに、この国がわざと私を召喚したつもりもなく、先輩に対しても無理にどうこうする事もないというのが本当なんだなって安心し始めたのである。

『ところでカレン。僕の事は、まだ成人していないし殿下とかつけないで? 成人するまではお兄ちゃんみたいに接して欲しい』
『それは良いですね、殿下。ではカレン、俺の事はシビルと』

 名前も成人したら人前では敬称をつけたらいいからとふたりがかりで呼び捨てをお願いされたから、最初は口ごもったけれどその都度請われ続けた。今ではすっかり呼び捨てに慣れた。

  ある日、ふたりが館で一番寒い、氷の床の部屋で本性を見せてくれた。

「うわあ~かっわい~!」

「きゅーい」
「きゅっきゅっ」

  私はいつもは見上げるふたりを見下ろした。

  そこには、皇帝ペンギンと、アデリーペンギンがちょこんと立っていて、私を見上げていた。つぶらな真っ黒な瞳、小さな羽をパタパタさせている。お腹のあたりが白くて黒い場所が多い。
  
  故郷でいうところの南極にいる、皇帝ペンギンがゼクスで、アデリーペンギンがシビル。

  この国の人たちは南米に住んでいるケープペンギンなんだって。

  ペンギンって、南極みたいに極寒の地方だけにいると思っていたけど、寒さにも強いのはゼクスとシビルのペンギンだけらしい。極寒が好きとかじゃないけど、暑いのは苦手。

  私はいつもと違うふたりのかわいい姿に、はしゃいでしまった。一緒に氷の上で暫く遊ぶ。
  とても楽しい時間を過ごしたのもあって、ふたりは私が落ち込むとこうしてペンギンになって和ませてくれるのだった。




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