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17 ポッ◯ーゲームとお好みの体型 ※少しR要素あり

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 妻の記憶が戻った。もともとの、記憶を失うきっかけが、勘違い系の変態のせいだと思うと、心にどす黒い何かが浮かぶ。

 小さな子たちが、ゲラゲラ笑いそうなことを、一生言わなさそうな彼女が、顔を真赤にして悶えながら言った時は、かわいすぎて悶絶しそうになったが。なんなら、もう一度言って見せて欲しい。

(あいつが唱えた呪文が、とかいう、世界中の誰もが聞いても気持ち悪い言葉だったなんて。くそ、僕だけのカティにだと。すでに刑に服しているが、こんな変態のものはこの世には不要だ。いつか、一滴も出ないように去勢してやろう)

 幸い、このの意味をカーテは知らなかった。ランナーは知っていて、気持ち悪そうに顔を青ざめていたのに。やはり、妻は純真無垢の天使だったと痛感した。

 自分たちが辛い時期に、彼女の中に男の影響が少しでもあったのかと、この爪で八つ裂きにしたいくらいだ。

「ターモくん、あーん」
「あーん」

 だが、記憶を失ってからの彼女は、もう一度僕に恋をした。彼女の理想に近づくために、筋トレダイエットをしたわけだが、以前を思い出した彼女は、当初の不安を吹き飛ばしてくれた。

「ターモくん、美味しい?」
「うん、美味しい。カティちゃんも、あーん」
「あーん」

 どろどろした心の鬱屈と物騒な決意は、彼女は全く気づいていない。強制的な魔法のせいとはいえ、忘れてしまった罪悪感もあってか、今までで一番やさしくて甘いのだ。

 結婚してから、カティと呼んでいたが、前のようにカティちゃんと呼んでと言われてすぐに変えた。一家の大黒柱として、かっこよくなりたい気持ちもあったが、女神の言うことは絶対だからだ。

 彼女の望む通りにしていると、せっかく引き締まっていた体が、再びぽよぽよしてきた。彼女の理想になるには、一年以上の辛い筋トレの成果は全て放り出さなければならない。

 体のためには、脂肪を蓄えすぎないほうがいいのだが、久しぶりに甘いものづくしの今が幸せすぎて、生クリームとカスタード、そして練乳たっぷりのいちごタルトを頬張る。

「カティちゃん、どうしたの?」
「ううん、ふっくらしてきたなぁって思って。ふふふ。記憶を失った私が、ターモくんを痩せさせただなんて信じられないわ。ふっくらふくふくが一番いいのに」

 今の体重は、以前の3分の2ほど。ここまで来るのに時間はかからなかった。あっという間についた頬の肉を、つんつんと、スイーツを含んだ頬を幸せそうに突っつかれる。我ながら、彼女の好みは特殊だと思う。引き締まった時のほうが、世の中の女性に好まれるからだ。だが、妻だけに愛されればいい。

(それにしても、痩せた僕に近づいてくる夫人や令嬢に、やきもちを焼いてくれた彼女もかわいかったなぁ)

 つんと女性を追い払ったり、あとで僕に甘える彼女の姿を思い出すと、口元が緩む。にやにやと、みっともない顔をしそうで唇の内側を噛んだ。

「ターモくんは、どのくらいの体型がいいの?」
「僕は、カティちゃんの好みに合わせるよ。いつだって太れるし、筋トレだってできるから」
「体調がいいのは、どのくらいの時だった?」
「うーん。血圧やむくみがなかったのは、もう少しやせてたころかな。あと5キロほど少ないくらい」
「そっかそっか。じゃあ、そのくらいをキープしようね」

 妻が、にこにこ笑いながら、まだ残っているケーキを遠ざた。

「え?」

 極上の幸せが遠のき、少し呆然とした。条件反射的に、少し恨めしい、悲しい目で彼女を見つめる。

「だって、一緒に長生きしたいもの。一般的にかっこいいってモテる体型のころは、かなり物足りなかったけど、これ以上ぷにぷにを求めるのは私のエゴで贅沢ってものよね」
「そんな。せめて、明日から! 明日からでお願いしたく……!」
「明日からって言うと、明後日からになっちゃうでしょー? 私ね、一番大事なのは、ターモくん自身だってわかったの。前のぷにぷにターモくんも、筋トレをがんばったひきしまって逞しいターモくんも大好きになったもの。なら、早死させちゃうような体型はNGよね」
「そうだけど、そうだけど……あ、さくらんぼパイが、ああ、抹茶のモンブランケーキが、あああ! 黄金プリンまでー」

 幸せの象徴たちが、次々と視界から消えていく。がっくり肩を落としていると、彼女がそっと近寄って膝に乗ってきた。

「はい、これで今日は最後よ。あーん」
「あーん」

 どこに隠し持っていたのか、チョコでコーティング細長いプレッツェルをぷるんとした唇に咥えて、反対の端を差し出してきた。

「途中で折っひゃら、そこでおしまいひゃからね」
「うん」

 小さく慎重にプレッツェルをついばんでいく。徐々に彼女の唇が近づいてきてドキドキした。もう、頭の中にはさっきのスイーツたちの面影すらない。

 逸る気持ちを抑えていたつもりが、あともう少しのところでポキっと折れてしまった。

「あああ!」
「ざーんねん」

 折れた向こう側のプレッツェルだけが、彼女の唇の中に入る許可を得られた。ついでに自分の唇をと、それとなく近づくと、指先がそれを邪魔をする。

「さっきのはね、ランナー様が教えてくれたゲームなの。ここから先はルール違反ですよ」
「そんなぁ」

 さっき、スイーツを取り上げられた時以上にがっくりした。

「ターモくーん」
「ん……」

 すると、ちゅっと彼女からキスをくれた。一瞬でどしゃぶりだった心が晴れやかになる。

「ルールは?」
「私のほうからはいいのよー」
「そうなんだ。じゃあ、もう一回してくれる?」
「勿論よ」

 ちゅっちゅと、強請るごとにキスを贈られる。

「あー、かわいい。ね、キスを自分からしなければルール違反じゃないんだよね?」
「そうみたいよ?」
「なら」
「きゃ!」

 いつまでも自分を魅了する妻を、そのまま寝室に連れ込んで、キス以外のことを思う存分致したのは言うまでもない。
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