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今宵、俺の上で美しく踊れ② R15~

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 くちゅり


 下着ごしに触れられたため、身を捩ると聞こえる愛液の潤った音がして、まだあどけなさの残る成人を迎えたばかりの少女の頬が赤らむ。

「や……やめ……、そんなところ……」
「気持ち良くないか?」

 男の問いかけに、小さく荒げた息の合間で、普段は凛とした口調の少女の淫らな吐息が混じった。男は少女を抱えながら、白くのけぞった首筋に唇を当ててほくそ笑むと、彼女の足の付け根の間に入れた指の動きを速くしていく。

「…………あ……はぁ……ん……」

 小刻みに自分の指の動きにあわせて女の体が震えた。部屋に響く淫靡な水音の水源が量を増したのか、ぐちゅぐちゅとはしたない音を奏で……


※※※※


パタンッ!

 イヴォンヌは、卒業の時に友人から贈られた小説を初めて開いて読みふけっていた。

 男女の切ないすれ違いの恋の物語。身分差から許されず二人は引き離される。
 令嬢の家が没落し、いよいよ令嬢が娼館に行かねばならない時が来た。すると、懐かしい人が彼女の前に現れて──。

 そのように聞かされており、王都では流行しているという本は、男女の機微をあますことなく、また、読者を飽きさせないように綴られていて、イヴォンヌも夢中になった。

 ところが、ページを捲る毎に、徐々に雰囲気がおかしくなっていく。いよいよ艶めいた場面になったと同時に、イヴォンヌを呼ぶソフィアの声が、扉の外から聞こえたのだった。

 慌てて本を閉じ、赤らんだ顔を手で風を起こして冷まそうとした。

「お嬢様……?」

「なっ、なぁに? そ、ソフィア」

 様子のおかしな主人の赤らんだ顔を見てソフィアは熱でもあるのか問うが、イヴォンヌはなんでもないと返して彼女の婚約者が待っているというソフィアとともに東屋に移動する。

 イヴォンヌの今いるのはサヴァイヴの住む砦の一室だ。次期領主である彼らに与えられた部屋は、婚前に間違いがあってはならないとばかりに区画すら離れており、こうして二人で会う事すらままならない。

「お待たせ」
「ヴィー……」

 明るい日差しの中、自分に近づく愛しい婚約者を見て、サヴァイヴは目を細めて微笑み立ち上がる。そっと手を差し出し、優しく椅子に彼女を座らせた。

「もうすぐだな」

 彼が言うもうすぐとは、彼らの式の事だ。王都から辺境に戻る前に盛大に夜会が開かれた。

 そこで、イヴォンヌとサヴァイヴの婚約を、イヴォンヌの後ろ盾である王自らが祝い、イヴォンヌを惜しむ声が大きかったが、恙なく二人は社交界で認められたのである。

「ええ……」

 小さなテーブルの上で、二人の手が重なる。すでにこの辺り一帯は小さないざこざはあるものの平和だ。フラットとカッサンドラの結婚式はすでに終わっており、この一年の間に隣国との友好関係が築き上げられていったのである。

 来週、二人の挙式が盛大に行われる。サヴァイブが熱い瞳で婚約者を見つめると、目元と頬を染めたイヴォンヌがそっと視線を重ねた手に落とした。



※※※※



 一年ほど前、辺境に向かう道中、急ごしらえではあるが二人は一緒の馬車で過ごした。サヴァイブはこれ以上待てないとばかりにイヴォンヌの真横に座って腰を抱き寄せる。

「ヴァイス?」
「ヴィー……」

 イヴォンヌは、目まぐるしく準備が整えられる中、情緒不安定になっていた。会いにくるサヴァイブに対して、幼かったあの頃にされた仕打ちを何度も涙を流して訴えたのである。
 サヴァイブは、もう幾度となく自分を責めるイヴォンヌを抱きしめ続けて愛を伝え続けたのであった。そうして過ごすうちにイヴォンヌも落ち着きを取り戻していった。

 二人きりになると、サヴァイブはすぐに彼女を求めるかのように抱き寄せては、唇をあちこちに落とす。

「ヴぁ、ヴァイス……、ここは馬車で……旅の途中で……」
「だから?」
「だ、だから、その……ま、まだ……」

 イヴォンヌは、腰に当てられた指先が、自分をくすぐるため身を捩る。彼が思わせぶりにこうしてくるのは初めてでは無い。


「わかった……だが、もう待てない。次の宿に今夜つく。そうしたら……いいか?」

 婚約者の囁きが耳朶をくすぐりながら吹き込まれて、ぞくりと体中に何かが走った。潤んだ視界はお互いの色を含む表情を美しく魅せる。
 彼の腕にすっぽりと抱き寄せられ、くらくらするような浮遊感に襲われたイヴォンヌの首が縦に振られようとした。


 その時、二人の仲を切り裂く大きな音が、馬車の外の近くで鳴る。


「よくはありませんねっ! サヴァイブ様、手を出さないと言うから同じ馬車にしたものの……。油断も隙も無い! お二人とも離れてくださいっ!」

「クロヴィス、邪魔をするな」

「お嬢様! お気を確かにしてくださいませ! 次期辺境伯様、お嬢様に無体な事をなさるのなら容赦はしませんよ!」

「……! ソフィア!」

 うっとりと酔いしれ流されようとしていたイヴォンヌが、サヴァイブを牽制するために近づこうとしたクロヴィスの乗る馬に無理やり乗り込んだソフィアの声で我に返る。

 こうして、今日にいたる一年もの間、大事なお嬢様の貞操を守り切ったソフィアに対して、片方は悔しそうに奥歯を噛みしめ、片方は無事に純潔のまま嫁げることに感謝したのであった。
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