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50 恋人たちのクリスマスは聖なる幸せをもたらす①
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シンディは、カプセルから出た煙が自分よりも大きかったために慌てて後方に下がった。どんな大きなものが出て来るのか固唾を飲んで見守る。
「じゃあねー! お幸せにぃ~! あ、それノークレームノーリターンだから! 全く、いくら私がチートあるからって、それをカプセルに入れろなんて無茶苦茶言われたんだから! 幸せにならなかったら承知しないんだからね!」
煙のほうに注視していると、先ほどの女の子の明るい声がした。
はっと、そちらに視線を投げかけて見たけれど、すでに女の子サンタちゃんも、トナカイカップルもソリも何もかも消えていた。
「え……? チートって……。ノークレームノーリターンって何……?」
初めて聞く言葉に戸惑いつつ、徐々に煙が無くなっていく目の前のカプセルの中身の正体が気になりじっと見つめる。
煙の向こう側の影は、やはり想像通り大きかった。丈は2メートルくらいだろうか。まるで人のような陰影だなと思っていると、情報に金の色が見え始める。
「え……」
シンディは、徐々に現れ始めるその影の正体に時が止まっていった。
人型のような、というよりも、煙の中には人がいた。大きな背に、がっしりした体つき。金色の髪が冷たい風に揺らされている。
前髪の下にあるのは、もう二度と見る事の出来ない魔石のような青宝と緑宝の色を持ち、自分の事をうぬぼれでなければ、とても愛しいものを見るかのようだ。
「う……そ……」
※※※※
北の果ての更に北方にあるという、年中氷と嵐で覆われている国がある。そこに住む人々は魔族の血を引いているため、体が頑丈で魔力も桁違いだという。
獣の毛皮を左肩に乗せて、大きな体躯の背にはマントを羽織っている。彼らは、海洋に住む狂暴な魔獣をも、魔力を纏わせた一振りの剣で切り裂けるという。
シンディのいる国とは友好国であり、お互いの産業を補い合うために定期的に高位貴族が政略結婚をして両国の橋渡しをしている。
「シンディ……」
にこりと微笑みながら、かの国の王族だけが纏う事の許された黒色のマントをつけ、シンディの前に膝まづく。そして、右手の平を上にして彼女に差し出した。
「よ……、うる、ぷ……さま……?」
「シンディ・アールトネン伯爵。僕の、いえ、私の名はヨークトール。ヨークトール・エイヤフィラと申します。どうか、私の手を取り生涯を共に過ごす権利を私にいただけませんか?」
「ヨークトール・エイヤフィラ様……? え?」
北の果てのさらに北方の国の名はエイヤフィラという。極寒の地だからこそ外敵の侵入が少ない。一瞬でバニャナーンが凍り付き大工道具になるほどの氷点下の世界であるにも拘らず、人々の魔力と火山の地下熱のおかげで住みやすい。
「……先日、愛しい人と別れた後、エローヤーネン元侯爵が私を訪れました。孤児としてこの国で過ごした私の出自を調査するよう、彼の妻に依頼されていたようです。私は生まれてすぐの頃、魔力が暴走し忽然と消えたそうです。オット殿が、私と行方知れずになった第四王子と色合いが同じであると気づき、彼と共にエイヤフィラ王国を訪れました。私は母と同じ色合いを持ち、国王そっくりだったのです。更に魔力が王家の物である事が証明されました。すぐさま陛下の第四王子として認められたのです」
「王子、様……?」
そう言えば聞いた事がある。
30年ほど前に、国王の第四王子が行方知れずになったと。
どれほど手を尽くそうとも見つからなかった第四王子が、まさかこの国に捨てられたような状態で保護されたなど思いもよらなかったのは、侵攻するのも不可能なほどの国であるからだ。
入るのが難しければ、出るのも然り。まさか赤ん坊の彼自身の内にある膨大な魔力がこの国に転移させる事に成功をしたなど誰が考えただろう。
「エイヤフィラ国の王子といっても、ずっと平民で孤児としてこの国で過ごしました。私があの国に突然現れると、いらぬ後継者争いにもつながりますから、王位継承権はすでに破棄してきました。この縁談は、誓って私の意志ですが、エイヤフィラ国とこの国の交易のための政略でもあります。どうか、私と結婚していただけませんか?」
シンディは、未だに信じられず口に手を当てて、決して報われる事のない恋が手に届くという現状についていけなかった。
震える身体は全く動かない。唇も、咽も動かず、呼吸すらままならない。
ただ、大きく開いた瞳からつぎつぎと綺麗な涙が溢れては頬を伝っていくのみであった。
「じゃあねー! お幸せにぃ~! あ、それノークレームノーリターンだから! 全く、いくら私がチートあるからって、それをカプセルに入れろなんて無茶苦茶言われたんだから! 幸せにならなかったら承知しないんだからね!」
煙のほうに注視していると、先ほどの女の子の明るい声がした。
はっと、そちらに視線を投げかけて見たけれど、すでに女の子サンタちゃんも、トナカイカップルもソリも何もかも消えていた。
「え……? チートって……。ノークレームノーリターンって何……?」
初めて聞く言葉に戸惑いつつ、徐々に煙が無くなっていく目の前のカプセルの中身の正体が気になりじっと見つめる。
煙の向こう側の影は、やはり想像通り大きかった。丈は2メートルくらいだろうか。まるで人のような陰影だなと思っていると、情報に金の色が見え始める。
「え……」
シンディは、徐々に現れ始めるその影の正体に時が止まっていった。
人型のような、というよりも、煙の中には人がいた。大きな背に、がっしりした体つき。金色の髪が冷たい風に揺らされている。
前髪の下にあるのは、もう二度と見る事の出来ない魔石のような青宝と緑宝の色を持ち、自分の事をうぬぼれでなければ、とても愛しいものを見るかのようだ。
「う……そ……」
※※※※
北の果ての更に北方にあるという、年中氷と嵐で覆われている国がある。そこに住む人々は魔族の血を引いているため、体が頑丈で魔力も桁違いだという。
獣の毛皮を左肩に乗せて、大きな体躯の背にはマントを羽織っている。彼らは、海洋に住む狂暴な魔獣をも、魔力を纏わせた一振りの剣で切り裂けるという。
シンディのいる国とは友好国であり、お互いの産業を補い合うために定期的に高位貴族が政略結婚をして両国の橋渡しをしている。
「シンディ……」
にこりと微笑みながら、かの国の王族だけが纏う事の許された黒色のマントをつけ、シンディの前に膝まづく。そして、右手の平を上にして彼女に差し出した。
「よ……、うる、ぷ……さま……?」
「シンディ・アールトネン伯爵。僕の、いえ、私の名はヨークトール。ヨークトール・エイヤフィラと申します。どうか、私の手を取り生涯を共に過ごす権利を私にいただけませんか?」
「ヨークトール・エイヤフィラ様……? え?」
北の果てのさらに北方の国の名はエイヤフィラという。極寒の地だからこそ外敵の侵入が少ない。一瞬でバニャナーンが凍り付き大工道具になるほどの氷点下の世界であるにも拘らず、人々の魔力と火山の地下熱のおかげで住みやすい。
「……先日、愛しい人と別れた後、エローヤーネン元侯爵が私を訪れました。孤児としてこの国で過ごした私の出自を調査するよう、彼の妻に依頼されていたようです。私は生まれてすぐの頃、魔力が暴走し忽然と消えたそうです。オット殿が、私と行方知れずになった第四王子と色合いが同じであると気づき、彼と共にエイヤフィラ王国を訪れました。私は母と同じ色合いを持ち、国王そっくりだったのです。更に魔力が王家の物である事が証明されました。すぐさま陛下の第四王子として認められたのです」
「王子、様……?」
そう言えば聞いた事がある。
30年ほど前に、国王の第四王子が行方知れずになったと。
どれほど手を尽くそうとも見つからなかった第四王子が、まさかこの国に捨てられたような状態で保護されたなど思いもよらなかったのは、侵攻するのも不可能なほどの国であるからだ。
入るのが難しければ、出るのも然り。まさか赤ん坊の彼自身の内にある膨大な魔力がこの国に転移させる事に成功をしたなど誰が考えただろう。
「エイヤフィラ国の王子といっても、ずっと平民で孤児としてこの国で過ごしました。私があの国に突然現れると、いらぬ後継者争いにもつながりますから、王位継承権はすでに破棄してきました。この縁談は、誓って私の意志ですが、エイヤフィラ国とこの国の交易のための政略でもあります。どうか、私と結婚していただけませんか?」
シンディは、未だに信じられず口に手を当てて、決して報われる事のない恋が手に届くという現状についていけなかった。
震える身体は全く動かない。唇も、咽も動かず、呼吸すらままならない。
ただ、大きく開いた瞳からつぎつぎと綺麗な涙が溢れては頬を伝っていくのみであった。
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