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48 クリスマスパーティーは恋人たちの日に
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ヨウルプッキとの短い逢瀬を終えたシンディは、忙しさに追われる日々に戻った。アールトネン伯爵家当主として今日も王家主催のクリスマスの夜会に参加している。
彼女を誘う貴公子たちの相手をしつつ上手くあしらい、夜半過ぎにようやく息をつく時間がとれた。
準備されているソファに座り、サーヴされたシャンパンを少し口にしてピーラッカを一口頬張った。芳醇な上質のクリームチージュが添えられた小さなパイをサクっと噛む。鼻に抜けるチージュの香りがさらに食欲を誘った。
3つ目のピーラッカは甘く煮詰めた果肉たっぷりのシュトロベリーヌがたっぷりと乗っている。見た目にも可愛く美味しそうなそれを食べようと口を開いた時、ターニャが声をかけて来た。
「シンディ、元気にしているかい?」
「ターニャ様。お久しぶりでございます。先日は素晴らしい再婚式に招待してくださってありがとうございました」
シンディーは、ピーラッカを皿に置くとターニャに礼をする。そのまま二人でソファに座りながら、会話を楽しんだ。
「ターニャちゃーん、ここにいたー! 俺から離れるなんて酷いよ!」
そこに、騒々しくオットがやってくる。ターニャは結局婚姻届けにサインをして、今は名実ともに夫婦として夜会に参加している。
「うるさいのが来たね……」
ターニャは一つため息を吐くと、シンディにこう言った。
「シンディ、うちの家を救い、領地や被害者たちのために寝る間も惜しんで頑張ったあんたに、プレゼントがある。そこのテラスに出てみな」
「え……?」
「出て待っていればわかるさ」
「そーだよ、シンディ。ははは、俺、ターニャちゃんに頼まれた依頼が成功したらすぐに結婚してくれるって言うから物凄くがんばったからな! そのおかげで、ちゃんとターニャちゃんと再婚できたし。俺、滅茶苦茶疲れたけど。なに、気にしなくていいから。徹夜を何日もしたけどな! 遠慮せず受け取ってくれ!」
どうやら、オットがターニャに何かを依頼された事を熟したために再婚出来たようだ。シンディへのプレゼントと言うが、なんだろうと首を傾げる。
ターニャに手をとられ、テラスに連れられた。オットが扉を開くと、雪がちらちらと降る夜空の星がきれいに瞬いている。
「シンディ、アールトネン前伯爵であるあんたの母が言っていたのは、政略に心を求めてはいけません、だったかい? 案外、そうでもないさ。じゃあまたね」
「シンディ、たまには俺を見習ってなりふり構わずに行けよ! じゃあな!」
「あんたは、もうちょいとなりふり構って欲しいんだけどねぇ」
シンディに別れを告げて去って行くターニャを追いかけるようにオットがついて行った。
ぴゅう
今は真夜中すぎ。肌に刺さるほど冷たい風がシンディの全身をなぶる。
──あの時、ここで出会ったらしいのよね……。
冷え冷えとした空気を照らす、明るく冴えわたる月を見上げて涙ぐんでしまう。出会いの瞬間は記憶がないままだ。けれども、瞬時に愛しい人の姿と、甘いひと時を思い浮かべて思考が囚われる。
最後に会えば、気持ちに区切りがつくなんて嘘だと思う。ますます彼の温もりを求めてしまう心を持て余した。胸がぎゅうっと締め付けられるように痛み、気持ちの悪い居心地の悪さが襲う。
あれほどターニャにすげなくされ続けたオットですら、愛する人を手に入れたというのに、自分はどうだろう。
来年中には然るべき相手と結婚をしなければならないと王家から命じられている。成人したばかりの王子の婿入り先にアールトネン伯爵家が候補としてあげられていた。恐らく、来年早々にその内示が降りるであろう。王子の人柄も能力も申し分ない。彼とならきっと幸せな未来が待っているに違いない。
ため息を吐いて未来を受け入れようと、結ばれる事のない愛しい人の面影を消し去るように、ぽつりと呟いた。
「グス……。リア充なんて、爆発しちゃえばいいのよ……」
彼女を誘う貴公子たちの相手をしつつ上手くあしらい、夜半過ぎにようやく息をつく時間がとれた。
準備されているソファに座り、サーヴされたシャンパンを少し口にしてピーラッカを一口頬張った。芳醇な上質のクリームチージュが添えられた小さなパイをサクっと噛む。鼻に抜けるチージュの香りがさらに食欲を誘った。
3つ目のピーラッカは甘く煮詰めた果肉たっぷりのシュトロベリーヌがたっぷりと乗っている。見た目にも可愛く美味しそうなそれを食べようと口を開いた時、ターニャが声をかけて来た。
「シンディ、元気にしているかい?」
「ターニャ様。お久しぶりでございます。先日は素晴らしい再婚式に招待してくださってありがとうございました」
シンディーは、ピーラッカを皿に置くとターニャに礼をする。そのまま二人でソファに座りながら、会話を楽しんだ。
「ターニャちゃーん、ここにいたー! 俺から離れるなんて酷いよ!」
そこに、騒々しくオットがやってくる。ターニャは結局婚姻届けにサインをして、今は名実ともに夫婦として夜会に参加している。
「うるさいのが来たね……」
ターニャは一つため息を吐くと、シンディにこう言った。
「シンディ、うちの家を救い、領地や被害者たちのために寝る間も惜しんで頑張ったあんたに、プレゼントがある。そこのテラスに出てみな」
「え……?」
「出て待っていればわかるさ」
「そーだよ、シンディ。ははは、俺、ターニャちゃんに頼まれた依頼が成功したらすぐに結婚してくれるって言うから物凄くがんばったからな! そのおかげで、ちゃんとターニャちゃんと再婚できたし。俺、滅茶苦茶疲れたけど。なに、気にしなくていいから。徹夜を何日もしたけどな! 遠慮せず受け取ってくれ!」
どうやら、オットがターニャに何かを依頼された事を熟したために再婚出来たようだ。シンディへのプレゼントと言うが、なんだろうと首を傾げる。
ターニャに手をとられ、テラスに連れられた。オットが扉を開くと、雪がちらちらと降る夜空の星がきれいに瞬いている。
「シンディ、アールトネン前伯爵であるあんたの母が言っていたのは、政略に心を求めてはいけません、だったかい? 案外、そうでもないさ。じゃあまたね」
「シンディ、たまには俺を見習ってなりふり構わずに行けよ! じゃあな!」
「あんたは、もうちょいとなりふり構って欲しいんだけどねぇ」
シンディに別れを告げて去って行くターニャを追いかけるようにオットがついて行った。
ぴゅう
今は真夜中すぎ。肌に刺さるほど冷たい風がシンディの全身をなぶる。
──あの時、ここで出会ったらしいのよね……。
冷え冷えとした空気を照らす、明るく冴えわたる月を見上げて涙ぐんでしまう。出会いの瞬間は記憶がないままだ。けれども、瞬時に愛しい人の姿と、甘いひと時を思い浮かべて思考が囚われる。
最後に会えば、気持ちに区切りがつくなんて嘘だと思う。ますます彼の温もりを求めてしまう心を持て余した。胸がぎゅうっと締め付けられるように痛み、気持ちの悪い居心地の悪さが襲う。
あれほどターニャにすげなくされ続けたオットですら、愛する人を手に入れたというのに、自分はどうだろう。
来年中には然るべき相手と結婚をしなければならないと王家から命じられている。成人したばかりの王子の婿入り先にアールトネン伯爵家が候補としてあげられていた。恐らく、来年早々にその内示が降りるであろう。王子の人柄も能力も申し分ない。彼とならきっと幸せな未来が待っているに違いない。
ため息を吐いて未来を受け入れようと、結ばれる事のない愛しい人の面影を消し去るように、ぽつりと呟いた。
「グス……。リア充なんて、爆発しちゃえばいいのよ……」
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