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24 侯爵家に現れた女帝②

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 シンディは正式な次期当主であるはずなのに、乗っ取られた状態の伯爵家で孤軍奮闘状態だったようだ。

『あの、もしかしてターニャ様でいらっしゃいますか? エローヤーネン侯爵家先代当主の奥様でいらっしゃった……。違っていたらすみません』
『おや、初対面なのによく気づいたね。とっくに離縁されて追い出され(正確には自ら出奔したけど)、ぼろを纏い化粧もしていないというのに』
『テッポ様、貴女様の孫である婚約者の彼に見せて頂いた肖像画を覚えておりました』
『そうかい、そうかい。じゃあ孫の結婚相手なんだね。色々聞いたよ。執事たち使用人ばかりでは出来ない部分もあるだろ? ほかならぬ未来の孫の嫁だ。色々協力してあげようかね』
『よろしいのでしょうか? あの……とても危ない事なのですが……』
『私の事を知っていて?』
『はい。エローヤーネン侯爵家にこの人ありとうたわれた、女帝ターニャ様。あなた様なくしては過去の侯爵家の栄華はなかったとお聞きしております』
『女帝はいいから。まあ、シンディ、私はあんたを気に入ったよ』
『ありがとうございます、ターニャ様』

 すぐに打ち解け、元夫バカが私がいなくなって全財産の半分以上をどう考えても上手く行かない投資にかけたらしい事を聞いて、魂が体から抜け出るほどの衝撃を受けた。ちょっとした国を買いあげる事の出来るほどの財産をどうやったら一瞬でなくせるというのか。
 すぐに差し押さえられ、アールトネン前女伯爵が手を差し伸べなければ侯爵家は国に爵位を返上していただろう。

 その後、平民になったため、公に姿を現す事ができずにいたが影で彼女たちを支える。特に戦闘に対して無力な彼らを訓練するために、とある人物をセパスチを経由して呼び寄せた。すると、普通なら半月はかかる行程であるはずが数日でその人物が目の前に現れたのであった。

『ターニャちゃん! ターニャちゃあああああんっ! 俺を頼ってくれるなんて! ああ、こんなに長い間離れていてもやっぱり愛してくれていたんだね! ごめんね、ターニャちゃんが稼いだお金をちょっぴり使い果たしちゃって』

『財産の半分以上の、どこがちょっぴりなんだいっ!』

 私をひとめ見るなり飛びつき、唾をまきちらし、鼻水を頬に付けたために殴り飛ばした。すると、地に伏した元夫バカは頬を染めてうっとりしたのである。年老いたというのに相変わらず気色悪い男だ。

 元夫バカには経営などが出来ない。とんでもない失態を犯して流石に落ち込んでいたらしい。息子から領地の隅っこで暮らすよう言い渡され細々暮らしていたようだ。

『ここの子たちを、誰にも負けないように鍛えてやっておくれ』
『うん! ターニャちゃんの頼みなら、一週間で使えるようにしてあげるね!』
『馬鹿!』

 傷つき、戦いの素人に対してスパルタ教育以上をしようとした元夫バカを張り飛ばす。嬉しそうにされて鳥肌がたった。

 彼らを壊さないように数年かけて仕込むよう懇々と言い聞かせた。そういう人材育成に関しては、モヤモヤするものの優秀な指導者なので、めきめきと別邸に保護されていた伯爵家の使用人たちは強くなっていった。

 それ以降、元夫バカはなぜか私と同じ部屋で寝起きしている。解せぬ。




『え? ターニャちゃん息子たちに会いに行くの? なんで? 一緒にいてよ! まさか、また俺から離れる気? 絶対離さないよっ!』
『(どさくさ紛れに離れようとしたのにバレていたか……)伯爵家奪還を無事に済ませたら再婚してやるから、ちゃんとここの子たちを頼んだよ?』
『うん! まかせて! 約束したからね? 破ったらダメなんだからね?』

 本邸に乗り込むには心もとないため、戦闘狂ともいえる元夫バカに彼らを頼んだ。とんでもなく不本意であるが、再婚というエサをぶらさげていれば、あれでも強いから戦力としては最上級だ。あっという間に制圧できるだろう。

 それに、本邸にいない男をついでに捕らえて来るように言い含めてある。シンディが帰って来ないのは心配だが、アールトネン伯爵家を継いだのなら、今の彼女はとんでもなく強い。きっと無事だ。

 こうして、私は単身侯爵家に転移をして息子と孫とともに情報の共有をしたのである。

 テッポが、元夫バカ以上に愚かだとは思わなかった。孫はシンディを裏切っていたとはいえ、一時的な物であり、いずれはシンディと向き合い政略結婚をし、アールトネン伯爵家を正常に戻すと心のどかで期待をしていたのである。

 そんな自分の甘い判断のために、エローヤーネン侯爵家は終わりを告げるかもしれないと内心ため息を吐いた。

 孫に、自分が見聞きしてきた事、今、伯爵家で行われているだろう事実、そして、今後の侯爵家の未来を淡々と語ったのであった。





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