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エライーン国⑤

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 夜風が二人を撫でる。月華の冴え冴えとした明るさが二人を包んだ。どれほど時間が経ったのだろうか。ライノが再び沈黙を破った。

「……あのさ、俺とライラと3人で暮らさないか? まさか、エミリアがさ、そんな風に俺たちと暮らしているなんて思いもしないだろうし」

 本心を隠すように、あえて明るくそう言った。

「ライノとライラと?」

「うん。あのさ、特に変な意味はないんだ。ほら、ライラもその方が嬉しいだろうし!」

 出来れば、そのまま自分について来て欲しいと願いながら。

「うーん。魅力的な提案だけど……。でも、私の事で二人を巻き込むわけにはいかないわ」

「……。俺さ、俺、エミリアがライラを見てくれていたら安心できるっつーか。だから、その……エミリアのためというよりもさ、寂しくさせてしまうライラのために来て欲しいんだ。ダメかな?」

「ライノ……」

 エミリアは、ずっとここで騒がしく笑顔の絶えない日常から、ライノと二人きりになって彼が仕事でいない間、寂しい家で一人留守番している落ち込んだライラの姿を想像した。

 ライラを殊更可愛がっているので、そんな風に言われたら断りづらくなる。

 そんな風に決意がぐらつくのをしっかり感じ取って更に畳みかけた。

「少しの間だけでいいから。その、新しい環境に変わったらさ、ライラも友達が出来るだろうし。サンタクロース協会の入職ってまだ決まってないんだろ? あそこは行けば即採用なんだし頼むよ。最初は俺もそんなに稼げないけど、俺とライラと、エミリアが暮らすには十分すぎるくらいの給料だし。な?」

「うーん……」

 エミリアは顎に指を当てて、自分の事、家の事、サンタクロース協会の事を素早く考え出した。万が一、3人で暮らしているのを、あの権力欲にまみれた母に見つかりでもしたらと思うとぶるりと全身に悪寒が走る。
 愛情たっぷりのイケメンだろうがなんだろうが、ヤンデレなんて絶対に嫌だ。そう思うと、やはりさっさと北の果てに行きたくなった。

「ライラさ、笑顔でいるけれど、エミリアと離れるのを寂しがってるんだよな」

「う……」

 ところが、ライラの事をそんな風に寂しそうに心配そうに相談してくるライノの言葉も無視できなくて迷いが生まれてしまう。

「エミリアもさ、そんなすぐに北の果てに行かなきゃいけないわけじゃないんだろ?」

「それはそうだけど……」

 あと一押しだと思った俺は、決定事項のように伝えた。

「じゃあ、ライラに、エミリアが一緒に住むから安心しろって言っていいか?」

「う……」

「エミリアがいてくれるなら、ライラ喜ぶだろうなあ」

 エミリアがもう一緒に来てくれるものだと期待する。だって彼女は、ライラの未来を少しでも暗くしないようにするはずなのだ。

「……、わかった。もう暫くの間だけ北の果てに行くのをやめる」

「やった……!」

 きっかけはどうであれ、これで暫くはエミリアと過ごせることに心の中でガッツポーズをした。孤児院と違って、俺とエミリアが結婚しないかと願っているライラとの3人暮らしだ。

 なんだかんだでエミリアは押しに弱くほだされやすい。

 どうしてこうなったのかと首を傾げつつも、ライラが喜ぶならいいかと納得したエミリアを見て、新しい暮らしの中で少しずつ強引に彼女に迫ろうと思い、ニヤニヤと月を見上げたのであった。

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