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フレイム視点⑤

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 幸せになれるNo.③の観覧車に、相思相愛の婚約者と乗り込んだのだ。なのになぜ、一体、何がどうなって、彼女は俺に別れを告げているのだろうか……

 観覧車は頂上から、今度はゆっくり、ゆっくりと地上へ降りて行く。それは、まるで刹那か永遠なのかわからないほど、俺の心は凍り付いていた。



「……不本意? 恥? なし崩しなのは、まあ……そうだったが。その……つまり、リフレーシュは、俺、いや、私との時間が無駄だったと言いたいのか?」

 恥知らずなどと、彼女に対して言った覚えはない。婚約した経緯は、男として情けない事に両親の力を借りたのだ。むしろ、恥知らずは俺(両親)の方だろう。

「……いえ、わたくしにとって、この3か月は幸せな時でした」

 別れを告げているのに、幸せだというのか?
 
 社交辞令やごまかしの言葉には見えない。会っても会話は弾まなかったが、なんというか、多少の勘違いがあったとしても、俺たちの間に漂う空気は、嫌々ながら対峙しているムードではなかったはずだ。

 だが、それならば、なぜ婚約を解消したがるのだ?

   ますます、彼女の意図がわからなくて混乱する。だが、これだけははっきりしている。いくら、愛するかわいい彼女の願いでも、それだけは聞けない。聞いてたまるか。不満があったのならなおすから、考え直してもらいたい。絶対に離さない。

「だったら、問題ないだろう? 不満があるのなら、言ってくれ。改善するから俺との事を前向きにだな……だから、そんな事を言わないで欲しい」

 心が動揺しまくっているせいで、一人称が俺になっているが構っていられないし、自分でも何を言っているのかわからない。だけど、みっともなかろうがなんだろうが、ここで食い下がらなければ、愛する妻が俺に離婚届を突き出して、俺を捨てて出て行ってしまう。

 俺は、いったい、彼女に何をやらかしたんだ? 彼女は、何に対して、そんなにも悲しい瞳で泣き出しそうな顔をしているんだ? 

 さっぱり思いつかず、捨てられ寸前の俺は、もう彼女の優しさにすがるしかないと思った。土下座は、狭すぎて物理的に不可能だから、座ったまま頭を膝につけるほど下げた。


「不満は……えーと、なくはないというか。ちょっとだけはあります。でも、そんな事はどうでもいいんです。問題は、大ありですよね? このままでは、石を拾ってすぐに返せなかったわたくしなんかと婚約してしまったから、フレイム様は愛する人と結ばれないじゃないですか」

「ちょっと待ってくれ。石を拾ってくれた事は感謝しかない。そんな事よりも、このままでは俺の愛する人と結ばれないとはどういう意味だ?」

 不満はあるのか。正直、ないと言って貰いたかったから少々ショックだ。だけど、俺への不満があるなら、その原因を取り除けば大丈夫だと思う。 というか、後半部分は聞き捨てならなかった。

 ほかならぬ、愛する人リフレーシュから、まるで別の女性を愛しているかのように言われるなんて。

「だ、だから……いつも、一緒にいらっしゃるじゃないですか。彼女……メモリさんと、です」

「は? メモリ嬢?」

「よく、一緒にいて楽しそうにされているのを見かけます。フレイム様が本当はどなたを愛しているのか、学園の皆が知る所です。ですから、わたくしと婚約を解消して彼女と……」

 頭から、中身の入っていない貝殻が1トンくらい降り注いでいるかのような衝撃を受ける。なんだって、よりにもよってあのメモリ嬢とどうこうなっているんだ?

「……ひとつ、はっきりさせておくが……。メモリ嬢とはなんでもない」

「そんなに否定しなくても。だって、愛しているのですよね? わたくしは素直に去りますから。わ、わたくしに遠慮なさらず、すぐに彼女と婚約なさればよろしいんです」

「ちょっと、待ってくれ。なんで俺があの方を愛しているなんて酷い勘違いを……」

 冗談じゃない。色んな意味で、メモリ嬢と恋人同士とか、絶対にやめて欲しい勘違いだ。

 その時、愛する人の瞳から、溢れ出た涙がこぼれた。この世でたった一人の、俺の大切な人が泣いてしまった。俺のせいで。俺が、泣かせてしまった。
 俺は、その先の言葉を失い口をつぐんでしまう。

 すると、リフレーシュが、小さな口から嗚咽を漏らしつつ、更に俺にとっては驚愕以外の何物でもない言葉を重ねた。

「だって、わたくしと会ってもあんな風に笑わないし、ひっく……会話も弾んでらっしゃるし、どこからどう見ても、とてもお似合いの恋人同士じゃないですか……グスッ」

「な、泣くなっ! 他の女性と恋人同士とか、冗談じゃない!」

 きれいな、とても綺麗な大きな瞳から、次々と透明な涙がぽろりと頬を伝う。俺は、もう彼女の泣き顔を見たくないと思った。そう思うよりも前に、体が勝手に動いた。

「え? あ、きゃあっ!」

 腕を彼女のほうに伸ばし、小さなその細い体を引き寄せた。バランスを崩した彼女を、膝の上に載せて、涙で濡れた顔を胸に抱える。

「リフレーシュ、泣かないでくれ……。確かに俺は、事情もあってあの方とよく話をしている。だが、そんな心配なんてしなくていいんだ」

 要するに、メモリ嬢が女性で、俺と彼女との仲を嫉妬して悲しかったのかと思い至り、申し訳なさと、やきもちを焼いてくれた嬉しさがこみ上げた。

「だって、メモリさんはとてもかわいいし、身分もフレイム様と釣り合うし、頭脳明晰だし……フレイム様だって、グスッ、グスッ……彼女といると笑っていて、とても幸せそうで……だ、だから、お邪魔虫なわたくしの事なんて、解消してくださればいいんです」

「ああ、あの方は俺と違って皆の人気者だ。だが、リフレーシュが心配するような事など何もない。だから、顔を見せて」

 しっかりと見つめて、俺が嘘偽りなくこれから言う言葉を聞いてもらいたくて、首を振って俺の胸に顔を埋める彼女を、そっと上に向かせた。
 涙で濡れた潤んだ瞳。桃色にそまった濡れた頬。悲しそうに少し震える唇。

 こんな風に悲しませるなんて、俺は……なんて馬鹿なんだ。彼女がこんなにも苦しんでいたというのに、ひとり浮かれて少しも気づかなかった。世界一の大馬鹿者だ。

「俺が、考えや言葉が足らず不甲斐ないばかりに、悲しい気持にさせてすまなかった。まさか、そんな風に誤解されているとは思わなかった。ごめん、本当に、ごめん。だが、これだけは分かって欲しい。お、俺は、リフレーシュの事だけを好きなんだ」

「え……? 嘘、ですよね? グスッ。いいんです、気を使わなくて。だから……」

「嘘じゃない。あの日、ウォンバット姿のリフレーシュに触れてからずっと好きだった。リフレーシュも、同じ想いだと思っていたから、とても幸せで浮かれていたんだ……肝心の君の事をちっともわかってなかった……ごめん」

「フレイム、さま……」

 どうすれば、俺のこの想いを全て伝える事が出来るのだろう。

 俺は、長く息を吐きだし、リフレーシュの頬に手を当てて視線を交わす。

「リフレーシュ、愛しているんだ……」

 この気持ちが、リフレーシュに半分でも届いて欲しい。初めて、彼女に愛をはっきり伝えた。

  すると、先ほどまでとは違う歓喜の色に満ちた光が彼女の瞳に灯る。俺は、彼女の想いを確信し、そっと顔を近づけて、彼女の唇を奪ったのであった。





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