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ころりんころりんころりん1/2 右手ではないです。左手でもないです。※無しです。

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 私は世界をまたにかける冒険者きどりの単なる営業マンだ。ゼファー殿が創設した動力が魔法のバイクを貴族相手に売りさばいている。バイクは随分世に出回ったものの、膨大な魔力を必要とするため平民にはほとんど扱えない。まれにコレクションや贈答品として平民は手に入れるのみだ。

 贈答品としてのバイク購入は、ゼファー創始者は好まない。バイクを半身のように愛する人の元で活躍してもらいたいという考えだったらしい。

『悪用せず大切にしてくれるのならいいじゃない。バイクの姿そのものを楽しむ人がいるのも当たり前よ。だってゼファーが作ったんだもの。皆が好きになるに決まってるわ』

とカレン様が言ったため、厳しい条件付きでゼファー殿や現社長のニンジャ殿が認めた者にだけ販売しているのだ。

 私の家族は王族で、ビィノおばあ様が周囲から望まれた以上にたくさん子を産んだ。なんでも、魔法を使った上に小さな卵で産むから100人でも産めそうとか出産後に笑いながら仰ったらしい。そこまでは産まなかったが父達の世代のほとんどは自分自身で企業を立ち上げ、余った貴族籍を功績などの順で割り当てられた。
 更にその子世代は多産だったこともあり私には継承権も何もない。王族と、環境に強い異世界の乙女の血筋と、むかし途絶えた伯爵という名ばかりの貴族籍を頂いている。貴族籍は税金ばっかり取られる、マジでいらねぇって思うものだったが、営業するのに便利だから貰った。なんだかんだで、他国の貴族の中にはこちらが平民の身分だと無茶苦茶なクレームをつけたり、極端に値切ろうとしたりする不届き者もいるから。

 私の愛車は、ゼファー殿が大ファンだったという仮面をつけたバッタ獣人が悪を倒すヒーローが乗っていたものを模したバイクだ。その乗りなれた愛車で、トータス国に納車に行った私は運命の乙女に出会う。

 幼い頃から聞かされていた祖父母の大恋愛。祖母は最初祖父に冷たかったらしい。カレン様に大変失礼な言動があったからだと祖母は未だに許していないようだ。
 だが、祖父が未だに話してくれる内容は祖母は照れてわざとつれなくしていただけで、本心でひとめ会ったその時から祖父を愛してくれていたらしい。どこからそんな自信がでるのか理解に苦しむが、恐らくは祖母の言っている内容のほうが正しいと思う。

 何度も何度も聞かされているうちに、私も異世界の乙女に仄かな憧れを抱くようになった。なんというか、祖父の変人の血を濃く受け継いでしまったと親戚中に嘆かれたが、どうにも女性に興味がわかない。断じて祖父のような変態などではない。かと言って男となんてごめんだ。
 若い頃は見合いを設けられたが辟易していて、海外に出張の多いゼファー殿の会社に営業として入職する。ほとんど国に帰らない自由気ままな生活のおかげで、私は毎年トップセールスを叩きだしている。
 
 ある日、サイドカー付きのバイクをトータス国に届けた。フロント王子に納品をしていると、ふと、耳にどうしても惹かれてしまう可愛い笑い声が聞こえて来た。周囲の侍女や警護の者も楽しそうにしていて、皆から好かれているのが音だけでわかるほど。

『おじいちゃん、おじいちゃん! そっちに行っちゃったよー。インテークも頑張れー!』

『なんと小癪なガキンチョじゃ。ぐぬぬ、こうなったら……! 全てを凍てつかせ、生死すらも静寂の無に帰す氷よりもなお冷たき神の吐息よ……』

『賢者様~頑張ってくださいませー!』

『インテーク様、危ないですわ!』

『うお、じい! その呪文は……こんなところでアブソリュート系の氷魔法を使うとか正気か? ついに認知症になったのか? 侍女たちは大丈夫だろうが、リア様がいるんだぞ⁈』

『リア様の周囲には絶対防御を張っているから安心せい! 観念するんじゃ!』

 騒がしさを謝罪しされつつ窓から覗いたその先に、訓練をしている賢者とインテーク卿の姿を見て弾けるような笑顔の可愛い女性がいた。

 心の底から楽しそうな彼女の屈託のない笑顔、心にすっと入って来る愛らしい声、白い肌に小さくて守ってあげたくなる華奢な体。ふんわりしたワンピースの裾が、そよ風のように、防御壁を通りぬけた巨大魔法の衝撃波の影響でゆらめいている。


 どくんっ……!


 私の心臓が、一際大きく跳ねたあと、その鼓動が止まった気がした。

 リア様と言われたその女性は、目の前のフロント王子と、賢者殿と戦っているインテーク卿と結婚する事が決まっている。

 こんなにも商談中に集中力がほとんどなくなったのは初めてだ。とはいえ、長年の営業スキルで表面上は難なく商談を成立された。

 帰り際、異世界の乙女に挨拶をしたいと申し出たが、私の下心を男の勘で察知したのかフロント王子がにこやかに、だが、絶対に許さない強い意思を込めた瞳で断られたのである。

 それ以来、寝ても覚めても、一瞬垣間見たリア様の事が頭から離れなくなった。

 リア様が祖母やカレン様に会いに行くために、あのバイクを求めたのは聞いている。ちょうど、リア様がケープ国に滞在している機関、とある国に営業に行く予定だったが、入社以来初めてその仕事を断り国に帰った。

 ひと目会いたかった。年も10歳近く離れているし、身分だって名ばかりの伯爵で、単なる営業マンの私など彼女には不釣り合いでしかない。

 競技の間、ちらちらどうしても見てしまう彼女のワクワクした顔。視線を少しでもこちらに向けてもらい。その時に、情けない姿を見せたくなくて、これ以上はないほどレースで活躍する姿を見せた。

 レースに手慣れている強敵がいたので優勝は逃すと思えたが、ほんの1㎡差で私が優勝できたのである。ラッキーだった。

 父から祝辞と賞金、そして景品を貰った後、決まり文句を訊ねられた。予め私が出願書類の優勝した際の希望の欄には、リア様が別の男達と結婚して幸せに暮らしている噂を聞きたくなくて、遠くの国の永住権が欲しいと書いていた。

 だが、ロイヤル席の彼女が、左右にいる私以外の男達と幸せそうに、単なる優勝者でしかない私の姿を見て手を叩いているのを見て頭が沸騰するかのように熱くなった。

 気が付けば、予定通り遠く離れた国の永住権を言おうとした私の口から、自分でも驚く内容が飛び出したのである。

「それでは。私の望むものはひとつだけでございます。どうか、私も異世界の乙女の夫として迎え入れて欲しい」









じいの呪文は、物質を原子レベルでアブソリュートゼロ(絶対零度)に活動を停止させるものです。カチンコチンです。

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