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11 R15未満くらい? 直接的な描写はありませんし、内容も生理的な仕方のない現象です

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 交差する事のない別れたふたつの道が重なり、大きな道になったかのようにひとつになりたくてお互いを求めあい、夢中でキスを繰り返していると、小さくドアがノックされた。

コンコン

「マロウ様、ビオラさん、入ってもよろしくて?」

「マロウさま、ローズさまが……」

「……ビオラの声だけ聞かせてくれ」

 ふたりきりになってから、かなりの時間が経過している。よもや、私とマロウ様がキスをしているだなんて思いもよらないだろうから、この事が知られたらマロウ様はどうなるのだろうか。

 マロウ様にそっと小さな声でローズ様の来訪を告げたというのに、彼が聞こえていないはずはないのに、そんな事を言い切って私の唇を貪るように合わせて来る。

 初めて経験する、くらくらするほどの甘さなんて全く感じないほどの強いキスは、母の読んでいた恋愛小説の文章のように蕩けてドロドロになってしまいそうだ。


コンコンコンコン


「ビオラさん大丈夫ですの? マロウ様、今すぐ開けないと、どうなるかお分かりでしょうね?」

 私も、マロウ様と同じく、このまま誰にも邪魔されず一緒にいたい。

 応答をしなければこのまま帰ってくれるかもしれない、とちょっとだけ思っていても立ち去るわけがない。逆の立場なら、心配でなおさらここから離れるなんて事は思わないだろう。


コンコンコン、コンコンココココココンッ! ドンッッ!


「兄上! 5秒待ちますから、すぐ開けてください。ごー、よん、さん、にーぃ」


 さっきよりも強いノックと口調でローズ様たちが話しかけてきた。乱暴にドアを開け放たないのは流石紳士淑女と言ったところ。
 もしも、チェリーのように無礼極まりなく全力でフルでオープンされたら、マロウ様は速攻で怒りに満ちたウスベニ様に大変な目に合わされるかもしれない。

「マロウさま……あの……あの!」

「いいところで……ビオラ、続きはまた」

 最後に、私の唇にちゅっと軽く触れるか触れないかのキスをしたあと、マロウ様は長い足を出入り口に向けて颯爽と動かしてドアを開けた。そんな姿もとても素敵だ。キスの余韻もあってうっとりしてしまう。

 マロウ様の広い背中を、熱い抱擁の酔いが残っているのか、ぼうっとしたまま見つめていた。彼に触れられたひりひりする唇だけじゃなくて、背中や腰にあった大きくて温かい掌がなくなり、寂しさが押し寄せて来る。
 すぐにここに帰って来て抱きしめていて欲しいなんて思ってしまう。彼は目の前にいるというのに、まるで我がままな子供のようだ。

「……兄上、はぁ……どうしようもありませんね。口元をこれで拭いてください。まったく、言わんこっちゃない。一応確認しますが、嫌がるビオラ嬢を無理やり抑え込んだり、乱暴で不埒な真似をしたとかはありませんね?」

「……そんなわけないだろう。事情を察したのなら知らんぷりして立ち去るのが礼儀だぞ?」

「あのですね、このまま今の兄上をビオラさんとふたりきりにしたら、取り返しがつかない事態になりかねないでしょう! 兄上は、まだチェリー嬢と婚約しているのですよ? 適切な距離を保ち、自重自粛できないのであれば兄上を拘束させていただきます!」

「なっ! ウスベニ、兄に対してなんという酷い事を……」

「紳士の皮を被ったケダモノ、スケベじじいという烙印を押されたくなければ、頭とソコを冷やしてください」

 そうだった。忘れていたわけではないけれど、キスの間はすっかり忘却の彼方に追いやっていたかもしれないけど、マロウ様はまだ仮のような書類上だけど婚約者がいたと我に返った。

 恐らく、マロウ様には私のリップがついていたのだと思うから、自分の口周りもボロボロだろう。その事が気になってそっと手で隠した。

 それにしても、頭はわかるけれど、ソコとは、どこなのだろう?

 こんな風に考えられるほど落ち着きを取り戻していった。

「まあ、ビオラさん……。泣いてらしたの? 髪も乱れて……ねぇ、ビオラさん。まさかとは思いたいのですが……」

「あの、あの。ローズ様。これは、違うんです……」

 私は、慌てて頬を手で拭い去ろうとした。けれど、ローズ様が、柔らかくてさらりとした絹のハンカチでそっと頬を撫でてくれた。腫れたり痛まないようにゆっくりと優しく。

 ふわっと、メリッサの香りがして少しずつ高ぶっていた気持ちが更に凪いでいく。

「誤解しないでください……マロウ様は紳士的に距離を保ってくれていました。ただ、私が感情が高ぶりすぎて泣いてしまって……でも、その、おふたりが心配なさるような事は決してありませんでした」

「ビオラ嬢、先ほども言いましたが、これっぽっちも兄上を庇わなくていいんですよ?」

 そこに、ウスベニ様が横やりを入れて来たので少々話が脱線していく。

「ウスベニ、お前、兄を信じられないのか?」

「……ええ、信じられませんね。特にソコ。恥を知ってください」

「それこそ、視線と思考を反らせるものだ」

「いいから、隠れてないソコを早く鎮めてください! 何堂々としているんです! 全くもう……こっちが恥ずかしくなるじゃないですか。それに、チェリー嬢との婚約解消がダメになったらどうするんです?」

「堂々とはしていない。お前だって人の事は言えないくせに、勝手にわめいているだけだろう。だが解消が出来なくなるはいかんな」

 ウスベニ様が、マロウ様を苦虫を噛んだような顔で睨みつけている。

 でも、あら? ちょっとまって。視線が胸元よりももっと下のような……? 腰……、よりも下かも。

 ウスベニ様が、マロウ様のどこを見ているのだろうと思っていると、ローズ様が耳を赤くしてふたりのほうを見ないように体ごとくるりと反転させてきた。

「あの、ローズ様?」

「ビオラさんは見てはいけません。まったく、男ときたら殿下とあまりかわらないというかなんというか……はぁ、仕方のない生理的な現象だとはいえ、情けない事ですわ」

 ローズ様は、どうやら思わせぶりなウスベニ様の言動や、マロウ様の腰が少し引けている理由が分かっているようだ。私も知りたくなったけど、微笑むローズ様の有無を言わせないオーラを感じて口を閉ざした。
 これは興味を持ったらダメなやつだと本能的に悟る。

 なんだかんだすったもんだあったあと、私の涙で汚れた顔は、ローズ様がポーチにある化粧で軽く手直ししてくれた。何をしても様になるし、メイクも天下一品。天が二物も三物も四物与えた、宇宙の愛されっ子とはローズ様の事に違いない。

 ウスベニ様が、マロウ様を複雑そうに表情をゆがめて見つめていたけれど、長いため息を吐いたのを切欠に、私たちは4人でソファに座った。

 マロウ様は私の隣どころか、ぬいぐるみのように抱っこしたまま座ろうとしたけれど、それはふたりに止められた。せめて隣に座ると言い張るのを、ローズ様が私の手を握ってぴったり横に座ったのである。

 大柄なマロウ様と、さらに大きなウスベニ様が並んでソファにすわると、なんだかソファが小さく見えるし、壊れそうだ。

「俺たちふたりは、確かに言葉が少なかった。だが、きちんと想いを伝えあった事で、身分差をビオラが気にしすぎている事がわかった。身分など俺には取るに足らない事なのだが、そのために、ビオラの心に寄り添えず辛い思いをさせていて申し訳ない。だが、こうして話をしてお互いを深く知る機会を貰えて、ローズ嬢とウスベニに感謝する。ビオラの杞憂は、うちに来れば全く問題ない事がわかるだろう」

「そうですわね。そもそも建国当時からの長い歴史を誇る子爵家ですし、ビオラさんの立ち振る舞いや賢さは私が及第点以上のサインを認めますわ。ウスベニ様も、ビオラさんのご意思があれば歓迎でしょう?」

「ええ。ビオラ嬢さえ、心の底から兄上に嫁ぐ意思があるのなら、素晴らしい女性ですし、兄上には勿体ないと思います。父母も気に入るでしょうし、何よりも、ビオラ嬢のように奇特な趣味を持つ令嬢は二度と現れませんでしょうからね。歓迎します」

「ウスベニ様、奇特は失礼かと。でも、ふふ……。ご意見には同意ですわ。マロウ様をカッコよくて素敵だという令嬢は珍しいですから、マロウ様にはビオラさんだけですわね」

「あの、ウスベニ様もローズ様も。マロウ様は本当に見目麗しくて素敵な方なのですから、先ほどの事があるからって、そんな意地悪を仰らないでくださいませ」

「ああ、そうでしたわね。マロウ様、親戚で気安い仲とはいえ、口が過ぎました。謝罪します。ふふ、わたしく、ビオラさんと早く親戚になりたいですわ」

「兄上、ごめん。だけど、兄上だって否定は出来ないと思うけど」

「俺の事は俺が良く知っている。だがな、ビオラにさえモテて、一生彼女が俺に夢中になってくれればそれでいい。他の令嬢の不快なさえずりなど知るか。そんな事よりも、チェリー嬢と縁が切れたら、俺たちは婚前旅行に行く事が決まったからな」

「まあまあまあ。ふふふ、ええ、ええ。マロウ様が身軽になった暁には、どうぞ婚前旅行と言わず、そのまま新婚旅行に行ってきてくださいませ」

 マロウ様が自信満々に婚前旅行だなんて嬉し恥ずかしい事を言うと、ローズ様は手を叩きながら、ウスベニ様はやれやれといった具合に肩を竦めながらではあるものの、ふたりとも喜んでくれた。

「そうそう、先ほど殿下にお会いしたのです。ふふ、チェリーさんと一緒にふたりきりで、仲良くしてらしたの」

「ローズ嬢、それは……」

「ウスベニ様、先ほどは、わたくしを守ってくださってありがとうございました。あの事は、今のうちに伝えておいた方がいいと思いますの。マロウ様たちにとっても悪くない流れですわよ?」

 私は、ローズ様の、ちょっぴり意地悪そうに光る女神のはずなのに小悪魔のような瞳に魅入られて、続く言葉に驚愕したのであった。






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