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初めてコメントくださった方から、非公式でご要望があったので、表紙絵を変更してみました。上手く写真がとれず、ぶれてお化けみたいなもののほうが多いショットの数々。これがまだまともかなーと思う一枚を表紙にしてみました。とりあえず、こんな感じでうちの子は遊んでくれています。足が悪いので、ここからは出たりしてくれませんけれども、穴からにょきっと顔を出してくれます。明日にはデフォルトに戻しますね。→翌日7時前にデフォルトに戻しました。
基本的にブラック派なので、無糖のコーヒーゼリーを作り、甘くておいしいカフェラテを少し垂らして食べています。



※※※※



  私は、保健室での今までのローズ様たちの会話を思い出しつつ、マロウ様とふたりで対峙している。

 マロウ様は、ローズ様から調理室で私に不埒な真似をしようとした事をかなり絞られたようで、私にもっと近づきたそうにソワソワしているっぽく見えるけれど、適切な男女の距離を保ってくれていた。
 どうやら、マロウ様は意識を失っている私の額にキスをしようとしたらしい。びっくりしたけれど、素敵なマロウ様がそんな風にしてくれるなんてって、胸がくすぐられたかのようにこそばゆくて、ちょっと嬉しい気持ちにもなった。
 とはいえ、私の気持ちを勘違いしているままの状況下だったので、これがマロウ様ではない、例えばデンデ……殿下だったならショックで数日寝込んだかもしれない。

 そこそこ大きなテーブルを挟んだ対面にいるマロウ様に、ジャスミンティーを差し出した。ジャスミンは我が家の庭で摂れたもので、これを飲むと気が休まる効果があるのは有名だ。

「マロウ様、どうぞお茶を……」

「ああ、ありがとう。ビオラが手づからお茶を淹れてくれるなんて嬉しいよ」

 そう、お茶でも飲んでリラックスして欲しい。だって、嬉しいって言って気持ちも心の中で弾んでいるかもしれないけれど、やっぱり目力が強すぎて睨んでいるように見えるから。どう見たって、好きな女性を凝視する熱視線には見えないものは見えないのである。


※※※※



『え? マロウ様とふたりきりになりたいですって?』

『はい……。あの、今すぐマロウ様とお話しなければならない事がありますの。お願いできますでしょうか?』

 とにかく、おふたりの婚約解消に私の出番がないのが分かった以上、あとはマロウ様の盛大な勘違いを解かねばならない。一刻も早く、私自身の気持ちを伝えなきゃと思い、マロウ様とふたりにして欲しい旨をお願いした。

『まぁまぁまぁ……。ふふふ、邪魔ものは退散いたしますわね。ただ、マロウ様、お分かりですわよね? 節度はお持ちになってくださいませ』

『ああ……善処する』

『善処ではダメですわ。絶対に、です。それが守れないのなら、ふたりきりになどさせられません』

『ローズ様、マロウ様はどこかの殿方と違って、決して酷い事はなされませんわ』

『ビオラ……』

『まぁ、ビオラさんったら。ふふふ……そうですわね。マロウ様、ビオラさんのお顔を立てる事にしましょう。くれぐれも、お願いしましたわよ』

 マロウ様の誤解を解いたあとは、ローズ様の勘違いも絶対に是正しなきゃ。だって、早く恋人であるマロウ様とふたりになりたいって、私が言っていると思われてる。絶対に。

『兄上、一番大きなテーブルのある応接室で話をしてくださいね。あと、そんなに怖い顔をしてビオラ嬢を睨んでは気の毒です。全く、女性を怖がらせてどうするんですか。そんなんだから、僕だっておふたりが恋仲だなど信じられないんですよ』

『な……俺は睨んでなどいない。……つもりだが、ビオラ、ひょっとして怖かった……のか?』

『……す、少しだけ……あの、マロウ様は真剣なお顔だと迫力がございますから、いえ、そんな表情も素敵だとは思いますけれども、微笑んでくださるほうがもっと素敵かと思います……』

『そ、そうか……すまなかったね。自分でも無意識で、いつのまにかキツイ表情になっていたのかもしれない。気を付けるよ』


 ジャスミンティーは苦手らしいけれど、そんなやりとりの後だからか、マロウ様も睨まないように気を落ち着けるように飲んでくれた。

 お互い、カップの中のジャスミンティーが半分くらいになった頃、私はマロウ様をまっすぐ見つめながら口を開いた。

「あの、マロウ様。ローズ様はとっくにご存じでいらしたし、さらに、私の証言が要らなくなったという事は、もう、こうしてお会いして計画したりする事もなくなるのですね?」

「ああ、そうなるな。俺も出来ればあのような汚らわしい内容の証言を、ビオラの清らかな口から言わせるのには抵抗があったから。正直なところ、ローズ嬢の家の証言も含めて、きちんとブロッサム伯爵と対峙出来る事になりホッとしている」

「上手く行くといいですわね」

「流石に、国の二大侯爵家を相手取ってまで、チェリー嬢との婚約を継続させる事はしないだろう。伯爵とは話をして穏便に、かつスピーディーに解消の書類にサインをしてもらう。だから、あと少しだけ、待っていてくれるか? こんなにも君を待たせているというのに、まだ待たせてしまう事を許して欲しい」

「あの、婚約解消の事は、きちんと筋道立てて、マロウ様やローズ様だけでなく、チェリーさんも殿下も出来る限り痛手のないように慎重にしていただきたいですから、しっかり時間をかけて欲しいです。ですが、あの、その、ちょっと気がかりな事があるのですけれども……」

「気がかりな事?」

  マロウ様は、私が好意くらいで恋人意識が0だなんて考えもしてなさそうだ。いきなり、あなたを好きじゃないなんて言えない。

  何からどう伝えればいいのか、誰か教えてください。

「あの、ご存じのように、うちの子爵家は醜聞にまみれていて負債だらけで……」

「ああ、その事か。言いづらそうだったから何かと思えば。ビオラ、何代も前の祖先のした事を、未だにあれこれ言う者がおかしい。まだそのような愚かな言動が続いているのなら、俺も、我が家も黙ってはいないから安心していいよ。負債の件にしても、すぐになんとかなる額だ」

 なんと、流石次期侯爵様だけあって、我が家の台所事情はすでに掌握されていたようだ。というより貴族なら誰でもたいたい知っている……。

  マロウ様に、そんな我が家の恥部を知られた事が恥ずかしいのなんのって。穴があったら入りたい。

「ビオラ、お義父上がたにも、今の俺の近況もきちんと伝えている。チェリー嬢と俺が婚約状態な事で、かなりご心配をおかけしたが、今月中に解消になる事や、そうなったらビオラを妻にするべく、すでに関係各所には手続きを済ませている事をお伝えしたら安心されたようだ」

「……はい?」

 なんでしょうか。マロウ様が、にこやかに、とんでもない事を伝えて来た気がしなくもない。気持ちの勘違いで私たちだけの事であれば、真摯に説明したら納得されて、それで、マロウ様とはそれっきり疎遠になるって、ちょっと胸が痛んだけれど、元通りの平穏な、貧乏な子爵令嬢に戻ると思っていたのに。

 私の今後の縁談計画では、実はすでに、めぼしいおじさまたちを数名考えている段階だった。順次、実際にお会いして、その中から然るべき相手をと思っていた。

  なのに、マロウ様との結婚がもう決まっているかのように言われるだなんて。どこか、私を騙していたみたいなびっくり企画でもあるんじゃないかって思うほど現実味がなさすぎる。

 関係部署にも手続きを終えているなんて、今、私が実はマロウ様を恋人として認識していませんでしたって言っても、もう手遅れなんじゃ……?

  因みに、先ほど、満面の笑顔のローズ様からだめ押しの言葉が送られたのがこちら。

『マロウ様は、ビオラさんの事となると、あり得ないくらい変な言動になる気がしますけれど、それも愛ゆえですわね。とても優秀で誠実な方ですからビオラさんにぴったりでしてよ。これまで女性の影もひとつもないのは、親戚であるわたくしが保障しますから、安心してゼニアオイの家に嫁いでくださいませね?』

  もう、私の表情筋は固まりすぎてピクリとも動かなかった。

  私がマロウ様と結婚する事は決定事項で、私ひとりの言葉で後戻り出来ない状況だったようだ。

  


 
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