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2 ※R18 タイトルのお目汚し回です

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15分ほど過去に戻る感じです。前回の最後を修正前ので投稿してしまっていました。すみません。





 距離を詰める毎に、何かの鳴き声が大きくはっきり聞こえて来た。怖くて聞きたくないし近づきたくないとも思っているというのに、吸い寄せられるように足が進む。

「だ、大丈夫よ。ここはローズ様のおうちですもの。管理が行き届いているに決まっているわ。き、きっと、猫か何かの声なんだわ。そうよ、子猫が親を探して鳴いているのかもしれないわ」

 自分に言い聞かせるように、こうだったらいいなという希望を独り言ちる。途中から、どうやってこの距離を歩いて来たのか分からない。歩きすぎて夜会用の小さなパンプスを履いている足がヒリヒリするけれど、構ってなどいられなかった。

「あぁっ! やめてぇ……いやっ!」

 もうすぐ、光の元の窓辺にたどり着けると思った時、どう聞いても猫の声に聞こえない、女の人の叫び声がした。ここは、ローズ様の家のおそらくは使用人かなにかの家か物置小屋で、女性が浚われて大変な目にあっているかもしれないと危機感を覚えた。

「そうだわ……。男性の中には、女性を酔わせて狼藉をする人がいるって聞いた事がある……ど、どうしましょう。た、助けなきゃ! でも、どうやって……」

 私は、さっきまでの怖さよりも、酷い目に遭っているかもしれない女の人の事が心配で慌てて窓辺に近寄った。女ひとり、護身術も使えないというのに、気ばかりが焦る。誰か、助けを呼びに行こうにも、ここがどこだかわからず、途方にくれてしまった。
 とりあえず、中の状況を確認しようと、窓の端からそうっと覗き込んでみたのである。

 ところが、部屋の中にはいない。どういう事か怪訝に思い、更に壁伝いに歩いていくと、建物がすぐそこだというのに、なんと木の下にいる男女一組を発見した。

「やめて? もっとして、だろう? こうか? 入口よりも奥だったか? ん?」

「ああんっ! 奥をぐりぐりされたら……も、もう……。お願い……!」

 信じられない事に、女性は言葉では嫌がっているけれど、どう見ても恍惚とした悦びに満ちた顔をしている。上気した頬をしている女性の口は笑っているような形で開いていて、口角から涎が流れていて、顔を汚したまま彼のする事言う事に反応している。
 私は、このままでは見つかると思い、建物の影に体を隠した。そして、彼らから見えないように気をつけながらふたりの様子を伺った。

「え……? どういう事……? 襲われている……わけではなさそうだけど……」

 今はふたりとも私と同じように、夜会のためのドレスや正装だ。裸ではないが、大きな揺れる胸を露わにしている。男性のほうは、首元を軽く寛げた状態だ。下半身は、ドレスで隠れていて見えない。ドレスの裾が邪魔なもののように乱雑に引き上げられており、彼女のおしりの辺りと彼の股間部分がぶつかっては離れていた。

「ああ、そこぉっ! んんっ!」

「う……熱いな。そんなに俺のが美味しいか?」

「ああん、美味しい、ですっ! ああ、もっと!」

「ようやく正直になったなぁ。お望みのままにいっぱいやるよ」

「ああ!」

 木の幹にすがるように、ほとんど四つん這いになっている彼女の腰を、大きな手ががっしり掴んでいる。さっきよりも、彼の腰が大きく速く、そして強く彼女のおしりを打ち付けるように前後に動いていた。衣擦れの音よりも、肌を打つ音が、少し離れた私にまで届く。

「……? 何をしているの……? え? 外よね?」

 彼らのしている行為は見た事がある。といっても、人間ではない。犬や猫がしていた生殖行動にそっくりだ。

 強烈な初めての光景で、食い入るように見つめている自分自身に気付く事はなかった。
 あまりにも想定外の出来事なので、突き抜けて頭の一部がいやに冷静になっている気がした。いや、本当に冷静なら、音を立てずに静かに立ち去るべきだろう。そうできなかったのは、気が動転していたにほかならない。

 淫らな行為は、どことなく美しくも汚らしくも見えてしまい、視界にばっちり映しながらも受け入れがたい情景から現実逃避をしたくなった。

 彼らの事は、面識はないが有名人だからよく知っている。

 彼女の名前は、チェリー・ブロッサム。伯爵の後妻の連れ子だ。確か、ゼニアオイ侯爵の嫡男の婚約者だったはず。
 そして、彼のほうはというと、このデンドロビューム国の王の子だ。デンファレ殿下は第4王子で、普段は、このような下町の平民のような粗野な口調ではない。とても優美でスマートな美青年で、男女ともに憧れている国民は多くいる。

 デンファレ殿下は、キンギョソウ侯爵の女侯爵となるローズ様の婚約者なのに。一体、どういう事かわけがわからなかった。

「ああ、でんかぁ、わたし、もう…………ダメェッ!」

「くっ、締め付けが……。出すぞ」

「ああっ! 熱いのが中に……!」

 頭が真っ白になり、ようやく、ふたりがいかがわしい事を合意の元でしているのだと理解したのは、一際高く彼女が啼いて、彼が低いうめき声とともに小さく短く2、3度震わせながら腰を押し付けたあとだった。

「そんな……、あのふたりは……学園でも仲が良すぎるって噂だったけれど、本当だったなんて……ローズ様に知らせないと……いえ、こんな事、言えるものですか……どうしたら……」

 チェリーの背に覆いかぶさるように、殿下の体が重なっている。振り返ったチェリーの、濡れた唇に、殿下のそれが近づいてくちゅくちゅと水音を発しながら交じり合っていた。

「怪しいとは思っていたが、なるほど。それにしても中で吐き出すとはな……馬鹿にされたものだ」

 その時、私の後ろの頭上から、低い声がした。さっきまでの光景だけでも、頭と心の処理が追い付いていないというのに、その声を聞いた時、微かに残っていた自我を完全に失った。

「え……? や、ぁ!」

「ちょっと、静かに……ふたりに聞こえる」

 大きな手のひらが、私の顔半分を覆った。突然の狼藉に驚愕して叫び声をあげたいのに、怖すぎて声が出せない。近くにいるふたりに聞こえようがなんだろうが、この手の持ち主の方がよっぽど怖くてたまらない。

「むぐぅ……うう、うー!」

 なんとか、手の平の中で声を必死にだそうとするけれどくぐもった変な音しか出せず、どんどん恐慌状態に陥った。息が苦しくて出来なくなる。

このまま、狼藉者に殺されてしまうのだろうか?

「おい……? しっかりしろ……」

 意識が遠のき、視界が真っ暗になっていく。傾く体を、がしっと誰かが抱き留めてくれたのを感じたけれど、ひょっとしたらそれは気のせいで地面に倒れてしまったのかもしれない。

「このままだとまずいな……」

 最後に、困惑したかのような、どこかで聞いた事のある声を最後に、私は完全に意識を失ってしまったのだった。
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