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はじめましてで、いきなり睨み合いなのだけれども。④

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 ボックスの言葉に悲鳴のような驚愕した声をあげたのは、レンチだった。

「なんで?!」
「先ほど、事情が、と言っていたが、スパナ家の事情だろう? 事前にソケット殿ではなく変わったなど、誰も聞いてない。おそらくはレンチ様も。そんな大事な事を、もしも知っていたのなら俺には伝えるはずだ。そもそも、あまりにも馬鹿馬鹿しい事情だから、コンビ様がその時点でこの結婚は白紙に戻したに違いない。それとも俺にまで秘密にしていたのか?」

 ボックスは、完全に感情が荒れ狂ってしまい、後半部分がプライベートでレンチが自分の側にいる時のような口調に変わっていた。レンチも、トルクスがいるというのに、普段のように彼に対している。
 ますます仲睦まじいふたりの様子をみたトルクスが、悔しそうにボックスを睨みつけ、それを感じたボックスは勝ち誇ったようににやりと笑う。

「そりゃ、知っていたらボックスにぃにも言っていたよ。私だって知ったのは帰ってからだ。式の時に会ってれば気づけたけど、魔の森に行ったからな」
「そもそも、真夜中に帰宅したばかりで、なんでこの男と過ごすようなハメになったんだ? 疲労した体と頭では冷静に適切な判断など出来ない。普段のレンチ様なら、そのままベッドで眠っていただろう?」
「それは、そのまま寝ようとしたんだけど、メガネに無理やり連れていかれたから。確かにあの時は、滅茶苦茶疲れていたけど」
「今からでも遅くはない。スパナ家に抗議文を出して、この結婚を破棄すれば良い。昨日式を挙げたばかりで、結婚誓約書もまだ受理されていないだろうし。されていたとしても、幸いレンチ様不在の挙式だったのだから、どうとでもなる。もともと、この結婚が嫌だったのだろう? 今すぐ初対面のあの男結婚詐欺師には王都に帰ってもらえ」

 魔の森にいる団長としてテイマーの彼女に命令している時のようにたたみかける。そんなボックスに対して、タジタジになったレンチは、彼の勢いに押され、魔の森にいる時のように条件反射で頷きそうになった。

 その時、ふたりをただ眺めていたトルクスが、震える声を出した。その声で、レンチとボックスはトルクスのほうをそろって見る。そんな動作もぴったりで、ますますトルクスが嫉妬心から臍を噛んだ。

「ぼ、僕は、名実ともに、すでにレンチ様の夫になりました。レンチ様、そうですよね? 僕は帰りませんし、ここにいます。約束しましたよね」
「あ、いや、ちょ、トルクス。それを今言うかー? ちょっとは空気を読めよ」
「空気を読んだからこそ、恥をしのんでこうして発言しております。あのままだと、僕は離縁されて王都に送り返されるでしょう? レンチ様は、僕との約束を反故になさるおつもりですか?」
「あ、いや。約束を反故にだなんて、そんな大げさな」

「名実ともに、だと?」

 妙齢の男女が、初夜にふたりきりで翌朝まで寝室にいたのだ。何をしていたのかはたやすく想像がつく。だが、事情が事情だけに、話し合いをしたあとにそのまま眠りについたに違いないという希望のような推測をしていたのである。
 だが、トルクスだけでなく、彼の言葉を否定しないレンチの言葉に、ボックスはこめかみをハンマーで叩かれたような衝撃を受ける。長い足をトルクスに向かって動かし、気が付けば彼の胸倉をつかんでいた。

「どう言われようとも、レンチ様のおなかには、すでに僕の子が宿っているかもしれません。何よりも、レンチ様自ら、僕を夫として快く迎え入れてくれたのです。あなたは関係ありませんよね? 部外者は黙っていてください」
「言わせておけば……」

 殴り合いに発展しそうな一触即発の雰囲気に、レンチはふたりを引き離した。

「ふたりとも落ち着けって! ボックスにぃ、トルクスを離すんだ! ボックスにぃの言う通り、父上や母上の意見も聞こうと思う。この結婚については、おふたりの意見も聞いたうえで、両親の意見に従うから。それでいいな?」

 すでに肉体も結ばれたトルクスに、このまま離縁ということになるかもしれないという不安が襲う。

 一方ボックスは、ふたりがすでに男女の仲だと知りショックを受けたものの、それでもこんな状況ではレンチをあきらめきれない。スパナたちが、結婚詐欺ともいえる事情を知れば、すぐに離縁をさせて自分との結婚をすすめるだろうと頷く。

 レンチはふたりをソファ座らせ、机にある通信機で両親に連絡を取った。ラチェットの子が早産して母子ともに危ういから隣国に急いで向かった両親に、ふたりの無事を確かめた後、すべての事情を伝える。

『ふむ、ソケット殿でないのなら、最初からこの結婚はありえない。我らが式に出席できていれば、このような事態になることもなかったのだが。さて、どうするか』

 コンビの言葉に、ボックスは勝ったと思った。トルクスは逆に泣きそうになり、すがるようにレンチを見続ける。

『でもねぇ……。式も初夜も無事に終えたのなら、ふたりとも異論はないようだし、トルクス君はこのままレンチの夫としていればいいんじゃないかしら。ボックスには悪いけど』

 そういえば、ネーションはレンチが自分の意志で結婚すれば誰でもいいといっていた。まさかの裏切りのような言葉に、ボックスは恨めしそうにネーションを見る。

「母上、なぜ、ここでボックスにぃの名前が出るのです?」
『あら、ボックスったら、生真面目に結婚が白紙になるまで話していなかったのね。ボックスらしいけど。私から話すわね。レンチ実はね、』

 レンチは、以前のボックスとの密約を聞き、さらに父から突拍子もない提案をされ、顎がはずれんばかりに口を開いたのであった。

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