上 下
7 / 17

はじめましてで、いきなり睨み合いなのだけれども。①

しおりを挟む
 これから毎日とか、最後にほのめかしておきながらの※の続きは少々お預けです。その分、のちのちエロ満載にしようと努力しましたので、作者にあたたか~い缶などを投げつけようとせず、呼吸を整え、このフェーズも楽しみつつお待ち下さればありがたいです。




「は? よく、聞こえなかった。もう一度言ってみてくれないか?」

 地の底から響いてくる悪鬼のような雰囲気と、普段の声よりも10オクターブほど低い音が、均整の取れた男から発せられた。男の名はボックスといい、ボルトナット領の子爵家の3男で、齢28歳。家を継げない彼は、現在、騎士団の団長をしている。毎日のように、団員のみならず、自らも鍛え上げられた彼の、成熟した肉体と、どのような魔物と対峙しても動じない強靭な精神力を兼ね備えている。

 彼が動じるのは、辺境伯として、また、テイマーとしてともに行動している彼の主たるレンチに関することだけ。彼は、外見も性格も、地位的にも超優良物件として、妙齢の女性に大人気だ。そんな彼が、浮いた噂の一つもないのは、6歳下のレンチが原因でしかない。

「ですから、お嬢は、例の王都のおぼっちゃんと一夜を過ごしたそうです。ひぃぃ!」
「おかしいな、あり得ない報告だ。俺の耳が悪いのか、お前の口が悪いのか。どっちだ?」
「だ、だんちょ。おおお、落ち着いて聞いてくださいいぃぃいいい!」
「俺は、至極落ち着いているが?」

 部下が先ほど聞いた話を伝えたところ、指一本すら動かさなかったにも関わらずボックスの足元の地面が3センチほど凹み、ヒビを入れながら割れたのである。





 よく晴れた8月の吉日。初代王が結婚し、王妃と仲睦まじく人生を謳歌したという、今日の佳き日に結婚する男女は多い。彼らの主であるレンチも、その日にあやかり挙式をする予定だった。

 といっても、大喜びだったのはレンチの両親と兄と王家だけ。

 当事者であるレンチや騎士団の一部は、内心、王都の侯爵家の令息が辺境の地に来ることに眉をしかめ、この日が無くなることすら願っていた。
 レンチが辺境伯として跡継ぎを作らねばならないことは、騎士団の連中も頭では理解している。この結婚は王命であり、当のレンチが頷いたものの往生際悪くずっとグチグチ言っていたので、ぎりぎりまで成り行きを見守っていたものも少なくない。

「あーあ、私も年貢の納め時かー。8月なんてこなければいいのに」
「レンチ様、どうしても嫌ならお断りすれば? できるのでしょう?」
「ボックス、考えてもみてくれ。今更、たいした理由もなく断ったりしたら、早く結婚しろしろうるさい、父と、特に母が半狂乱になるではないか」

 レンチは、ボックスの心知らず、のんきにそんなことを言っていた。そんなこんなで、彼の気持ちにまったくもって気づかなかったレンチが渋々ながら結婚に頷いた時から、周囲は、ふたりというよりも、ボックスの様子を恐る恐るうかがっていたのである。

 ところが、ソケットが辺境に来て結婚する日に、幸か不幸か魔の森で魔物が大暴れをした。魔物を早急に落ち着かせるにはレンチのテイマーとしての能力があったほうがいい。それに、ボックスとしては、結婚式をドタキャンしたことで、ソケットが怒り、あわよくば王都に帰れば上々という下心もあったので、ウェディングドレスを着ようとしていたレンチに出動要請したのである。

「なりません! ボックス様、なんと無体なことを! こんな日にお嬢様が行かなくても良いではないですか!」

 ボックスから魔物が大暴れしていると聞いたレンチは、すぐさま魔の森に向かおうとした。だが、不在のレンチの両親の代わりに、満面の笑顔で準備を手伝っていた乳母が、両腕を伸ばして阻止しようと声を荒げた。

「メガネ、それでは傷つくものが増え被害も大きくなるだろう。私は、辺境伯として行かねばならない」

 困ったわがままな子供を見るような目つきで、レンチが乳母にそう言うと、彼女は悲鳴をあげるように更に大きな声で叫び、花嫁を連れ去ろうとする騎士団長を睨みつけた。

「騎士団長も、よりにもよって、なんだって今、この時に、報告したりなんかするのですか! 今日は、お嬢様の結婚式なのですよ! あと数時間、せめて式が終わるまで自分たちでなんとかしようと思わなかったのですか!」
「それは知っている。だが、なにごとも報告は迅速にしなければならないだろう。被害が甚大になるとわかっているのに、我々だけで対峙しようとすればどうなるか、乳母殿もわかるだろう? レンチ様が行ったほうが解決が早いのは事実だ。俺とて、水を指すのは忍びない。だが、婿殿も、辺境に来たからには、レンチ様が魔の森に緊急に行かねばならない事くらい承知の上だろう。このようなことで怒るような相手なら、とっとと家に追い返せばいい」

「ネガネ、ボックスの言う通りだ。これで物を言うような相手は、辺境には必要ではない。それどころか害になる。そうだ、いっそのこと、クレームとともに王都に逃げ帰って貰えたらいい。って、いたたたたたただだだだた! メガネ、耳がちぎれるぅ!」

 レンチのあまりの言い草に、卒倒しそうになったメガネによって耳をつねられた。

 ボックスは、いつものやり取りに口角をあげつつ、レンチのこの言葉に、この結婚がどう転んでもなくなると確信した。そして、あれこれ言い続けるメガネを置いて魔の森に向かったのである。

 魔物をなだめるのに真夜中近くまでかかったレンチを屋敷に送り届けたあと、残務処理をして、明朝には結婚そのものがなくなったという報告が聞けるだろうと、眠りについたのだ。

 が、結婚式の翌日、彼の思惑の真逆のことを部下から聞かされたボックスは、これは夢だと現実逃避したのである。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

美貌の騎士団長は逃げ出した妻を甘い執愛で絡め取る

束原ミヤコ
恋愛
旧題:夫の邪魔になりたくないと家から逃げたら連れ戻されてひたすら愛されるようになりました ラティス・オルゲンシュタットは、王国の七番目の姫である。 幻獣種の血が流れている幻獣人である、王国騎士団団長シアン・ウェルゼリアに、王を守った褒章として十五で嫁ぎ、三年。 シアンは隣国との戦争に出かけてしまい、嫁いでから話すこともなければ初夜もまだだった。 そんなある日、シアンの恋人という女性があらわれる。 ラティスが邪魔で、シアンは家に戻らない。シアンはずっとその女性の家にいるらしい。 そう告げられて、ラティスは家を出ることにした。 邪魔なのなら、いなくなろうと思った。 そんなラティスを追いかけ捕まえて、シアンは家に連れ戻す。 そして、二度と逃げないようにと、監禁して調教をはじめた。 無知な姫を全力で可愛がる差別種半人外の騎士団長の話。

軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら

夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。  それは極度の面食いということ。  そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。 「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ! だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」  朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい? 「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」  あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?  それをわたしにつける??  じょ、冗談ですよね──!?!?

王宮の片隅で、醜い王子と引きこもりライフ始めました(私にとってはイケメン)。

花野はる
恋愛
平凡で地味な暮らしをしている介護福祉士の鈴木美紅(20歳)は休日外出先で西洋風異世界へ転移した。 フィッティングルームから転移してしまったため、裸足だった美紅は、街中で親切そうなおばあさんに助けられる。しかしおばあさんの家でおじいさんに襲われそうになり、おばあさんに騙され王宮に売られてしまった。 王宮では乱暴な感じの宰相とゲスな王様にドン引き。 王妃様も優しそうなことを言っているが信用できない。 そんな中、奴隷同様な扱いで、誰もやりたがらない醜い第1王子の世話係をさせられる羽目に。 そして王宮の離れに連れて来られた。 そこにはコテージのような可愛らしい建物と専用の庭があり、美しい王子様がいた。 私はその専用スペースから出てはいけないと言われたが、元々仕事以外は引きこもりだったので、ゲスな人たちばかりの外よりここが断然良い! そうして醜い王子と異世界からきた乙女の楽しい引きこもりライフが始まった。 ふたりのタイプが違う引きこもりが、一緒に暮らして傷を癒し、外に出て行く話にするつもりです。

【R18】助けてもらった虎獣人にマーキングされちゃう話

象の居る
恋愛
異世界転移したとたん、魔獣に狙われたユキを助けてくれたムキムキ虎獣人のアラン。襲われた恐怖でアランに縋り、家においてもらったあともズルズル関係している。このまま一緒にいたいけどアランはどう思ってる? セフレなのか悩みつつも関係が壊れるのが怖くて聞けない。飽きられたときのために一人暮らしの住宅事情を調べてたらアランの様子がおかしくなって……。 ベッドの上ではちょっと意地悪なのに肝心なとこはヘタレな虎獣人と、普段はハッキリ言うのに怖がりな人間がお互いの気持ちを確かめ合って結ばれる話です。 ムーンライトノベルズさんにも掲載しています。

【R18】いくらチートな魔法騎士様だからって、時間停止中に××するのは反則です!

おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
 寡黙で無愛想だと思いきや実はヤンデレな幼馴染?帝国魔法騎士団団長オズワルドに、女上司から嫌がらせを受けていた落ちこぼれ魔術師文官エリーが秘書官に抜擢されたかと思いきや、時間停止の魔法をかけられて、タイムストップ中にエッチなことをされたりする話。 ※ムーンライトノベルズで1万字数で完結の作品。 ※ヒーローについて、時間停止中の自慰行為があったり、本人の合意なく暴走するので、無理な人はブラウザバック推奨。

身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁

結城芙由奈 
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】 妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

処理中です...