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デストロイヤー

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 せっかく夏休みを利用して領地に帰ってきたのに領都周辺に盗賊が出没しているとは。運が良いのか悪いのか。私たちが帰ってきていることで後手に回らないといいのだけれど。

 なんと言っても、領地を長きに渡って放置していたせいで家族の全員も土地勘が全くない。出かけるにしても、領主代行のジョナサンたちの力を借りる必要がある。そのため、力の分散が非常に気がかりである。領主の館にいる人員にも限りがあるからね。

 あれからジョナサンは、使用人や領都を守る衛兵たちを使って盗賊を探しているらしいが、いまだに雲をつかむように居場所がつかめないらしい。
 しかし領民からは、ポツポツと盗賊の姿を見かけたという話が上がっているそうである。いまだに被害が出ていないことは、不幸中の幸いと言うべきなのだろう。

 油断のできない日々が続いているが、いつまでも家に閉じこもってばかりではいられない。せっかくの夏休みに加えて、初めて来た領地なのだ。領民たちに見捨てられないためにも、顔を見せておく必要があるのではないだろうか。

 そんなふうにルークを説得したところ、確かに一理あるな、ということになった。ルークはルークで領地をほったらかしにしていたことを、割と気にしているようである。


 そんなわけで、私たちは数名の護衛を引き連れて領都の視察に向かった。自分の足で歩く領都は、王都に勝るとも劣らないほどのにぎわいを見せていた。聞いた話によると、その昔にはこの地に王都が置かれていた時代もあったらしい。

 なるほど。だからこんなにキレイなのか。まさに古都といった趣を持っており、私はこの領都が一目で気に入ってしまった。

 私はルンルン気分で領都を歩いた。私とルークについてくる護衛を見て周囲の人たちがざわついているのが分かった。私たちが領主の一族であることが分かってもらえただろうか? 別に悪気があって放置したわけではないことが、領民のみんなに分かってもらえると良いのだけれど。

 自分たちの存在をアピールしながら領都を歩いていると、突然辺りが騒がしくなった。いま私たちがいる場所は、領都の大通りから少し外れたところにある裏通りである。
 大通りよりかは人が少ないが、それでもいくつも店が並び、人通りもそれなりにあった。

 何事? と思って周囲を見回すと、やたら汚い格好をした「ザ・盗賊」のような人たちがワラワラとまるでゾンビのように現れた。だが、見た目はともかく、あまりにも生気がなかったので、正直、最初はゾンビだと思った。ごめんよ。

「お前たちが最近領都の周辺に現れる盗賊だな」

 牽制のため、ルークが声をかける。護衛はすでに抜刀しており、いつでも斬りかかれる体勢だ。いくら相手側に人数がいるからとは言え、盗賊が正面から完全武装の護衛に向かってくるなんて、正気の沙汰ではないと思うのだが。

 ルークも同じことを考えたのだろう。先ほどの分かりきった牽制も、彼らの正気を疑ったからなのだろう。

「返事がありませんわね」
「そうだね。何か変だ。まるで何かに操られているかのようだ」

 その不気味さに、ルークの顔に緊張感が漂っている。まさか、ほんとにゾンビとか……? やだ、怖すぎる。

「お兄様、死者を操ったりとかできるのですか?」
「聞いたことはないね。でも、闇の魔法を使えば、生きている人間なら操ることができるって話だよ。でも、それをするにはものすごい量の魔力が必要になるみたいだけどね。そんなことができる人間は限られているよ」

 そのときふと、それができそうな人物としてソフィアの顔が浮かんだ。まさか、ね。
 私とフィル王子のうわさ話を聞いて私を消しに……なんてね。

「イザァベラァ……コロス」

 やっぱり狙いは私か。そうだと思ったよ、チクショー! ソフィア、一体どういうつもりなのかしら? これはもしかして、私にケンカを売っているのかしら?
 いずれにせよ人間を無理やり操るなんて、人道にもとる行為だわ。許すまじ。

 このままじゃ、操られた盗賊たちがバッサリとやられてしまうわ。盗賊とは言え、さすがにそれはあんまりだ。ならば、拳で黙らせるしかない。

「狙いはイザベラか! 全員、イザベラを守れ!」
「お兄様、その必要はありませんわ。全員まとめてブッ飛ばしますわ!」
「……イザベラ?」

 身体強化魔法とともに防御力アップの魔法を何重にもかけた。これで私に攻撃を加えられるものはいないだろう。あとは右ストレートでぶん殴るのみ。いや、右ストレートだけでは足りないわ。左ストレートもキメるわよ!

 私が盗賊の群れに襲いかかると、思い出したかのように護衛たちも突撃を開始した。それを見ていた領民たちも、武器を持って加勢してくれた。
 だが心配ご無用。このイザベラ、伊達にバトルアニメを見ていない。こんな動きの鈍いゾンビごときに後れは取らぬよ。こんなこともあろうかと、密かに部屋でトレーニングしていたからね!

 戦いはあっという間に決着がついた。それこそ、護衛が盗賊たちの元にたどり着く前に終わった。
 すべての盗賊をたたきのめし、一瞬で屍の山を築き上げた私は、もちろんお母様とルークにこっぴどく怒られた。

 そしてその光景を目撃した領民たちによって、「デストロイヤー」という二つ名をいただくことになった。
 デストロイヤー・イザベラ。領民たちに名前を覚えてもらうのにピッタリじゃないか、とお母様に言ったら、大きなため息をつかれてしまった。どうしてこうなった、と。
 あ、お母様、それ、私が一番言いたいやつだからね? どうしてこうなった!

 後日捕まえた盗賊たちを尋問したところ、何も覚えていなかったそうである。自分たちがなぜここにいるかも分からない。そしてどうやら有名な悪名高き盗賊団だったらしく、なぜか私は英雄にたてまつられそうになった。
 もちろんルークに身代わりになってもらい事なきを得ることができた。危ない危ない。

 それにしても、まさか直接狙ってくるとは驚きだ。ゲームのイザベラならネチネチやったはずなのにさすがはヒロイン。まどろっこしいことは嫌いのようである。
 これからどうしたものかな……。
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