21 / 48
魔法使いとの出会い
しおりを挟む
あれから数日。
またしてもお母様にコッテリと絞られた私は「二度と剣術の訓練を受けない」という誓約書を書かされた後に解放された。
おのれルーク、帰って速攻お母様に告げ口するとは! 兄の風上にも置けないやつだ。兄ならば、可愛い妹をしっかりとかばいたまえ。身代わりにならんかい!
しかし私は転んでもただでは起きない女。運動の大事さをお母様にこれでもかと語り、屋敷の庭でならランニングする許可を取り付けることができた。
これがまあ、効果があったようで、初めはあきれていたお母様も、しなやかな筋肉をつけ始めた私を見てランニングを始めたのだ。
そしてあっという間に王妃様が取り入れ、貴族たちの間で大流行になった。イザベラ式ダイエット方法として。どうして……。
まあ、そんなことは置いておいて、私は相変わらずお城に呼び出されたりする日が続いていた。
ユリウスに関しては……残念な出来事だったわ。まさかあんなことになるだなんて。さすがのお釈迦様でも分からなかっただろう。私は悪くない、と思う。
あれからユリウスとは非常に仲が良くなり、まるで姉妹のような関係になっている。もちろん私が手のかかる妹役である。
秘密にしようね、とは言ったものの、さすがにたびたび二人で会っているとごまかしが利かなくなってきた。
そこで、フィル王子と親しい関係であることに定評のある私が、勇気を持って王子に告げたのだ。もちろんその場にはルークもいた。
ユリウスの秘密を知った二人の表情は、それはもう安らかなものであった。
先ほどまでの青筋を立てた顔がウソのように、「初めから知っていましたが何か?」みたいな仏のような顔になったときは、あまりの変わりようにあきれたものだ。
そうして二人にカミングアウトした結果、「やはり公表すべきだ」ということになった。この頃にはユリウスの覚悟も決まっていたようで、
「親から勘当されたら、イザベラ様のところでお世話になります」
とハッキリと告げた。まあ、ウチは没落フラグを回避した公爵だし、一人くらい増えたところで余裕で面倒を見られるだろう。そんな軽い気持ちで「うん、いいよー」と告げると、もう隠す必要がなくなったユリウスが歓喜のあまり抱きついてきた。
ルークとフィル王子もユリウスが女の子だと分かったことで文句を言わなくなったし、これで良かったのだろう。
そうしてカミングアウトしたのだが、ユリウスは勘当されることはなかった。それどころか、わずかにいた女性騎士たちから、「希望の星」と呼ばれているようになっていた。本人も満更でもなさそうで、
「イザベラ様に相談して良かった」
と喜んでいた。それに対して私は、喜んで良いのやら、悪いのやら、微妙な感じだった。あのときの「秘密の共有」さえなければ、もっと違う道に進んでいたかも知れない。
間違いなく言えることは、「また一つ、大事な破滅フラグを折ってしまった」と言うことである。大丈夫かな、これ……。
「あ、あれはもしかして……」
「どうしたのですか、イザベラ様? ああ、あの背中の曲がり具合はローレンツですね。ローレンツ・クラネルト。彼の父親は優秀な文官のようでして、父上がお世話になっているのですよ。その都合で、私の家に何度か来たことがあるのですよ」
「そうなのね」
私の隣で護衛役を務めているユリウスが、私が偶然見かけた攻略対象のローレンツについて説明を付け加えてくれた。
最近では、お城に出かけたときはユリウスが護衛としてつくことになっている。
ルークも、もう十三歳。しっかりと勉強して、未来の公爵になるべく備えなければならないのだ。お母様はユリウスという新しい監視役を見つけられたことを大層喜んでいた。
対してルークは血の涙を流していたが。
「おーい、ローレンツ!」
気を利かせてくれたのか、ユリウスがローレンツを呼びつけた。
うわちょっとやばい。まだどう接するか考えてないのよ。優しくしてもダメ、意地悪しようとしてもダメ。
押してもダメ、引いてもダメ。一体どうすりゃいいのよ。
そうか、関わらなければいいのよ。天才だわ。私!
「ユリウス、どうしたんだい? そちらのご令嬢は?」
うわやばい。回避するまでもなく、フラグが向こうからやってきた。いや、この場合はユリウスがフラグを呼び寄せたと言うべきか。私は悪くないぞー、多分。
「こちらは僕の、いや私の親友のイザベラ様だよ」
いや、おい。そうだけど、そうじゃない。それでも私はそのことについて一切表情を変えずに挨拶を返した。ここでペースを乱してはならない。取りあえず、今は自分が優位に立てるように振る舞わなければ。
「お初にお目にかかります。イザベラ・ランドールですわ」
私の淑女の礼に、ローレンツの顔色が真っ青に変わった。それはそうだ。平民に毛が生えた程度の身分であるローレンツにとっては、私は雲の上の存在である。
フッフッフ、控えおろう。頭が高いぞよ。
「こ、これは申し訳ありません。ローレンツ・クラネルトです」
ローレンツがこれでもかと腰を曲げて挨拶を返してきた。これよ、これ。これこそが私が求めていた悪役令嬢の姿だわ。やりましたよ、神様!
またしてもお母様にコッテリと絞られた私は「二度と剣術の訓練を受けない」という誓約書を書かされた後に解放された。
おのれルーク、帰って速攻お母様に告げ口するとは! 兄の風上にも置けないやつだ。兄ならば、可愛い妹をしっかりとかばいたまえ。身代わりにならんかい!
しかし私は転んでもただでは起きない女。運動の大事さをお母様にこれでもかと語り、屋敷の庭でならランニングする許可を取り付けることができた。
これがまあ、効果があったようで、初めはあきれていたお母様も、しなやかな筋肉をつけ始めた私を見てランニングを始めたのだ。
そしてあっという間に王妃様が取り入れ、貴族たちの間で大流行になった。イザベラ式ダイエット方法として。どうして……。
まあ、そんなことは置いておいて、私は相変わらずお城に呼び出されたりする日が続いていた。
ユリウスに関しては……残念な出来事だったわ。まさかあんなことになるだなんて。さすがのお釈迦様でも分からなかっただろう。私は悪くない、と思う。
あれからユリウスとは非常に仲が良くなり、まるで姉妹のような関係になっている。もちろん私が手のかかる妹役である。
秘密にしようね、とは言ったものの、さすがにたびたび二人で会っているとごまかしが利かなくなってきた。
そこで、フィル王子と親しい関係であることに定評のある私が、勇気を持って王子に告げたのだ。もちろんその場にはルークもいた。
ユリウスの秘密を知った二人の表情は、それはもう安らかなものであった。
先ほどまでの青筋を立てた顔がウソのように、「初めから知っていましたが何か?」みたいな仏のような顔になったときは、あまりの変わりようにあきれたものだ。
そうして二人にカミングアウトした結果、「やはり公表すべきだ」ということになった。この頃にはユリウスの覚悟も決まっていたようで、
「親から勘当されたら、イザベラ様のところでお世話になります」
とハッキリと告げた。まあ、ウチは没落フラグを回避した公爵だし、一人くらい増えたところで余裕で面倒を見られるだろう。そんな軽い気持ちで「うん、いいよー」と告げると、もう隠す必要がなくなったユリウスが歓喜のあまり抱きついてきた。
ルークとフィル王子もユリウスが女の子だと分かったことで文句を言わなくなったし、これで良かったのだろう。
そうしてカミングアウトしたのだが、ユリウスは勘当されることはなかった。それどころか、わずかにいた女性騎士たちから、「希望の星」と呼ばれているようになっていた。本人も満更でもなさそうで、
「イザベラ様に相談して良かった」
と喜んでいた。それに対して私は、喜んで良いのやら、悪いのやら、微妙な感じだった。あのときの「秘密の共有」さえなければ、もっと違う道に進んでいたかも知れない。
間違いなく言えることは、「また一つ、大事な破滅フラグを折ってしまった」と言うことである。大丈夫かな、これ……。
「あ、あれはもしかして……」
「どうしたのですか、イザベラ様? ああ、あの背中の曲がり具合はローレンツですね。ローレンツ・クラネルト。彼の父親は優秀な文官のようでして、父上がお世話になっているのですよ。その都合で、私の家に何度か来たことがあるのですよ」
「そうなのね」
私の隣で護衛役を務めているユリウスが、私が偶然見かけた攻略対象のローレンツについて説明を付け加えてくれた。
最近では、お城に出かけたときはユリウスが護衛としてつくことになっている。
ルークも、もう十三歳。しっかりと勉強して、未来の公爵になるべく備えなければならないのだ。お母様はユリウスという新しい監視役を見つけられたことを大層喜んでいた。
対してルークは血の涙を流していたが。
「おーい、ローレンツ!」
気を利かせてくれたのか、ユリウスがローレンツを呼びつけた。
うわちょっとやばい。まだどう接するか考えてないのよ。優しくしてもダメ、意地悪しようとしてもダメ。
押してもダメ、引いてもダメ。一体どうすりゃいいのよ。
そうか、関わらなければいいのよ。天才だわ。私!
「ユリウス、どうしたんだい? そちらのご令嬢は?」
うわやばい。回避するまでもなく、フラグが向こうからやってきた。いや、この場合はユリウスがフラグを呼び寄せたと言うべきか。私は悪くないぞー、多分。
「こちらは僕の、いや私の親友のイザベラ様だよ」
いや、おい。そうだけど、そうじゃない。それでも私はそのことについて一切表情を変えずに挨拶を返した。ここでペースを乱してはならない。取りあえず、今は自分が優位に立てるように振る舞わなければ。
「お初にお目にかかります。イザベラ・ランドールですわ」
私の淑女の礼に、ローレンツの顔色が真っ青に変わった。それはそうだ。平民に毛が生えた程度の身分であるローレンツにとっては、私は雲の上の存在である。
フッフッフ、控えおろう。頭が高いぞよ。
「こ、これは申し訳ありません。ローレンツ・クラネルトです」
ローレンツがこれでもかと腰を曲げて挨拶を返してきた。これよ、これ。これこそが私が求めていた悪役令嬢の姿だわ。やりましたよ、神様!
0
お気に入りに追加
214
あなたにおすすめの小説
性悪という理由で婚約破棄された嫌われ者の令嬢~心の綺麗な者しか好かれない精霊と友達になる~
黒塔真実
恋愛
公爵令嬢カリーナは幼い頃から後妻と義妹によって悪者にされ孤独に育ってきた。15歳になり入学した王立学園でも、悪知恵の働く義妹とカリーナの婚約者でありながら義妹に洗脳されている第二王子の働きにより、学園中の嫌われ者になってしまう。しかも再会した初恋の第一王子にまで軽蔑されてしまい、さらに止めの一撃のように第二王子に「性悪」を理由に婚約破棄を宣言されて……!? 恋愛&悪が報いを受ける「ざまぁ」もの!! ※※※主人公は最終的にチート能力に目覚めます※※※アルファポリスオンリー※※※皆様の応援のおかげで第14回恋愛大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます※※※
すみません、すっきりざまぁ終了したのでいったん完結します→※書籍化予定部分=【本編】を引き下げます。【番外編】追加予定→ルシアン視点追加→最新のディー視点の番外編は書籍化関連のページにて、アンケートに答えると読めます!!
出ていってください!~結婚相手に裏切られた令嬢はなぜか騎士様に溺愛される~
白井
恋愛
イヴェット・オーダム男爵令嬢の幸せな結婚生活が始まる……はずだった。
父の死後、急に態度が変わった結婚相手にイヴェットは振り回されていた。
財産を食いつぶす義母、継いだ仕事を放棄して不貞を続ける夫。
それでも家族の形を維持しようと努力するイヴェットは、ついに殺されかける。
「もう我慢の限界。あなたたちにはこの家から出ていってもらいます」
覚悟を決めたら、なぜか騎士団長様が執着してきたけれど困ります!
88回の前世で婚約破棄され続けて男性不信になった令嬢〜今世は絶対に婚約しないと誓ったが、なぜか周囲から溺愛されてしまう
冬月光輝
恋愛
ハウルメルク公爵家の令嬢、クリスティーナには88回分の人生の記憶がある。
前世の88回は全てが男に婚約破棄され、近しい人間に婚約者を掠め取られ、悲惨な最期を遂げていた。
彼女は88回の人生は全て自分磨きに費やしていた。美容から、勉学に運動、果てには剣術や魔術までを最高レベルにまで極めたりした。
それは全て無駄に終わり、クリスは悟った。
“男は必ず裏切る”それなら、いっそ絶対に婚約しないほうが幸せだと。
89回目の人生を婚約しないように努力した彼女は、前世の88回分の経験値が覚醒し、無駄にハイスペックになっていたおかげで、今更モテ期が到来して、周囲から溺愛されるのであった。しかし、男に懲りたクリスはただひたすら迷惑な顔をしていた。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
婚約破棄されなかった者たち
ましゅぺちーの
恋愛
とある学園にて、高位貴族の令息五人を虜にした一人の男爵令嬢がいた。
令息たちは全員が男爵令嬢に本気だったが、結局彼女が選んだのはその中で最も地位の高い第一王子だった。
第一王子は許嫁であった公爵令嬢との婚約を破棄し、男爵令嬢と結婚。
公爵令嬢は嫌がらせの罪を追及され修道院送りとなった。
一方、選ばれなかった四人は当然それぞれの婚約者と結婚することとなった。
その中の一人、侯爵令嬢のシェリルは早々に夫であるアーノルドから「愛することは無い」と宣言されてしまい……。
ヒロインがハッピーエンドを迎えたその後の話。
島流しされた悪役令嬢は、ゆるい監視の元で自由を満喫します♪
鼻血の親分
恋愛
罪を着せられ島流しされたアニエスは、幼馴染で初恋の相手である島の領主、ジェラール王子とすれ違いの日々を過ごす。しかし思ったよりも緩い監視と特別待遇、そしてあたたかい島民に囲まれて、囚人島でも自由気ままに生きていく。
王都よりよっぽどいいっ!
アニエスはそう感じていた。…が、やがて運命が動き出す。
悪役令嬢は攻略対象者を早く卒業させたい
砂山一座
恋愛
公爵令嬢イザベラは学園の風紀委員として君臨している。
風紀委員の隠された役割とは、生徒の共通の敵として立ちふさがること。
イザベラの敵は男爵令嬢、王子、宰相の息子、騎士に、魔術師。
一人で立ち向かうには荷が重いと国から貸し出された魔族とともに、悪役令嬢を務めあげる。
強欲悪役令嬢ストーリー(笑)
二万字くらいで六話完結。完結まで毎日更新です。
悪役令嬢ってこれでよかったかしら?
砂山一座
恋愛
第二王子の婚約者、テレジアは、悪役令嬢役を任されたようだ。
場に合わせるのが得意な令嬢は、婚約者の王子に、場の流れに、ヒロインの要求に、流されまくっていく。
全11部 完結しました。
サクッと読める悪役令嬢(役)。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる