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魔法使いとの出会い

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 あれから数日。
 またしてもお母様にコッテリと絞られた私は「二度と剣術の訓練を受けない」という誓約書を書かされた後に解放された。
 おのれルーク、帰って速攻お母様に告げ口するとは! 兄の風上にも置けないやつだ。兄ならば、可愛い妹をしっかりとかばいたまえ。身代わりにならんかい!

 しかし私は転んでもただでは起きない女。運動の大事さをお母様にこれでもかと語り、屋敷の庭でならランニングする許可を取り付けることができた。
 これがまあ、効果があったようで、初めはあきれていたお母様も、しなやかな筋肉をつけ始めた私を見てランニングを始めたのだ。

 そしてあっという間に王妃様が取り入れ、貴族たちの間で大流行になった。イザベラ式ダイエット方法として。どうして……。

 まあ、そんなことは置いておいて、私は相変わらずお城に呼び出されたりする日が続いていた。
 ユリウスに関しては……残念な出来事だったわ。まさかあんなことになるだなんて。さすがのお釈迦様でも分からなかっただろう。私は悪くない、と思う。

 あれからユリウスとは非常に仲が良くなり、まるで姉妹のような関係になっている。もちろん私が手のかかる妹役である。
 秘密にしようね、とは言ったものの、さすがにたびたび二人で会っているとごまかしが利かなくなってきた。

 そこで、フィル王子と親しい関係であることに定評のある私が、勇気を持って王子に告げたのだ。もちろんその場にはルークもいた。
 ユリウスの秘密を知った二人の表情は、それはもう安らかなものであった。

 先ほどまでの青筋を立てた顔がウソのように、「初めから知っていましたが何か?」みたいな仏のような顔になったときは、あまりの変わりようにあきれたものだ。

 そうして二人にカミングアウトした結果、「やはり公表すべきだ」ということになった。この頃にはユリウスの覚悟も決まっていたようで、

「親から勘当されたら、イザベラ様のところでお世話になります」

 とハッキリと告げた。まあ、ウチは没落フラグを回避した公爵だし、一人くらい増えたところで余裕で面倒を見られるだろう。そんな軽い気持ちで「うん、いいよー」と告げると、もう隠す必要がなくなったユリウスが歓喜のあまり抱きついてきた。

 ルークとフィル王子もユリウスが女の子だと分かったことで文句を言わなくなったし、これで良かったのだろう。

 そうしてカミングアウトしたのだが、ユリウスは勘当されることはなかった。それどころか、わずかにいた女性騎士たちから、「希望の星」と呼ばれているようになっていた。本人も満更でもなさそうで、

「イザベラ様に相談して良かった」

 と喜んでいた。それに対して私は、喜んで良いのやら、悪いのやら、微妙な感じだった。あのときの「秘密の共有」さえなければ、もっと違う道に進んでいたかも知れない。

 間違いなく言えることは、「また一つ、大事な破滅フラグを折ってしまった」と言うことである。大丈夫かな、これ……。


「あ、あれはもしかして……」
「どうしたのですか、イザベラ様? ああ、あの背中の曲がり具合はローレンツですね。ローレンツ・クラネルト。彼の父親は優秀な文官のようでして、父上がお世話になっているのですよ。その都合で、私の家に何度か来たことがあるのですよ」
「そうなのね」

 私の隣で護衛役を務めているユリウスが、私が偶然見かけた攻略対象のローレンツについて説明を付け加えてくれた。
 最近では、お城に出かけたときはユリウスが護衛としてつくことになっている。

 ルークも、もう十三歳。しっかりと勉強して、未来の公爵になるべく備えなければならないのだ。お母様はユリウスという新しい監視役を見つけられたことを大層喜んでいた。
 対してルークは血の涙を流していたが。

「おーい、ローレンツ!」

 気を利かせてくれたのか、ユリウスがローレンツを呼びつけた。
 うわちょっとやばい。まだどう接するか考えてないのよ。優しくしてもダメ、意地悪しようとしてもダメ。
 押してもダメ、引いてもダメ。一体どうすりゃいいのよ。

 そうか、関わらなければいいのよ。天才だわ。私!

「ユリウス、どうしたんだい? そちらのご令嬢は?」

 うわやばい。回避するまでもなく、フラグが向こうからやってきた。いや、この場合はユリウスがフラグを呼び寄せたと言うべきか。私は悪くないぞー、多分。

「こちらは僕の、いや私の親友のイザベラ様だよ」

 いや、おい。そうだけど、そうじゃない。それでも私はそのことについて一切表情を変えずに挨拶を返した。ここでペースを乱してはならない。取りあえず、今は自分が優位に立てるように振る舞わなければ。

「お初にお目にかかります。イザベラ・ランドールですわ」

 私の淑女の礼に、ローレンツの顔色が真っ青に変わった。それはそうだ。平民に毛が生えた程度の身分であるローレンツにとっては、私は雲の上の存在である。
 フッフッフ、控えおろう。頭が高いぞよ。

「こ、これは申し訳ありません。ローレンツ・クラネルトです」

 ローレンツがこれでもかと腰を曲げて挨拶を返してきた。これよ、これ。これこそが私が求めていた悪役令嬢の姿だわ。やりましたよ、神様!
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