上 下
11 / 48

動き出す運命の歯車

しおりを挟む
 その後も色々と頑張ったが、やっぱりランドール公爵家の財政破綻は無理でした。てへっ。
 それどころか、お母様が手腕を発揮し始めて、みるみる財政状況が良くなっていくランドール公爵家。どうやら領地を治めているジョナサンを、曾祖父の養子として強引に縁組みして権力を持たせたらしい。って言うか、すでにお亡くなりになっているのにどうやって縁組みしたことやら。お母様に聞くのが怖いわ。知らぬが仏。

 ジョナサンに手紙を送ったら、「お嬢様のために頑張っております」という主旨の元気な手紙が届いたわ。これはもうダメね。終わったわ。
 これではもう、公爵家が力を取り戻すことにあらがうことはできないだろう。

 ランドール公爵家の破綻フラグを立てるのはあきらめる。でも決して逃げるわけではないわ。戦術的な撤退よ。私には他にもやるべきことがあるのだから。

 そんなすったもんだがありながらも、私はようやく八歳の年齢に到達した。待っていたわ、このときを!
 イザベラが八歳になってからが本当の勝負よ。これからイザベラだけでなく、攻略対象たちの運命が大きく動き出すのだ。

 今までに関わることができた破滅フラグは、せいぜい「攻略対象のルークと険悪な関係になる」ことか、「ランドール公爵家を財政破綻に追い込む」かの二択しかなかった。
 だが、これからは違う。

 八歳になってからはルーク以外の攻略対象たちと関わることができるようになるのだ。素晴らしい、実に素晴らしい!
 
 え? ルークとの関係は険悪になったのか、だって? なるわけないじゃん! 余計にシスコンをこじらせてるわよ!
 ルークの部屋ではなく、「私も自分の部屋が欲しい」と言ったときのルークの顔を見せてあげたかったわ。あれはひどかった。百年の恋も冷めそうだったわ。

 涙と鼻水でグジョグジョになった顔を私の服につけられそうになり、それを華麗に回避してお父様になすりつけたあの日のことを昨日のように思い出すわ。
 こんなこともあろうかと、身代わりを隣に置いていて正解だったわ。

 こうしてようやく自分の部屋をゲットしても、毎日のように私の部屋にやってくるルーク。意味ないじゃん……。
 頭の中に残っている情報と、今の周囲の状態を一人で「破滅フラグ建築のためのマル秘ノート」に書き出したいのよ。そうでもしないと、破滅フラグを不死鳥のごとく再生できないわ。

 それでなくても、すでにいくつかやらかしてると言うのに。これ以上は本当に良くない。運命の歯車がかみ合わなくなってしまうわ。それだけは阻止しなくては。だって、この世界の運命がかかっているのだものね。


 兄であるルークを何とか追い払い、ようやく一人で机につくことができた。それではさっそく、攻略対象たちの情報を整理しよう。

 まずは王道、ここギネス王国の王子様であるフィリップ・コーリー・ギネス。
 フィリップの性格を一言で言うとヘタレ。国王陛下がものすごく優秀であるため良く比較される。そして悪いことに、フィリップは国王陛下ほど優秀ではないのだ。

 もちろん、王としての素質がないわけではない。現在の国王陛下が完璧パーペキ超人すぎるのだ。さらに付け加えれば、国王陛下を支える家臣もどれもこれも優秀なのである。付け入るすきがないのだ。

 ちなみに私のお父様も国王陛下を支える家臣の一人である。お父様が以前、友を見捨てるわけにはうんぬん、かんぬん言っていたが、実は支えてくれる友はたくさんいるのだ。

 いつの日だったか、しびれを切らしたお母様が「あなたの代わりは国王陛下のそばにたくさんいるわ」と言ったら、ものすごい勢いでしょげかえっていた。
 それからだ。お母様がお父様のことをあきらめて、ジョナサンを曾祖父の養子にするべく暗躍し始めたのは。結果としてランドール公爵領は持ち直したが、私としては大誤算だった。

 話を戻そう。そんなわけで豆腐メンタルの弱々王子になったフィリップは、常に劣等感を抱いたままオドオドしながら生活を送っているはずだ。
 うん。冷静に考えると、何だか、かわいそうになってきたわ。

 お次はギネス王国騎士団の総隊長の子供、ユリウス・シャフラーネク。次期騎士団長として期待されているが、この子には大きな秘密が隠されている。
 実はこの子、女の子なのだ。

 うん。何を言っているか分からないよね。私も分からなくなってきたわ。見た目はりりしい騎士なので、好感度が高くなるまでは実は自分が女の子であるという秘密が明かされない。
 
 このゲーム自体は男の攻略対象を落とすゲームなのだが、どうやら百合方面でも対応できるように設計したらしい。きっと需要があったからこそ、そのような対応をしたのだろう。

 彼女、いや彼の正体を知っている私は、一体どんな顔をして彼に会えば良いのだろうか。だれか教えて欲しい。男の子として接する? それとも女の子として? いやいや、そこは男の娘かも知れないぞ。とにかく困った。

 あとは、お城に使える宮廷魔術師の息子。父親は何とか宮廷魔術師になれるくらいのギリギリの能力しか持っていない。そしてそんな父親でも採用された理由は事務処理が非常に優秀だったからである。

 そう。採用された理由は魔法の才能ではなく、事務処理の才能なのだ。よって、その息子であるローレンツ・クラネルトは出来損ないの息子として、いつも王宮でからかわれているのだ。

 そしていつの日か、そいつらを見返してやろうと思っている、のだが。
 何とこのローレンツ君も魔法の才能がないのだ。いや、あるにはあるのだ。ただし、他の魔法使いとは別ベクトルの魔法の才能なのだ。

 諸君もお気づきだろう。このローレンツ君の得意な魔法は「身体強化」である。魔法で己の肉体を鋼に変えて、物理で殴るのが彼の戦いかたなのだ。
 脳筋魔法使い。それが彼の二つ名である。ちなみに髪型は普通だ。パイナップルではない。

 こう考えて見ると、色々とひどいゲームだな。それじゃ、なぜそんなゲームに人気があるのかと言うと、ダメなキャラクターが少しずつ育って、才能を発揮するところが人気になっているのである。

 最終的には豆腐王子も、男装騎士も、脳筋魔法使いも、立派な国王、立派な騎士団長、立派な王国筆頭魔術師になるのだ。
 そこがグッとくるポイント。一緒に努力をするその共感性が非常に人気があったのだ。

 そうそう、忘れるところだった。あと一人、攻略対象がいるんだった。
 それはヒロインの幼なじみの男の子。平民出身から、勇者にまで上り詰めるレオナール君。
 彼はヒロインの家の隣に住んでいて、昔からヒロインとは仲良しの人物である。クセの強い王宮組とは違い、素直で良い子だ。もちろん、それゆえに人気も高かった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

悪役令嬢エリザベート物語

kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ 公爵令嬢である。 前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。 ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。 父はアフレイド・ノイズ公爵。 ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。 魔法騎士団の総団長でもある。 母はマーガレット。 隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。 兄の名前はリアム。  前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。 そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。 王太子と婚約なんてするものか。 国外追放になどなるものか。 乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。 私は人生をあきらめない。 エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。 ⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

凶器は透明な優しさ

恋愛
入社5年目の岩倉紗希は、新卒の女の子である姫野香代の教育担当に選ばれる。 初めての後輩に戸惑いつつも、姫野さんとは良好な先輩後輩の関係を築いていけている ・・・そう思っていたのは岩倉紗希だけであった。 姫野の思いは岩倉の思いとは全く異なり 2人の思いの違いが徐々に大きくなり・・・ そして心を殺された

【完結】異世界転生した先は断罪イベント五秒前!

春風悠里
恋愛
乙女ゲームの世界に転生したと思ったら、まさかの悪役令嬢で断罪イベント直前! さて、どうやって切り抜けようか? (全6話で完結) ※一般的なざまぁではありません ※他サイト様にも掲載中

悪役令嬢は婚約破棄したいのに王子から溺愛されています。

白雪みなと
恋愛
この世界は乙女ゲームであると気づいた悪役令嬢ポジションのクリスタル・フェアリィ。 筋書き通りにやらないとどうなるか分かったもんじゃない。それに、貴族社会で生きていける気もしない。 ということで、悪役令嬢として候補に嫌われ、国外追放されるよう頑張るのだったが……。 王子さま、なぜ私を溺愛してらっしゃるのですか?

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...