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クラブ活動①

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 学園生活にも慣れてきた頃、新一年に新たな課題が加わった。
「クラブ活動はどれになさいますか?」
「そうですね。気になるのはやはり、魔道具作成クラブ、ですかね?」
 学園ではどの生徒も漏れなく何かしらのクラブに所属する必要がある。これは将来の仕事に対する心構えや、仕事上の上下関係を学んでもらうという側面を持っている。また、趣味を持っていない生徒はこの機会に視野を広げようという試みでもあるようだ。
「それでは、私もシリウス様と同じにしますわ」
 クリスティアナ様はさも当然とばかりに言っているが、俺としては自分の好きなことをやってもらいたいと思う。
 そう言ったら、クリスティアナ様は「シリウス様の隣にいることが一番やりたいことですわ」と顔を赤く染め上げながら言った。さすがにそこまで言われると、それ以上は何も言えなくなった。それならば、せめてクリスティアナ様が退屈しないように、面白い魔道具を作るだけだ。
 思わずニヤリとしていると、
「クリピー、シリウスを止めた方がいいんじゃない? また絶対、変な物も作るよ?」
「そ、そうかも知れませんわね。シリウス様、ほどほどの物でお願いしますね」
 ほどほどってなんだ、ほどほどって! それが分かれば苦労がない。

「ここが魔道具作成クラブの本拠地ね!」
 本拠地以外の場所があるのかは知らないが、フェオが得意げに言った。
 魔道具作成クラブが活動している部屋に入ると、当然のことながら注目を集めた。
「な、なんだ? もしかして、妖精なのか?」
「可愛い! 初めて見たわ!」
「おい、あれ、王女殿下じゃないか?」
「じゃあ、隣にいるのはガーネット公爵の・・・」
 ウンウン、予想通り、色々なことを言われているな。
 見た感じだと、どうやらクラブ活動は初等部の全学年、全クラスが共通となって所属することになっているようであり、上級生だけでなく、子爵や男爵のクラスの子も所属しているようである。だが見た感じ、それほど人数はいないようだ。人気がないのかな? これはこれで好都合だけどね。
「魔道具作成クラブへようこそ。このクラブの部長をしているフランよ。このクラブに入部でいいのかしら?」
 素晴らしい胸をお持ちのフラン部長が聞いてきた。その目は品定めするように俺達を見ていた。
 それもそうか。クラブにいきなり身分の高い人が二人も入って来たら、これまで築き上げてきたクラブの雰囲気が壊れてしまうかも知れないからね。仕方ないね。
「はい。シリウスです。よろしくお願いします、フラン部長」
「クリスティアナですわ。よろしくお願いいたしますわ、フラン部長」
「あ、ああ、よろしくな」
 体は間違いなく女の子なのに、何だか男っぽい口調のフラン部長が少し戸惑った様子で了承してきた。
「それで、そっちの子は?」
 フラン部長が指差したのはエクスだ。フェオが生徒ではないのはすぐに分かるとして、今のエクスはクリスティアナ様と同じ制服を着ているんだった。
「この子はエクスです。私の所有する聖剣なので、この学園の生徒ではないです」
「せ、聖剣だってー! じゃ、じゃあ、ちょっと前に噂になった聖王様って、君のことなの!?」
 辺りが一段と騒がしくなった。もう聖王認定されているのか。思ったらよりも早かったな・・・。

 魔道具作成クラブに入ってからは、学園生活が更に楽しい日々になっていた。もちろん友達もできた。もう俺はボッチじゃないのだ。
「フフフ、見た前、ロニー君。これは透視できる素晴らしい眼鏡なのだよ」
「な、何だってー!」
 我が友、ロニー君は子爵の息子だ。同じクラブに所属している仲である。
 クラブ活動は学園での授業と違って、身分の差をなくし、皆平等を掲げている。
 普段の授業のクラスでは一貴族としての嗜みを、放課後のクラブでは、将来働くようになってからの人間関係の構築とその在り方を教えていた。
 働くようになると、身分の差よりも職場での地位の方が重要になってくる。仕事も身分の違う者達が協力しないとやっていけないことの方が多い。そのため、クラブ活動の時はみんなが同じ身分になるのだ。クラブ活動への参加が絶対になっている理由がここにもあった。
「では早速これで・・・痛っ! あ、ちょっと!」
「これは没収だ、シリウス君」
「ぶ、部長ー! 男の夢が」
「そんなものいらないから捨てて来なさい」
 頭を叩かれ、せっかくの発明品をフラン部長に取り上げられた上に、汚物を見るような目で、フラン部長、クリスティアナ様、クリスティアナ様の友達のローラ様が見ていた。
「ほんと、懲りないですね、貴方達は」
 呆れた口調でルイスが言った。だが、完成すれば、ルイスも使いたかったに違いない。だって作っているのを知っていて、黙っていたからね。このムッツリさんめ!
「シリウス様、どうしてそっちの方面に進むのですか」
「シリウスがエッチなのはクリピーも知ってるでしょう? 本能よ、本能」
 仕方ないね、と理解を示してくれるフェオ。部長もこのくらいの余裕があればいいのに。ほんと、真面目だな。
「いいですか、クリスティアナ様。この魔道具が完成すれば、体を切ることなく体の内部を調べることができるのですよ。それは骨折しているかを調べたり、体内に異物が入っていないかを調べたり、臓器が損傷していないかを知ることもできるのですよ。それに宝箱に罠がないかや、遺跡を傷付けずに内部を探ることもできるかも知れない。そんな夢が詰まったアイテムなんですよ!」
「まあ、そうでしたのね。さすが・・・」
「騙されてはいけませんわ、クリスティアナさん。その前に私達の服を透かして、裸を見る気であることは明白ですわ」
 再び汚物を見るような目で俺達を見るクリスティアナ様。どうやら部長のせいで上手く誤魔化しきれなかったようだ。残念無念。
「そんな物使わなくたって、いつでもクリピーの裸くらい見れるじゃない。だっていつも一緒にお・・・むぐっ!」
 俺は慌ててフェオの口を人差し指で塞いだ。気まずい沈黙がその場に落ちる。部長が何か言いたそうに口をパクパクさせている。
 うん、そうなんだ。未だにクリスティアナ様も含めた4人で一緒にお風呂に入り、4人で一緒に同じベッドに寝ているのだ。教育上あまりよろしくないのは承知しているが、もう家族同然だし、別に今さらいいよね? と開き直っている。
「シリウス君、君、もしかして・・・」
 それ以上はダメだ、ロニー!
「そんなことよりも、これを見て。今年の学園祭の通達が学園長から来たわ。今年こそ、みんなをあっと言わせる魔道具を作るのよ!」
 部長が怪しい雰囲気の空気を引き裂いて、学園祭についての話題を持ち出した。さすがは部長。空気を良く読んでいらっしゃる。
 学園祭は二年に一度開催されるクラブ活動の成果を披露する祭典だ。この学園祭は、同じく二年に一度開催される、他の学園と合同開催される武道大会と交互に行われている。
 フラン部長は初等部三年生。来年からは中等部へと進学する。そのため、初等部最後の締めくくりとしてかなり気合いが入っているようだ。他の先輩達も同様に張り切っている様子。俺達はそれを邪魔しないように大人しくしておこうと思っていたのだが・・・。
「そういうわけで、何がいいかしら? 何かプラン持ちはいないかしら?」
 丸投げだった。それでいいのか。ロニーがサッと手を上げる。
「さっきのシリウス君の魔道具を展示しましょう! きっと注目を集めますよ」
「却下よ、却下。魔道具作成クラブに末代までの恥を残すつもり?」
 部長に拳骨を落とされるロニー。小柄なフラン部長のどこにそんな力が? と思うほどのパワフルな拳骨であった。ロニーは頭を押さえたまま悶絶していた。
「とは言ったものの、画期的と言えば画期的なのよね、これ」
 そう言いながら部長は件の眼鏡をかけた。いけません!
「っつ! 何よこれ! 本当に服だけ透けてるじゃない!」
 バキャッ!! フラン部長は眼鏡を握り潰した。
 盛大な音を立てて、スケスケ眼鏡はバラバラに砕け散った。何ということを! 男達のロマンが! ほら、先輩方も、ああっ! って顔をしてるじゃない。
「シリウス君? 貴方ねぇ・・・。何でこの才能をもっと別のことに使わないのよ」
「私もそう思いますわ」
 クリスティアナ様が遠い目をして言った。

「新しい魔道具ねぇ。それって今から作るものなのですか? もっと前から準備しておくものじゃないですかね?」
「そうなんだけれど、それをしちゃうとみんなそれだけをすることになってしまうわ。私が先輩から引き継いだモットーは、自由な発想、自由な作成なのよ。だから普段は何でも好きに作ってもらいたいわけ」
「それじゃあ、今までの学園祭はどうしていたんですか?」
「それはね、二年間の間に作った作品を展示していたのよ。でもそう簡単に新しい魔道具を作ることはできなくてね、どうしても既存の魔道具の改良程度で終わってしまうのよ。だからあんまり目立たなくて、入部する人も少ないし、出ていく人の方が多いのよ」
 悲しそうに目を伏せた。確かに新しい魔道具なんてそうポンポンとは作れないな。それに学園の方針で、生徒はいつでも他のクラブへ移れるようになっている。つまらない、と思われたら、そのクラブに人はいなくなるのだ。
 なるほど、それはちょっと困ることになりそうだ。このクラブが無くなるのは困るな。せめて俺が所属している間くらいは持たせないと。
「部長、みんなで新しい魔道具の案を出し合いましょう。今だけはみんなで1つの物を作ってもいいんじゃないですか?」
 見回すと、みんなウンウンと頷いている。どうやら心は1つのようだ。
「シリウス君・・・そうだね、みんなでとっておきの魔道具を作成しよう!」
 決意を新たに、俺達は動き出した。
「それでは諸君、何かこれぞという案はないかね?」
 さっきのロニーの案は無事になかったことにされたようだ。泣くなロニー、また作って・・・は無理だな。こちらを半眼で睨むクリスティアナ様を見て諦めた。
「日常生活で必要な物はほとんど作られていますからね。既存の製品に画期的な改良を加えるにしても、あの光の量を調整できるランプくらいのインパクトがないと、注目は集まらないでしょうね」
 部員の誰かが言った。確かにあれは凄い革命的な改良だったと周囲がざわめいた。そんなに噂になっていたとか、知らなかった。
「シリウスが作ったランプってそんなに噂になってたのね。シリウスが何も言わないから、大したことないのかと思ってたわ」
「まあ、フェオ。それは貴女が知らなかっただけですわ。あのランプは大ヒット商品になって、今では全家庭で使われていますのよ。お城のランプも全てシリウス様が作ったランプに置き換わっていますわ」
 部員の目がザッとこちらを向いた。フレンドリーファイアが俺に突き刺さる。完全に注目の的である。
「あのランプはシリウス君が発明したの?」
「そうよ、知らなかったの? シリウスはね、あの商会の商会長なのよ!」
 偉そうにフェオが胸を張って言った。何でいつも君は俺の代わりに偉そうなのかね?
「ええ! ラファエル商会の商会長なの!? あの画期的な商品を次々と生み出しているラファエル商会の!?」
 大事なことなので二回言ったフラン部長を見て、思わず顔が引き吊った。何だろう、この希望の星を見るような目は。さては俺に丸投げするつもりだな?
「それじゃあ決まりね。シリウス君に案を出してもらいましょう!」
 丸投げである。まあ、作ってみたいと思っている魔道具があるので、それでもいいか。
「分かりました。では、1つ作ってみたい魔道具があるのですよ。もちろん完成するかどうかは分からないのですが、本を複製する魔道具を作りたいと思っているのですよ」
「本を複製? 一体どうやって?」
「構想としては、まず銅板に凹凸をつけたものを用意します。次にその凹凸にインクをつけて、紙を擦りつけることで複製します」
「なるほど。その凹凸部分が文字になっているということなのね?」
「そうです」
 なるほど、とか、そんなことが本当にできるのか? と言った声が上がっている。だが、その新しい技術に誰もが目を輝かせた。
「よし、考えていても仕方がないね。早速試してみよう。さあさあ、みんな動いて動いて!」
 部長の掛け声によりみんなが一斉に動き出す。ある者は銅板を取りに、ある者は凹凸をつけるための先の尖った道具を取りに、紙を取りに、インクを取りに、心を1つに動き出す。
「よしよし、道具は揃ったね。じゃあ試しにやってみようか」
 銅板に文字を彫る作業に最初は手間取ったが、みんな器用なのか、すぐにそれなりの形になって出来上がった。
 すぐに試し刷りしてみると、見事に文字が浮かび上がった。初めてなので所々擦れた箇所があったが、概ね成功だった。
「本当にできたわ! 凄いわよ、これ」
 フラン部長が興奮して叫んだ。他の部員もマジか、と騒いでいる。クリスティアナ様も嬉しそうに俺の腕をギュッと掴んだ。でもまだ初めの一歩。大変なのはこれからだろう。
「よ~し、それじゃあこれを魔道具にするわよ!」
 オー! と掛け声を上げ、我ら魔道具作成クラブは動き出した。
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