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淑女としての嗜み

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「エクス、淑女として、下着を着なければなりませんわ」
 宿に戻り、早速始まったクリスティアナ様による下着講座。男の俺には手にあまるので、クリスティアナ様にお願いしたのだ。
「下着?」
「そう、下着ですわ」
「どんなの?」
「ど、どんなのと言われましても・・・」
 早くも窮地に立たされるクリスティアナ様。早いよ! 事前に実物を目の前に用意しておかないと、飛んでもないことになりますよ!
「こんなのだよ! それ!」
 そう言うと、フェオがクリスティアナ様の服を魔法でひんむいた。あっという間にクリスティアナ様は下着姿になった。ほら、言わんこっちゃない。
「キ、キャーッ! いきなり何をするのですか、フェオ!」
 慌てて両手で隠しているが、その方がいやらしく見えることには気がついていないようだ。どうやら今回は下着までは脱がされずに済んだらしい。
「だって、実物を見せた方が早いかなって」
「それはそうですけども、そうですけれども! 私にも心の準備と言うものがありますわ!」
 予備の下着を見せればいいだけなので、別にクリスティアナ様が脱ぐ必要はないとは思うのだが、そのことには気がついていない様子。言うべきか、黙っておくべきか。
 あ、フェオを見るピーちゃんの目が鋭くなっている。これ以上関わると、こちらも睨まれそうだ。黙っておこう。ピーちゃん怖い。
 フェオのイタズラについて諦めたのか、クリスティアナ様が一つ大きなため息を吐いた。
 そして、気を取り直して、再びエクスに説明を始めた。
「このように服の下に着るものですわ。そうですわね、触ってみますか?」
「うん、触ってみる」
 クリスティアナ様は実物を触らせて、エクスに覚えさせるつもりのようだ。ベッドの上で絡み合う二人が、何だかいけない感じになってきている気がする。いやらしい。
「あっ、エ、エクス、ちょっとま、ひゃあん!」
 目の前でエクスがクリスティアナ様の胸を揉み出している。これは止めた方がいいのかな? だんだんとクリスティアナ様の下着が捲れ上がってきたので止めておこう。
「エクス、そのくらいにしておきなさい」
 ベリッとクリスティアナ様に引っ付いているエクスを引き剥がした。クリスティアナ様はハァハァと肩で息をしている。なんか、厄介ことを押しつけてごめん。
「え~、もうちょっとでクリピーのおっぱいがこぼれ落ちるところだったのに、止めちゃうの~?」
  それを聞いたクリスティアナ様が赤い顔をして急いで下着を正した。キッと睨まれる俺。何で俺だけ・・・。
「エ、エクス、再現できそうかな?」
「やってみる」
 エクスの服はフェオと同じように魔力で構成されている。すなわち、エクスのイメージによって自由自在に作ることができるのだ。そのため、エクスがイメージし易いようにと、クリスティアナ様が体を張ってくれているのだ。
 今思ったが、一国の王女殿下にやらせていい案件ではないな。まあ、志願したのは本人だけど。
 エクスは口を真一文字に結び、いつになく真剣な表情をしている。
 変化はすぐに起きた。エクスの着ている服がだんだんと透明に透けていく。そして・・・エクスは全裸になった。え? 何で全裸なの? ていうか、凄い綺麗だ。そう、その姿はまるで天使!
「ち、ちょっとエクスー!」
 慌ててクリスティアナ様が全裸のエクスを俺の視線から隠した。
「何しっかりと見てんのよ!」
 エクスをガン見していた俺の顔にフェオがベタっと張り付いた。ま、前が見えねぇ。
「そんなこと言われたって、そんなことになるとは思わなかったんだよ!」
「言い訳しない! も~、エクス、何考えてるのよ」
「ごめんなさい。でもちゃんと考えたつもり」
「そうなのですわね。フェオ、服の再現はそんなに難しいのですか?」
「う~ん、それがあたしは感覚でやってるから、よく分からないんだよね。エクスの考え過ぎなんじゃない? もっとリラックスしてやってみたらどうかな?」
「うん。やってみる」
 そう言って何度も試したようだが、上手くいかない様子だった。フェオがくっついたままだったので、俺は何も見えなかったのだが。
 しかし、くっついたフェオからは小さいながらも確かな柔らかさを感じる。匂いも何だか、花のような香りがする。
「フェオ」
「なによぅ」
「妖精はみんな花のような香りがするのか?」
「ち、ちょっと、何あたしの匂いを嗅いでいるのよ!」
 フェオがパッと顔から離れた。
 エクスはまだ全裸のままだった。

「なるほど、元の服も再現できなくなった、と」
「そうですわ」
 俺は今、クリスティアナ様に後ろから目隠しをされた状態だ。前が見えないが、前方には相変わらずに全裸のエクスがいるはずた。
「それは困りましたね」
「困りましたわ」
 二人で頭を抱えていた。最悪、エクスにずっと腕輪型になってもらっておけばいいのだが、何だかそれはそれで可哀想である。
【僭越ながら、我が主よ。主とエクス殿は私と同じように魔力の深奥で繋がっております。ならば、主がイメージを送り、エクス殿がそれを再現すれば良いのではありませんか?】
「そんなことできるの?」
【理論上は可能です。私が主の強いイメージで、何にでも変化できるのと同じ原理です】
 ほう、それじゃあクリスティアナ様をイメージすれば、クロはクリスティアナ様に変化できるということか。これなら事前に色々と練習することが・・・でも男同士は嫌だな。
「シリウス、クロにクリピーに化けてもらって、エッチなことしようと考えてない?」
「男同士でするのはちょっと・・・」
「シリウス様? そんな不埒なことを考えていらっしゃったのですか?」
 う、クリスティアナ様の声が怖い! あと、指が目に食い込んでるから!
「そんなことありませんよ! 生身のクリスティアナ様が一番ですから!」
 自分でもわけの分からないことを言っていたが、それ以上の追及がなかったからセーフなのかな?
 とりあえずはクロに従って、エクスの服の再現をやってみたいと思う。
「どうしたの、クリピー? 茹で蛸みたいに真っ赤だよ? あ! シリウスにエッチなことしてもらいたかったんだー!」
 なんですと! いつでもいいですとも!
「ちちち違いますわ! 気のせいですわ!」
 凄い焦ってる。説得力がな・・・。
「い、痛い! クリスティアナ様! 目が、目がー!!」
「わわわ! ごめんなさい!」
 慌ててクリスティアナ様が指の力を抜いてくれた。危うく目がくり貫かれるところだった。この状態で冗談を言うのは止めた方がいいな。
 ひと悶着あったが、俺はベッドに移動し、エクスと向かい合っているはずである。相変わらずクリスティアナ様に目を塞がれているので、なんにも見えないのだが。
 俺のイメージを伝え易いように、エクスと手を繋いだ。目の前で、天使のような全裸の女の子と手を繋いでいる状況を想像すると、ドキドキしてきた。いかん、変なイメージがエクスに伝わらないように、気をつけないと。
「それじゃいくよ、エクス」
「うん。きて」
 何だこのいやらしい会話は! 集中、集中!
「んっ、マスターのが入ってくる」
 いやいやエクスさん!? 君、わざと言ってないよね? 入ってくるのは俺のイメージのことだよね? ちゃんと主語を言わないと誤解されるからね? ちょ、痛い痛い、目が!
 そのとき、エクスの周りの魔力が動く気配がした。これはきっと、エクスの服が形作られているということだろう。どうやら上手く行ったみたいだ。
「うひょ~!」
「な、何てハレンチな!」
「完璧に再現した」
 え? 何? 何をエクスは再現したの? 凄い気になる!
 驚愕したであろうクリスティアナ様は、俺の目を塞いでいた手を思わず自分の口元に移動させていた。そのお陰で視界が開けた。
 俺の目に映ったのは――黒のスケスケのランジェリーを身に着けたエクスの姿だった。この世界にはまだないブラジャーを着けており、今にもブラジャーからエクスのおっぱいがこぼれ落ちそうだった。パンティーも、もうこれ見えてるんじゃないかと思うほど、布の面積が小さい。
 思わず呆気に取られて見ていると、
「どう、マスター? 気に入ってくれた?」
 そう言ってエクスは立ち上がり、俺の目の前でゆっくりと一回転した。後ろはTバックで、ほぼ生尻しか見えていない。
 俺またなんかやっちゃいましたー!?
「シリウス様ー! 一体どんなイメージをなさったのですか!」
 クリスティアナ様が再び指で目を塞いできた。痛い痛い! 目が、目がー!!
「ど、どんなって、ちゃんと色気がないクリスティアナ様の下着をイメージしましたよ!」
「色気がない・・・」
 うわ、やっべ、地雷踏んだわ。クリスティアナ様の声がマジ半端ない。俺、死んだわ。
 クリスティアナ様の手が俺の顔から離れ、視界が開けた。
「あの、クリスティアナ様?」
「・・・」
 そのあとは無事にエクスのワンピースも再現され、下着の色は黒ではなく、白にしてもらった。だがしかし、エクスが気に入ったのか、下着はさっきのスケスケランジェリーのままだった。

 明くる日の晩。
 俺達はいつものように、同じベッドで眠りに就こうとしていた。なぜかソワソワしている様子のクリスティアナ様を不審に思いながら、ベッドに寝転んだ。
「冬になりつつあるとは言え、この辺りはまだ夜でも暑いですわね。ねぇ、シリウス様?」
 ベッドに入った俺に向かって、クリスティアナ様が話しかけてくる。
「そうですかね? 確かに王都よりかは暑いかも知れませんが、言うほど暑くはないかと」
「そんなことはありませんわ。とっても暑いですわ」
 そう言いつつ、クリスティアナ様は着ていた寝間着を脱ぎ始めた。
「ち、ちょっとクリスティアナ様、何をやって・・・」
 俺が言い終わらないうちに寝間着を脱ぎ捨てたクリスティアナ様。
 寝間着の下には、なんとエクスが着ているランジェリーの色違い、赤色のスケスケランジェリーを着ていた。
 透け具合も完全に再現されているようであり、この感じだと、パンティーの後ろも再現されているのは間違いないだろう。
 ドキドキと胸が高鳴っている俺を他所に、クリスティアナ様が俺の隣に滑り込んできた。
「これでもう色気がないだなんて、言わせませんわ」
 耳元でクリスティアナ様が熱い息を吹きかけてきた。
 いや、あれはクリスティアナ様に色気がない、と言ったわけではなく、クリスティアナ様の身につけていた下着が色気がない、と言ったつもりだったのだが、どうやらクリスティアナ様は盛大に勘違いしているようだ。
 勘違いを正さねば、と言葉を発しようとしたちょうどそのとき、
「マスター、私も暑いから、脱ぐ」
 そしてエクスもワンピースを脱ぎ捨てた。ワンピースの下にはもちろん、白色のスケスケランジェリー。陸にあがった魚のように口をパクパクさせる俺を他所に、俺の隣に滑り込んできた。
 え、何、この状態で寝るの!? 無理じゃね?
 くっ、鎮まれ、鎮まれ俺の豆柴!
 半分立ち上がっている豆柴を何度もお座りさせながら、夜は更けていった。
 この状況で誰か来たら終わるな。国王陛下にバレたらと思うと、嫌な汗が出てきた。
 どうしてこうなった。
 ちなみにクリスティアナ様が作らせたランジェリーはあっさりお母様に見つかり、すぐに量産され、販売されることになった。お父様曰く「あれはとても良い物だ」とのことである。近いうちに妹か弟が増えるかも知れない。
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