上 下
49 / 99

オプション、つけます

しおりを挟む
「今日は馬車にオプションをつけようと思います」
 パチパチパチパチ。商会の人達からの拍手が聞こえる。
「唐突にいきなりどうしたの?ママンと一緒だったんで興奮して眠れなかった?」
 首を傾げて聞いてきた。もしかしたらフェオに悪気はないのかもしれない。一言物申したいのをグッと我慢して話を続けた。
「違うよ、フェオ。ちゃんと良く眠れたから。馬車は人を乗せるだけじゃなくて物も載せるだろう?それで、もっと新鮮な状態で、食べ物を遠くまで運べるようにしようと思ってさ」
 思いついたアイデアを話すと、なるほど確かに、と商会の人達は納得していた。しかし、どうやって?という疑問符もついていた。
「分かりましたわ!冷蔵庫ですわね。あれならば冷たい状態を長時間維持することができますわ。そうしたら、王都でもあの美味しいプリンが食べられるようになりますのね!」
「え?本当!?やったー!早く造ろうよ、ヤバいやつ!」
 いや、今回造ろうとしているのは既存の技術の応用だし、ヤバいものはできないからね。クリスティアナ様もフェオも喜んでいるみたいだし、まあいいか。
「とても素晴らしいお考えだと思いますが、冷蔵庫の技術は王都で最も大きな商会であるラファエル商会が所有しているのではありませんか?大丈夫なのですか?」
 沸き立つ部屋の中で1人の商会員が言った。それもそうだと何人かの商会員が頷いている。
「それは何の問題ありませんわ。なぜならラファエル商会の商会長はシリウス様なのですから!」
 クリスティアナ様がまるで自分のことか如く、胸を張って、いわゆるドヤ顔で言った。
 まさかの展開に場は水を打ったかのように静まり返った。こちらを見る視線、静かな空間、まるで時が止まったかのようであり、大変居心地が悪かった。
「ほらほら、さっさと始めましょう。プリンをゲットして帰るんだからね」
 パンパンとフェオの打った柏手によって止まっていた時が動き出し、冷蔵馬車の作成が始まった。たまには役に立つな、フェオ。さっきのお義母様と一緒に寝ていることをさりげなく暴露した件については、今回は見逃してやろう。
 色々考えた結果、馬車の内部構造は二重扉にすることにした。奥の扉の部屋は小さめに作ってあり、その部屋は冷蔵と冷凍のどちらかを選択できるようにした。
 冷蔵よりも冷凍の方が魔力を消費するようなので、完全な冷凍馬車を造るのは難しかったが、このくらいの小部屋なら何とか大丈夫だろう。
 手前の大きめな部屋は冷蔵専用だ。各扉にはもちろんスライムパッキンがつけてあり、保温性は万全だ。木の板の隙間もしっかりと塞いである。
 だが問題もあった。この冷蔵冷凍馬車、重い。
「軽量化の魔方陣を組み込むべきかな?魔石を多く使うことになるけど、大丈夫かなぁ」
 ウンウンと唸っていると、それを聞いた商会員が、魔石はすぐ近くの山や森の魔物から採れるこで問題はないと言ってくれた。それならば軽量化の魔方陣も組み込むことにしよう。
 馬車に商品を入れ、冷蔵の魔方陣を発動すると、連動して軽量化の魔方陣が発動するようにすれば、馬車が軽くなりすぎて風に煽られることもないはずだ。
 ちなみに奥の小部屋の魔方陣は別で発動するようになっているので、手前の大部屋だけを冷蔵庫として使う、奥の小部屋だけを冷蔵庫または冷凍庫として使うなどと色々と切り替えることができ、便利でエコな仕様になっている。
 それにしても、魔石を集めるために危険な場所に踏み込まなければならないのか。たとえそれを生業にしているとしても、もう少し安全にならないだろうか。
 何か役に立つアイデアはないかな?まあ、今はその事は置いといて馬車を造るのに専念しよう。怪我をすることは分かっていてやってるはずだしね。
 こうして完成した馬車は、各地で作られた作物や特産品、魚や肉などを遠くまで運ぶことができるようになった。
 王都だけでなく、人里離れた場所でも新鮮な状態で食べ物を入手することができるようになった。この事は多くの商人を刺激したようであり、冷蔵冷凍馬車は随分先の予約まで一杯だそうだ。生産台数を増やすために、現在も施設の増設が急ピッチで行われている。
 後日、流通の改革に多大なる恩恵を寄与し、新しい娯楽を生み出したとして、子爵は伯爵へと爵位を上げた。こんなに上手く行くとは思わなかったが、概ね予想通りである。
 予想外だったのはラファエル商会から冷凍庫も作ってくれと言われたことだった。身から出た錆びなので、仕方がなく既存の冷蔵庫を改良し、上の扉を冷蔵庫、下の小さな扉を冷凍庫の二部屋のタイプにした。もちろん売れた。

 避暑地では競馬の開催準備や馬車の改良だけをしていたわけではない。王都から離れ、ガーネット公爵領とも違う外の世界も大いに楽しんだ。
 お義母様は着いて早々、俺のために準備していたという1頭の白い馬を紹介してくれた。金色の鬣が美しく、すぐに気に入って乗せてもらった。
 家では乗馬の練習もしていたので、問題なく乗ることができた。
「クリスティアナ様も一緒にどうですか?」
「あの、私はまだ馬に乗ることができなくってですね・・・」
 馬に乗るのが怖いのか若干腰が引けていた。それでも構わず、大丈夫ですよ、と言ってクリスティアナ様の腰をかっさらった。もちろん子供の手では届かないため、ムーブの魔法を使った。
 ひっ、という可愛い声をあげて横凪ぎに俺の前に納まるクリスティアナ様。そうそう、一度こういうシチュエーションをやってみたかったんだよね。夢が叶ってよかった。
 満足してカポカポとゆっくり馬を歩かせていると、クリスティアナ様はまだ慣れないのか、俺の裾をギュッと掴んだままである。
 落ちないように両手でしっかりと挟んでいるので大丈夫ですよ、と言うとようやく安心したのか、俺の腰に手を回した状態で落ち着いた。
 それはそれでいいんだけど、クリスティアナ様からいい匂いがする。何で女の子からはこんなにいい匂いがするのだろうか。
「フェオ、ちょっといいかな?」
「ん?なに?」
 近くまで飛んできたフェオをむんずと掴み、スンスンと匂いを嗅いでみた。
 うーん、クリスティアナ様とはまた違った爽やかないい香りがするな。ちなみにクリスティアナ様からはバラのような香りがした。
 ん?何かフェオを掴んでいる手が熱いような、
「熱っ!フェオ!?」
 そこには全身と着ている服を真っ赤に染め上げた火の妖精がいた。
「シ~リ~ウ~ス~?乙女に向かっていきなり何をするのよ!」
「乙女だったのか」
「コロス」
 あんなに怒ったフェオを見たのは最初で最後だった。俺はこの日、二度とフェオを怒らせまいと誓ったのだった。
 クリスティアナ様からは、デリカシーがない、と言われ、まるで汚物を見るような目でみられた。ごめんなさい。
 ちなみにエクスは無臭だった。まあ、今回は腕輪型の時だったので、今度、人型になった時に匂いを嗅いでみたいと思う。

 他にも子爵領自慢の大きな湖に、涼を求めて出掛けて行った。そこでは湖を一周する遊覧船に乗せてもらった。
「ああ、湖の上から見る景色は素晴らしいですわね。見てください、小島がありますわ。あそこには水の精霊が住んでいると言われておりますわ」
「ほんと、気持ちいい!あそこに精霊が居るの?何の気配も感じられないんだけど」
 フェオちゃんアイを使ったのか、何もないよと首を傾げていた。言われているだけだからね。実際はいないのかもしれない。
「留守にしているのかもね。ずっとあの小島の上だと、暇だろうしね。フェオだってそうだろう?」
「それもそうね。水の精霊は泳ぐのが大好きだからその辺を泳いでいるのかもね」
 眼下に広がる湖を見回してみたが、美しく澄んだ水、船が進んだ時に生じるさざ波以外は何もなく、日の光を反射しキラキラと水面が輝いているだけだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームに悪役転生な無自覚チートの異世界譚

水魔沙希
ファンタジー
モブに徹していた少年がなくなり、転生したら乙女ゲームの悪役になっていた。しかも、王族に生まれながらも、1歳の頃に誘拐され、王族に恨みを持つ少年に転生してしまったのだ! そんな運命なんてクソくらえだ!前世ではモブに徹していたんだから、この悪役かなりの高いスペックを持っているから、それを活用して、なんとか生き残って、前世ではできなかった事をやってやるんだ!! 最近よくある乙女ゲームの悪役転生ものの話です。 だんだんチート(無自覚)になっていく主人公の冒険譚です(予定)です。 チートの成長率ってよく分からないです。 初めての投稿で、駄文ですが、どうぞよろしくお願いいたします。 会話文が多いので、本当に状況がうまく伝えられずにすみません!! あ、ちなみにこんな乙女ゲームないよ!!という感想はご遠慮ください。 あと、戦いの部分は得意ではございません。ご了承ください。

チート転生~チートって本当にあるものですね~

水魔沙希
ファンタジー
死んでしまった片瀬彼方は、突然異世界に転生してしまう。しかも、赤ちゃん時代からやり直せと!?何げにステータスを見ていたら、何やら面白そうなユニークスキルがあった!! そのスキルが、随分チートな事に気付くのは神の加護を得てからだった。 亀更新で気が向いたら、随時更新しようと思います。ご了承お願いいたします。

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

異世界転生したので、のんびり冒険したい!

藤なごみ
ファンタジー
アラサーのサラリーマンのサトーは、仕事帰りに道端にいた白い子犬を撫でていた所、事故に巻き込まれてしまい死んでしまった。 実は神様の眷属だった白い子犬にサトーの魂を神様の所に連れて行かれた事により、現世からの輪廻から外れてしまう。 そこで神様からお詫びとして異世界転生を進められ、異世界で生きて行く事になる。 異世界で冒険者をする事になったサトーだか、冒険者登録する前に王族を助けた事により、本人の意図とは関係なく様々な事件に巻き込まれていく。 貴族のしがらみに加えて、異世界を股にかける犯罪組織にも顔を覚えられ、悪戦苦闘する日々。 ちょっとチート気味な仲間に囲まれながらも、チームの頭脳としてサトーは事件に立ち向かって行きます。 いつか訪れるだろうのんびりと冒険をする事が出来る日々を目指して! ……何時になったらのんびり冒険できるのかな? 小説家になろう様とカクヨム様にも投稿しました(20220930)

転生したら唯一の魔法陣継承者になりました。この不便な世界を改革します。

蒼井美紗
ファンタジー
魔物に襲われた記憶を最後に、何故か別の世界へ生まれ変わっていた主人公。この世界でも楽しく生きようと覚悟を決めたけど……何この世界、前の世界と比べ物にならないほど酷い環境なんだけど。俺って公爵家嫡男だよね……前の世界の平民より酷い生活だ。 俺の前世の知識があれば、滅亡するんじゃないかと心配になるほどのこの国を救うことが出来る。魔法陣魔法を広めれば、多くの人の命を救うことが出来る……それならやるしかない! 魔法陣魔法と前世の知識を駆使して、この国の救世主となる主人公のお話です。 ※カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。

【幸せスキル】は蜜の味 ハイハイしてたらレベルアップ

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はアーリー 不慮な事故で死んでしまった僕は転生することになりました 今度は幸せになってほしいという事でチートな能力を神様から授った まさかの転生という事でチートを駆使して暮らしていきたいと思います ーーーー 間違い召喚3巻発売記念として投稿いたします アーリーは間違い召喚と同じ時期に生まれた作品です 読んでいただけると嬉しいです 23話で一時終了となります

婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る

拓海のり
ファンタジー
 階段から落ちて死んだ私は、神様に【救急箱】を貰って異世界に転生したけれど、前世の記憶を思い出したのが婚約破棄の現場で、私が断罪される方だった。  頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。  破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。  ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。  タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。 完結しました。ありがとうございました。

幼女からスタートした侯爵令嬢は騎士団参謀に溺愛される~神獣は私を選んだようです~

桜もふ
恋愛
家族を事故で亡くしたルルナ・エメルロ侯爵令嬢は男爵家である叔父家族に引き取られたが、何をするにも平手打ちやムチ打ち、物を投げつけられる暴力・暴言の【虐待】だ。衣服も与えて貰えず、食事は食べ残しの少ないスープと一欠片のパンだけだった。私の味方はお兄様の従魔であった女神様の眷属の【マロン】だけだが、そのマロンは私の従魔に。 そして5歳になり、スキル鑑定でゴミ以下のスキルだと判断された私は王宮の広間で大勢の貴族連中に笑われ罵倒の嵐の中、男爵家の叔父夫婦に【侯爵家】を乗っ取られ私は、縁切りされ平民へと堕とされた。 頭空っぽアホ第2王子には婚約破棄された挙句に、国王に【無一文】で国外追放を命じられ、放り出された後、頭を打った衝撃で前世(地球)の記憶が蘇り【賢者】【草集め】【特殊想像生成】のスキルを使い国境を目指すが、ある日たどり着いた街で、優しい人達に出会い。ギルマスの養女になり、私が3人組に誘拐された時に神獣のスオウに再開することに! そして、今日も周りのみんなから溺愛されながら、日銭を稼ぐ為に頑張ります! エメルロ一族には重大な秘密があり……。 そして、隣国の騎士団参謀(元ローバル国の第1王子)との甘々な恋愛は至福のひとときなのです。ギルマス(パパ)に邪魔されながら楽しい日々を過ごします。

処理中です...