40 / 99
お母ちゃんが喜ぶ発明品
しおりを挟む
お飾りの商会長に就任した俺は、商会長としての業務の全てを副商会長に押し付け、今日も気軽に工房にお邪魔している。今では働いている人達とも仲良くなり、一緒にティータイムをする仲になった。初めはクリスティアナ様や妖精に戸惑っている様子があったが、毎日のように遊びに来る俺達を見て、近所の子供が遊びに来ているという感覚になってきたようで、今ではそれほど気にしなくなっている。
「商会長、今日もご機嫌麗しゅうごさいます。本日も沢山の注文が入り、嬉しい悲鳴を上げておりますよ」
早速副商会長が俺達を見つけ挨拶をしてきた。ご機嫌なのは本当に沢山の注文が入り、作れば作るだけ儲かるからだった。従業員の皆さんも臨時ボーナスが次々に入り、忙しいなからも一様に明るい顔をしていた。
「有難いことだけど、休養はちゃんと取るようにね。無理をして体を壊してはいけないよ」
「もちろんですとも。商会長のご命令を無下にするものなど、この商会にはおりませんよ」
なんだろう、この絶大な信頼感は。何だか逆にこちらが不安になるな。みんな忙しく働いているが、掃除機のお陰か思ったよりも作業場が片付いているようた。一部を除いて。
「な、なんですの、あの汚れ物の山は」
クリスティアナ様が目にしたのはその一部だ。そう、洗濯物が山のように、いや、山になっているのだ。すでに雪崩は起きており、徐々にその裾野を拡大しつつあった。
「申し訳ありません。どうしても時間の掛かる洗濯物が後回しになってしまうのですよ。これはもう、洗濯のために新しい人を雇ったほうがいいのかもしれません」
工房での作業は服が汚れやすい作業があるようで、この商会では効率アップのために作業着を着用することになっていた。ところが、作業着の洗濯は手の空いた工員がすることになっていたため、忙しくて手が離せない現状では誰一人として時間の掛かる洗濯をする人は居なかった。
一体何人分用意してたんだよ!と突っ込みたくなるくらいの作業着があったようで、本当に山になっていた。これは不味い。ここまで忙しくなったのは自分のせいでもあるので、その対策に乗り出すことにした。
「洗濯機を作ろうと思います」
「また唐突にシリウスが変なこと言い出した~!なんとなく何を作るかは想像つくけど、勝手に洗濯する魔道具なんて本当に作れるの?」
「フッフッフッ、私にいい考えがある」
「何か、失敗しそうな予感がする」
失礼な。私、失敗しませんから。
今から作る洗濯機はドラムが横向きに回転する洗濯機だ。副商会長に廃材を使う許可をとって、クラフトの魔法でサクッと洗濯物を入れるドラムを作った。錆びないようにステンレス製にしてあり、水と空気が通り抜ける穴を無数に空け、洗濯物がバラバラになるように凹凸をいくつかつけてある。
ここは魔道具を作る工房だけあって色んな素材がそこらじゅうに転がっている。わざわざ1から集める必要がないのでとても楽だ。
「この中に汚れ物を入れるのですわねって、縦じゃなくて横ですの?」
「縦でもいいのですが、横向きにしてみようと思います。その方が洗濯物をバラバラにしやすいですし、水と風をうまく当てられるのではないかと思っているのですよ」
効率よく水と風を使うことができれば、魔力の節約になる。魔道具を作る上で大事なのが使う魔力の削減だ。これによって稼働時間が大きく変わる。使う度に新しい魔石を入れ換えるのは、ちょっと問題かも知れない。貴族はいくらでも魔石を用意できるが、一般人向けにするなら費用が掛かりすぎて使われないだろう。
ドラムを支える本体を水に強い木材を使って作成し、底面に排水用の穴とドラム回転時に本体が動きまわらないように重りを着けた。ひとまずはこれでよし。
「あっという間に形が出来上がりましたわね。いつ見ても仕事が早いですわ。あとはこれに魔方陣を組み込むだけですわね。今回は何の魔方陣を使うおつもりなのですか?」
「今回は、風を送り出す魔方陣と水を出す魔方陣、それに周りを暖める魔方陣を使う予定です」
「火を出す魔方陣はありましたが、周りを暖める魔方陣などなかったと記憶しているのですが?」
作業を食い入るように見ていた副商会長が質問してきた。いい質問だね。
「私が紐解いた魔方陣の中に寒さをしのぐために体を暖める魔方陣があったのですよ。今回はそれを使おうと思っています」
「なんと!魔方陣を解読できるのですか!?」
「ええ、ですが簡単な物だけですけどね。複雑なのは流石に無理ですね」
やろうと思えばできるのだが、それを言うと魔方陣の解読に忙殺されそうなので、できないことにしておいた。暗号解読は時間が掛かりすぎる上に部屋に籠りっぱなしになるので自分には向いてなかった。そのうち自動翻訳魔法でも造ろうかな?
「暖める魔方陣はお日様の代わりというわけですのね。水の魔方陣は洗濯物を洗うのに使うとして、風を送る魔方陣はどのように使うのですか?」
「風の力を利用して洗濯物の水気を吹き飛ばします。ついでにドラムも回転させます。」
洗濯機の構造はこうだ。
まず洗濯物を入れてドアを閉める。そうすると水の魔方陣が発動し、水を放出する。その勢いでドラムを回しつつ、ついでに洗濯物にも水を噴射し、汚れを落とす。
ある程度の時間経過後、次は風の魔方陣にバトンタッチ。今度は風の魔方陣でドラムを回転させ、洗濯物に風を吹き付けて水気を吹き飛ばす。その後、暖める魔方陣でとどめをさす。
問題としては、排水口から水が垂れ流しになり続けることと、石鹸が使えないことだ。汚れがひどい場合は別で洗濯してもらう必要がありそうだ。
いや、ちょっと待てよ。そういえば、汚れを分解する魔方陣が刺繍の図案として残っていたな。本来は衣服やハンカチなどに刺繍として魔方陣を組み込み、汚れを防ぐために使う魔方陣なのだが、水の魔方陣に一緒に組み込むことができないだろうか。そうすれば、汚れを分解する水ができあがるかもしれない。
思い立ったが吉日。早速水の魔方陣を改良して実験してみた。改良した魔方陣、浄化水の魔方陣の水を桶に溜め、その中に汚れのひどい洗濯物をいれた。するとみるみるうちに汚れが分解され、綺麗になった。どうやら魔方陣の改良は巧くいったようだ。しかし、である。
「もうこの水に洗濯物を浸けるだけでいいんじゃないかな・・・」
そうなのだ。わざわざドラムに水を注ぎ、回転させて汚れを落とす必要性がなかったのだ。
この浄化水を桶などに溜めて、そこに洗濯物をいれておくだけ。頃合いを見て引き上げれば、汚れは綺麗さっぱり落ちているというわけだ。
でもそれだと、せっかく作ったドラムが無駄になるので、脱水乾燥機として使うことにした。
風の魔方陣で脱水し、風と暖める魔方陣で素早く乾燥させる。雨の日もバッチリ洗濯できるぞ、そう自分に言い聞かせて。
「な、なんですの、この水は!?汚れが瞬く間に落ちていきましたわ!ただの水、ではありませんよね?シリウス様?」
また何かヤバい物を作ったでしょうという呆れを含んだ声が隣から聞こえた。またヤバい物を作ってしまったか、と思ったが、今さらだと諦めた。俺のほとばしる熱い感性がいけないのだ。
「これは水の魔方陣を改良した魔方陣、その名も浄化水の魔方陣です」
「な、何だってー!!」
フェオ、それ、言ってみたかっただけだよね?全力で今を楽しむ姿勢、嫌いじゃないよ。
あ、エクスは相変わらず尊敬の眼差しで俺を見てくれるのね。ありがとう。
「浄化水の魔方陣ですと!?それに魔方陣の改良などできるのですか!いやはや、商会長はとんでもない方ですな」
とんでもない方なのかどうかは分からないが、できたものはできたのだ。今さら何を言ってもしょうがないね。
予定とは少し違うが、蛇口を捻ると浄化水が出る魔道具と、脱水乾燥機の魔道具を作り上げた。
性能試験のため、すぐに洗濯が始まった。
大きな桶に浄化水を溜め、洗濯物を浸ける。その後、脱水乾燥機に入れて洗濯物を乾かす。
洗濯物を浸ける時間は30分もあれば十分であり、その間はほったらかしでいいので非常に楽だった。
水気を含んだ洗濯物も、すぐとなりに設置した脱水乾燥機に入れて扉を閉めるだけで終わるので、これまでの洗濯物を絞る作業がなくなった。この作業も大変だったので、大いに喜ばれた。
「あれだけの洗濯物があっという間に・・・」
「素晴らしい。家に欲しい」
「俺、買うわ。かーちゃんが喜ぶ」
工員の反応も上々のようだ。あとはこの浄化水器と脱水乾燥機を量産すればオッケーだ。
でも、需要があるかは分からない。ここは慎重に市場の反応を見るべきではなかろうか。
そう思っていたのだが、副商会長はこの2つの新しい魔道具は絶対に売れる、と太鼓判を押し、力の限り量産する、と高らかに宣言した。それを聞いた工員達も歓声を上げ、早速生産のための準備に取り掛かった。
「商会長、値段は如何致しますか?」
「そうだね、広くみんなに使ってもらいたいから、なるべく安くで。でも、中身は同じだけど、見た目を豪華にした貴族向けの物も作るように。こっちは高くて構わないよ。見た目のグレードを変えた物をいくつか作って、より高級品を持っているのが貴族としてのステータスになるようにしよう。そうすれば貴族から金をむしりとれるぞ。そうだ、俺の家で使うようにとびきり豪華な奴を作ってよ。お母様に大々的に宣伝してもらうからさ」
「なるほど、そこまでのお考えがあるとは!感服いたしましたぞ。では庶民向けにリーズナブルな物と、貴族向けにゴージャスな物を用意いたしましょう。それに宣伝までしてもらえるとは、感謝の極みにございます。すぐに用意いたします」
ざっくりとした方針が決まり、副商会長が深々と頭を下げた。これで貴族からお金を集めることができる。この資金は新たな魔道具の開発費用に当てよう。
「なんというお考えですの。正しいのかもしれませんが、中身が同じ物を少し外見を変えただけで高く売るなんて・・・」
「見てよ、あの顔!絶対悪巧みしてる顔だわ」
ニヤニヤする俺の顔を見て二人が何やら話している。
「あ、クリスティアナ様のお母様の分もゴージャスなのを用意しておきますので、大いに宣伝して下さいね。豪華な物ほど貴族のステータスであると!」
「鬼ですわ」
「クリピーも大変だね・・・」
浄化水器と脱水乾燥機は飛ぶように売れた。貴族界隈ではどのグレードの物を使っているかが一種のステータスとして定着し、その豪華絢爛さを競い合っていた。何もかもが計算通り。
そして売れれば売れるほど俺の懐が潤っていった。だが残念ながら、そのお金の捌け口は見つかっていなかった。当然、三人娘に湯水のように使おうとしたのだが、無駄遣いするなと窘められた。
俺よりもずっとしっかりしている奥さんズであった。
どうしよう、このお金。
「商会長、今日もご機嫌麗しゅうごさいます。本日も沢山の注文が入り、嬉しい悲鳴を上げておりますよ」
早速副商会長が俺達を見つけ挨拶をしてきた。ご機嫌なのは本当に沢山の注文が入り、作れば作るだけ儲かるからだった。従業員の皆さんも臨時ボーナスが次々に入り、忙しいなからも一様に明るい顔をしていた。
「有難いことだけど、休養はちゃんと取るようにね。無理をして体を壊してはいけないよ」
「もちろんですとも。商会長のご命令を無下にするものなど、この商会にはおりませんよ」
なんだろう、この絶大な信頼感は。何だか逆にこちらが不安になるな。みんな忙しく働いているが、掃除機のお陰か思ったよりも作業場が片付いているようた。一部を除いて。
「な、なんですの、あの汚れ物の山は」
クリスティアナ様が目にしたのはその一部だ。そう、洗濯物が山のように、いや、山になっているのだ。すでに雪崩は起きており、徐々にその裾野を拡大しつつあった。
「申し訳ありません。どうしても時間の掛かる洗濯物が後回しになってしまうのですよ。これはもう、洗濯のために新しい人を雇ったほうがいいのかもしれません」
工房での作業は服が汚れやすい作業があるようで、この商会では効率アップのために作業着を着用することになっていた。ところが、作業着の洗濯は手の空いた工員がすることになっていたため、忙しくて手が離せない現状では誰一人として時間の掛かる洗濯をする人は居なかった。
一体何人分用意してたんだよ!と突っ込みたくなるくらいの作業着があったようで、本当に山になっていた。これは不味い。ここまで忙しくなったのは自分のせいでもあるので、その対策に乗り出すことにした。
「洗濯機を作ろうと思います」
「また唐突にシリウスが変なこと言い出した~!なんとなく何を作るかは想像つくけど、勝手に洗濯する魔道具なんて本当に作れるの?」
「フッフッフッ、私にいい考えがある」
「何か、失敗しそうな予感がする」
失礼な。私、失敗しませんから。
今から作る洗濯機はドラムが横向きに回転する洗濯機だ。副商会長に廃材を使う許可をとって、クラフトの魔法でサクッと洗濯物を入れるドラムを作った。錆びないようにステンレス製にしてあり、水と空気が通り抜ける穴を無数に空け、洗濯物がバラバラになるように凹凸をいくつかつけてある。
ここは魔道具を作る工房だけあって色んな素材がそこらじゅうに転がっている。わざわざ1から集める必要がないのでとても楽だ。
「この中に汚れ物を入れるのですわねって、縦じゃなくて横ですの?」
「縦でもいいのですが、横向きにしてみようと思います。その方が洗濯物をバラバラにしやすいですし、水と風をうまく当てられるのではないかと思っているのですよ」
効率よく水と風を使うことができれば、魔力の節約になる。魔道具を作る上で大事なのが使う魔力の削減だ。これによって稼働時間が大きく変わる。使う度に新しい魔石を入れ換えるのは、ちょっと問題かも知れない。貴族はいくらでも魔石を用意できるが、一般人向けにするなら費用が掛かりすぎて使われないだろう。
ドラムを支える本体を水に強い木材を使って作成し、底面に排水用の穴とドラム回転時に本体が動きまわらないように重りを着けた。ひとまずはこれでよし。
「あっという間に形が出来上がりましたわね。いつ見ても仕事が早いですわ。あとはこれに魔方陣を組み込むだけですわね。今回は何の魔方陣を使うおつもりなのですか?」
「今回は、風を送り出す魔方陣と水を出す魔方陣、それに周りを暖める魔方陣を使う予定です」
「火を出す魔方陣はありましたが、周りを暖める魔方陣などなかったと記憶しているのですが?」
作業を食い入るように見ていた副商会長が質問してきた。いい質問だね。
「私が紐解いた魔方陣の中に寒さをしのぐために体を暖める魔方陣があったのですよ。今回はそれを使おうと思っています」
「なんと!魔方陣を解読できるのですか!?」
「ええ、ですが簡単な物だけですけどね。複雑なのは流石に無理ですね」
やろうと思えばできるのだが、それを言うと魔方陣の解読に忙殺されそうなので、できないことにしておいた。暗号解読は時間が掛かりすぎる上に部屋に籠りっぱなしになるので自分には向いてなかった。そのうち自動翻訳魔法でも造ろうかな?
「暖める魔方陣はお日様の代わりというわけですのね。水の魔方陣は洗濯物を洗うのに使うとして、風を送る魔方陣はどのように使うのですか?」
「風の力を利用して洗濯物の水気を吹き飛ばします。ついでにドラムも回転させます。」
洗濯機の構造はこうだ。
まず洗濯物を入れてドアを閉める。そうすると水の魔方陣が発動し、水を放出する。その勢いでドラムを回しつつ、ついでに洗濯物にも水を噴射し、汚れを落とす。
ある程度の時間経過後、次は風の魔方陣にバトンタッチ。今度は風の魔方陣でドラムを回転させ、洗濯物に風を吹き付けて水気を吹き飛ばす。その後、暖める魔方陣でとどめをさす。
問題としては、排水口から水が垂れ流しになり続けることと、石鹸が使えないことだ。汚れがひどい場合は別で洗濯してもらう必要がありそうだ。
いや、ちょっと待てよ。そういえば、汚れを分解する魔方陣が刺繍の図案として残っていたな。本来は衣服やハンカチなどに刺繍として魔方陣を組み込み、汚れを防ぐために使う魔方陣なのだが、水の魔方陣に一緒に組み込むことができないだろうか。そうすれば、汚れを分解する水ができあがるかもしれない。
思い立ったが吉日。早速水の魔方陣を改良して実験してみた。改良した魔方陣、浄化水の魔方陣の水を桶に溜め、その中に汚れのひどい洗濯物をいれた。するとみるみるうちに汚れが分解され、綺麗になった。どうやら魔方陣の改良は巧くいったようだ。しかし、である。
「もうこの水に洗濯物を浸けるだけでいいんじゃないかな・・・」
そうなのだ。わざわざドラムに水を注ぎ、回転させて汚れを落とす必要性がなかったのだ。
この浄化水を桶などに溜めて、そこに洗濯物をいれておくだけ。頃合いを見て引き上げれば、汚れは綺麗さっぱり落ちているというわけだ。
でもそれだと、せっかく作ったドラムが無駄になるので、脱水乾燥機として使うことにした。
風の魔方陣で脱水し、風と暖める魔方陣で素早く乾燥させる。雨の日もバッチリ洗濯できるぞ、そう自分に言い聞かせて。
「な、なんですの、この水は!?汚れが瞬く間に落ちていきましたわ!ただの水、ではありませんよね?シリウス様?」
また何かヤバい物を作ったでしょうという呆れを含んだ声が隣から聞こえた。またヤバい物を作ってしまったか、と思ったが、今さらだと諦めた。俺のほとばしる熱い感性がいけないのだ。
「これは水の魔方陣を改良した魔方陣、その名も浄化水の魔方陣です」
「な、何だってー!!」
フェオ、それ、言ってみたかっただけだよね?全力で今を楽しむ姿勢、嫌いじゃないよ。
あ、エクスは相変わらず尊敬の眼差しで俺を見てくれるのね。ありがとう。
「浄化水の魔方陣ですと!?それに魔方陣の改良などできるのですか!いやはや、商会長はとんでもない方ですな」
とんでもない方なのかどうかは分からないが、できたものはできたのだ。今さら何を言ってもしょうがないね。
予定とは少し違うが、蛇口を捻ると浄化水が出る魔道具と、脱水乾燥機の魔道具を作り上げた。
性能試験のため、すぐに洗濯が始まった。
大きな桶に浄化水を溜め、洗濯物を浸ける。その後、脱水乾燥機に入れて洗濯物を乾かす。
洗濯物を浸ける時間は30分もあれば十分であり、その間はほったらかしでいいので非常に楽だった。
水気を含んだ洗濯物も、すぐとなりに設置した脱水乾燥機に入れて扉を閉めるだけで終わるので、これまでの洗濯物を絞る作業がなくなった。この作業も大変だったので、大いに喜ばれた。
「あれだけの洗濯物があっという間に・・・」
「素晴らしい。家に欲しい」
「俺、買うわ。かーちゃんが喜ぶ」
工員の反応も上々のようだ。あとはこの浄化水器と脱水乾燥機を量産すればオッケーだ。
でも、需要があるかは分からない。ここは慎重に市場の反応を見るべきではなかろうか。
そう思っていたのだが、副商会長はこの2つの新しい魔道具は絶対に売れる、と太鼓判を押し、力の限り量産する、と高らかに宣言した。それを聞いた工員達も歓声を上げ、早速生産のための準備に取り掛かった。
「商会長、値段は如何致しますか?」
「そうだね、広くみんなに使ってもらいたいから、なるべく安くで。でも、中身は同じだけど、見た目を豪華にした貴族向けの物も作るように。こっちは高くて構わないよ。見た目のグレードを変えた物をいくつか作って、より高級品を持っているのが貴族としてのステータスになるようにしよう。そうすれば貴族から金をむしりとれるぞ。そうだ、俺の家で使うようにとびきり豪華な奴を作ってよ。お母様に大々的に宣伝してもらうからさ」
「なるほど、そこまでのお考えがあるとは!感服いたしましたぞ。では庶民向けにリーズナブルな物と、貴族向けにゴージャスな物を用意いたしましょう。それに宣伝までしてもらえるとは、感謝の極みにございます。すぐに用意いたします」
ざっくりとした方針が決まり、副商会長が深々と頭を下げた。これで貴族からお金を集めることができる。この資金は新たな魔道具の開発費用に当てよう。
「なんというお考えですの。正しいのかもしれませんが、中身が同じ物を少し外見を変えただけで高く売るなんて・・・」
「見てよ、あの顔!絶対悪巧みしてる顔だわ」
ニヤニヤする俺の顔を見て二人が何やら話している。
「あ、クリスティアナ様のお母様の分もゴージャスなのを用意しておきますので、大いに宣伝して下さいね。豪華な物ほど貴族のステータスであると!」
「鬼ですわ」
「クリピーも大変だね・・・」
浄化水器と脱水乾燥機は飛ぶように売れた。貴族界隈ではどのグレードの物を使っているかが一種のステータスとして定着し、その豪華絢爛さを競い合っていた。何もかもが計算通り。
そして売れれば売れるほど俺の懐が潤っていった。だが残念ながら、そのお金の捌け口は見つかっていなかった。当然、三人娘に湯水のように使おうとしたのだが、無駄遣いするなと窘められた。
俺よりもずっとしっかりしている奥さんズであった。
どうしよう、このお金。
11
お気に入りに追加
1,782
あなたにおすすめの小説
乙女ゲームに悪役転生な無自覚チートの異世界譚
水魔沙希
ファンタジー
モブに徹していた少年がなくなり、転生したら乙女ゲームの悪役になっていた。しかも、王族に生まれながらも、1歳の頃に誘拐され、王族に恨みを持つ少年に転生してしまったのだ!
そんな運命なんてクソくらえだ!前世ではモブに徹していたんだから、この悪役かなりの高いスペックを持っているから、それを活用して、なんとか生き残って、前世ではできなかった事をやってやるんだ!!
最近よくある乙女ゲームの悪役転生ものの話です。
だんだんチート(無自覚)になっていく主人公の冒険譚です(予定)です。
チートの成長率ってよく分からないです。
初めての投稿で、駄文ですが、どうぞよろしくお願いいたします。
会話文が多いので、本当に状況がうまく伝えられずにすみません!!
あ、ちなみにこんな乙女ゲームないよ!!という感想はご遠慮ください。
あと、戦いの部分は得意ではございません。ご了承ください。
チート転生~チートって本当にあるものですね~
水魔沙希
ファンタジー
死んでしまった片瀬彼方は、突然異世界に転生してしまう。しかも、赤ちゃん時代からやり直せと!?何げにステータスを見ていたら、何やら面白そうなユニークスキルがあった!!
そのスキルが、随分チートな事に気付くのは神の加護を得てからだった。
亀更新で気が向いたら、随時更新しようと思います。ご了承お願いいたします。
転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜
家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。
そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?!
しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...?
ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...?
不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。
拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。
小説家になろう様でも公開しております。
異世界転生したので、のんびり冒険したい!
藤なごみ
ファンタジー
アラサーのサラリーマンのサトーは、仕事帰りに道端にいた白い子犬を撫でていた所、事故に巻き込まれてしまい死んでしまった。
実は神様の眷属だった白い子犬にサトーの魂を神様の所に連れて行かれた事により、現世からの輪廻から外れてしまう。
そこで神様からお詫びとして異世界転生を進められ、異世界で生きて行く事になる。
異世界で冒険者をする事になったサトーだか、冒険者登録する前に王族を助けた事により、本人の意図とは関係なく様々な事件に巻き込まれていく。
貴族のしがらみに加えて、異世界を股にかける犯罪組織にも顔を覚えられ、悪戦苦闘する日々。
ちょっとチート気味な仲間に囲まれながらも、チームの頭脳としてサトーは事件に立ち向かって行きます。
いつか訪れるだろうのんびりと冒険をする事が出来る日々を目指して!
……何時になったらのんびり冒険できるのかな?
小説家になろう様とカクヨム様にも投稿しました(20220930)
転生したら唯一の魔法陣継承者になりました。この不便な世界を改革します。
蒼井美紗
ファンタジー
魔物に襲われた記憶を最後に、何故か別の世界へ生まれ変わっていた主人公。この世界でも楽しく生きようと覚悟を決めたけど……何この世界、前の世界と比べ物にならないほど酷い環境なんだけど。俺って公爵家嫡男だよね……前の世界の平民より酷い生活だ。
俺の前世の知識があれば、滅亡するんじゃないかと心配になるほどのこの国を救うことが出来る。魔法陣魔法を広めれば、多くの人の命を救うことが出来る……それならやるしかない!
魔法陣魔法と前世の知識を駆使して、この国の救世主となる主人公のお話です。
※カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。
【幸せスキル】は蜜の味 ハイハイしてたらレベルアップ
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はアーリー
不慮な事故で死んでしまった僕は転生することになりました
今度は幸せになってほしいという事でチートな能力を神様から授った
まさかの転生という事でチートを駆使して暮らしていきたいと思います
ーーーー
間違い召喚3巻発売記念として投稿いたします
アーリーは間違い召喚と同じ時期に生まれた作品です
読んでいただけると嬉しいです
23話で一時終了となります
婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る
拓海のり
ファンタジー
階段から落ちて死んだ私は、神様に【救急箱】を貰って異世界に転生したけれど、前世の記憶を思い出したのが婚約破棄の現場で、私が断罪される方だった。
頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。
破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。
ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。
タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。
完結しました。ありがとうございました。
幼女からスタートした侯爵令嬢は騎士団参謀に溺愛される~神獣は私を選んだようです~
桜もふ
恋愛
家族を事故で亡くしたルルナ・エメルロ侯爵令嬢は男爵家である叔父家族に引き取られたが、何をするにも平手打ちやムチ打ち、物を投げつけられる暴力・暴言の【虐待】だ。衣服も与えて貰えず、食事は食べ残しの少ないスープと一欠片のパンだけだった。私の味方はお兄様の従魔であった女神様の眷属の【マロン】だけだが、そのマロンは私の従魔に。
そして5歳になり、スキル鑑定でゴミ以下のスキルだと判断された私は王宮の広間で大勢の貴族連中に笑われ罵倒の嵐の中、男爵家の叔父夫婦に【侯爵家】を乗っ取られ私は、縁切りされ平民へと堕とされた。
頭空っぽアホ第2王子には婚約破棄された挙句に、国王に【無一文】で国外追放を命じられ、放り出された後、頭を打った衝撃で前世(地球)の記憶が蘇り【賢者】【草集め】【特殊想像生成】のスキルを使い国境を目指すが、ある日たどり着いた街で、優しい人達に出会い。ギルマスの養女になり、私が3人組に誘拐された時に神獣のスオウに再開することに! そして、今日も周りのみんなから溺愛されながら、日銭を稼ぐ為に頑張ります!
エメルロ一族には重大な秘密があり……。
そして、隣国の騎士団参謀(元ローバル国の第1王子)との甘々な恋愛は至福のひとときなのです。ギルマス(パパ)に邪魔されながら楽しい日々を過ごします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる