上 下
20 / 99

聖人②

しおりを挟む
「フェオ先生、何から教えて下さるのですか?」
 先程の魔法で俄然やる気が出たクリスティアナ様が、フェオのことを既に先生と呼んでいた。
「じゃあ、まずは広域大量破壊魔法を・・・」
「ストーップ!まずは、魔物の鎮圧で疲弊した兵士達を癒す魔法からにしませんか?その方が、絶対これから役に立ちますよ」
 恐らくフェオはそんな大魔法なんて知らないであろうが、腐っても妖精。万が一の可能性がある。クリスティアナ様がデストロイヤーにならないように全力で避ける。
「それもそうですわね。討伐に行った兵士達がみんな無事で戻って来るまでに、しっかりマスターしなくては」
 基本はいい子なクリスティアナ様は、すぐに熱心に魔法の訓練を始めた。
「まずは一番簡単な、気分を穏やかにする魔法、リラックスからだよ」
 フェオはフェオで、妖精らしく魔法の知識は豊富だった。すぐにクリスティアナ様の魔法の素養を見切って、使えそうな魔法から教え始めた。
 フェオ先生による有難い魔法の講義が終わり、実践すること数回。無事にクリスティアナ様はリラックスの魔法を習得したようだ。
「これで戦いで痛めた心の傷を癒すことができますわ」
 クリスティアナ様はまるで天使のような微笑みを浮かべて、自分のできる事が増えたことに満足そうだった。
「でも、あまりにも酷い心の傷には対応仕切れないからね」
 フェオ先生はその魔法を過信し過ぎるな、と釘を刺していた。さすがである。アフターフォローも完璧だ。
「その場合はどうするのですか?」
「う~ん、もっと強力に精神を操る新魔法を創るしかないかな~」
 そう言って、こちらを見る二人。そんな目で見られても、そんなにホイホイ魔法は創りませんよ。
「それにしても、シリウスの頭の中、どうなってるの?一度、覗いて見たいわ。そうだ、今度、夢の中に遊びに行こう!」
 フェオがまた急に妙なことを言い出した。夢の中に入る?妖精ならそのくらいのことは簡単にやってのけそうなので全力で拒否した。
「やめてくれ。俺の安眠をこれ以上妨げないでくれ」
「えー、つまんないー」
 頬を膨らませているが、ただでさえ、隣で寝ている寝相の悪いフェオを潰さないように神経をすり減らしながら眠っているのに、これ以上は勘弁だ。
「シリウス様は安眠を妨げられているのですか?フェオに?」
「え?」
「そんなわけ無いじゃない。シリウスの隣で大人しく寝てるわよ。失礼ね」
「え?」
「え?」
 それにしては夜中に何回も蹴りが入っているぞ。大人しくは寝てないと思・・・。
「シリウス様の隣で大人しく寝てる・・・?」
 ギョッとして、恐ろしいほど低い声を発したクリスティアナ様の方を見た。フェオは早くも俺の後ろに隠れ、俺を盾にしていた。コイツ分かっててわざと言ったな・・・。
「ク、クリスティアナ様。ほら、私の部屋にはベッドが一つしかないじゃないですか。他の部屋のベッドもフェオにはサイズが大きすぎるし、フェオを一人にすると何を仕出かすか分からないから、仕方なく一緒に寝てるんですよ」
 と、必死の抵抗を試みた。
「フェオと一緒に寝てる・・・?」
「・・・ゴメンナサイ、ケイソツナコウドウデシタ」
 この日以降、俺の部屋にはベッドがもう一つ置かれる事となり、度々、いや、頻繁にクリスティアナ様が泊まりに来るようになるのであった。
 そこはフェオ専用のベッドを用意するだけでよいのでは?と思ったが、口に出すことはできなかった。
 どうしてこうなった。

「今日も沢山魔法の練習をしましたわね。治癒魔法を使うのも自信がついてきましたわ」
 こちらを向いて、優雅に咲き誇るバラのような笑顔で話すクリスティアナ様。今三人が居るのは、城で間借りしている俺の部屋の寝室である。
「ソ、ソウデスネ」
 確かに、俺の部屋にベッドを追加で置く許可はしたが、初日から泊まりに来るのは如何なものだろうか。仮にも王族のお姫様。子供とはいえ、ちょっと不味いのではなかろうか。
「ですがまだまだ力不足ですわ。もっともっと練習をしないといけませんわ」
 決意も新たに、こちらに向かって意気込みを語るクリスティアナ様。大変真面目な子だとは思うが、寝間着で意気込まれても困るのだが。冬なので厚着をしているが、歳相応でない大きな胸がいつもより主張していた。これは不味い。つい目線がそっちに行ってしまう。慌てて目を反らすと、フェオと目が合った。
「シリウス・・・?」
 ジト目でこちらを見るフェオ。バレてるな、こりゃ。こんな時は何か言われる前に逃げるに限る。
「それでは明日も早いことだし、そろそろ寝ましょうか」
「そうだね。シリウスが変な気を起こす前に寝よう寝よう」
 そう言ってフェオがいつものように俺の布団に潜り込んできた。
「ちょっと待ちなさい、フェオ。どこで寝ようとしているのですか?」
「え?もちろんシリウスの隣だよ?」
「な!そこは私の場所ですわよ!」
 そういうや否やフェオを布団から引き摺り出した。
「ちょっと、何するのよクリピー!寒いじゃない!」
 そうして取っ組み合いの喧嘩が始まった。お互いに魔法を使わないだけ、まだ理性が残っているようである。
「あー、二人で一緒に寝てはどうですか?私はそちらの布団で寝ますので」
 遠慮がちに提案してみたのだが・・・
「何言ってるの!それじゃ意味無いじゃん!!」
「そうですわ。そう言う事ではありませんわ!」
 ヒートアップした二人には聞き入れて貰えなかった。そもそも何故、一緒の布団で寝る事になっているのか。その前提がそもそも間違っていることに気がついているのだろうか?
 尚もキャアキャアとじゃれ合っている二人を置いといて布団に潜り込もうとすると、
「ちょっとシリウス、何、自分だけ先に寝ようとしているのよ!一人だけ寝ようとするなんてずる・・・ねえ、こんなに広いベッドならさ、三人で一緒に寝ればいいんじゃない?」
「はぁ!?フェオ、お前、何を言って・・・」
「名案ですわ!三人で一緒に寝ればいいのですわ!」
 そう言って二人が俺の左右に潜り込んできた。え?ちょっと待てよ!
 この状態は非常によろしく無い状態なのではなかろうか。右にクリスティアナ様、左にフェオ。なんでなのかは知らないが、それぞれ俺の腕にしがみついて寝ている。いくら未成年で婚約者だとしても誰かに見られると不味い。
 特にこれが国王陛下にバレたらただでは済まないだろう。どこか僻地へ飛ばされるかもしれない。そうなれば・・・あれ?そうなればゲームのシナリオから離れることができて、いいんじゃね?今の生活も悪くは無いが、腐っても公爵家。生活に不便することは無いだろうし、自由気ままな田舎暮らしはさぞ楽しかろう。こんな窮屈な生活とはオサラバさ!
 そうして俺は安心して寝床についた。
 が、しかし。クリスティアナ様もフェオと同じく寝相があまりよろしくないようであり、ちょいちょい蹴りが入った。両サイドから入れられる蹴りによって相変わらず安眠はできなかった。あとクリスティアナ様、寝ぼけて俺の腕を両股で挟むのは止めていただきたい。シリウス君の豆柴が牙を剥くと色々とあれなので。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!

ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。 幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。 婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。 王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。 しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。 貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。 遠回しに二人を注意するも‥ 「所詮あなたは他人だもの!」 「部外者がしゃしゃりでるな!」 十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。 「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」 関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが… 一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。 なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…

【R18】らぶえっち短編集

おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
調べたら残り2作品ありました、本日投稿しますので、お待ちくださいませ(3/31)  R18執筆1年目の時に書いた短編完結作品23本のうち商業作品をのぞく約20作品を短編集としてまとめることにしました。 ※R18に※ ※毎日投稿21時~24時頃、1作品ずつ。 ※R18短編3作品目「追放されし奴隷の聖女は、王位簒奪者に溺愛される」からの投稿になります。 ※処女作「清廉なる巫女は、竜の欲望の贄となる」2作品目「堕ちていく竜の聖女は、年下皇太子に奪われる」は商業化したため、読みたい場合はムーンライトノベルズにどうぞよろしくお願いいたします。 ※これまでに投稿してきた短編は非公開になりますので、どうぞご了承くださいませ。

前世で処刑された聖女、今は黒薬師と呼ばれています

矢野りと
恋愛
旧題:前世で処刑された聖女はひっそりと生きていくと決めました〜今世では黒き薬師と呼ばれています〜 ――『偽聖女を処刑しろっ!』 民衆がそう叫ぶなか、私の目の前で大切な人達の命が奪われていく。必死で神に祈ったけれど奇跡は起きなかった。……聖女ではない私は無力だった。 何がいけなかったのだろうか。ただ困っている人達を救いたい一心だっただけなのに……。 人々の歓声に包まれながら私は処刑された。 そして、私は前世の記憶を持ったまま、親の顔も知らない孤児として生まれ変わった。周囲から見れば恵まれているとは言い難いその境遇に私はほっとした。大切なものを持つことがなによりも怖かったから。 ――持たなければ、失うこともない。 だから森の奥深くでひっそりと暮らしていたのに、ある日二人の騎士が訪ねてきて……。 『黒き薬師と呼ばれている薬師はあなたでしょうか?』 基本はほのぼのですが、シリアスと切なさありのお話です。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※一話目だけ残酷な描写がありますので苦手な方はご自衛くださいませ。 ※感想欄のネタバレ配慮はありません(._.)

まさか、こんな事になるとは思ってもいなかった

あとさん♪
恋愛
 学園の卒業記念パーティでその断罪は行われた。  王孫殿下自ら婚約者を断罪し、婚約者である公爵令嬢は地下牢へ移されて——  だがその断罪は国王陛下にとって寝耳に水の出来事だった。彼は怒り、孫である王孫を改めて断罪する。関係者を集めた中で。  誰もが思った。『まさか、こんな事になるなんて』と。  この事件をきっかけに歴史は動いた。  無血革命が起こり、国名が変わった。  平和な時代になり、ひとりの女性が70年前の真実に近づく。 ※R15は保険。 ※設定はゆるんゆるん。 ※異世界のなんちゃってだとお心にお留め置き下さいませm(_ _)m ※本編はオマケ込みで全24話 ※番外編『フォーサイス公爵の走馬灯』(全5話) ※『ジョン、という人』(全1話) ※『乙女ゲーム“この恋をアナタと”の真実』(全2話) ※↑蛇足回2021,6,23加筆修正 ※外伝『真か偽か』(全1話) ※小説家になろうにも投稿しております。

黎明の錬金技工術師《アルケミスター》と終焉の魔導機操者《アーティファクター》

かなちょろ
ファンタジー
死んで転生したのは異世界。  しかも人造人間として生まれ変わった俺は右も左もわからない場所で一人の女性と出会う。 魔法、錬金術、魔導機《アーティファクト》が存在する世界で新しい人生を楽しもうとするが、怪しい連中に狙われてしまう。 仲間達と共に世界を巡る旅が始まる。

ドン引きするくらいエッチなわたしに年下の彼ができました

中七七三
恋愛
わたしっておかしいの? 小さいころからエッチなことが大好きだった。 そして、小学校のときに起こしてしまった事件。 「アナタ! 女の子なのになにしてるの!」 その母親の言葉が大人になっても頭から離れない。 エッチじゃいけないの? でも、エッチは大好きなのに。 それでも…… わたしは、男の人と付き合えない―― だって、男の人がドン引きするぐらい エッチだったから。 嫌われるのが怖いから。

【R18】お嫁さんスライム娘が、ショタお婿さんといちゃらぶ子作りする話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 前話 【R18】通りかかったショタ冒険者に襲い掛かったスライム娘が、敗北して繁殖させられる話 https://www.alphapolis.co.jp/novel/902071521/384412801 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

《完結》幼馴染のオマケとして異世界転移したんだけどこれどういうこと?

ႽͶǾԜ
BL
 自称どこにでもいる普通の男子高校生の凪風真宙は、超ハイスペック幼馴染の光ヶ丘朝陽と一緒に異世界へと飛ばされてしまう。とある大帝国に勇者として召喚された朝陽は、千年に一度復活を遂げる魔王を倒し世界を救うというありがちな任務を与えられた。  一方、真宙は強力な神の御加護を受けた朝陽とは違い、微かな癒しの能力を授けられた所謂能無しであった。  しかし、真宙は癒しの能力とは別に、神から『男性体であるが子を身篭ることができる』という謎すぎる御加護を授けられていたのだ。  神聖な証である黒髪黒目に、後世に受け継がれるという神の御加護を賜った真宙は、その大帝国の大公であり世界最強の軍人と名高い男の元へと嫁ぐことになった。 「エーデルワイス大公家当主にして、アルフェンロード大帝国軍元帥レイフォード・ティーラ・グラデンド・エーデルワイスは、貴殿マヒロ・ナギカゼに結婚を申し込む。受け入れてくれるか?」  名を、レイフォード・ティーラ・グラデンド・エーデルワイス。誰もが聞き惚れるほどの声音と美しい容貌をした真宙の旦那様は、ありとあらゆる肩書きを持つ偉大な軍人であった。こんなイケメンに嫁げるなら、と真宙も思っていたのだが…。 「俺は形だけの結婚に何も求めない。お飾りの妻として静かにしててくれ」  誰もが羨むイケメン軍人は、妻である真宙に対して超がつくほどに冷たかったのだ。だがしかし、妻もまた諦めの悪い人間だった_________。  これは、ひょんなことから世界最強に嫁ぐことになった無自覚美人と他人には冷たく情の欠片もないイケメン軍人が織り成す恋物語である。 ♡画像は著作権フリーの画像(商品利用無料、帰属表示の必要がない)を使用させていただいております。 ※本作品はBL作品です。苦手な方はここでUターンを。 ※R18の話は、*をつけます。 ※完全な自己満です。 ※下ネタだらけです。 ※男性妊娠表現があります。 ※他の女がレイフォードに想いを寄せたり、他の男が真宙に想いを寄せていたりもします。 完結致しました。 長い間当作品を読んでくださり本当に、ありがとうございました。

処理中です...