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新たな旅路
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ベランジェ王国での騒動は周辺諸国に影響を及ぼした。そしてそれはベランジェ王国の領地割譲という形で決着がついた。国として名前は残ったものの、かつてのような力はもうない。そして現在、ベランジェ王国はフォーチュン王国の下で国の立て直しを図っている。
「ハウジンハ伯爵もサンチョさんも大変そうだな」
商業都市エベランから来た手紙を読みながらアーダンがため息をついた。俺たちのパーティー宛てに来た手紙には難民や復興支援に忙しいと書いてあった。その中には俺たちがあらかじめ準備を促しておいてくれたおかげで混乱が少なくて済んでいる、ありがとうと書いてあった。
「そうだね。でもその分、もうけもあるみたいだよ。ハウジンハ伯爵の評価もますます上がっているみたいだし、侯爵になるんじゃないかって話も出ているみたいだからね」
「侯爵だなんてすごいじゃない。あたしたちにも何かお礼があるかもよ?」
「すでに魔法袋をもらっているから、これ以上はもういらないよ」
おいしいお菓子をもらえるんじゃないかとリリアは思っているのかも知れないが、たぶんそんなものじゃ済まないぞ。期待に満ちたリリアの笑顔に眉を下げるしかなかった。
「どの国も大忙しだな。冒険者ギルドの依頼も護衛任務や復興支援ばっかりだもんな。そりゃ色んな物資を送らないと行けないかも知れないが、他の依頼もあって良いと思わないか?」
「そうね。ただの護衛任務にプラチナランク冒険者が出向いたら、とんでもない騒ぎになりそうだもんね」
ベランジェ王国までの道はそれほど危険ではない。そのため、護衛任務の依頼のほとんどはシルバーランクより下の人が受けられるものが占めている。もちろん俺たちプラチナランク冒険者がその依頼を引き受けても良いのだが、さすがに下位ランク冒険者の依頼を奪うのは良くないと思う。
「新しい魔物の討伐依頼は出ていないしなー。このままじゃ老けそうだ」
ジルがそう言うのも一理あるな。剣術も魔法も使わなければドンドンさび付いてしまうプラチナランク冒険者だからと言って油断はできない。
「それならさ、飛行船をもらいに行きましょうよ。もう完成してるんじゃない?」
リリアが瞳をキラキラと輝かせながらみんなの方を見た。その表情を見て「さすがに骨組みから一ヶ月では飛行船を作れないだろう」とはさすがに言えず、王都のアカデミーに行ってみることになった。
すでに常連客となりつつある俺たちはすんなりと学園内に入ることができた。前に来たときと何も変わらない風景、と思いきや、大きな建物の屋根が一部破損していた。恐らくこの前に王都を襲った大嵐の影響が残っているのだろう。
「修理するお金、ないのかな?」
胸元に隠れているリリアが眉を寄せながら聞いてきた。アカデミーは国の予算で運営が行われているはずなので資金は潤沢にあるはず。お金に困っているとは考えられないんだけど。
「うーん、今はあちこちで屋根を直す資材が必要だからね。そっちを先に修理しているんじゃないかな? でもまあ、気になるからあとで聞いてみようか」
その答えに納得したのか、満足そうにうなずいた。冒険者として人助けをするようになってから、リリアもずいぶんと丸くなったと思う。以前は俺以外の人には興味をまったく示さなかったからね。うれしいような、寂しいような、ちょっと複雑な気分だ。
研究室に着いた俺たちは歓迎を持って迎えられた。
「よく来たな、待っておったぞ」
「あまりにも遅いから、こちらからギルドに連絡しようと思っていたところだよ」
ワラワラと研究員たちが集まってきた。その手にはいくつもの紙の束がある。きっと「聖なる大地」について情報がまとめられているのだろう。
「まずは例の『聖なる大地』についてのことじゃ。古い伝承を集めて総合的に判断した結果、それは恐らく古代人が空に浮かべた島だろう」
「島を浮かべる……古代人はそんな技術を持っていたんですね」
「そうなるな。なぜ島を浮かべたのかというと、どうやらその島に『土の精霊』が封印されていたからのようだ」
どうやら古代人は土の精霊と共に、その島を大地から切り離したようである。そこまでしなければならない理由があったのだろう。あとで精霊たちに聞いてみないといけないな。
「土の精霊は他の精霊に比べて、とんでもない災害を引き起こしたようだ」
「過去に精霊が災害を引き起こした記述があったのですか?」
初耳だ。驚いたのは俺だけじゃなかった。アーダンたちも驚いている。落ち着いているのは研究員たちだけである。
「確実とは言えないが、そのように推論した方がなぜ古代人がいなくなったのか、古代の超文明が消えてしまったのかに説明をつけやすいのだ。記述には土の精霊が大地を揺らしたと書いてあった」
「地震を起こすことができるのですね。大規模な地震が起こればとんでもない被害が出ますよ」
アーダンの声が少し大きくなった。大きな地震が王都で起これば……考えたくもないな。それを想像したのか、ジルとエリーザの顔も青くなっていた。
「かつて大地震が世界中で起こり、ほとんどの文明が地の底に飲み込まれたそうだ。そしてそれを引き起こしたのが土の精霊ではないかと思っている」
シンと辺りが静まり返った。その空気を変えるかのように、研究員の一人がコホンと一つ咳をした。
「どのようにして土の精霊を鎮めたのかは分からぬが、古代人は全滅を免れた。そして残った技術の粋を集めて、土の精霊が封印された島を空に浮かべた。きっとそうすることで、再び土の精霊が暴れ出しても、その影響を少なくしようと思ったのだろうな。地上と切り離されていれば、揺れるのは空島だけで済む」
「それでは、そこへ行くためのコンパスが準備されていたのはなぜですか?」
「それは恐らく、形ある物はいつかは壊れるということだろう」
「うげ」
ジルが小さな悲鳴を上げた。いくら古代人が優れた技術を持っていたとしても、作った物はいつかは壊れる。永遠に残るものは魔法袋にしまってあるオリハルコンの槍くらいだろう。コンパスが用意されていたのは壊れる前に修理しろ、もしくは何とかしろと言うことなのだろう。
これは非常に良くない状況になっているような気がする。精霊たちが「この星」に操られるような形ではあるが復活しているのだ。間違いなく、土の精霊も同じような状況になっているはずだ。
空島が地上に落ちればどうなるか。土の精霊が完全復活したら? とんでもないことになるぞ。
「ねえ、何でそんないわく付きの島が『聖なる大地』なんて名前で呼ばれているのかしら?」
「うーん、そうですな……妖精様、もしその場所が『魔王城』とか呼ばれていたらどう思いますか?」
「何か悪いことが起きそうで不安だわ」
「そう言うことでしょう。生き残った人々に悪い感情を与えないようにするために、そのような名前にしたのではないですかね。もちろん、私の推測に過ぎませんがね」
確かにこの世界のどこかに魔王の城が浮かんでいるとかウワサになっていたら嫌だな。いつの日か本当に魔王が現れるんじゃないかと不安になるはずだ。神への信仰心は高まりそうだけどね。悪いことを考えるヤツらがその場所を探しそうな気もするし。
いや、でも、好奇心旺盛な人たちが結局探すことになるんじゃないかな? ここにいる人たちみたいな人が。
「もしかして、飛行船がなくなったのはそのためなのかな」
「恐らくそうじゃろう。あえて飛行船を作る技術を隠したのだ。だが、お前さん方が見つけてしまった。きっとそれも運命だったのではないかと我々は考えておるよ」
俺のつぶやきが聞こえたのだろう。白髪頭の研究員がそう答えた。どうやらそう思っているのは彼だけではないようだ。ここにいる研究員たち全員がそう思っているようである。鋭い目つきでこちらを見ていた。
「ハウジンハ伯爵もサンチョさんも大変そうだな」
商業都市エベランから来た手紙を読みながらアーダンがため息をついた。俺たちのパーティー宛てに来た手紙には難民や復興支援に忙しいと書いてあった。その中には俺たちがあらかじめ準備を促しておいてくれたおかげで混乱が少なくて済んでいる、ありがとうと書いてあった。
「そうだね。でもその分、もうけもあるみたいだよ。ハウジンハ伯爵の評価もますます上がっているみたいだし、侯爵になるんじゃないかって話も出ているみたいだからね」
「侯爵だなんてすごいじゃない。あたしたちにも何かお礼があるかもよ?」
「すでに魔法袋をもらっているから、これ以上はもういらないよ」
おいしいお菓子をもらえるんじゃないかとリリアは思っているのかも知れないが、たぶんそんなものじゃ済まないぞ。期待に満ちたリリアの笑顔に眉を下げるしかなかった。
「どの国も大忙しだな。冒険者ギルドの依頼も護衛任務や復興支援ばっかりだもんな。そりゃ色んな物資を送らないと行けないかも知れないが、他の依頼もあって良いと思わないか?」
「そうね。ただの護衛任務にプラチナランク冒険者が出向いたら、とんでもない騒ぎになりそうだもんね」
ベランジェ王国までの道はそれほど危険ではない。そのため、護衛任務の依頼のほとんどはシルバーランクより下の人が受けられるものが占めている。もちろん俺たちプラチナランク冒険者がその依頼を引き受けても良いのだが、さすがに下位ランク冒険者の依頼を奪うのは良くないと思う。
「新しい魔物の討伐依頼は出ていないしなー。このままじゃ老けそうだ」
ジルがそう言うのも一理あるな。剣術も魔法も使わなければドンドンさび付いてしまうプラチナランク冒険者だからと言って油断はできない。
「それならさ、飛行船をもらいに行きましょうよ。もう完成してるんじゃない?」
リリアが瞳をキラキラと輝かせながらみんなの方を見た。その表情を見て「さすがに骨組みから一ヶ月では飛行船を作れないだろう」とはさすがに言えず、王都のアカデミーに行ってみることになった。
すでに常連客となりつつある俺たちはすんなりと学園内に入ることができた。前に来たときと何も変わらない風景、と思いきや、大きな建物の屋根が一部破損していた。恐らくこの前に王都を襲った大嵐の影響が残っているのだろう。
「修理するお金、ないのかな?」
胸元に隠れているリリアが眉を寄せながら聞いてきた。アカデミーは国の予算で運営が行われているはずなので資金は潤沢にあるはず。お金に困っているとは考えられないんだけど。
「うーん、今はあちこちで屋根を直す資材が必要だからね。そっちを先に修理しているんじゃないかな? でもまあ、気になるからあとで聞いてみようか」
その答えに納得したのか、満足そうにうなずいた。冒険者として人助けをするようになってから、リリアもずいぶんと丸くなったと思う。以前は俺以外の人には興味をまったく示さなかったからね。うれしいような、寂しいような、ちょっと複雑な気分だ。
研究室に着いた俺たちは歓迎を持って迎えられた。
「よく来たな、待っておったぞ」
「あまりにも遅いから、こちらからギルドに連絡しようと思っていたところだよ」
ワラワラと研究員たちが集まってきた。その手にはいくつもの紙の束がある。きっと「聖なる大地」について情報がまとめられているのだろう。
「まずは例の『聖なる大地』についてのことじゃ。古い伝承を集めて総合的に判断した結果、それは恐らく古代人が空に浮かべた島だろう」
「島を浮かべる……古代人はそんな技術を持っていたんですね」
「そうなるな。なぜ島を浮かべたのかというと、どうやらその島に『土の精霊』が封印されていたからのようだ」
どうやら古代人は土の精霊と共に、その島を大地から切り離したようである。そこまでしなければならない理由があったのだろう。あとで精霊たちに聞いてみないといけないな。
「土の精霊は他の精霊に比べて、とんでもない災害を引き起こしたようだ」
「過去に精霊が災害を引き起こした記述があったのですか?」
初耳だ。驚いたのは俺だけじゃなかった。アーダンたちも驚いている。落ち着いているのは研究員たちだけである。
「確実とは言えないが、そのように推論した方がなぜ古代人がいなくなったのか、古代の超文明が消えてしまったのかに説明をつけやすいのだ。記述には土の精霊が大地を揺らしたと書いてあった」
「地震を起こすことができるのですね。大規模な地震が起こればとんでもない被害が出ますよ」
アーダンの声が少し大きくなった。大きな地震が王都で起これば……考えたくもないな。それを想像したのか、ジルとエリーザの顔も青くなっていた。
「かつて大地震が世界中で起こり、ほとんどの文明が地の底に飲み込まれたそうだ。そしてそれを引き起こしたのが土の精霊ではないかと思っている」
シンと辺りが静まり返った。その空気を変えるかのように、研究員の一人がコホンと一つ咳をした。
「どのようにして土の精霊を鎮めたのかは分からぬが、古代人は全滅を免れた。そして残った技術の粋を集めて、土の精霊が封印された島を空に浮かべた。きっとそうすることで、再び土の精霊が暴れ出しても、その影響を少なくしようと思ったのだろうな。地上と切り離されていれば、揺れるのは空島だけで済む」
「それでは、そこへ行くためのコンパスが準備されていたのはなぜですか?」
「それは恐らく、形ある物はいつかは壊れるということだろう」
「うげ」
ジルが小さな悲鳴を上げた。いくら古代人が優れた技術を持っていたとしても、作った物はいつかは壊れる。永遠に残るものは魔法袋にしまってあるオリハルコンの槍くらいだろう。コンパスが用意されていたのは壊れる前に修理しろ、もしくは何とかしろと言うことなのだろう。
これは非常に良くない状況になっているような気がする。精霊たちが「この星」に操られるような形ではあるが復活しているのだ。間違いなく、土の精霊も同じような状況になっているはずだ。
空島が地上に落ちればどうなるか。土の精霊が完全復活したら? とんでもないことになるぞ。
「ねえ、何でそんないわく付きの島が『聖なる大地』なんて名前で呼ばれているのかしら?」
「うーん、そうですな……妖精様、もしその場所が『魔王城』とか呼ばれていたらどう思いますか?」
「何か悪いことが起きそうで不安だわ」
「そう言うことでしょう。生き残った人々に悪い感情を与えないようにするために、そのような名前にしたのではないですかね。もちろん、私の推測に過ぎませんがね」
確かにこの世界のどこかに魔王の城が浮かんでいるとかウワサになっていたら嫌だな。いつの日か本当に魔王が現れるんじゃないかと不安になるはずだ。神への信仰心は高まりそうだけどね。悪いことを考えるヤツらがその場所を探しそうな気もするし。
いや、でも、好奇心旺盛な人たちが結局探すことになるんじゃないかな? ここにいる人たちみたいな人が。
「もしかして、飛行船がなくなったのはそのためなのかな」
「恐らくそうじゃろう。あえて飛行船を作る技術を隠したのだ。だが、お前さん方が見つけてしまった。きっとそれも運命だったのではないかと我々は考えておるよ」
俺のつぶやきが聞こえたのだろう。白髪頭の研究員がそう答えた。どうやらそう思っているのは彼だけではないようだ。ここにいる研究員たち全員がそう思っているようである。鋭い目つきでこちらを見ていた。
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