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今そこにある危機
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俺と同化したい? それって俺が火の精霊になるってことなのか?
「俺と同化してどうするんだ? 俺の体を乗っ取るつもりなのか?」
「ちょっと、フェルは渡さないわよ! あたしのものなんだからね!」
リリアが俺と火の精霊の間で両手を広げて通せん坊をした。どうやらいつの間にか、俺はリリアのものになっているらしい。知らなかった。でも悪くない気分だ。
【違う。ボクがフェルの一部になる】
「そうなると、キミはどうなるの?」
【消える。でも、それでいい】
どうして火の精霊がそんなことをするのか良く分からないな。これはもう少し話を聞いた方が良いだろう。今後のこともあるしね。
「何が起きたのか教えてもらえないかな?」
【この星が怒ってる。それでボクの意識を奪って、世界を壊そうとした】
「それじゃ、あの魔石の矢は『この星』が作り出したものなのかな?」
【そう】
なるほど。「この星」は魔石を作り出すことができるのか。そうなると、魔物を生み出しているのは「この星」だと言うことになるな。そうなると、ビッグファイアータートルを生み出したのも、火の精霊ではなく「この星」なのだろう。……この星って意識があるの?
「リリア、知ってた?」
「知らないわ。初耳よ」
「だよね。俺も初耳だよ」
この星に意識があり、怒っている。その原因は地上に生きる者たちなんだろうな。戦争したり、鉱山開発をしたりして、空と、大地と、海を汚しているもんな。怒られてもしょうがないのかも知れない。
「もしかして、その昔も世界を壊そうとしたことがあるのかな?」
【ある。そのときもフェルが助けてくれた】
「フェルが?」
【そう。フェルが】
うーん、どうやらかつて、俺じゃないフェルが世界を救ったらしい。どんな表情をしたら良いのか分からずに、リリアの方を見た。
「リリア!?」
「大丈夫、何でもない」
「そんなわけないだろう! どこか痛むのか!?」
「何でもない」
ポロポロと涙を流し始めたリリアを抱きしめた。もうわけが分からないよ。俺がオロオロしているのにもかかわらず、火の精霊はマイペースに話を続けた。
【だからフェルと同化したい。あのときのお礼をしたい】
「えっと、フェル違いじゃないかな?」
【違う。同じフェル】
……つまり俺は、その昔、火の精霊を助けた本人の生まれ変わりってことなのかな? 確かに自分の魔法の才能は規格外だろう。リリアにも言われたし、そこは認めないといけない。まさかそれが前世から引き継いだものだったとは思わなかった。
「キミはそれでいいの?」
【いい】
どうやら火の精霊の決意は固そうである。どのみち、このまま放置して置くわけには行かないだろう。また「この星」が火の精霊にちょっかいをかけてくるかも知れないからね。
「分かったよ。同化しよう」
【ありがとう。さあ、ボクを食べて】
「えええ! 食べるの!?」
【そう】
何か嫌だな。小さい火とはいえ、拳くらいの大きさはあるぞ。それに、意識のあるものを食べるのはちょっと忌避感があるな。俺がまごついているのを察知したのか、勢い良く火の精霊が俺の口の中に飛び込んできた。
「ぐえ」
カエルが鳴くような声を上げて、口の中に入ってきたものを飲み込んだ。罪悪感は残ったが、これで同化は完了したのだろう。体の中に暖かい魔力が満ちてゆく感触がある。体の節々にあった痛みが引いていくのが分かった。
「フェル、大丈夫?」
「うん。大丈夫だよ。体の痛みも消えたよ」
「魔力が戻ったのね。まったく、完全に枯渇するまで魔力を使っちゃダメよ。下手すると、そのまま死んじゃうわよ」
「そうだね。今度からは気をつけるよ」
リリアを抱きしめながらそう答えた。リリアがしがみついてきた。そしてその状態で俺を見上げた。その目には不安の色が見えた。
「あの子は眠っちゃったのかしら?」
あの子とは火の精霊のことだろう。
「起きてるよ。ほら」
そう言って、右手に小鳥の大きさをした火の鳥を作り出した。リリアも、火の鳥も、瞳を大きくしてこちらを見ていた。その表情がおかしくて、思わず吹き出した。
「ちょっと、笑いごとじゃないわよ!」
「どうなってるんですか、これ!?」
火の鳥がパタパタと羽をはためかせて、自分の体を確認している。
「あなた、しゃべれるの!?」
「みたいです!」
うーん、にぎやかなのが増えてしまったな。まあ、湿っぽい空気になるよりかはマシだろう。あ、でも、名前はあった方が良いな。
「火の精霊は何て言う名前なんだ?」
「名前はありません」
「そうなの? それじゃあたしが素敵な名前をつけてあげるわ。ゴンザレスはどう?」
あ、ものすごく嫌そうな顔をしている。でも逆らえないのか、嫌とは言わないようである。
「リリア、もっとかわいい名前が良いんじゃないかな?」
「そう? それじゃ、ゴリアテにする?」
「ボクのこと嫌いなんですか、姉御ぉ」
「ブフォ!」
悲しそうな声をした姉御発言に思わず吹き出してしまった。リリアが素早く身を引いた。
「ちょっとフェル、汚いじゃない!」
「ごめんごめん、悪気はなかったんだよ。そうだな、ピーちゃんはどう?」
「え? ピ――」
「良いわね、それ。今日からあなたはピーちゃんよ!」
リリアがビシッと指差した。完全敗北したピーちゃんは頭を垂れた。あ、もしかして嫌だった? かわいい名前なのに。
「あれからみんなはどうなったんだ?」
「フェルが気を失って、ピーちゃんが消えてから、アーダンが血相を変えてフェルを背負って飛行船に戻ったわ」
「姉御の顔はもっとヤバかったんですよ」
「黙らっしゃい」
ピシャリとリリアがピーちゃんをたしなめた。なかなかのコンビのようである。これなら大丈夫そうだな。相性が悪かったら、ピーちゃんを出すのを控えなければいけないところだった。
「すぐに飛行船は王都まで戻ったわ。それからすぐにこの部屋にフェルを寝かせてから、みんなは報告に向かったわ。エリーザがここに残るって言ってたんだけど、詳しい証言が欲しいらしくて、結局エリーザも一緒にお城に行ったわ」
「姉御が追い出したんですよ。フェルの面倒はあたしが見るから大丈夫って」
「黙らっしゃい」
ピシャリとリリアがピーちゃんをたしなめた。だがリリアの顔は赤くなっていた。
この次は手が出そうだぞ。気をつけた方が良いぞ、ピーちゃん。
「そうだったんだね。ありがとう、リリア」
「べ、別にお礼なんて要らないわよ。当然のことをしただけだから。当然よ、当然」
耳まで真っ赤になったリリアがそっぽを向いた。そんなリリアを捕まえてなでまわした。いやらしい手つきではない。普通の手つきだ。
「それじゃ、そのうちアーダンたちは戻ってくるかな?」
「そうね。報告が終われば戻って来るんじゃないの? いつになるか分からないし、それまでに何か食べに行きましょうよ」
「そうだね。そう言えば、なんだかおなかがすいてきたよ」
そう言えば何日も寝たままだったんだっけ。そりゃおなかもすくか。服を着替えて、クリーン・アップで体をキレイにする。本当はお風呂に入りたかったが、そこまでする元気はまだなかった。
「フェル、みんなが戻ってきたわ!」
リリアがそう言い終わったところで、部屋のドアが開いた。ノックもなしである。そしてどうやら鍵もかかっていなかったようである。
「フェル! 目を覚ましていたのか」
「うん。ついさっき目を覚ましたところだよ。大体のことはリリアに聞いたよ。心配をかけてごめんね」
「謝る必要はねぇよ。フェルのおかげで勝てたようなものだからな」
「そうよ。私たちは仲間でしょ? 謝る必要はないわ。……ところで、その肩に乗っている火の鳥は何?」
エリーザが俺の肩に止まっているピーちゃんを指差した。三人のあまり驚いていない様子から、何となく何者なのかは察しているのだろう。
「紹介するよ。火の精霊のピーちゃんだよ」
「ピーちゃんです」
「しゃ、しゃべったー!」
ジルとエリーザが声をそろえてそう言った。火の精霊は予想できたが、しゃべるのは予想外だったようである。アーダンは頭を抱えていた。
「また妙なことになったな。王城では『火の精霊は完全に消滅した』って報告したんだが……」
「それで構わないよ。間違いなく消滅した。もういない」
「ボクは死にました。今のボクはあのときのボクとは違います。違うボクです!」
「良く分からんが、そういうことにしておこう。今から飯か? それじゃ、フェルの快気祝いにみんなで行こう」
俺たちは肩を並べて宿屋を後にした。
「俺と同化してどうするんだ? 俺の体を乗っ取るつもりなのか?」
「ちょっと、フェルは渡さないわよ! あたしのものなんだからね!」
リリアが俺と火の精霊の間で両手を広げて通せん坊をした。どうやらいつの間にか、俺はリリアのものになっているらしい。知らなかった。でも悪くない気分だ。
【違う。ボクがフェルの一部になる】
「そうなると、キミはどうなるの?」
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【そう】
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「リリア、知ってた?」
「知らないわ。初耳よ」
「だよね。俺も初耳だよ」
この星に意識があり、怒っている。その原因は地上に生きる者たちなんだろうな。戦争したり、鉱山開発をしたりして、空と、大地と、海を汚しているもんな。怒られてもしょうがないのかも知れない。
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【ある。そのときもフェルが助けてくれた】
「フェルが?」
【そう。フェルが】
うーん、どうやらかつて、俺じゃないフェルが世界を救ったらしい。どんな表情をしたら良いのか分からずに、リリアの方を見た。
「リリア!?」
「大丈夫、何でもない」
「そんなわけないだろう! どこか痛むのか!?」
「何でもない」
ポロポロと涙を流し始めたリリアを抱きしめた。もうわけが分からないよ。俺がオロオロしているのにもかかわらず、火の精霊はマイペースに話を続けた。
【だからフェルと同化したい。あのときのお礼をしたい】
「えっと、フェル違いじゃないかな?」
【違う。同じフェル】
……つまり俺は、その昔、火の精霊を助けた本人の生まれ変わりってことなのかな? 確かに自分の魔法の才能は規格外だろう。リリアにも言われたし、そこは認めないといけない。まさかそれが前世から引き継いだものだったとは思わなかった。
「キミはそれでいいの?」
【いい】
どうやら火の精霊の決意は固そうである。どのみち、このまま放置して置くわけには行かないだろう。また「この星」が火の精霊にちょっかいをかけてくるかも知れないからね。
「分かったよ。同化しよう」
【ありがとう。さあ、ボクを食べて】
「えええ! 食べるの!?」
【そう】
何か嫌だな。小さい火とはいえ、拳くらいの大きさはあるぞ。それに、意識のあるものを食べるのはちょっと忌避感があるな。俺がまごついているのを察知したのか、勢い良く火の精霊が俺の口の中に飛び込んできた。
「ぐえ」
カエルが鳴くような声を上げて、口の中に入ってきたものを飲み込んだ。罪悪感は残ったが、これで同化は完了したのだろう。体の中に暖かい魔力が満ちてゆく感触がある。体の節々にあった痛みが引いていくのが分かった。
「フェル、大丈夫?」
「うん。大丈夫だよ。体の痛みも消えたよ」
「魔力が戻ったのね。まったく、完全に枯渇するまで魔力を使っちゃダメよ。下手すると、そのまま死んじゃうわよ」
「そうだね。今度からは気をつけるよ」
リリアを抱きしめながらそう答えた。リリアがしがみついてきた。そしてその状態で俺を見上げた。その目には不安の色が見えた。
「あの子は眠っちゃったのかしら?」
あの子とは火の精霊のことだろう。
「起きてるよ。ほら」
そう言って、右手に小鳥の大きさをした火の鳥を作り出した。リリアも、火の鳥も、瞳を大きくしてこちらを見ていた。その表情がおかしくて、思わず吹き出した。
「ちょっと、笑いごとじゃないわよ!」
「どうなってるんですか、これ!?」
火の鳥がパタパタと羽をはためかせて、自分の体を確認している。
「あなた、しゃべれるの!?」
「みたいです!」
うーん、にぎやかなのが増えてしまったな。まあ、湿っぽい空気になるよりかはマシだろう。あ、でも、名前はあった方が良いな。
「火の精霊は何て言う名前なんだ?」
「名前はありません」
「そうなの? それじゃあたしが素敵な名前をつけてあげるわ。ゴンザレスはどう?」
あ、ものすごく嫌そうな顔をしている。でも逆らえないのか、嫌とは言わないようである。
「リリア、もっとかわいい名前が良いんじゃないかな?」
「そう? それじゃ、ゴリアテにする?」
「ボクのこと嫌いなんですか、姉御ぉ」
「ブフォ!」
悲しそうな声をした姉御発言に思わず吹き出してしまった。リリアが素早く身を引いた。
「ちょっとフェル、汚いじゃない!」
「ごめんごめん、悪気はなかったんだよ。そうだな、ピーちゃんはどう?」
「え? ピ――」
「良いわね、それ。今日からあなたはピーちゃんよ!」
リリアがビシッと指差した。完全敗北したピーちゃんは頭を垂れた。あ、もしかして嫌だった? かわいい名前なのに。
「あれからみんなはどうなったんだ?」
「フェルが気を失って、ピーちゃんが消えてから、アーダンが血相を変えてフェルを背負って飛行船に戻ったわ」
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「黙らっしゃい」
ピシャリとリリアがピーちゃんをたしなめた。なかなかのコンビのようである。これなら大丈夫そうだな。相性が悪かったら、ピーちゃんを出すのを控えなければいけないところだった。
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「黙らっしゃい」
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この次は手が出そうだぞ。気をつけた方が良いぞ、ピーちゃん。
「そうだったんだね。ありがとう、リリア」
「べ、別にお礼なんて要らないわよ。当然のことをしただけだから。当然よ、当然」
耳まで真っ赤になったリリアがそっぽを向いた。そんなリリアを捕まえてなでまわした。いやらしい手つきではない。普通の手つきだ。
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「そうね。報告が終われば戻って来るんじゃないの? いつになるか分からないし、それまでに何か食べに行きましょうよ」
「そうだね。そう言えば、なんだかおなかがすいてきたよ」
そう言えば何日も寝たままだったんだっけ。そりゃおなかもすくか。服を着替えて、クリーン・アップで体をキレイにする。本当はお風呂に入りたかったが、そこまでする元気はまだなかった。
「フェル、みんなが戻ってきたわ!」
リリアがそう言い終わったところで、部屋のドアが開いた。ノックもなしである。そしてどうやら鍵もかかっていなかったようである。
「フェル! 目を覚ましていたのか」
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「謝る必要はねぇよ。フェルのおかげで勝てたようなものだからな」
「そうよ。私たちは仲間でしょ? 謝る必要はないわ。……ところで、その肩に乗っている火の鳥は何?」
エリーザが俺の肩に止まっているピーちゃんを指差した。三人のあまり驚いていない様子から、何となく何者なのかは察しているのだろう。
「紹介するよ。火の精霊のピーちゃんだよ」
「ピーちゃんです」
「しゃ、しゃべったー!」
ジルとエリーザが声をそろえてそう言った。火の精霊は予想できたが、しゃべるのは予想外だったようである。アーダンは頭を抱えていた。
「また妙なことになったな。王城では『火の精霊は完全に消滅した』って報告したんだが……」
「それで構わないよ。間違いなく消滅した。もういない」
「ボクは死にました。今のボクはあのときのボクとは違います。違うボクです!」
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