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ギルマスからの依頼
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遺跡調査が終わってからの数日、これでもかと言うほどゴロゴロして過ごした。報酬金もたっぷりあるため、遠慮なく買い物をすることができた。魔法袋もあることだし、無駄な私物を買っても問題ない。
「フェル、ちょっと買いすぎなんじゃないの?」
リリアがねっとりとした目でこちらを見ている。どうやらさすがに目に余ったようである。リリアの視線の先にはガラクタのような魔道具が散乱していた。
「世界中にある魔道具を集めようと思ってさ」
「ほとんど魔法で代用できるんだから無駄じゃないのよ。まあ、他に使い道がないからフェルの好きにしてもらって構わないけど……そうだ、家はどうなったのよ、家は」
「あー、家ね。今の宿で十分じゃない? 掃除も洗濯もしてくれるし、お風呂だってついてる。一軒家を借りる必要性を感じられないんだけど」
全てを自分で手入れしないといけない一軒家は不便で仕方がないと思うんだけど。それでも貴族はこぞって立派な邸宅を持とうとするんだよね。それで破綻する貴族がいるとか、いないとか。
「確かにそうだけど……フェルには何か目標が必要なんじゃないの?」
「目標か、確かにそうかも知れないね」
目標ね……あるにはあるんだけど、それが達成できる可能性は極めて低いんだよね。あきらめたらそこで終わりなはずなのに、あきらめてしまっている自分がいる。せめて希望の光でも見えれば良いのに。
腕を組んで、目の前を浮遊しているリリアを見た。いつ見ても、かわいらしくて、美しい。
「フェル、いるか? 追加の報酬が出たぞ」
「アーダン、冒険者ギルドに行っていたんだね。呼んでくれれば一緒に行ったのに」
部屋のドアがノックされた。
俺たちのパーティーのリーダーであるアーダンは、何事も自分一人でやろうとする癖がある。彼の負担が増えるばかりなので何とかしたいと思っているのだが、それが中々難しい。いつもこうやって、だれにも内緒で冒険者ギルドへ行くのだ。
「気にするな。ついでだよ、ついで。ほら、報酬だ」
「え? こんなにあるの!?」
「そりゃそうだろ? 国は『この百年間で最大の発見』と言ってるらしいぞ」
そんなにすごい発見だったのか。確かに飛行船の発見はすごいと思うが、そこまでだとは思わなかった。リリアは「ふーん」くらいの反応だった。リリアにとっての百年は大したことないからね。俺たちとは時間軸が全然違う。
「飛行船は動くようになったの?」
「どうやらそうらしい。あの遺跡での発掘品の中に、奇跡的に飛行船についての資料が残っていたそうだ」
「あの紙くずの中に? よくあれを調査できたよね」
木の棚と一緒にボロボロに朽ち果てていたはずだ。もしかして、紙を再生する魔法でもあるのかな? 研究者たちはこんなこともあろうかと、新たな魔法を作り上げていたのかも知れない。
「同感だ。むやみに触らなくて良かったよ。ギルマスからはそのことで褒められたよ。俺たちに任せて良かったってな」
「これで俺たちもまた名を上げたね」
「違いない」
一緒に笑い声を上げた。遺跡調査はかなり大変な作業だったが、それに見合う見返りはあったようである。
「おっとそうだ。どうやら俺たちが倒したビッグファイアータートルのことについても進展があったみたいだ。まだ学者たちの間で議論されているらしいが、近々何らかの動きがあるんじゃないかとギルマスが言っていた」
「何らかの動き? 何かあったのかな?」
「そこまでは分からんが、どうもギルマスの様子を見るに、良い話ではなさそうだな」
静かにこちらの目を見るアーダン。どうやら何かが起こっているようだ。顔に張り付いてきたリリアを安心させるようにそっとなでた。
それから数日間は特に何事もなく過ごした。その間、俺たちがそろってプラチナランクの依頼を受けることはなく、それぞれが適当に好きな依頼を受けていた。
ジルは魔物の討伐依頼に向かい、アーダンは料理の研究をしていた。エリーザは王都の治癒院の臨時職員としてその敏腕を振るっていた。
実に自由なパーティーである。俺とリリアと言えば、採取依頼や魔物の討伐依頼、王都でのうまいもの探しなどをしていた。
そんな中、何か大きな動きがあったようである。毎日みんなで集まって食べることにしている夕食の時間にアーダンが切り出した。
「今日、冒険者ギルドに行ったら、ビッグファイアータートルが現れたという話を聞いた」
「え、またなの?」
リリアが目を大きくして声を上げた。また現れるとは思っていなかったようだ。偶然、魔物が巨大化するにしても、これほど連続で起こるのは予想していなかったようである。
「それでアーダン、そいつはどうなったんだ?」
「何とかプラチナランク冒険者が倒したらしい。だが、かなりのケガを負ったようで、しばらくの間は動けないそうだ」
その冒険者がどうやって倒したのか気になるが、無傷で討伐とはいかなかったようである。そうなると、アーダンの軽い火傷程度で倒した俺たちはかなりすごいのではなかろうか。プラチナランク冒険者の中でも、強い方なのかも知れない。
「場所はまたエルフの聖地なのかな?」
「フェルの言う通りだ。また聖地だ。ただし、俺たちが倒した場所からは離れていたそうだ」
聖地で何かしらの異常が起こっているのだろうか。同じ場所に現れたのならその原因を探しやすいかも知れないが、離れているとなると見つからないかも知れないな。
「どこから現れたのか、分かっているの?」
「それがどうも、ファイアータートルが巨大化したんじゃないかという結論に達しているらしい」
「そんなことあるわけ……」
あるわけないと言おうとしたであろうリリアの動きが止まった。
どうしたんだ、リリア。もしかして何か思い出したのかな? そのまま下を向いて沈黙するリリア。不安になった俺はそっとリリアを両手で引き寄せた。リリアはなされるがままである。
どうやらかなりのショックを受けているようだ。
「これ以上の情報は得られなかった。と言うよりかは、不用意に口にできないといった感じだったな。これ以上のことを知りたかったら、依頼を受けてくれってことらしい」
「依頼? どんな依頼なんだ?」
ジルが俺たちと目を合わせ、最後にアーダンを見た。
「それが、全員がそろってから依頼について説明してくれるらしい」
「つまりそれは私たちへの指名依頼ってことなのかしら?」
「そうなるな」
アーダンが腕を組み、目を閉じた。何か思うところがあるらしい。
「おいおい、それって、俺たちじゃなくて、オリハルコンやミスリルに頼む依頼なんじゃないのか?」
「今回はギルマスからの依頼と言う形にするそうだ」
「ギルマスからの依頼……」
これは断りにくい依頼だな。オリハルコンやミスリルなら、国からの依頼であれば断ることができない。俺たちはそれが嫌で、オリハルコンやミスリルになっていないのだ。
だれの、どんな依頼を受けるかは自分たちの自由。それが俺たちの暗黙の了解だった。
だがそれが日頃からお世話になっている冒険者ギルドからの依頼となれば、断りにくいところがあった。俺たちのことを良く知っているギルマスからの依頼となれば、相当、当てにされていると考えて良いだろう。その期待を裏切るのは心苦しいところがあった。
「どうする?」
アーダンが目を開くと、俺たちをじっと見据えた。アーダンがこの話を持って来た時点で、断れないんだろうなぁという気がする。
「受けましょう」
「リリア?」
「何だか分からないけど、受けなきゃいけない気がするわ」
いつもとは違う、真剣な表情のリリアに、俺たちはそろってうなずいた。
「よし、それじゃ決まりだな。明日、冒険者ギルドに行こう」
アーダンの言葉が重々しく響いた。
「フェル、ちょっと買いすぎなんじゃないの?」
リリアがねっとりとした目でこちらを見ている。どうやらさすがに目に余ったようである。リリアの視線の先にはガラクタのような魔道具が散乱していた。
「世界中にある魔道具を集めようと思ってさ」
「ほとんど魔法で代用できるんだから無駄じゃないのよ。まあ、他に使い道がないからフェルの好きにしてもらって構わないけど……そうだ、家はどうなったのよ、家は」
「あー、家ね。今の宿で十分じゃない? 掃除も洗濯もしてくれるし、お風呂だってついてる。一軒家を借りる必要性を感じられないんだけど」
全てを自分で手入れしないといけない一軒家は不便で仕方がないと思うんだけど。それでも貴族はこぞって立派な邸宅を持とうとするんだよね。それで破綻する貴族がいるとか、いないとか。
「確かにそうだけど……フェルには何か目標が必要なんじゃないの?」
「目標か、確かにそうかも知れないね」
目標ね……あるにはあるんだけど、それが達成できる可能性は極めて低いんだよね。あきらめたらそこで終わりなはずなのに、あきらめてしまっている自分がいる。せめて希望の光でも見えれば良いのに。
腕を組んで、目の前を浮遊しているリリアを見た。いつ見ても、かわいらしくて、美しい。
「フェル、いるか? 追加の報酬が出たぞ」
「アーダン、冒険者ギルドに行っていたんだね。呼んでくれれば一緒に行ったのに」
部屋のドアがノックされた。
俺たちのパーティーのリーダーであるアーダンは、何事も自分一人でやろうとする癖がある。彼の負担が増えるばかりなので何とかしたいと思っているのだが、それが中々難しい。いつもこうやって、だれにも内緒で冒険者ギルドへ行くのだ。
「気にするな。ついでだよ、ついで。ほら、報酬だ」
「え? こんなにあるの!?」
「そりゃそうだろ? 国は『この百年間で最大の発見』と言ってるらしいぞ」
そんなにすごい発見だったのか。確かに飛行船の発見はすごいと思うが、そこまでだとは思わなかった。リリアは「ふーん」くらいの反応だった。リリアにとっての百年は大したことないからね。俺たちとは時間軸が全然違う。
「飛行船は動くようになったの?」
「どうやらそうらしい。あの遺跡での発掘品の中に、奇跡的に飛行船についての資料が残っていたそうだ」
「あの紙くずの中に? よくあれを調査できたよね」
木の棚と一緒にボロボロに朽ち果てていたはずだ。もしかして、紙を再生する魔法でもあるのかな? 研究者たちはこんなこともあろうかと、新たな魔法を作り上げていたのかも知れない。
「同感だ。むやみに触らなくて良かったよ。ギルマスからはそのことで褒められたよ。俺たちに任せて良かったってな」
「これで俺たちもまた名を上げたね」
「違いない」
一緒に笑い声を上げた。遺跡調査はかなり大変な作業だったが、それに見合う見返りはあったようである。
「おっとそうだ。どうやら俺たちが倒したビッグファイアータートルのことについても進展があったみたいだ。まだ学者たちの間で議論されているらしいが、近々何らかの動きがあるんじゃないかとギルマスが言っていた」
「何らかの動き? 何かあったのかな?」
「そこまでは分からんが、どうもギルマスの様子を見るに、良い話ではなさそうだな」
静かにこちらの目を見るアーダン。どうやら何かが起こっているようだ。顔に張り付いてきたリリアを安心させるようにそっとなでた。
それから数日間は特に何事もなく過ごした。その間、俺たちがそろってプラチナランクの依頼を受けることはなく、それぞれが適当に好きな依頼を受けていた。
ジルは魔物の討伐依頼に向かい、アーダンは料理の研究をしていた。エリーザは王都の治癒院の臨時職員としてその敏腕を振るっていた。
実に自由なパーティーである。俺とリリアと言えば、採取依頼や魔物の討伐依頼、王都でのうまいもの探しなどをしていた。
そんな中、何か大きな動きがあったようである。毎日みんなで集まって食べることにしている夕食の時間にアーダンが切り出した。
「今日、冒険者ギルドに行ったら、ビッグファイアータートルが現れたという話を聞いた」
「え、またなの?」
リリアが目を大きくして声を上げた。また現れるとは思っていなかったようだ。偶然、魔物が巨大化するにしても、これほど連続で起こるのは予想していなかったようである。
「それでアーダン、そいつはどうなったんだ?」
「何とかプラチナランク冒険者が倒したらしい。だが、かなりのケガを負ったようで、しばらくの間は動けないそうだ」
その冒険者がどうやって倒したのか気になるが、無傷で討伐とはいかなかったようである。そうなると、アーダンの軽い火傷程度で倒した俺たちはかなりすごいのではなかろうか。プラチナランク冒険者の中でも、強い方なのかも知れない。
「場所はまたエルフの聖地なのかな?」
「フェルの言う通りだ。また聖地だ。ただし、俺たちが倒した場所からは離れていたそうだ」
聖地で何かしらの異常が起こっているのだろうか。同じ場所に現れたのならその原因を探しやすいかも知れないが、離れているとなると見つからないかも知れないな。
「どこから現れたのか、分かっているの?」
「それがどうも、ファイアータートルが巨大化したんじゃないかという結論に達しているらしい」
「そんなことあるわけ……」
あるわけないと言おうとしたであろうリリアの動きが止まった。
どうしたんだ、リリア。もしかして何か思い出したのかな? そのまま下を向いて沈黙するリリア。不安になった俺はそっとリリアを両手で引き寄せた。リリアはなされるがままである。
どうやらかなりのショックを受けているようだ。
「これ以上の情報は得られなかった。と言うよりかは、不用意に口にできないといった感じだったな。これ以上のことを知りたかったら、依頼を受けてくれってことらしい」
「依頼? どんな依頼なんだ?」
ジルが俺たちと目を合わせ、最後にアーダンを見た。
「それが、全員がそろってから依頼について説明してくれるらしい」
「つまりそれは私たちへの指名依頼ってことなのかしら?」
「そうなるな」
アーダンが腕を組み、目を閉じた。何か思うところがあるらしい。
「おいおい、それって、俺たちじゃなくて、オリハルコンやミスリルに頼む依頼なんじゃないのか?」
「今回はギルマスからの依頼と言う形にするそうだ」
「ギルマスからの依頼……」
これは断りにくい依頼だな。オリハルコンやミスリルなら、国からの依頼であれば断ることができない。俺たちはそれが嫌で、オリハルコンやミスリルになっていないのだ。
だれの、どんな依頼を受けるかは自分たちの自由。それが俺たちの暗黙の了解だった。
だがそれが日頃からお世話になっている冒険者ギルドからの依頼となれば、断りにくいところがあった。俺たちのことを良く知っているギルマスからの依頼となれば、相当、当てにされていると考えて良いだろう。その期待を裏切るのは心苦しいところがあった。
「どうする?」
アーダンが目を開くと、俺たちをじっと見据えた。アーダンがこの話を持って来た時点で、断れないんだろうなぁという気がする。
「受けましょう」
「リリア?」
「何だか分からないけど、受けなきゃいけない気がするわ」
いつもとは違う、真剣な表情のリリアに、俺たちはそろってうなずいた。
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