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オーガキング②

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「ねえ、魔法を撃ち込んだら、一発で終わると思うんだけど?」
「……」
「ねえ、もしかして、あなたたちって、すごいの?」

 ピュアな瞳をエリーザさんが向けてきた。すごいんじゃないかな、たぶん。

「ウォータードラゴンとどっちが強いのかな?」
「それは間違いなくウォータードラゴンね。オーガキングなんて、ウォータードラゴンの尻尾ビンタで一撃ノックアウトよ」

 さも当然とばかりにリリアが育ちつつある胸を張って言った。

「それなら一発で終わるね」
「もしかして、ウォータードラゴンを倒した冒険者ってあなたたちのこと?」
「そうよ。フェルが倒したわ。一発の魔法でね」

 リリアが自分の手柄のように良い顔をしていた。

「すごい! それを使えば、オーガキングも一撃ね」
「まあ、それはそうなんだろうけど、ここで使うとまずいんじゃないかな?」

 俺は確認するようにリリアを見た。リリアは眉間をほぐしながら考え込んだ。

「……確かにそうね。あたしたちは無事かも知れないけど、この辺り一帯の森が無くなっちゃうわ」
「ちょっと、どんな魔法を使ったのよ、二人とも!?」

 エリーザさんが悲鳴のような声を上げた。その向こう側に、ジルさんとアーダンさんが戦っているのが見えた。ひょっとして、こんな話をしている場合ではないのでは?
 オーガキングが両手で振り下ろした棍棒がアーダンさんを襲う。潰れる、と思ったが、アーダンさんはそれを難なく盾で受け止めた。

 渾身の一振りだったのだろう。それを止められたオーガキングの動きが一瞬止まった。そのスキを見逃さず、ジルさんがオーガキングに向かって飛び出すと、その右腕を斬り飛ばした。
 ジルさんをたたき落とそうと、オーガキングの左手の棍棒が唸り声を上げる。ジルさんに迫る棍棒を、アーダンさんがシールドをハンマーのように使ってはじき飛ばした。

 オーガキングは残った左腕を滅多矢鱈に振り回した。たまらず、ジルさんとアーダンさんが後ろに下がった。
 二人とオーガキングとの距離が開いた。これはチャンスだ。

「フレイム・ボール!」

 巨大な炎の玉がオーガキングに襲いかかり、あっという間に光の粒に変えた。までは良かったのだが、フレイム・ボールの勢いは止まらず、そのまま後ろの森に突っ込んだ。轟音と共に火柱が上がる。

「ちょっと、何考えてるのよ! 森が燃えちゃう! ウォーター・ボール!」
「ご、ごめん、ウォーター・ボール!」

 慌ててリリアと一緒に火消し作業に移る。ファイアー・ボールにしておけば良かったかな? でもそれじゃ、倒せなかったかも知れないし。

「何やってんだか」
「派手にやるじゃねぇか」
「そういう問題ではない気がするがな。まあ、何はともあれオーガたちの討伐は完了だな」

 後ろから何やら声が聞こえるが、手伝ってはくれなさそうである。どうやらエリーザさんは治癒魔法以外は使えなさそうである。残りの二人も魔法は使えないのだろう。
 結局、俺たち二人で頑張って鎮火することになった。

「まったく、フレイム・アローでもあちこちに火がついて大変だったのに、どうしてフレイム・ボールを使うのよ」
「ごめんなさい」

 俺はリリアの前で正座させられていた。そんな俺たちを、三人がコーヒーを飲みながら見ている。俺もコーヒーが飲みたいな。

「まあまあ、リリアちゃんもそのくらいにして、一緒にコーヒーを飲みましょうよ」
「エリーザ、フェルにはしっかりと分からせてあげないといけないのよ。そうしないと、きっとどこかでまた何かをやらかすわ」

 リリアがプンスコと怒っている。もしかして、魔法でやらかしたのが二回目だからだろうか?

「ちびっ子は過保護だな~。ごめんなさいって謝れば、万事解決よ」
「だれがちびっ子よ、だれが」

 リリアがムキーとジルに怒りの矛先を向けた。良いぞ、このまま矛先がズレてくれれば……。

「リリアの言うことも良く分かるな。しっかりしつけておかないと、ジルみたいに手遅れになるぞ」
「だれが手遅れだよ、だれが」

 今度はジルがアーダンに噛みついた。そしてリリアの矛先がこちらに戻って来た。なんてこったい。

「アーダンの言う通りね。フェルがジルみたいになったら困るわ」
「おいおい、ちびっ子の中で、俺はどんな存在になってるんだよ」
「野蛮人」
「合ってる」
「合ってるな」
「……」

 ジルさんが沈黙した。さすがに仲間からそう言われると、心に来るものがあったようである。
 その後もしばらく、俺はリリアに怒られた。きっとお説教が長引いたのはジルさんのせいだと思う。
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