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船の旅①
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多くの人が行き交う船内は、まるで一つの町が移動していると言っても良いほどにぎわっていた。船の中では食べ物も飲み物も売っている。
サンチョさんが用意してくれたのは二段ベッドが一つだけある狭い部屋だったが、個室だった。どうやら俺とリリアの二人で一部屋を借りてくれたらしい。
船内を見て回ったが、何人もの人が同時に使っている大部屋がほとんどであり、個室を使っているのは貴族かお金持ちの人だけのようだった。冒険者で使っている人はほとんどいないだろう。
「狭いけど、あたしたちだけなのはうれしいわね。大部屋だったらゆっくりできそうにないもの」
「あとでサンチョさんにお礼を言っておかないといけないね。さすがに船内で問題が起きるようなことはないと思うけど、一応警戒はしておいた方が良さそうだね」
「水の上じゃ逃げられないし、そんなことする人なんていないわよ」
「どうかな? 救命ボートで逃げるっていう手もあるかもよ」
初めての船の旅なのでどのように警戒したら良いのか分からないが、できる限りの手を打つつもりだった。船内は常にアナライズで監視しておくとして、念のため、船の周りも警戒しておいた方が良いかも知れない。
「リリアは船の周りを注意しておいてもらえないかな?」
「分かったわ。でっかいお魚さんが襲ってくるかも知れないからね」
「そんな大きな魚がいるの? 不吉なこと言わないでよ……」
この船を飲み込むくらいの大きな魚。そんなの存在するのかな?
そのとき、ボーっと大きな音がした。どうやら魔導船が出港するみたいだ。リリアと一緒に急いで甲板に駆け上がった。
甲板には多くの人がおり、川岸に向かって手を振っていた。船の側面についている大きな車輪が回っている。これはすごい。
船はゆっくりと川の中央付近へと進んでいた。
中央まで進んだところで車輪は止まった。王都はこの川の下流にある。ここからは川の流れに任せて行けばそのうち到着するはずだ。水運を使った物資の移動はとても効率が良さそうだった。
「すごいわね。あの車輪がどうやって動いているのか気になるわ」
「どんな魔道具が使われているのか、一度見てみたいね」
「案外、人が動かしていたりしてね」
イタズラっぽくリリアが笑った。……まさか、奴隷が回しているとかないよね? そんなわけないか。奴隷を乗せておくスペースはなさそうだもんね。
しばらくの間、リリアと二人で魔導船が作り出すさざ波を見ていた。
俺たちは今、サンチョさんと一緒に食堂に来ていた。個室のお礼と、船についてもっと知りたいと思ったからだ。
「それじゃサンチョさん、この船は夜は動かないのですね」
「そうだよ。真っ暗な川を進むのはとても危険だからね。その昔、遅れを取り戻そうと夜に進んで、何隻も沈没したみたいだからね。今は禁止されているよ」
大きな川なので大丈夫だろうと思っていたのだが、危険な場所もあるみたいだ。それでも馬車よりも揺れは少ないし、ずっと快適に移動できる。利用者が多いのもうなずける。
「サンチョさんは王都に行くときはいつも魔導船を利用するのですか?」
「最近はそうだよ。安全だし、荷物をたくさん運ぶことができる。そこから得られる利益を計算すると、魔導船を利用した方がはるかに利益を得られるからね。行きよりも帰りの方が時間がかかるけど、それでも一日しか変わらないからね」
「帰りはあの大きな車輪が回るんですよね?」
「そうだよ。あれが動くのを見に来る人も結構いるからね。すごい迫力だよ。最近はもう慣れてしまったがね」
サンチョさんが笑った。確かにすごい迫力だと思う。じっくりと見てみたいものだな。話によると、途中で川沿いの町や村にも立ち寄るそうである。ただし、そこには魔導船を停泊させる場所がないため、小舟を下ろして向かうことになるらしい。
サンチョさんが用意してくれたのは二段ベッドが一つだけある狭い部屋だったが、個室だった。どうやら俺とリリアの二人で一部屋を借りてくれたらしい。
船内を見て回ったが、何人もの人が同時に使っている大部屋がほとんどであり、個室を使っているのは貴族かお金持ちの人だけのようだった。冒険者で使っている人はほとんどいないだろう。
「狭いけど、あたしたちだけなのはうれしいわね。大部屋だったらゆっくりできそうにないもの」
「あとでサンチョさんにお礼を言っておかないといけないね。さすがに船内で問題が起きるようなことはないと思うけど、一応警戒はしておいた方が良さそうだね」
「水の上じゃ逃げられないし、そんなことする人なんていないわよ」
「どうかな? 救命ボートで逃げるっていう手もあるかもよ」
初めての船の旅なのでどのように警戒したら良いのか分からないが、できる限りの手を打つつもりだった。船内は常にアナライズで監視しておくとして、念のため、船の周りも警戒しておいた方が良いかも知れない。
「リリアは船の周りを注意しておいてもらえないかな?」
「分かったわ。でっかいお魚さんが襲ってくるかも知れないからね」
「そんな大きな魚がいるの? 不吉なこと言わないでよ……」
この船を飲み込むくらいの大きな魚。そんなの存在するのかな?
そのとき、ボーっと大きな音がした。どうやら魔導船が出港するみたいだ。リリアと一緒に急いで甲板に駆け上がった。
甲板には多くの人がおり、川岸に向かって手を振っていた。船の側面についている大きな車輪が回っている。これはすごい。
船はゆっくりと川の中央付近へと進んでいた。
中央まで進んだところで車輪は止まった。王都はこの川の下流にある。ここからは川の流れに任せて行けばそのうち到着するはずだ。水運を使った物資の移動はとても効率が良さそうだった。
「すごいわね。あの車輪がどうやって動いているのか気になるわ」
「どんな魔道具が使われているのか、一度見てみたいね」
「案外、人が動かしていたりしてね」
イタズラっぽくリリアが笑った。……まさか、奴隷が回しているとかないよね? そんなわけないか。奴隷を乗せておくスペースはなさそうだもんね。
しばらくの間、リリアと二人で魔導船が作り出すさざ波を見ていた。
俺たちは今、サンチョさんと一緒に食堂に来ていた。個室のお礼と、船についてもっと知りたいと思ったからだ。
「それじゃサンチョさん、この船は夜は動かないのですね」
「そうだよ。真っ暗な川を進むのはとても危険だからね。その昔、遅れを取り戻そうと夜に進んで、何隻も沈没したみたいだからね。今は禁止されているよ」
大きな川なので大丈夫だろうと思っていたのだが、危険な場所もあるみたいだ。それでも馬車よりも揺れは少ないし、ずっと快適に移動できる。利用者が多いのもうなずける。
「サンチョさんは王都に行くときはいつも魔導船を利用するのですか?」
「最近はそうだよ。安全だし、荷物をたくさん運ぶことができる。そこから得られる利益を計算すると、魔導船を利用した方がはるかに利益を得られるからね。行きよりも帰りの方が時間がかかるけど、それでも一日しか変わらないからね」
「帰りはあの大きな車輪が回るんですよね?」
「そうだよ。あれが動くのを見に来る人も結構いるからね。すごい迫力だよ。最近はもう慣れてしまったがね」
サンチョさんが笑った。確かにすごい迫力だと思う。じっくりと見てみたいものだな。話によると、途中で川沿いの町や村にも立ち寄るそうである。ただし、そこには魔導船を停泊させる場所がないため、小舟を下ろして向かうことになるらしい。
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