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妙だな①

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 そこまで話したところで、コホンと一つキャロットさんが咳をした。

「今回の任務はあくまで『ゴブリンの分布調査』だからね。それ以上の余計なこと、例えば、まだゴブリンの集落が小さいから片付けておこうなんて考えてはダメよ」

 思わずライナーと顔を見合わせた。確かにそれは物語ではよくある話だ。未然に危機を防ぐことで、自分たちの評価を上げようと考えての行動だろう。

「絶対にダメよ。それをやって奥から出てきた上位種に殺された冒険者はたくさんいるわ。もちろんその中にはベテラン冒険者も含まれているわ」
「分かりました。肝に銘じておきます」
「フェルさんは?」
「了解しました」

 俺たちの返事を聞いて、よろしいとばかりにキャロットさんがうなずいた。ライナーが改めて依頼書を手渡すと、正式な依頼として冒険者ギルドに受理された。

「フェル、二人を呼んでくるから、ギルドの前で待っていてくれ」
「分かったよ」

 階段を上るライナーを見送って、俺たちは外に出た。少し冷たい朝の空気が俺たちをかすめてゆく。街はまだまどろみの中にいるようであり、ほとんど人の気配はなかった。

「ゴブリンの上位種くらい、フェルの相手にならないのにね」
「そうだとしても、あの場ではキャロットさんも、そう言えなかったんじゃないかな? ライナーたちが無謀なことをする冒険者になったら困るだろうしね」
「そんなもんかしら?」

 どうやらリリアは不服みたいである。リリアは俺なら余裕だと言ったけど、実際は戦ってみなければどうなるか分からないと思う。これまで戦ったことがあるのは、精々、ゴブリンか、グラスウルフか、暗殺者くらいである。戦闘経験は圧倒的に少ないと言えるだろう。

「待たせたな、フェル」

 ライナーが仲間のルシアナとベールスを連れてやって来た。二人ともまだ眠たそうである。ライナーの苦労が忍ばれる。仲間がいると、やっぱり大変そうだな。



 森にたどり着くころには二人もしっかりと起きていた。本格的に森に入る前に、朝食代わりに干し肉をかじる。

「ゴブリンの数が減ってるだなんて、全然気がつかなかったわ」

 ルシアナが依頼書を確認しながら言った。俺たちはコリブリの街に来たばかりだが、三人はそれなりに長い間、この街で冒険者をやっているのだろう。森の異変に気がつかなかったことを気にしているようだった。

「言われてみれば、昨日はフォレストウルフは倒したけど、ゴブリンは一匹も倒さなかったし、見かけなかった」

 ポツリとベールスが言った。彼女は斥候の役目も兼ねているようで、魔物の気配に関しては敏感なようである。あの腰についているナイフで、背後からブスリとやるのかも知れない。

「よし、それじゃ確認だ。ベールスはゴブリンを探すのに集中してくれ。周囲の警戒は俺たちが引き受ける。フェルもそれでいいか?」
「俺も念のためにアナライズでゴブリンを探しながら、周囲を警戒しておくよ」
「アナライズって、何?」

 ルシアナが首をかしげている。あれ? 知らないのかな? 長い杖を持っているし、長いローブを着てとんがり帽子をかぶっているから魔法使いだと思うんだけど……。

「アナライズは周囲の情報を教えてくれる魔法だよ。知らない?」
「知らないわ」

 あれ? 思わず首をかしげてリリアを見たが、リリアも両手を組んで首をかしげていた。そういえば、リリアは長い間、本に封印されていたって言ってたな。その間に、この世界の常識が変わってしまっているのかも知れない。

「まあ、そんな魔法があるんだよ。俺はそれを使って調べておくよ」
「何だか良く分からんが、頼んだぞ、フェル。何かあったらすぐに教えてくれ」
「了解」

 干し肉を食べ終わったところで森の中に入った。日は昇りつつあったが、森の中はまだ薄暗かった。
 森の入り口付近にはリリアを狙う小動物の反応しかないようだ。それをライナーに告げるとリリアに膝蹴りされた。ちょっとした冗談なのに。
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