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ツンデレなお嬢様①

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 俺はトバル公爵家自慢の庭へと案内された。王都のタウンハウスとは言え、それなりの広さがある。さすがは公爵家だ。庭師によって整えられた生け垣が迷路のように視覚を塞いでいる。ところどころに白や赤のバラが「私を見て」とばかりに堂々と咲いている。実に見事だ。

「美しいバラですね。私の家の庭にもバラが咲いておりますが、ここほど立派ではありませんよ。あ、でもこれを言ったら、伯爵家で雇っている庭師に失礼ですかね」
「当然ですわ。ここで雇い入れている庭師は元々王城で働いていた方ですもの。でも、ガジェゴス伯爵家に仕えている庭師も十分に優秀なはずですわ。そのようなことを言って、庭師たちを落胆させるのはよくありませんわ」

 ツンツンとした口調だが、フォローも忘れない。根は優しい少女のようである。これはもしかして、ツンデレってやつなのではないだろうか。そんなことを思いつつ、エウラリア嬢を観察する。

 さすがは公爵令嬢なだけはあって、マナーは完璧のようである。実に優雅な仕草でお茶を飲み、細く、美しく磨かれた指が菓子をつまんでいる。お茶の入った白い陶器には、緑色の唐草模様がからみついている。確か東洋からの貴重な輸入品だったはずだ。
 ジッと観察する俺に気がついたようである。怪訝そうに首を少し傾けると聞いてきた。

「どうかなさいましたか?」

 うん、思ったことを素直に話そう。少しでも自分を知ってもらい、距離を近づけないと。
 初めて目が合ったときの感触からすると、嫌われてはいないようである。むしろ、俺の顔を見て、呆けていた感じすらある。だからと言って、楽観視してはいけない。

「不愉快に思われたのなら謝罪します。つい、エウラリア嬢の仕草に見とれてしまいました」
「な、な、な」

 飼い慣らされた池のコイのように口をパクパクさせ、声にならない声を出した。先ほどまでのほんのりと赤かった顔から、マグマが噴き出たかのようにさらに顔が赤くなる。
 おっとまずい。これではゆっくりと話ができないな。エウラリア嬢が落ち着くまでお茶を飲んだ。東洋のお茶だろうか? どこかなつかしい味がした。

 ようやく落ち着いたエウラリア嬢がチビチビとお茶を飲んでいる。顔は赤いままである。何だろう、先ほどよりも小さくなっているような気がする。どうやら萎縮させてしまったようである。乙女心って難しい。

 俺たちはもっとお互いに知り合った方がいいだろう。たとえ政略結婚であるとしてもだ。そのためにはもっと会話をするべきなんだけど、どうも先ほどから会話が続かない。俺が投げたボールをエウラリア嬢が口にくわえて離さないのだ。

 何とかフォローを入れようと頑張ったのだが、結局うまくはいかなかった。幸先は良くないな。微妙な距離感のままである。終始、エウラリア嬢の顔は赤いままだった。
 まあ、今日は初めての顔合わせだし、最低限の目的は達成したと思うことにしよう。

 トバル公爵家を辞するとき、エウラリア嬢も見送りに来てくれた。モジモジと何か言いたそうである。ここは鈍感を装うべきではない。攻めろ、攻めるんだ。

「エウラリア嬢、どうかなさいましたか?」
「あ、あの、フェルナンド様がお望みなら、文通をして差し上げてもよろしくてよ?」

 これは……またとない誘いである。対面ではうまく話せなくとも、手紙でならうまく意思疎通をすることができるかも知れない。

「ぜひお願いしたい。エウラリア嬢、どうか私と文通をしていただけませんか?」
「そこまで言うのなら仕方がありませんわね。文通をして差し上げますわ」

 お父様が吹き出しそうになるのをこらえ、下唇を噛んで小刻みに震えている。トバル公爵はこらえきれずにブフォっと吹き出した。それをエウラリア嬢が汚物を見るような目で見ている。あの冷たい目。ゾクゾクするね。

「ありがとうございます。手紙が来るのを楽しみにしておりますね。必ず返事を書きますから」

 俺は何事もなかったかのようにエウラリア嬢に返事をした。何で笑うんだ? 可愛らしいじゃないか。俺はむしろ、好感を持ったけどね。ますます好きになった。
 エウラリア嬢からの返事はなかったが、うれしそうに小さくうなずいた。
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