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残念な王子様②

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 先に馬車から降りたお父様がすぐに苦言を呈した。

「殿下、馬車の前に出ると大変危険です。家庭教師が教えているはずですよ。それにお供をつけずに一人で行動してはならないと、あれほど言われてもまだ分からないのですか?」
「そうだったか? 覚えがないな。あいつら足が遅いからな。大目に見てやってくれ」

 完全に他人事のようである。どうやら馬車の前に飛び出したのはこの国の王子で間違いなさそうだ。こいつはとんでもない問題児が現れたぞ。まさか頭の中まで筋肉でできていないだろうな? お父様に続いて馬車の外に出る。

 そこには金髪に黄金の瞳を持つ、将来イケメンになることが約束されし人物がいた。間違いなく攻略対象だ。でなければこんなにキラキラしていない。「この人が攻略対象です」と言わんばかりである。もしかして、俺にもこのキラキラが出ているのかな? それはそれで何かやだな。

「おー、こいつが俺の友達かー」

 すでに友達関係になっているようである。展開が早い。あれ? もしかして俺、この殿下の手綱を締める役目なのか?

「お初にお目にかかります。フェルナンド・ガジェゴスです」

 俺はひざまずいて臣下の礼をとった。それを見たお父様も俺と同じポーズをした。うん、何だろう。すごく今さら感があるよお父様。本来なら最初にするべきだよね。

「俺はレオン・アルレギ・デラだ。フェルナンドには特別にレオンと呼ばせてやろう」
「ハッ! ありがとうございます、レオン様」
「お、おお」

 どうやら俺が素直に命令に従ったことに驚いているみたいである。もしかして、言うことを聞いてくれる人がいなかったのかな? あ、泣き出した。

「ううう、俺にもついに友達が、友達が……」

 どうやらボッチだったようである。そう言えば、俺もボッチだったな。これまでお茶会に参加したことはほとんどなかったからな。確か今年からお茶会に力を入れる、みたいなことを言っていたな。

「レオン様、この場所は危険です。ささ、こちらへ」
「ううう、フェルナンドは優しいなぁ……」

 グズグズと泣き出した。大丈夫か、この王子。だが、言わねばならないことがある。

「レオン様、あえて言わせていただきます。なぜこのような危険なことをなされたのですか。レオン様の身に何かあれば国王陛下も王妃殿下もどれだけ悲しむことか。それだけではありません。国民が全員、悲しみに心を痛めることになるでしょう。それがお分かりですか?」

 俺は強い口調で言った。王城の中とは言え、不用心過ぎる。それに馬と接触してケガでもした日には、相手側の首が飛ぶだろう。危うく俺たちの首が飛ぶところだったのだ。二度と止めていただきたい。
 
「う、うわぁぁあん! ごべんだざい!」

 顔面の穴という穴から液体を出して殿下が謝った。まずい、殿下に謝罪させてしまった。顔の筋肉が強張ったのが分かる。俺、死んだかも。こんにちはギロチン。
 そのとき遠くから殿下を呼ぶ声が聞こえてきた。どうやら護衛のようである。チラリとお父様の方を見ると、うんうんと満足げにうなずいていた。どうやらまだ胴体とサヨナラバイバイしなくても済みそうだ。
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