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よみがえる忌まわしき記憶②
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現在の我が国は、長きに渡って戦争をしてた西の隣国と停戦協定を結んだばかりだ。お互いの疲弊が激しくなっての停戦。国力が戻るまでとりあえず戦争は止めておきましょうというわけだ。
そんな仲が良くない隣国がいる状態でのクーデター。我が国の国力のさらなる低下は避けられないだろう。もしもそのような事態になれば、必ず隣国が停戦協定を破って再び戦争を仕掛けてくるはずだ。
そうなればこの国は間違いなく負ける。隣国に蹂躙されることだろう。これはまずい。非常にまずい。
これは何としてでもヒロインとの恋愛フラグをへし折らなければならない。そのためにもまずは敵を知らなければならないな。彼を知り己を知れば百戦あやうからず。昔の偉い人もそう言っていた。
思い出せ、思い出すんだ。確かヒロインの髪の毛はピンク色で――ダメだ、思い出しただけでは不安だ。記憶が残っているうちにしっかりと紙に書き記しておかなければ。なんどそれで失敗したことか。自分の記憶力を信じるな!
ベッドから飛び降りると一目散に机へと向かおうとした。あそこには紙があったはずだ。あれを使えば……あれ? どうしたことだ。足が生まれたての子鹿のようにプルプルしてうまく歩くことができない。腕もプルプルしてきた。動け、動かんかー!
俺をあざ笑うかのような膝を叱咤して、何とか机にたどり着いた。震える手で紙と鉛筆を――鉛筆ないじゃん。え、この羽根ペンで書くの? 大丈夫だよね? 恐る恐るインクをつけると、試しに紙の上を走らせた。ネイビーブルーの線が紙の上を汚していく。そして……すぐに文字はかすれた。
「使いづらい!」
折れかけた俺の心と共に羽根ペンをへし折ろうとしていた手を慌てて止める。便利なものを使う生活に慣れすぎると、そこから生活レベルを落とすことが難しくなる。まさに今がそのときだ。
それよりも書かねば。生まれてから八年間の知識はそのままだ。当然のことながら話すこともできるし、この世界の文字を書くこともできる。ミミズがのたうち回ったような文字だが。
しかしそれだと、他の人に見られたときに内容がバレる恐れがある。ここはやはり慣れ親しんだ日本語で書くべきだろう。漢字多めで。
俺はかすかに残っているゲームの記憶を、まるで夏休み最後の日に残された、大量の夏休みの課題を片付けるがごとく、必死に紙の上に書きつづった。持ってくれよ、俺の記憶ー!
そのとき不意にガチャリと部屋の扉が開いた。あれれー、おかしいぞー? 普段なら扉をノックしてから入ってくるよね? ノーノックとはこれいかに。何か急ぎの用でもあるのかな?
「今、坊ちゃまの声が聞こえたような……あ! 目を覚まされたのですね! 良かった……。奥様、奥様ー!」
「あなた、早く奥様を呼んできなさい。坊ちゃま、まだ寝てなければなりませんよって何を書かれているので……な、何ですかその不気味な文字は! 呪いの呪文!? おやめ下さいませ! だれか、だれかお医者様をお呼びしてー!」
てんやわんやである。扉から二人の使用人が入って来たかと思ったら、大声を上げて出ていた。何を言っているか分からないが、このままだとこの「死海文書(仮)」がこの世から抹消される恐れがある。
急いで一番上の引き出しにある二重底を外しそこに隠した。これならそうそうバレないだろう。エロ本を隠すのにもちょうど良さそうだ。
「フェル! 私の可愛いフェルナンド! 目を覚ましたのね。もう大丈夫よ、お母様が来たわ!」
「もう大丈夫じゃ、医者のワシも来たぞ!」
お母様とお医者様の後ろからはワラワラと使用人たちがやってきて、もみくちゃにされた。あーもう、むちゃくちゃだよ。
そんな仲が良くない隣国がいる状態でのクーデター。我が国の国力のさらなる低下は避けられないだろう。もしもそのような事態になれば、必ず隣国が停戦協定を破って再び戦争を仕掛けてくるはずだ。
そうなればこの国は間違いなく負ける。隣国に蹂躙されることだろう。これはまずい。非常にまずい。
これは何としてでもヒロインとの恋愛フラグをへし折らなければならない。そのためにもまずは敵を知らなければならないな。彼を知り己を知れば百戦あやうからず。昔の偉い人もそう言っていた。
思い出せ、思い出すんだ。確かヒロインの髪の毛はピンク色で――ダメだ、思い出しただけでは不安だ。記憶が残っているうちにしっかりと紙に書き記しておかなければ。なんどそれで失敗したことか。自分の記憶力を信じるな!
ベッドから飛び降りると一目散に机へと向かおうとした。あそこには紙があったはずだ。あれを使えば……あれ? どうしたことだ。足が生まれたての子鹿のようにプルプルしてうまく歩くことができない。腕もプルプルしてきた。動け、動かんかー!
俺をあざ笑うかのような膝を叱咤して、何とか机にたどり着いた。震える手で紙と鉛筆を――鉛筆ないじゃん。え、この羽根ペンで書くの? 大丈夫だよね? 恐る恐るインクをつけると、試しに紙の上を走らせた。ネイビーブルーの線が紙の上を汚していく。そして……すぐに文字はかすれた。
「使いづらい!」
折れかけた俺の心と共に羽根ペンをへし折ろうとしていた手を慌てて止める。便利なものを使う生活に慣れすぎると、そこから生活レベルを落とすことが難しくなる。まさに今がそのときだ。
それよりも書かねば。生まれてから八年間の知識はそのままだ。当然のことながら話すこともできるし、この世界の文字を書くこともできる。ミミズがのたうち回ったような文字だが。
しかしそれだと、他の人に見られたときに内容がバレる恐れがある。ここはやはり慣れ親しんだ日本語で書くべきだろう。漢字多めで。
俺はかすかに残っているゲームの記憶を、まるで夏休み最後の日に残された、大量の夏休みの課題を片付けるがごとく、必死に紙の上に書きつづった。持ってくれよ、俺の記憶ー!
そのとき不意にガチャリと部屋の扉が開いた。あれれー、おかしいぞー? 普段なら扉をノックしてから入ってくるよね? ノーノックとはこれいかに。何か急ぎの用でもあるのかな?
「今、坊ちゃまの声が聞こえたような……あ! 目を覚まされたのですね! 良かった……。奥様、奥様ー!」
「あなた、早く奥様を呼んできなさい。坊ちゃま、まだ寝てなければなりませんよって何を書かれているので……な、何ですかその不気味な文字は! 呪いの呪文!? おやめ下さいませ! だれか、だれかお医者様をお呼びしてー!」
てんやわんやである。扉から二人の使用人が入って来たかと思ったら、大声を上げて出ていた。何を言っているか分からないが、このままだとこの「死海文書(仮)」がこの世から抹消される恐れがある。
急いで一番上の引き出しにある二重底を外しそこに隠した。これならそうそうバレないだろう。エロ本を隠すのにもちょうど良さそうだ。
「フェル! 私の可愛いフェルナンド! 目を覚ましたのね。もう大丈夫よ、お母様が来たわ!」
「もう大丈夫じゃ、医者のワシも来たぞ!」
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