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第五章

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 魔導船の特殊迷彩を起動させると一気に空へと舞い上がった。ウルポ、ローデ、スザンナの三人からは小さな悲鳴が上がった。しかしすぐに高いところからの景色にも慣れたようで、窓から外を見てはワイワイとはしゃいでいた。

 これから未開の地に行こうとしているのにお気楽なものである。だがこれくらいの胆力を持っていないと、とてもではないがAランク冒険者にはなれないのだろう。
 魔導船は半日もかけずに北の海へとたどり着いた。

「北の大陸はどのくらい俺たちがいる大陸と離れているんだ?」
「船で一週間、って言ってたよ。その昔、北の大陸を領土にできないかと何度も偵察に行ったことがあるらしいけど、人が住めそうな場所は見つからなかったみたいだね」
「そうか。それなら一日もあれば到着するな。うまい具合に着陸地点があればいいんだけどな」

 その日は大陸北の海岸で一泊することになった。久しぶりの秘密基地の出番である。マリアは大はしゃぎだった。よっぽど気に入っているようである。

「アベルたちから聞いていたけど、実物を見ると本当にすごいな」

 ウルポが感慨深い様子で室内を見渡している。まあ、これがあれば野営の準備をする必要もないし、便利なのは便利だな。使ってもらいたいのは山々だが、今のところ俺しか作り出せないんだよね、この特殊空間。
 夕食を済ませると明日からについての話し合いになった。

「北の大陸についたらまずは拠点となるスペースを確保する。そしてそこを中心に、ひとまずは北の大陸の地図を作ろうと思っている。もちろん、異常がないかを確認しながらの作業になるけどな」

 俺の意見にみんながうなずいた。俺は半分冒険者を引退した立場なのになぜかパーティーの中心になっている。だってアベルがしきりにこっちを見て様子をうかがっているんだもん。

「着陸できそうな場所がなかったらどうするの?」

 アベルの意見はもっともだ。平らな場所があったとしても、そこが安全とは限らない。慎重に判断しなければならないだろう。

「そんときは俺が下に降りて場所を確保する。その間、魔導船の操縦はアベルに任せるよ」
「大丈夫なの?」

 リリアが心配そうに聞いてきた。だが俺が適任だろう。

「大丈夫だ。俺なら魔法で木を切り出して、土地を平らにすることができる。それに空も飛べるから、地上に降りるのも問題ない」

 なるほど、とうなずくリリアとジュラ。対してアベルたちは声を上げた。

「ダナイ、空も飛べるの!?」
「まあな」

 ジュラが空を自由に飛びたいと言ったので空飛ぶ忍術を開発していたのだ。安全のため低空飛行しかできないが、まあ何とかなるだろう。相変わらず驚いた表情だったが明日に備えて寝ることになった。

 部屋割りは俺とリリア、ジュラで一部屋。マリアとスザンナで一部屋。残りのアベル、ウルポ、ローデがリビングルームで寝ることになった。妥当な部屋割りだと思ったのだが、マリアは不満そうだった。色々とたまっているのかな?


 翌日、朝早くから俺たちは北に向かった。そして日が大分傾いてきたところで北の大陸を発見した。良かった。もう少しで夜中アベルと交代で操縦することになるところだったぜ。

 どこか降りられる場所がないと探していると、アベルが向こうの海岸線に広い砂浜があると言ってきた。言われた場所に向かうと、まもなく白い砂浜が見えてきた。
 これだけの広さがあれば十分に降り立つことができるだろう。見た感じ、魔物がいるような痕跡はなかった。

「よし、あの白い砂浜に降り立つぞ。周囲の警戒を頼む」
「オッケー!」

 周囲の警戒を任せ、船を安全に降下させることだけに全集中した。そうしてようやく、ゴトリ、と鈍い音を立てて魔導船が着陸した。
 すぐに先鋒隊のアベルたちが降りて様子をうかがう。どうやら問題はなさそうである。

「どうやら大丈夫みたいだな」
「そうね。私たちも降りて拠点を作る準備をしないといけないわ」

 船から下りると、俺たちは拠点作りを始めた。もう日も暮れかけている。モタモタしている時間はない。あらかじめ作っておいた魔よけの付与を施した杭を周囲の地面に打ち付けて、ひとまずの安全を確保した。これで寄ってくる魔物はほとんどいないだろう。この場所なら安全に魔導船を発着させることができる。

「これで拠点作りは完了だな。それじゃ、明日に備えて休もう」
「お疲れ、ダナイ。って言うか、ほとんどダナイがやってるよね」

 アベルが申し訳なさそうにつぶやいた。

「何、気にすることはない。適材適所さ。ほら、明日からもやることはあるぞ。入った、入った」

 俺はみんなを秘密基地の中に入れると魔物が入ってこないように出口を閉めた。そこまでしてようやく安心感を得ることができた。どうやら思った以上に肩に力が入っているようだ。
 それもそうか。あんな不吉な予言をされたらそうなるよな。多分こんな気持ちになっているのは俺だけじゃないはずだ。

 夕食の準備をするのはまだ早かった。俺たちはしばしダラダラすることにした。何事もメリハリは大事だよね。しかし、自然と話題は明日からのことになって行った。

「それじゃ明日は念のため、俺とアベルだけで空からこの一体の空からの探索を行う。ほかのメンバーは森の中にどの程度の魔物がいるのかを調べてくれ。くれぐれも無茶な動きはしないように。あくまでも偵察だぞ」
「分かったわ。連絡はリンクコンテナでするわね」

 みんなが口々に了解を示した。国の要請で北の大陸の調査が行われたのはもう五十年以上も昔のことらしい。そのときにはすでに、魔物が存在することが確認されていた。
 それほど強力な魔物はいない、とのことだったが念には念を入れておいた方が良いだろう。思わぬところで痛い目を見たくないからな。

「空からの調査で何か分かればいいんだがな。さすがに北の大陸全土をくまなく調査することになったら厄介だな。何度も補給に戻らないといけなくなるかも知れない」
「そうだね。そのときは、マジックバッグにしこたま食料や消耗品を詰め込まないといけないね」

 アベルは気楽に言うが、もしかして先行投資としてお金をもらっていたりするのかな? そう言えばお金のことは聞いてなかったな。これが終わったらゆっくり聞くとしよう。

 そのままちょうど良い時間になったので、手分けして夕食の準備をする。「とても街の外で野営をしているとは思えない」と何度もウルポとローデとスザンナからは言われた。風呂にも入れるし、確かにそうだと思う。これに慣れると、一般的な野営ができなくなるんじゃないかなぁ。安全なんだけど、技術や知識、能力面から言うとダメだろう。

 翌日も俺たちは朝早くから行動を開始した。ジュラは家で連絡係として待機。リリアたちは森の外縁部の調査。俺たちは空から地図の作製だ。何かあったらすぐに秘密基地に戻るように言ってある。

 こちらも何かあればすぐに戻ることにしている。上空でドラゴンに追いかけられても、この魔導船なら逃げ切れるだろう。防御用のバリアもついているみたいなので大丈夫のはずだ。レーザーカノンみたいなものが取り付けてあったのだが、危ないので取り外しておいた。この船が戦争に使われでもしたら大変だからな。
 一方的に空から攻撃できるとは、バランスブレイカーもいいところだ。

 最後にそれぞれの動きを再確認して、俺たちは本日の行動を開始した。そして数日後、大陸の上空からの調査は終わった。森についても大分奥地まで踏み込んだようであり、「強力な魔物はいなさそうだ」と結論づけた。

 ここまでで一週間ほどを使った。食料にはまだ余裕があるし、後続の船もまだ到着していない。俺たちはこのまま大陸の調査を続けることにした。ちょうど大陸の中央に気になるものがあったしな。

 アベルが持っている魔力探知機に大きな反応はなかったが、どうも気になる。たとえ何もなかったとしても調査する価値はあると思っている。
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