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第五章

ジュラちゃんステッキ

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 さてと、ジュラには何を作ってあげようかな? 世界樹という特殊な性質上のためなのか、ジュラは魔法の杖なしで魔法を使うことができる。もっとも俺が勝手に魔法と思っているだけで、ジュラにとっては魔法ではないのかも知れないが。使う魔法も独特だしな。
 魔法と言うよりかはお願いしているような感じだ。

「うーん、どうすっぺかね」
「どうしたのダナイ? エッチなこと、する?」

 どうしてジュラはすぐにそっち方面に行きたがるのか。ジュラにとって子孫を増やすことが最優先の目的であることは分かる。だがその前に、その幼女体型を何とかしてくれ。
 でもこれを言うと、多分、すぐに成長すると思う。だって、木だもん。今の見た目もジュラが俺に合わせて作ったのであろうと考えられる。

 ということは……俺、もしかしてロリコンと思われてる? ち、違う、俺はロリコンじゃない! 誤解だ!
 邪念を払おうと首を左右に振ると、ジュラが心配そうな目をしていることに気がついた。
 どうやらジュラも本気ではなく、単に俺を励ましたかっただけのようである。本気にしたのは俺だけらしい。

「ジュラに何かプレゼントしようと思っているんだけど、何が良いのか思いつかなくてな。何か欲しいものはないのか? どんなものでもは無理かも知れないが、できることもあるかも知れん」

 んー、と小さな腕を組んで可愛らしく考え込んだ。良かった。「種が欲しい」とか言われなくて。

「私もリリアみたいに色んな魔法が使ってみたいの!」

 パアッと明るい笑顔をこちらに向けてきた。うん、これは断れないヤツだ。断ってジュラが悲しそうな顔をするのを想像するだけで心が痛む。なるほど、色んな魔法を使いたいか。

「ジュラが植物を操っているのは魔法なのか?」
「違うの。みんなにお願いしているだけなの」

 ふむ、お願いねぇ。これはそもそもジュラに魔力があるのかどうかを確かめることから始めた方が良さそうだ。ジュラに聞いてみたが、「分からない」とのことだった。あとでリリアに聞いてみよう。

「夕飯ができたわよ」
「ありがとう、リリア。いつも助かるよ」
「どう致しまして。ダナイはやることが多いからね。このくらいはやらないとね」

 リリアの言葉が心に響いたようである。ジュラがスックと立ち上がった。

「リリア、私もお手伝いするの。料理も作るの」

 テトテトとリリアの方に歩いて行った。ちょっと驚いた表情をしたリリアだが、ジュラの思いをくみ取ったのだろう。二人仲良くダイニングルームへと向かった。工房を少し片付けてから俺も向かう。

「リリア、ジュラに魔力はあるのか?」

 食事をしながらリリアに尋ねた。魔法を使うことにたけたエルフのリリアなら、何か分かるかも知れない。

「もちろんジュラには魔力があるわよ。それもかなりの魔力量よ。木の魔法を使っていたみたいだったけど……もしかしてあれ、魔法じゃないの?」
「ジュラの分類では「お願い」らしい」
「お願い……」

 リリアが沈黙した。お願いが魔法として発動するのかどうか、判断できずにいるようである。
 そう言えばこの世界の魔法は「思いが形になる」のが大原則だったな。だからこそ、異世界出身の俺でも魔法が使えるのだ。ジュラに魔力があるとなれば、あのお願いによって引き起こされる現象は、魔法と言って間違いないだろう。
 それならば、ジュラも正しい魔法の手順さえ覚えれば色んな魔法が使えるようになるだろう。

 だがジュラは首を左右に振った。

「ダメなの。魔法は使えないの。ずっとずっと昔に試してみたの。たくさん試したの」

 これはダメだな。完全に自分は魔法が使えないと思い込んでいるようだ。これでは俺たちが知っている魔法を使うことは無理だろう。さてどうするかな。

「それなら俺が、ジュラのお願いが「木の精霊さん」だけでなく、他の精霊さんにも届くようになる特別な道具を作ってやろう」
「本当なの!?」
「おう、任せときな」

 とは言ったものの、大丈夫かな? 単にジュラの思い込みを別の思い込みで上書きしようとしているだけなんだけどな。アニメの魔法少女が持っているような、キラキラ光る「マジカルステキ」を作れば行けそうな気がするんだよな。「ジュラちゃんステッキ」とかにしておくか?

 先端はハート型にして、その中央に適当な宝石を付けておけば大丈夫だろう。念のため、属性によって宝石の色が変わるように細工しておこう、そうしよう。

「どうしたのダナイ、ニヤニヤして……」
「気持ち悪い……」
「失礼だな、マリア。失礼だぞ、マリア」

 大事なことなので二回言わせてもらった。断じて気持ち悪くはない。失敬だな、ほんと。
 そんな感じで食事が終わり三人で風呂にも入った。ジュラが完全にオネムモードに入ったので、リリアと一緒に先に寝てもらった。俺はまだすることがある。

 工房に戻ると早速作業を開始した。素材は軽い方がいいな。金属だと重くなるので、ここは魔力の通りがよろしいトレントの素材にしよう。せっかくだから、エルダートレントの素材にしてみようかな?

 赤い樹皮をはがすと、意外にもその下は白に近い灰色だった。これならそのまま使えそうだ。サッと形を整えると、表面をきれいにならした。魔力を流しながら加工すると、エルダートレントの素材は柔軟に曲がり、思い描いた通りの形を描いてくれる。これはすごい。そして超楽だ。

 先端部分を三つに裂いて、中央には無色透明の水晶、両サイドはハート型になるように加工する。水晶には加工を施し、思い描いた属性の色に変化するように細工した。
 赤が「火」、空色が「水」と言った感じである。俺が想像できる魔法属性の色を仕込んでおいたので、多分すべてを網羅しているはずだ。

 遅くまで作業していると、リリアがやって来た。

「ダナイ、まだやっているの? そろそろ寝ないと明日に差し支えるわよ」

 困った人ね、と言いながらも怒ってはいないようである。どうやら心配をかけてしまったようだ。

「すまない。続きは明日にするよ」
「ダナイ、それ、何?」

 俺が持っているステッキに気づくと、いぶかしそうにそれを見つめて聞いてきた。

「これか? これはな、「ジュラちゃんステッキ」だ」
「ニヤニヤしていたのはこれを思いついたからなのね。まさか、とんでもない代物じゃないでしょうね?」

 心配そうな声でリリアが尋ねてきた。前科が色々とあるからな。そう思われてもしょうがないか。

「大丈夫だ。この水晶の色が変わるだけだよ。やってみな」

 リリアに軽く説明して使ってもらった。自分以外でも試してみたいと思っていたのでちょうど良かった。赤、青、黄、と色が次々に変わっていった。

「これだけ?」
「これだけだ」
「……大丈夫なの?」
「多分、大丈夫、のはず。あとはジュラがどれだけ俺のことを信頼しているかだな」

 リリアがあきれたようにため息をついた。ま、やってみれば分かるさ。ダメならダメで、次の手を考えるまでだ。俺はリリアを連れて部屋へと戻った。

 翌日。朝も早くから仕上げの作業を行った。ステッキに細かい装飾を施し、持ち手には滑らないように凹凸処理を施した薄い金属をはめ込んでいる。
 朝食が終わると、それをジュラにプレゼントした。

「ほら、これがジュラへのプレゼントだ。その名もジュラちゃんステッキ!」
「すごいの! うれしいの!」

 計算通り。この、子供心をくすぐるような見た目。少女ならだれもが欲しがる一品だろう。見ているマリアも欲しそうだ。何でや。
 アベルは俺のネーミングセンスに遠い目をしているようである。それなら今度はアベルが名前を考えてもいいんやで。
 早速庭に出て試し撃ちをしてみることになった。庭に的として、適当な丸太を並べていく。

「よし、準備ができたぞ。いいか、ジュラ、使いたい属性を思い浮かべるんだ。そうしたら、真ん中の宝石の色が変わる。そうしたら、その属性の精霊さんが力を貸してくれるようになるぞ」

 断定するように強く言った。勝負はすでに始まっているのだ。ジュラに微塵も疑惑を与えてはいけない。信じるんだジュラ。俺のはったりを。
 ジュラちゃんステッキの宝石の色が赤くなった。どうやら火属性の魔法を使うつもりらしい。
 これはこれで何の魔法を使うのかが事前に分かるから良いかも知れない。思わぬ収穫だ。

「火の精霊さん、力を貸してちょうだい!」

 ジュラがお願いすると、ステッキの先端から勢いよく大きな火の玉が発射された。それは見事に丸太に当たり、木っ端微塵に粉砕した。ヤバい、思った以上に威力が大きい。これは魔力制御機構を取り付けておいた方が良かったかも知れん。

「や、やったの! できたの!」

 感極まったジュラはその場でワンワンと泣き出してしまった。
 俺はそれをなだめながら世界樹の涙を回収した。いや、ほら、世界樹の涙がどれくらいいるか分からないからね。念のためだよ、念のため。
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