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第五章

エルダートレント

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 西の砦に異変が起こっている。その話をアベルに聞いてからすぐにエルダートレントについての情報を集めた。前回はリリアに聞いたが、今回はジュラに聞いた。あれだけ大きな世界樹だ。きっとリリアよりも長生きしているはずである。

「ジュラ、エルダートレントって言う魔物のことを知らないか?」
「エルダートレント? ああ、そう言えば、赤いヤツをそんな風に呼んでたような気がするの」

 リリアに体を洗ってもらいながらも、本人はその泡をつかんだり、集めたりして遊んでいた。ジュラにとっては珍しいらしく、シャボン玉を作ってやると、とても喜んでいた。

「赤いのか。動きが速かったりするのか?」
「うーん、色以外にトレントとの違いはなかったと思うけど……速い方がいいの?」

 ネタをマジレスされたのでちょっと困る。まあ、異世界ネタを言った俺が悪いのではあるが。通じるはずないよね。

「いや、いいんだ、気にしないでくれ。それよりも、そのエルダートレントから作られた木炭が欲しいんだが、手に入るかな?」
「エルダートレントは長く生きて干からびかけているから、よく燃えるんじゃないかな」

 なるほど。どうやらそのまま薪として利用するタイプのようである。わざわざ木炭に加工する必要はなさそうだ。それならば、あとはエルダートレント本体を収穫すれば良いだけだ。

「ダナイ、もしかして、エルダートレントを狩りに行くつもりじゃないわよね?」

 ジュラを連れて湯船に入りながら、リリアが不安げに聞いてきた。何か問題があるのだろうか。

「そのつもりだよ。どうやらトレントたちがおかしな行動をしているみたいだし、もしかしたらエルダートレントの素材をゲットするチャンスがあるかも知れない」

 トレントは素材としても優秀である。魔法の杖なんかにはよく使われている素材なのだ。それだけに需要も高く、値段はそれほどでもないがよく売れるそうである。その上位種と思われるエルダートレントなら、高値で取り引きされているかも知れない。

「そうね、確かに私たち冒険者は国という枠にとらわれにくいから、狩りに行ってもいいかも知れないけど、さすがに無策で魔境に行くのは嫌よ」

 真面目な顔をしてリリアが言った。その語気の強さにジュラが驚いて首をすくめている。そのまま警戒した目でこちらを見ていた。

「もちろん無策で突っ込むつもりはないさ。ちゃんと情報を集めてからにするよ。冒険者ギルドでも追加の情報が入ってくるかも知れないしな。とりあえず、動きがあるまでは様子見だな。エルダートレントの素材が市場に流れてくれば、それを買えば済む話だしな」

 ありがたいことにお金には余裕がある。無理をしてエルダートレントを狩りに行く必要はないのだ。

「そうね。できればそうして欲しいわ。私たちも強くなってはいるけど、わざわざ危険なところに足を踏み入れる必要はないわよ。今はジュラもいるしね」

 ね、とジュラを見て天使のようなほほ笑みを見せるリリア。その表情に安心したのか、ジュラの顔がパアッと花が咲いたかのように輝いた。
 うん、幼女に心労をかけるのは良くないな。気をつけよう。


 翌日、リリアとジュラの三人で鍛冶屋ゴードンへと向かった。アベルとマリアは冒険者ギルドに依頼を受けに行っている。
 新しくジュラが加わったことで、戦い方のスタイルを変える必要があるだろう。その確認もかねて、しばらくは依頼をこなそうと思っている。

 ジュラに戦わせるのは気が引けるが、「普段は秘密基地に籠もっとけ」と言ったら、全力で泣かれた。仲間はずれは嫌だそうである。世界樹の涙を追加でゲットしながらなだめたが、最終的にはリリアの「ジュラがかわいそうだわ」の一言で、俺が折れることになった。

 確かにリリアが言っていることは分かる。だが、危険性がある場所にジュラを連れて行くのは俺の良心が非常に痛む。
 そんなことを口に出したら「十歳から冒険者をやってる子もいる」とアベルに言われて、この世界では普通なのかと理解した。でもね、ジュラはどう見ても十歳未満なんだよね。見た目はどう頑張っても六歳くらいにしか見えない。

 気になってジュラに何歳なのか聞いたら「レディーに年齢を聞くのは失礼なの」と言われて答えてくれなかった。多分、千は超えていると思う。せめて見た目をどうにかならなかったのか。のじゃロリでなかっただけ、ヨシとした方が良いのかな?

「師匠、不肖のダナイ、ただいま戻りました」
「おお、ダナイ、無事だったか。心配はしていなかったぞ」
「それはそれで、ありがたいような、ありがたくないような」

 ハッハッハッハと二人で笑い合った。その目から、心配していたことが読み取れた。ほんと、できの悪い弟子で申し訳ない。

「すいません。思った以上に南の島を探すのに手間取ってしまって」
「話してもいいの?」

 リリアが心配そうに尋ねてきたが、師匠は信頼できる。ジュラのこともあるし、話しておいた方がいいだろう。持参した手土産を師匠の奥さんに渡して、お茶の時間にしてもらった。

「なるほど。とても信じられん話だが、信じるしかないようだな」

 俺たちが一ヶ月間何をしていたのかと、ジュラのことを話すと、師匠はジュラを見ながらそう言った。見た目が幼女のジュラが世界樹だなんて、普通は信じられないだろう。

「無理に信じ込まなくてもいいですよ。ジュラと俺たちの関係がそう言うことだと認識してもらえればそれで十分です」
「確かに子供を連れたパーティーなど、珍しいだろうからな。いっそ、お前たちの子供にしたらどうだ?」

 もっともな意見である。俺たちの養子としておけば、一緒に連れて歩くのもそれほど目立つことはないだろう。リリアと目を合わせると、どうやら向こうも同じ考えのようである。一つうなずきを返してくれた。

「ダメなの。ダナイとリリアの子供になったら、ダナイと子供が作れなくなるの」

 だがジュラは納得しなかったようである。子供を作る発言に師匠夫妻が目と口を大きく開けた。そしてそのままこちらを見た。
 いやいやいやいや、今の状態で手を出すわけがなかろう。それとももしかして、俺ならやりかねないと思っているのだろうか? 俺にはリリアがいるからね。リリアで十分満足しているからね。

「ジュラ、それならこうしましょうか。ジュラが大きくなったら私たちの養子じゃなくて、一人の女性として独立する。それならダナイと結婚して、子供を作ることができるわ」

 うーんと可愛らしく腕を組んで悩んでいたが、次第にリリアが黒いオーラを発し始めたため、慌てて了承のうなずきを返した。さすがはオカン。頼りになるぜ。

「それじゃ決まりだな。どこかに届けておく必要があるのか?」
「そうだな、各ギルドに通達しておけば大丈夫だろう」

 こうしてようやく落ち着いてお茶を飲み始めた。これで俺たちの周りの厄介事は片付いたはずだ。師匠と新しい武器やアイテムの話をしながら、ゆったりとした気分でそれからしばらく過ごした。

 そのあとしばらくは、冒険者ギルドでの依頼をいくつか受けて、お互いの連携を確かめたりして日々を過ごした。気になるジュラの戦闘能力だったが、植物のツタを使って魔物の動きを封じ込めたり、堅い木を作り出して盾にしたりと、支援と防御の両方で非常に役に立つことが分かった。

 その半面、攻撃は苦手のようであり、丸太で殴る、くらいしか主な攻撃方法がなかった。木の枝や丸太を矢のように尖らせて飛ばす方法を教えたことで、ひとまず遠距離からの攻撃も可能になったが、基本は防御にまわってもらった方が良さそうだった。

「ジュラ、みんなの支援を任せたぞ。それなら俺もリリアも安心して攻撃にまわれるからな。何事も適材適所だ。つまらないかも知れないが、重要な役目だぞ。できるか?」
「任せてちょうだい!」

 ジュラは頼もしく請け負ってくれた。これならジュラは後方支援になるので、より安全に守ることができる。これで少しは気持ちが楽になったぞ。
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