上 下
110 / 137
第五章

印籠型の魔道具

しおりを挟む
 せっかくのすき焼きだったが、空気は終始微妙なままだった。主に俺とリリアが魔導船のことを話せないだけなのであったが、アベルとマリアは色々と違う方面に理解したようであった。

 その証拠に、食事が終わるとすぐに風呂に入るように俺たちを催促した。布団も用意しておくからね! とマリアから意味深な発言をされ俺たちは一緒に風呂へと入った。
 そして今、俺の目の前には二つの浮き袋が浮かんでいる。

「どうするの?」

 多分この「どうするの」はベッドインのことではなく、魔導船のことだろう。俺は紳士。目の前のお餅が気になったりはしないのだ。

「魔導船を入手しに行こうと思う。それがあれば世界樹の探索だけでなく、この国を移動するのにも役に立ちそうだからな」
「きっと目立つわよ」

 どうやらビンゴだったようだ。良かった、変なことを口走らなくて。

「ドラゴンよりはマシだろう?」
「そうだけど……」

 リリアが困ったように眉をひそめた。分かっているけど、できれば何とかならないか、ということなのだろう。もちろん俺もそう思う。
 しかし、何とかなるのか? 特殊迷彩みたいな機能があって、外から見えにくくなったら良かったのに。

 そういえば魔導船ってどんな形をしているのだろうか。その前に俺が動かすことはできるのか?
 だがその心配はいらないようであった。ちゃんと『ワールドマニュアル(門外不出)』に魔導船の取り扱い説明書がついていた。
 それによると、ありがたいことに光学迷彩なるものが魔導船に備わっているらしい。古代エルフの科学力ってスゲー!

「心配はいらないぞ。どうやら外からは見えにくくする機能がついているらしい」
「良く知っているわね。そんなことまで書いてあるの?」

 俺の特殊な能力のことは知っているが、詳細までは知らないリリア。驚くのも無理はないか。

「ああ。魔導船の操縦の仕方、修理の仕方までバッチリだ」

 俺はリリアを安心させようとサムズアップを笑顔でキメた。リリアは半笑いになったが、理解はしてくれたようである。その後は魔導船を入手することに反対することはなかった。


「それじゃ、また大森林に行くということで良いかしら?」
「ああ、そうするとしよう。ありがたいことに、俺たちはエルフのお友達だからな。「ちょっと大森林に素材集めに来ています」と言えば、ダメとは言わないだろう」

 それもそうね、とリリアが振り返りながら言った。先ほどとは体勢が変わっており、今リリアは俺に後ろから抱きかかえられた状態になっている。
 目のやり場に困った末の苦肉の策なのだが、身長差ゆえに前は見えない。見えるのはリリアの美しい、白い背中だけである。

「見つけた魔導船はマジックバッグに収納して持ち帰る。マジックバッグが作れるようになっていて、良かったわ」
「そうだな。でなけりゃこの手は使えなかったな。これは早いところ俺たち用の印籠型のマジックバッグも作らないとな。あとはリンクコンテナも追加で作っておかないといけないな」

 リンクコンテナはいわゆるトランシーバーである。あれからリリアと二人でコッソリと性能確認と改良を行っており、これなら大丈夫、という魔道具に仕上げておいたのだ。

「お風呂から上がったら、また工房に籠もるの?」

 ちょっとばかりくぐもった声が前から聞こえた。リリアは優しいからな。俺のやりたいことをいつも優先してくれる。だが、それに甘えてばかりではいかん。妻の欲求を満たすのも夫の役目だ。というのは建前で、本当は俺がそうしたいだけだった。

「いや、明日からにするよ。まあ何だ、あせるものでもないしな?」

 体ごと振り向いたリリアがうれしそうに、ギュッ、としがみついてきた。


 翌朝、俺たちが起きたときにはすでにアベルとマリアの姿はなかった。どうやら二人だけで受けることができる依頼を受けに行ったようである。
 今回の騒動ではランクは上がらなかった。それもそのはず。魔族のことについては現在国が調査中なのだ。存在を明らかにするわけにもいかないし、結果が出るまでは保留となっている。

 ギルドマスターのアランによると、正式に認められれば、Aランクに上がる可能性はあるだろうと言われている。それを確実にするためにも、二人は依頼を受けに行ったのだろう。

 無理するな、と二人にはいつも口を酸っぱくして言っているので多分大丈夫だろう。危険な仕事は引き受けないと信じている。
 俺はその間に次の準備をしておこう。ちょっと遅めの朝食をリリアと一緒に食べると工房へと向かった。

 印籠型のマジックバッグ二つ、追加のリンクコンテナ二つ。すでに設計図はあるので夕食の前までには出来上がった。夕飯の準備をしているリリアの手伝いをしていると、二人が帰ってきた。

「ただいま~!」
「ただいま」
「お帰り。首尾はどうだった?」

 見たところ、特に怪我などはしていないようである。特に汚れてもいないようである。さすがはBランク冒険者。ずいぶんとレベルも上がっているようである。

「近くの村にゴブリンが集落を作っているって話だったから潰してきたよ。ゴブリンキングがいたけど、想定内だったんで軽く倒してきたよ」

 アベルはこともなげに言っているが、ゴブリンキングはそれなりに強かったはずだ。いつの間にこんなに強くなっちゃってるの? この間の対魔族戦で一皮むけちゃったの?
 マリアも特に自慢するわけでもなく、準備中の晩ご飯を見てよだれを垂らす寸前までいっていた。腹ペコキャラかよ。

「二人とも手を洗ってこい。風呂も沸かしてあるから、先に二人で入ってこい」
「そうだね。そうする~」

 うれしそうにマリアが言った。女の子は本当にお風呂が好きだな。そういえばマリアの秘密基地の設備も整えないといけなかったな。みんなで入れる風呂をマリアが所望していたけど、大丈夫か? マリアの裸、見てもいいのかな? おまわりさんを呼ばれそうで怖いんですけど。

 風呂から上がってきた二人の前に先ほど作った魔道具を置いた。夕食の準備はできているが、食べる前に話をしておくことにした。夕飯の前ならこの話もスパッと切れるだろう。

「これがリンクコンテナで、こっちがアベル専用のマジックバッグだ」
「ダナイは本当にこの形が好きだよね」

 印籠型の魔道具を見たアベルが苦笑しながら言った。確かに好きなのもあるが、他の形が思い浮かばないのだ。スッポリ手に収まるし、ちょうど良いんだよ。
 一方のマリアはその隣でフグのように膨れていた。

「何で私のがないのよ」
「だって、なくすだろ?」
「そんなことないもん!」

 マリアは心外だと怒っているが誰もフォローをしなかった。つまり、そう言うことだ。さすがに魔法銃をなくすことはなかったが、浄化の魔道具は何度かなくしている。
 家の中なので良かったが、これが外だと非常にまずい。

「それでダナイ、このリンクコンテナはどうやって使うの?」

 気を利かせたアベルが話をそらしてくれた。さすがは幼なじみ。マリアの扱いに慣れている。俺たちもその流れに乗ることにした。

「これはな、遠く離れていても話ができる魔道具さ」

 ピンと来なかったのか、俺の顔と魔道具を交互に見た。それもそうかと思い、俺とリリアで実践した。二階にいるはずの俺の声が聞こえたことに、驚きの声が上がっていた。そしてすぐに、自分も自分も、と大騒ぎになっていた。

 しかしそれも、今から夕ご飯だから、というリリアの声によって強制的に中断することになった。何もかもが計画通りである。
 そしてバイブレーション機能は、アベルとマリアにも気持ち悪がられた。音が出るとまずいときもあるだろうからな。こればかりは慣れてもらうしかないな。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

私のスローライフはどこに消えた??  神様に異世界に勝手に連れて来られてたけど途中攫われてからがめんどくさっ!

魔悠璃
ファンタジー
タイトル変更しました。 なんか旅のお供が増え・・・。 一人でゆっくりと若返った身体で楽しく暮らそうとしていたのに・・・。 どんどん違う方向へ行っている主人公ユキヤ。 R県R市のR大学病院の個室 ベットの年配の女性はたくさんの管に繋がれて酸素吸入もされている。 ピッピッとなるのは機械音とすすり泣く声 私:[苦しい・・・息が出来ない・・・] 息子A「おふくろ頑張れ・・・」 息子B「おばあちゃん・・・」 息子B嫁「おばあちゃん・・お義母さんっ・・・」 孫3人「いやだぁ~」「おばぁ☆☆☆彡っぐ・・・」「おばあちゃ~ん泣」 ピーーーーー 医師「午後14時23分ご臨終です。」 私:[これでやっと楽になれる・・・。] 私:桐原悠稀椰64歳の生涯が終わってゆっくりと永遠の眠りにつけるはず?だったのに・・・!! なぜか異世界の女神様に召喚されたのに、 なぜか攫われて・・・ 色々な面倒に巻き込まれたり、巻き込んだり 事の発端は・・・お前だ!駄女神めぇ~!!!! R15は保険です。

人の身にして精霊王

山外大河
ファンタジー
 正しいと思ったことを見境なく行動に移してしまう高校生、瀬戸栄治は、その行動の最中に謎の少女の襲撃によって異世界へと飛ばされる。その世界は精霊と呼ばれる人間の女性と同じ形状を持つ存在が当たり前のように資源として扱われていて、それが常識となってしまっている歪んだ価値観を持つ世界だった。そんな価値観が間違っていると思った栄治は、出会った精霊を助けるために世界中を敵に回して奮闘を始める。 主人公最強系です。 厳しめでもいいので、感想お待ちしてます。 小説家になろう。カクヨムにも掲載しています。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

エルティモエルフォ ―最後のエルフ―

ポリ 外丸
ファンタジー
 普通の高校生、松田啓18歳が、夏休みに海で溺れていた少年を救って命を落としてしまう。  海の底に沈んで死んだはずの啓が、次に意識を取り戻した時には小さな少年に転生していた。  その少年の記憶を呼び起こすと、どうやらここは異世界のようだ。  もう一度もらった命。  啓は生き抜くことを第一に考え、今いる地で1人生活を始めた。  前世の知識を持った生き残りエルフの気まぐれ人生物語り。 ※カクヨム、小説家になろう、ノベルバ、ツギクルにも載せています

異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです

ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。 転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。 前世の記憶を頼りに善悪等を判断。 貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。 2人の兄と、私と、弟と母。 母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。 ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。 前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。

処理中です...