上 下
99 / 137
第四章

いざ、出陣

しおりを挟む
 すぐに必要なもの以外は異次元ポシェットにしまった。それによって、持ち運ぶ荷物がグッと減った。
 こりゃあいい。早くマジックバッグのことを知っていれば良かったのだが、こればかりは仕方がない。

 もっとこの世界のことを知らなければならないな。リリア先生に歴史や技術、習慣なんかをもっと教えてもらわなければ。

「これで準備はOKね。あとは夕食を食べて、今日はもう寝ることにしましょう。ダナイはディメンション・ルームでかなり魔力を消費しているんでしょう? 早く寝ないとダメよ」
「お、おうよ」

 さすがは俺の嫁。俺の魔力が枯渇しかけていることに気がつくとは。大部屋に小部屋を二つ。実はかなりギリギリだったのだ。

「そうだったんだ。ごめんねダナイ。私の秘密基地を作るのに付き合わせちゃって……」

 どうやらマリアは本気で自分のものにするつもりらしい。まぁ別に良いけどね。リリアもいつの間にか異次元ポシェットを自分の物にしたみたいだし。

 あとでコッソリと俺とアベル専用の異次元印籠でも作っておこう。アベルも予備の武器が必要になるときがあるだろうからな。
 遠距離攻撃手段を持たないアベルも、たくさんものが持てるようになれば、投げナイフや、弓矢なども使えるようになるかも知れない。

 その後は「夕飯の準備ができた」と呼びに来たベンジャミンたちとともに夕食を食べることになった。
 もちろんその場にはリリアのママ、エリザもいた。

 大丈夫かな、この晩餐会。最後の晩餐とかにはならないよな?

「リリア、あなたたちのパーティーの荷物も、捜索部隊の荷物と一緒に持ってあげましょうか?」

 エリザがそう言った。間違いなく、親心として気を使った言ってくれたのだろう。
 しかし、リリアの方はそんな親心なんて分からなかったようである。どうやら、完全にライバルとして認識しているらしい。

「その必要はないわ。私たちもマジックバッグを持っているもの」

 どうだと言わんばかりの顔をしているリリア。どうしてリリアはエリザに対して素直になれないんだ。母親と娘って、そんなに対抗意識が高いものなのか? 俺にはさっぱり分からない。

 リリアの答えに驚いた表情をするエリザ。まさか持っているとは思っていなかったようである。ベンジャミンも似たような顔をしている。

 それもそのはず。この間、ベンジャミンのところを訪ねたときには持っていなかったのだから。

「ほう、マジックバッグを持っているとは。どうやらそれなりに名の知れたパーティーのようだな」

 その場にいた捜索部隊の隊長が感心した声で言った。
 これでも一応Bランク冒険者のパーティーだ。それなりに名を知られていると言っても良いだろう。間違いではない。

「あら、そうなのね。随分とお金を稼いでいるみたいね。お母さん、安心したわ~」

 のほほんな感じになったエリザだが、どこか寂しそうでもあった。頼って欲しかったのだろうか。
 俺としては、リリアとエリザは仲良くしてもらいたいと思っている。この旅の中で何とか間を取りもたなければいけないな。
 

 食事の席では明日からの予定についても話した。
 大森林の奥地は馬では通れないほど険しい道のりだそうであり、歩いて行くしかないとのことだった。

 野営の場所は、前回の調査で見つけたポイントにすることになった。

「野営の安全面についてだが、この魔物よけの魔道具を使う」

 そう言うと、隊長は何やら杭のような物を見せてくれた。それを地面に突き刺しておくと、その周りには魔物が寄りにくくなるらしい。

 俺たちの馬車に付けている退魔の付与と似たようなものなのだろう。売っているのを見たことがないので、それなりにレア度は高そうである。

「それなら安心して夜も過ごせそうね~」

 一緒に行くエリザも、魔物には多少の心配があったらしい。ホッとした表情を浮かべた。

「ねえダナイ、私たちの馬車にも似たようなものがついてたよね? あれも一緒に持って行く?」

 マリアの悪気のない言葉に、その場に「え?」みたいな空気が流れる。何だろうこの、何かやってしまったような感じは。

「えっと、あの魔物よけの魔道具もマジックバッグと同じように貴重な道具なんだけど……それも持っているの?」

 ベンジャミンが代表で聞いてきた。このメンバーの中で一番俺たちのパーティーと関わりが深いのはベンジャミンだろうから当然だろう。そしてこれは、どう答えるべきだろうか。

 俺が悩んでいると、その空気をマリアが察したようである。

「ごめん、まずいこと言っちゃった?」
「いいのよマリア、気にしないで。同じ物ではないけど、似たようなものを持っているわ。ベンジャミンも知っているように、私たちは馬車を寝る場所として使っているわ。だから、馬車の中にそれを取り付けてあるのよ」

 なるほど、とうなずいたが、あごに手を当てて考え込んでいるようだった。そんなものあったっけ? という顔をしている。パッと見て分からないようにしてあるからな。気がつかないのは当然である。

 それを聞いた隊長は真剣なまなざしをこちらに向けた。

「同じような魔道具を持っているのなら、ぜひ持ってきてもらいたい。この魔物よけの魔道具も万能ではないからな。たまに魔物が来る場合があるんだよ」

 なるほどね。それなら俺が作った物を持って行った方がいいだろう。俺が作った物は、今のところ魔物が寄りつかないみたいだからな。

「分かった。取り外して持って行くようにするよ」

 その後も細々としたことを決めて、解散となった。あとは寝るだけである。俺たちは部屋に戻ると早々に寝ることにした。

「ねえ、お風呂は?」
「浄化の魔道具で我慢しなさい」
「えー、しょうがないなぁ。ダナイ、早くお風呂作ってよね」
「ハイハイ」

 お風呂に入ることが習慣になってしまったマリア。風呂に入るのは贅沢だ、ということを忘れつつあるようだ。これは俺にも悪いところがある。そんな贅沢を覚えさせてしまったのは他ならぬ俺なのだから。

 そんなことをモヤモヤと考えながら、眠りについた。ベッドは四つあったのだが、朝起きると、なぜか二つのベッドしか使われてなかった。いつの間に移動したんだ……。


 朝の支度を済ませると、今回、大森林に行くメンバーが庭先に並んだ。荷物のほとんどがマジックバッグの中に入っているので、見た目はとても軽装である。

「気をつけて行ってきてくれ。こちらもできる限り進めておく」
「ああ、頼んだぞフロスト。それじゃ、行ってくる」

 ベンジャミンがフロストに告げると、捜索部隊を先頭に大森林の奥地へと向かって行った。
 森に入るとすぐに、足下が暗くなる。それほどまでに木々が密集しており、空を覆っているのだ。遠くからは何やら獣の声も聞こえる。

 どこを見ても似たような木々ばかり。これは完全に迷ってしまうだろう。エルフたちが平然としているところを見ると、彼らにとっては日常的な光景なのだろう。さすがは森との調和性が高いだけはある。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第二章シャーカ王国編

召喚されたけど要らないと言われたので旅に出ます。探さないでください。

udonlevel2
ファンタジー
修学旅行中に異世界召喚された教師、中園アツシと中園の生徒の姫島カナエと他3名の生徒達。 他の三人には国が欲しがる力があったようだが、中園と姫島のスキルは文字化けして読めなかった。 その為、城を追い出されるように金貨一人50枚を渡され外の世界に放り出されてしまう。 教え子であるカナエを守りながら異世界を生き抜かねばならないが、まずは見た目をこの世界の物に替えて二人は慎重に話し合いをし、冒険者を雇うか、奴隷を買うか悩む。 まずはこの世界を知らねばならないとして、奴隷市場に行き、明日殺処分だった虎獣人のシュウと、妹のナノを購入。 シュウとナノを購入した二人は、国を出て別の国へと移動する事となる。 ★他サイトにも連載中です(カクヨム・なろう・ピクシブ) 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~

WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
 1~8巻好評発売中です!  ※2022年7月12日に本編は完結しました。  ◇ ◇ ◇  ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。  ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。  晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。  しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。  胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。  そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──  ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?  前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~

名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

パーティーから追放され婚約者を寝取られ家から勘当、の三拍子揃った元貴族は、いずれ竜をも倒す大英雄へ ~もはやマイナスからの成り上がり英雄譚~

一条おかゆ
ファンタジー
貴族の青年、イオは冒険者パーティーの中衛。 彼はレベルの低さゆえにパーティーを追放され、さらに婚約者を寝取られ、家からも追放されてしまう。 全てを失って悲しみに打ちひしがれるイオだったが、騎士学校時代の同級生、ベガに拾われる。 「──イオを勧誘しにきたんだ」 ベガと二人で新たなパーティーを組んだイオ。 ダンジョンへと向かい、そこで自身の本当の才能──『対人能力』に気が付いた。 そして心機一転。 「前よりも強いパーティーを作って、前よりも良い婚約者を貰って、前よりも格の高い家の者となる」 今までの全てを見返すことを目標に、彼は成り上がることを決意する。 これは、そんな英雄譚。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

異世界でぼっち生活をしてたら幼女×2を拾ったので養うことにした

せんせい
ファンタジー
自身のクラスが勇者召喚として呼ばれたのに乗り遅れてお亡くなりになってしまった主人公。 その瞬間を偶然にも神が見ていたことでほぼ不老不死に近い能力を貰い異世界へ! 約2万年の時を、ぼっちで過ごしていたある日、いつも通り森を闊歩していると2人の子供(幼女)に遭遇し、そこから主人公の物語が始まって行く……。 ―――

処理中です...