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第四章

ミスリル鉱山

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 ミスリル鉱山にゴーレムが出現したのは、ちょうど俺たちが西の砦の防衛についていたころだった。何だろう、この嫌な感じ。まるで砦に魔物が押し寄せたのが偶然ではなく、誰かが示唆して起こしたかのようである。
 どこか裏でつながっているのだろうか? この件に関しては、『ワールドマニュアル(門外不出)』は何も教えてくれなかった。

「それでミスリル鉱山に突如としてゴーレムが出現したんだよ。しかもそのゴーレムがミスリルゴーレムでね……」

 ミスリルゴーレム! これは倒すと大量のミスリルを手に入れるチャンスなのではないだろうか。うまく依頼をこなすことができれば、ミスリルをゲットできるかも知れない。これはいいぞ。

「ミスリルゴーレム……って、どうやって倒すの?」

 マリアが首をかしげて聞いてきた。それもそうだ。並大抵の武器だと刃が立たないだろう。それなら魔法で倒すしかないのだが――。

「それがね、魔法も効果がなくて、本当に困っているのだよ。ミスリル金属の高い魔法耐性が、私たちが使う魔法を極限まで弱めてしまっているのだよ」

 困ったようにベンジャミンは肩をすくめた。エルフの高い魔力から繰り出される魔法でも通用しないとなると、これは何か対策を考えなければならないな。

「分かりました。何か方法がないか考えてみます」
「ああ、よろしく頼む。この里で使えそうなものがあるなら、何でも自由に使ってくれ」
「ありがとうございます。……リリア、さっきから黙ってどうしたんだ?」

 先ほどからリリアは俺たちの話には参加せず、ジッと考え込んでいた。多分、俺と同じことを考えていたのだろう。そのリリアは、やはりその話をベンジャミンにするようである。
 この大陸、いや、この世界全体に何か起こり始めているのかも知れない。そのことを知る人は、少しでも多い方が良いだろう。

「あのね、ベンジャミン。そのゴーレムが現れた時期と、私たちの国から西にある魔境から魔物があふれてこちら側に進行してきた時期が一致するのよ」

 それを聞いたベンジャミンは両手を組んで考え込んだ。何か思い当たることがあるのだろうか。エルフの長なら、長い時間を生きている。その頭の中には俺たちが知らない情報もたくさんあることだろう。

「そうだな、二つの良くない事例が重なることは良くあることだ。しかし、もしかしたら、魔物が活性化している可能性は否定できない。魔物を操るような……例えば、魔王のような存在が出現しているとはさすがに思えないがね」
「そうなんですか?」

 ベンジャミンはうなずいた。

「そうとも。もし魔王が出現したのならば、この程度では済まないだろう」
「ちなみに、かつて魔王は存在したのですか?」

 ベンジャミンは首を振りながら笑った。

「自称魔王なら、それこそたくさん存在しているよ。今でもね」

 なるほど。本物の魔王はこれまで存在したことはないということか。しかし、魔王を名乗る人物がたくさんいるとは驚きだな。

「まぁ、流行病の調査のついでに、そのことも調べておくよ」
「ありがとうございます」

 こうしてベンジャミンとは話がついた。ミスリルゴーレムを討伐した報酬に、ミスリルを分けてもらうことになった。何という幸運。ここを一番に選んだリリアには感謝しきれないな。

「さて、どうやってミスリルゴーレムを倒すかな。コイツ何とかしないことには、報酬のミスリルがもらいないぞ」
「そうね。まずはミスリル鉱山に行って、話を聞きましょう」

 リリアの提案にうなずくと、まずは鉱山へと向かって行った。


 ミスリル鉱山まではしっかりとした道が続いていた。それもそうだ。切り出した岩石を麓の里にまで引っ張って来なければならないのだ。少しでも楽をするために、しっかりとした道にしてあるのだろう。

 それなりに里から距離はあったが、その日の内にミスリル鉱山に到着した。
 入り口は封鎖されている。入り口近くにある小屋には、鉱山に入る者を監視するために人が残っていた。

「ミスリルゴーレムの討伐依頼を受けてやってきた」

 小屋の外から声をかけると、すぐに扉が開いた。エルフの男が不審そうにこちらを見た。そう言えば、エルフとドワーフはあまり仲が良くないんだったな。リリアを先頭にするべきだった。

 そんな俺の様子に気がついたのか、頼れる我妻のリリアが前に出た。

「私たちはBランク冒険者よ。族長のベンジャミンに頼まれてきたわ。ミスリルゴーレムについて、詳しい話を聞きたいのだけれど、良いかしら? あ、私はリリアよ」

 リリアが名前を出すと、明らかに態度が変わった。リリアの名前は本当にエルフの国に知れ渡っているようである。
 まさかリリアは、族長の娘であると同時に、エルフの国のお姫様とかじゃないよな? 確かに自慢の妻だが、さすがにあまりに身分が高いと、雑に扱うと悪いような気がするのだが。

「鉱山の中央付近にある大広間にミスリルゴーレムが現れました。作業員たちはその広間を通って、現在採掘中の坑道に入るようになっています。ミスリルゴーレムの動きはそれほど速くないので、うまくそばをすり抜けることはできるのですが、採掘した鉱石を運び出すことはできません。以前それをやろうとして、逆にミスリルゴーレムに吸収されてしまいました」

 作業員の一人と思われるエルフは一気に話した。この里のエルフにとっての危機である。色々と手を尽くしたのだろう。この話に加えて、魔法も効きが悪いことを再度話された。

「ミスリル製の武器で攻撃したりはしなかったのか?」

 いくらミスリルゴーレムでも、同じミスリル製の武器で攻撃すれば倒せるのではないだろうか?

「それが……この里はミスリル鉱石を掘り出すのを生業としていて、それをミスリル金属にして、武器へと加工するのは別の里でやっているのですよ」
「それじゃ、そこから武器を持ってくれば良いんじゃないのか?」
「それはそうなんですが……」

 気まずそうに目をそらした。それを見たリリアは彼らの事情を察知したようである。

「ミスリル製の武器を買うお金がなかったのね」
「そうなんです」

 おいおい、同胞の危機だっていうのに、世知辛い世の中だな。武器の一つや二つ、貸してやってもいいだろうに。

「ミスリル製の武器は貴重だからね。値段も跳ね上がるわ。エルフは基本的にお金にはあまり執着しない種族だから、お金がないのもうなずけるわ」
「うーん、参ったな。ミスリル製の武器が一つや二つあるだろうと思っていたんだけどな」

 ミスリル製の武器があれば、それをアベルが使うことで何とかなったかも知れない。だがそれがないとなると、別の方法を考えなければならない。

「ダナイ、この剣で切れると思う?」

 アベルが自分の剣を見せながら言った。おそらく、本人はミスリルを切れる自信があるのだろう。

「切れる。だが、魔鉱の剣が使い物にならなくなる可能性が十分にある」

 それを聞いたアベルの顔は引きつった。それはそうだ。ようやく手に入れた新しい相棒が、それほど使わないうちに使い物にならなくなるのかも知れないのだ。
 だが、最終手段はそれしかないだろう。何とかミスリルが切れやすくなれば良いのだが。

 そこで俺は『ワールドマニュアル(門外不出)』を使って、ミスリルのことをもっと良く調べることにした。
 ミスリルを加工するには、膨大な量の魔力が必要になるそうだ。その理由は、ミスリルは大量の魔力を込めることで、柔らかくなり、加工しやすくなる性質があるようだ。

 魔力を込めたミスリルを高温にすることで、ようやく自由な形に加工することができるようになるのだ。
 なるほど。それならば、この性質を使うしかないな。

「ちょっと聞いてくれ。俺に良い考えがある」

 この言葉を聞いたリリアは、ものすごく嫌そうな顔をした。どうやら俺の考えは、リリアにとって、あまりお気に召すものではないようである。
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